比企谷八幡の幻想縁起   作:虚園の神

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タイトルにある通りお風呂回あります。


彼の非日常は日常になり得るのか? あ、お風呂回あるよ

 日常に帰りてぇなぁと常々思う。

 非日常は辛いのだ。生物というのは環境が違えばストレスがたまる。無意識にでも。その点から言えば、やはり非日常は迎え入れられるものではないし、日常というものの有り難みを忘れがちな今日、俺の様な状況に立てば益々帰りたいと思うものなのだ。

 

 

 

 

 

 ジャリ、と土を踏む音がする。コンクリートで覆われた都会などではこんな音は出ないであろう。だが此処は幻想郷。俺の知ってる土地ではないのだ。

 ちら、と左にいる彼女を見る。その彼女こと博麗霊夢はお茶をすすりながら、まるで品定めをするかの様な視線を俺に投げ続けている。

 

「……なんだよ」

「別に。修行するにあたってあんたがどういう奴か見てるだけよ」

「で、なんか分かったのか?」

「霊力が物凄く低い。半端じゃないわね。」

 

 それから少し小馬鹿にした様な口調になる。

 

「霊力ってのは人の持つ力なの。でもそれが極端に低い。貴方、影薄いとか言われたり、誰にも気付かれないなんてことあったでしょ」

「うぐっ……」

 

 当たってるから言い返せねぇ……。しかし霊力が低いから影が薄いという事は、葉山は結構霊力が高いという事になる。……いかんいかん。嫌な奴の顔を思い出しちまった。

 頭を振り、爽やかな笑顔を浮かべている隼人葉山隼人(いけすかない奴)を追い出す。

 

「まぁ、だからと言って弾幕が撃てないって訳じゃないから」

 

 そう言うと、彼女は立ち上がり俺の前に立つ。

 

「先ずは精神を集中させるところから始めるわ。力の流れを掴むの。」

「抽象的すぎてわかんねぇんだけど……」

「いいから胡座かきなさい」

 

 座禅って言わなくていいのかよ……。まぁここ寺じゃないけど。そう思いつつも、脚を組み、地べたに座り、目を瞑る。

 はぁ、なんかもう俺の知ってる巫女じゃない。巫女ってもっと清楚で物腰が丁寧なイメージだったんだけど……、なんていうか俺の中の巫女像がガラガラと音を立てて崩れていくんですけど。

 ザッザッと足音が聞こえる。どうやら背後に回っているようだ。

 

「雑念が多い。ちゃんと集中しなさい」

 

 そんな言葉と共にスパァァンと気持ちのいい音が響いた。俺の頭から。全く気持ちよくねぇよ。

 恨みがましい視線を向けるといつの間に持っていたのか彼女の手にはハリセンが握られていた

 

「彼、あなたの事を巫女っぽくないって思ってたみたいよ。でしょ?」

 八雲紫が扇子で口元を隠しながら確認する様な口調で聞いてくる。

「なんでわかんだよ……」

「紫は『境界を操る程度の能力』を持ってるからな。人の考えてる事ぐらい解るんだぜ。」

 

 霧雨がそう説明する。

 ほーん成る程ね。つまり最初に見たあの変な空間は境界を広げた時に出来た隙間ってところか。てか、普通にチートじゃね?キバオウさんもびっくりや!

 

「しかしなぁ霊夢が巫女っぽくないって……。クク……クッ」

 

 突如笑い出し、ニヤニヤと博麗を見る霧雨。

 

「何笑ってるのよ魔理沙」

「確かに霊夢はガサツだから清楚な巫女って感じはしないな、と思ってな。どっかの守矢の方がよっぽど巫女らしいぜ」

「ガサツさについては貴方に言われたくはないわね。」

「私は巫女じゃないからいいんだぜ」

 

 ワイワイと言い争う二人を流し目に見ながら、八雲が口を開く。

 

「仲が良いのはいいんだけど、続けなくていいの?彼集中切らしてるみたいよ」

「ギャラリーがそんなにいるんじゃ集中できねぇよ……。」

 

 そう、全く以ってそうなのだ。元来俺は、というかボッチは人に見られることに慣れていない。ボッチはデリケートな生き物だ。野蛮なリア充共とは違うのだ。

 

「しょうがないわね。ま、ここに居てもやる事ないし帰るわ」

 

 そう言ったマーガトロイドに続き八雲も立ち上がる。

 

「私は残るぜ。もう少し見ていく」

 

 そう言って霧雨は縁側に座り直した。

 

 

「じゃあ私は帰りますわ。比企谷さん、お金は後で渡しておくので」

 

 八雲そう言って来た時と同じように空間を開けて中に入り、この場から去った。

 

「じゃあね霊夢、魔理沙」

 

 マーガトロイドも空を飛び、帰っていく。……ん?俺は?なんで俺、挨拶されなかったのん?挨拶する価値もないってことなのん?いや、全然寂しくないですけどね。ホントダヨ?

 そんな事を考えている俺に博麗が口を開く。

 

「じゃあ続きをするから目を瞑りなさい。心を落ち着けて。ギャラリーがいなくなったんだからできるでしょ。」

 

 霧雨がいますけどね。まぁさっきよりは遥かにマシだ。

 再び胡座をかき、目を瞑る。心落ち着け〜落ち着け〜餅つけ〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてから30分くらい経った頃だろうか博麗に声をかけられた。

 

「もういいわよ。随分飲み込み早いわね。二時間はかかると思ってたんだけど」

「ふ、俺はボッチだからな。周りの奴らと違って自分自身に常に集中して生きてるからこの手の類いは朝飯前だ」

「なんか今凄い悲しい言葉が聞こえた気がするんだけど……」

「おいおい、同情なんてすんなよ。俺は友達がいないんじゃない、友達を作らないだけだ」

「いないことには変わらないでしょ」

 

 いや、まぁそうなんですけどね……。そうはっきり言わなくてもいいじゃないですか……。

 

「下らないこと言ってないで次やるわよ」

「へいへい」

「手に意識を集中しなさい。今は精神が安定してるから、霊力のコントロールがやりやすいと思うわ。」

 

 言われた通り手に目を向け、意識を集中させる。暫く見続ける。まだ見続ける。手を力ませる。……………シカシナニモオコラナカッタ。

 

「何も起こらねぇよ。どうなってんの?SPが足りないの?」

「SPが何か知らないけど、そんなに早く出来るわけ無いじゃない。暫くはそれを続けるわよ」

 

 じ、地味だ……。何時まで続ければいいんだ教えてピーコ。

 

 

 

 

 続けること暫し、やっと球体状のものが出来た時には既に夕方近くになっていた。初めてできた弾幕は出来たと思ったら直ぐに消滅してしまった。

 

「今日はこんなものでいいわ。家に入りましょ」

「ああ」

「後はさっきのを持続できればいいから」

「分かった」

 

 言葉を交わしつつ、神社の中に入る。因みに魔理沙は昼過ぎに 明日も来るぜー と言いながら去っていった。

 神社の中は日本家屋風な内装になっており、板張りの床、畳の部屋が幾らかあるかんじだ。

 ふと、一つの部屋を覗き見れば卓袱台の上に白い封筒が手に取れと言わんばかりに置いてある。少しばかり気になったので封筒を持ってみれば、比企谷殿と明記されているのが確認できた。

 

「俺宛か」

 

 十中八九、八雲さんだろう。開けてみると手紙と金が出てきた。先ずは手紙に目を通す。

 

『この度は多大な迷惑をおかけしたことを申し訳なく思っております。これは僅かですが、謝罪の意を込めたものです』

 

 僅かって……。結構な量入ってるんですが。しかも1円札が50枚。1円を1万円換算で50万だ。

だがまぁ、いつまでここにいるか分からないのだから妥当なところか。しかしこんなに持っていると心なしか自分が金持ちになった感覚に陥る。

 札束を手に持ち、その質量感に感嘆していると突然札束が軽くなった。右を見れば幾らかの札を持った博麗が。

 何……………………だと…………?まさかあの一瞬で盗った盗ったとったというのか。

 迅速にして神速。どんだけこいつ金に飢えてんだよ。

 

「なあ、その金俺のか「あんた暫くここに泊まるんだからお金は共有よ。それにここは神社なの。本来ならお賽銭を入れるべきなのよ?それをチャラにしてるんだから感謝しなさい。」

 

 ……すげえ。俺は未だ嘗てこんな強引な理屈を聞いたことがない。いや、言ってること自体は正しい。(ただし前者のみ)だが賽銭をチャラにするとか何だよ。そんな大金賽銭箱に突っ込まねぇよ。もうその強引さでどこまでもgoinggoingして壁にぶち当たって欲しいものだ。

 博麗を見れば非常にいい、ともすればこの野郎とついつい思ってしまう笑顔を浮かべていた。まぁこいつ女だから野郎じゃないけど。

 こいつ最初っから金の為に俺の修行つけてんじゃねぇの?と、疑いの眼差しを向ける。

 

「ふふ、久しぶりにちゃんとした物が食べれるわ」

 

 あ、これ確定ですわ。

 でもまぁ言ってることがなんか可哀想だから怒りっつーよりも同情の念の方が強くなってしまう。社畜って大変だなぁ。巫女だけど。

 

「じゃあ私、夕飯の買い物行ってくるからその間お風呂沸かして入りなさい」

「買い物なら俺が行くぞ。道と場所さえ教えてくれれば」

「あんたじゃ無理よ。妖怪に食べられてチャンチャンよ」

 

 呆れ顔でそう言ってチャンチャンのところで小さく手を振る。可愛いなこいつ。

 

「分かった。ただ手伝えることがあったら言ってくれ」

 

 俺は働くのは嫌だが、一方的に施しを受けるのはもっと嫌なのだ。ツンデレじゃないんだからねっ!

 

「帰ってきてから考えるわ」

 

 そう言って神社から出て行く。

 ……さて、風呂沸かすかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大体予想はしてた。ただ、目の前でこうも見せつけられると中々凄いものだと思う。レトロ?な感じで趣があるのだ。

 え、何の話か?風呂だよ風呂。

 デデン!と効果音が付きそうなほどに自己主張の激しい楕円形の浴槽。しかも板張り。下には釜戸っぽいものがあるから、火を焚いて沸かすのだろう。もうなぞなぞが出せるレベル。 家は大火事、涙は洪水、これな〜んだ?

 知識としては知ってるが、こんな風呂初めて見たぜ。

 因みにさっきの問題の答えはただの火事だよ!

 兎に角、眺めるだけでは風呂は沸かない。近くにあった薪と紙を適当に丸めた物を並べ、マッチに火をつける。

 1本目、失敗。木に近づけると火が消えてしまった。

 2本目、これも失敗。紙は燃えたが木に火が移らなかった。

 中々点かねぇな……。

 もうしょうがない。このまま同じことを続けても意味がないだろう。別の方法を模索せねば。一度風呂場から離れ、着火剤になりそうな物を探す。探す場所としては先ず、台所だろう。そう思い台所に行けば、酒があった。それも日本酒、アルコール度数が高いやつである。あいつ未成年じゃねぇのかよ……。

 しかしこれは良い収穫だ。

 風呂場に戻り、紙に火を点け、酒を撒く。すると、燃える燃えるよく燃える。さっきまでの停滞が嘘のようだ。流石アルコールといったところだろうか。

 水の温度を手で計りながら火の調整をすることしばし。良い温度になったところで、風呂の底にスノコを敷き、薪を出して弱火にする。

 さて入りますかね。昨日は風呂に入ってないから1日ぶりの風呂だ。

 服を脱ぎ、身体を石鹸で洗い、湯で流す。湯船に浸かれば暖かさが身体に染みて、何とも極楽な気分になる。疲労と安寧感からか、このまま寝落ちしそうになるだが、このままゆっくりと浸かっているわけにもいかない。博麗が帰ってくるからな。

 のんびりするのもソコソコにして、早々に切り上げることにした。

 風呂から出て、服を着ようとしたところで手が止まった。

 着替えどうすりゃいいんだ………。やべぇよ。何がヤバイってマジヤバイ。下着もねぇ、ズボンもねぇ、T-シャツYシャツ一つもねぇ、おら全裸だけは嫌だぁ〜。

 もうさっきの服を着るしかない。なんというか、少し抵抗があるんだよな………。

 そう思い、パンツに手を伸ばす。その時、カラッとドアが開く音がした。

 

「あんたの衣服色々買ってきてあげたから、これ着なさ」

「 」

 

 沈黙。時が凍る。まるでこの世界には俺と彼女しかいないのではないかと錯覚するような空気がこの場を支配した。HAHAHAそうかー霊夢ちゃん帰ってたのかー。なんて現実逃避する余裕もない。

 先に動いたのは彼女だった。彼女こと、博麗霊夢はターンッと勢い良くドアを閉めると 服、置いてくから。 と言って足音を立てて、去っていった。

 ヤバイ。今回はホントにヤバイ。さっきの服問題なんか比にならないくらいヤバイ。このままでは

『比企谷に変なもの見せられた〜(泣)』

『うわー変態だぜ』

『きもーい』

『妖怪の餌だな』

 何てことになり兼ねない。精神的にも社会的にも肉体的にも死ぬ自信がある。自信しかないまである。全力で土下座するしかない。

 そこまで考えが至ったところで急いで博麗の買ってきた服を着始める。

 ていうか、何で俺が見られるの?普通逆でしょ?お約束の展開と全然違うんだけど。ちくしょうラブコメとか爆発しろよ。

 ドアを開け、走って居間に行く。果たしてそこに彼女はいた。彼女の前に行き、大袈裟な、だが決してわざとらしくない緊迫した表情を意識しながら地に頭をつけ、謝罪の言葉を紡いだ。

 

「変なものをお見せしてすいませんでしたっっ‼︎」

 

 

 

 

 リアクションがない。恐る恐る顔を上げると恥ずかしそうな、馬鹿にした様なそして少し驚愕した様な表情をした博麗の顔があった。比率で表すと4:4:2ぐらい。

 

「まぁ、うん私もちょっと不注意だったわ。次は気をつける」

 

 どうやら言いふらされるなんてコトはなさそうだ。ふぅ、と安堵の息を吐く。正に九死に一生。危機一髪。覆水盆に返らず。おっと最後のは違うな。the endだし。

 博麗はコホンと可愛らしい咳を一つすると、顔を上げた。

 

「さっきのコトはナニも見なかったし、ナニも無かった。こうしましょう」

「ナニはあるけどな」

「黙りなさい」

「ひゃ、ひゃいっ」

 

 こっわ。何今の目こっわ。殺意を凝縮した様な視線が飛んできたんですけど。もう濃縮シジミとか目じゃないくらい凝縮されてる。絶対何人か殺ってるだろ。あ、妖怪退治専門でしたね。これは失敬。

 

「次変なこと言ったらお金だけ貰って外に出すから」

 

 金は忘れねぇのかよ。なんて金に卑しいんだ。山賊かよ。ドーラ一家だってこんな事しねぇよ。ドーラ一家空賊だけど。

 

「まぁいいわ。ご飯作るから、手伝ってくれない?」

「あ、ああ分かった。ナニげふん何作るんだ?」

「お米、焼き魚、おひたし、味噌汁ってところかしらね。あとは適当に一品」

 

 一汁三菜揃った模範的な料理、素晴らしいな。

 

「あんたは魚焼いて。そこに七輪あるから。」

「七輪かよ……」

「そう、七輪よ。分かってるとは思うけど、外で焼きなさいよね」

 

 匂いがつくからという事か。しかし七輪なんて初めて使うぞ。ここに来てから初めてな物が多い。初めてのお使いをする子はみんなこんな心境なのだろうか。

 観念し、外に魚と七輪を持って行く。

 どうやって焼くんだっけか。記憶を探りながら作業を進める。紙を丸めて七輪の底に置き、火を点ける。そのあと細かい炭を焼いて段々炭のサイズを大きくしていく。すると見事にいい感じの炭火ができた。ふ、流石と言うほかないな。流石俺!略してさすおれ!誰にも褒めてもらえないので自分で自分を褒める。……なんか悲しくなってきた。

 魚を出し、七輪に載せ、団扇で扇ぐ。アジの開きか。パチパチと音を立てて魚の焼ける匂いが漂ってくる。

 そろそろいい頃合いだろう。

 魚を焼き網から外し、博麗のところへ持って行く。

 

「おーい。魚焼けたぞ」

「そこ置いといて。手が空いてるんだったら味噌汁作ってくれない?」

「おう」

 

 まな板を引き寄せ、玉ねぎ、ジャガイモ、エンドウと切っていく。出汁をとって全部鍋にin。釜戸で火にかける。

 

「手際がいいわね」

「将来の夢が専業主夫だからな。このぐらいできないと婿にいけん。」

「ヒモ?」

「ヒモじゃない。専業主夫だ」

「そんなに変わってないような……」

「いや違う。絶対に違う。俺は施しを受けたいんじゃない。養われたいんだ」

「益々違いが分からない……」

 

 そこでお湯が沸いたので、この話はこれまでとなった。

 

 

 

 

 

 

 夕食後風呂に入った彼女は巫女服ではなく浴衣で登場した。

 こいつ和服似合うな。

 絶対に口には出せない事を思いつつ、博麗を見る。

 

「じゃあ私は寝るわ。布団は押入れから出しなさい。じゃあおやすみ〜」

 

 時刻は8時半。寝るには少々早いが巫女は朝が早いのだろう。彼女にとっては普通のことのようだ。

 

「ああ、おやすみ」

 

 そう返してから、布団を引っ張り出す。

 布団に横になるが、当然寝付けない。だから思いや考えがビュンビュンと頭を走り、通り過ぎていく。

 今日の修行や風呂、夕飯。新しいことしかなかった。日常ならこんな事はなかったはずだ。

 明日もまた修行だ。恐らく明後日も。まだ非日常は始まったばかりなのだ。だけどこんな経験するのもいいと思ってる俺がいる。今日はそれなりに楽しかった。

 非日常だって継続すれば日常になる。

 非日常も悪くない。

 明日また非日常という『日常』におはようと言う事になる。だからおやすみ俺の非日常。

 




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