比企谷八幡の幻想縁起   作:虚園の神

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めっちゃ期間空いてすんません
マジですんません


3歩と4歩

深い、意識の底から浮上する。

 

怠くて起こすのも一苦労な身体で立ち上がると欠伸を交えて伸びをした。

 

午前から昼飯も食わずにただ眠り続け、ニートの卵略してニーたまヒキ太郎かよと思われるかも知れないが、これには訳がある。

 

あの濃厚な一夜から二日が経った。

 

博麗と霧雨はあの後永遠亭に行ったようだが結果はハズレ。月人らはこの異変に関わっておらず、それどころか初めて耳にしたようだった。

 

その報告を受けたのがほんの一日前。そして暗躍しているであろう人物の謎を残したまま今夜再び校舎に乗り込むというのだ。

 

そこで昼寝だ。今回は前回のように睡魔を気にしないようにたっぷりと睡眠をとり、備えている。だから決して俺がだらけまくって何やるのも面倒で夜に働くのを考えて鬱になり、そのまま寝落ちしたとかでは断じてないのだ。

 

散々ばら言い訳を構築してみるがいかんせん、未だ覚醒していない頭を覗いても碌な言葉が出てこない。寧ろ墓穴を掘ってる気さえする。このまま墓に入って一眠りしちゃおうかな……。

 

窓から空に目を向ける。西はすっかり燈に染まり、東は夜の顔をのぞかせていた。やはり冬は日の入りが早い。これから冬至に向かうのだから陽の当たる時間はもっと少なくなるだろう。

 

つまり冬という季節は闇の季節……。そう!それこそが!俺の能力『冬至(ワールド・オブ・アイシクル・ダークネス)

 

』なのだ!ふはははは‼︎……なんだこのテンション。材木座でも憑依したのか。そもそもなんで冬至なのにワールドなんだよ時期的に北半球だけじゃねぇか。あとダークネスとかつけるとTOLOVEる起こりそうでちょっとエロいです。

 

世界の支配者を気取った風に広げていた両腕を力無くだらんと下げ、自らの行動に自嘲した。

 

さて、と漏らしつつ作り置きの飯を食うために台所に向かおうとして、足を止めた。

 

「……」

 

「……」

 

人がいたのだ。

 

入り口の引き戸に背を預ける人物の顔は逆光で詳細に伺うことができない。だが特徴的なリボンや、時折年齢にそぐわぬ鋭さを見せる黒曜石の瞳が若干細められてるのを、密かに感じ取った。

 

お互い息を止めてじっと見つめ合うこと数秒。

 

「……あんた何やってたの?」

 

「今見ていたことは誰にも言わないで下さいお願いしますなんでもしますからなんでもするとは言っていない!」

 

「落ち着きなさい。言葉が滅茶苦茶よ」

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

とりあえず彼女を居間にあげるが、馬鹿にしくさった態度は続いたままだ。

 

「因みに何処から見てたのでしょうか?」

 

「あんたがぶつぶつ言いながら変な笑い声あげたところからかしら」

 

「穴があったら入りたい……」

 

どうやら博麗は暇を潰しにわざわざ俺の家に来たようで、異変解決の時間までここに居座るつもりらしかった。

 

「しかしあんたにあんな趣味があったなんて驚きね。ちょっと引いたわ」

 

「しゅっ、趣味じゃねぇよ。それはホラ、あれだよあれあれ。てかお前暇を潰しにきたんだろ?なんで俺のメンタル潰しにかかるの?うっかり自殺するよ?」

 

「ほら、妖怪って精神攻撃に弱いから」

 

「さりげなく俺を妖怪認定するなよ」

 

「そんな事よりここはお客が来てもお茶の一つも出さないの?気が利かない」

 

「お前は姑か。図々しいにも程ってもんがあるだろ。……ちょっと待ってろ」

 

もともと軽く食事を摂ろうとしていたのだ。ついでにお茶くらいだそうと思い、台所に立つ。それに専業主夫たる者、姑の精神攻撃に屈してはいけない。隙を見せれば次は埃が溜まってるだの味噌汁が濃いだの罵ってくるのが常なのだ。

 

湯を沸かして、急須に適当に茶葉を入れる傍で冷えて固まった米を用意する。熱い茶を客用の湯呑みと冷や飯の入った茶碗それぞれに注いだ。俺のは簡単に言えばお茶漬けだ。米は温まるわ美味いわでいいことづくめだし。

 

博麗にお茶を出して、俺ははふはふ言いながらお茶漬けを頬張る。ぶっちゃけ飲むって表現が正しいかもしれない。

 

「お茶、美味しいじゃない」

 

「一番茶だからな」

 

意外にもお褒めの言葉を戴いた。

 

茶碗には鶯色のお茶に米が数粒浮いている。

 

「お前もなんか食うか?」

 

「梅干しあったら貰えるかしら?」

 

「りょーかい」

 

梅干しを一粒皿に乗せてやると、一気に口に放り込む事なく一口丁寧に齧った。味わう様にして口を動かすと桃色を帯びた舌がちらと唇から覗いた。暮れなずむ人里。僅かに暗い部屋の中で彼女は一層明るく見えた。

 

「そういえば」

 

ぼうっとした調子で博麗が口を開く。

 

「あんた、外の世界にもうすぐ帰れると思うわよ」

 

「おおっ!マジか!」

 

「かかって三週間ってとこかしら」

 

「だが結構かかったな。かれこれ四ヶ月はいるぞ」

 

「……そうね。なんか、結界が安定しなかったのよ。特に現実と幻の境界がね。この調子だと『忘れさられたもの』という括りと関係無いものまで幻想郷に入ってきてもおかしくないわ。今はまた安定し始めているけどね」

 

「そうか、だけど漸く帰れるならそりゃ良かった」

 

向こうには置いてきているものが多すぎだ。小町、雪ノ下、由比ヶ浜、戸塚、おふくろ、ついでに親父。あとは……小町と戸塚と戸塚と小町だな!材なんとかがいたような気がするけど忘れちまったぜ。

 

染み染みと彼ら彼女らの顔を思い出していると、今更ながらに寂しくも懐かしい気持ちになった。いつの間にか俺にとって奉仕部の存在が大きなものとなっていたらしい。

 

「そういえばあんたって外の世界で何してたの?」

 

「学生、だな。あとは奉仕部部員か」

 

「奉仕部?何それ?」

 

「端的に言えば人の手助けする組織だな」

 

いや、組織と言うには小規模すぎるか。俺含めて三人しかいない訳だし。

 

「もうちょっと詳しく聞かせなさいよ」

 

「何?なんでそんな興味津々なの?ヒグマなの?」

 

ヒグマは好奇心旺盛だっていたくらおにいさんも言ってた。

 

「暇だからよ」

 

博麗はなんでもないように返事をしたようだった。そういえば暇とヒグマって言葉が似ているなーなどとどうでもいいことを考えつつ、そうかと返事をした。

 

それからは適当に話をした。途中から小町と千葉の話になった感は否めないがそれでも博麗は時々相槌を打ちながらしっかりと聞いてくれた。

 

ゆっくりと時間が流れる。あいつらも同じ様に時間を過ごしているのだろうか。

 

薄暗く、だんだんと冷えてきた一室に提灯の灯りと湯気を燻らせる一角だけが妙に暖かく感じられた。

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

夕飯を博麗と共にし、食休みにそれぞれ本を読んだりしているといい時間になりつつあった。

 

「そろそろ行くわよ」

 

「おう」

 

二人揃って外套を羽織る。博麗は懐からマフラーを取り出して首に巻いた。暖かいのか、安心したように目を細めた。

 

なんていうか……その、女の子の服から出されててなんだかエッチだと思います!いい匂いがしそう。

 

家を出て通りを歩いても人っ子ひとりいない。この時分に出かける物好きなど俺たちくらいしかいないようだ。

 

校舎が見えてくると同時に複数の影を認めた。合計四人。そのうち二人は霧雨と東風谷だろう。あとは誰だ?

 

明瞭になってゆくシルエット。予想通り黒いコートに金髪を流す霧雨と茶のコートを羽織る東風谷が見えた。てかそのコート俺のじゃん。返してもらうの忘れてた。

 

さて、もう二つの影は……。と思い、濁った目をよくよく凝らす。

 

一人は赤いカチューシャと肩にかかるかかからないかのところで切りそろえられた淡い金髪の少女。夜闇の中でもキラリと光る青い瞳には見覚えがあった。アリス・マーガトロイドだ。

 

もう一人は分からない。全く見覚えがない。なんか…頭から兎耳みたいなのを生やした女子高生だ。なにあれ、コスプレ?

 

彼女らの元に着くと軽く挨拶する。

 

「久しぶりね」

 

「そうだな」

 

マーガトロイドとはかれこれ四ヶ月ぶりに会う。そもそも会う機会が少ないしわざわざ会いに行くこともないから当たり前の事ではあるが、それでも俺がしっかり彼女のことを覚えていたのは中々に不思議なことのように感じられた。

 

しかし何故彼女がいるのだろうか。

 

「三つ目は人体模型が動くんでしょ?なら行かない手はないじゃない」

 

今更だが、彼女は人形遣いである。そして彼女の最終目標は完全自立人形の作成らしい。勝手に動く人形は彼女にとって素晴らしい程の研究対象なのだそうだ。

 

「ところであいつは誰だ?」

 

兎耳に目を向けながらマーガトロイドに問う。

 

「あれは鈴仙だぜ。このあいだ永遠亭に行った時に異変解決に協力させたんだ」

 

マーガトロイドに聞いたつもりだったのだが、会話を耳にした霧雨が答えた。

 

この様子だとどうやら無理矢理連れてこられたようだ。こんな遅くに駆り出されるとは哀れ鈴仙。残業代は出ないよ。

 

心の中でなーむーと拝みつつ揺れるウサ耳を見る。

 

いやーああいう獣人っているんだなぁ。材木座が見たらきっと『フヒッ』とか『デュフ』とか言うんだろうな。

 

彼女の姿形は耳と尻尾ぽいのを外せば完全に人間と相違ないものである。ていうかあれだなヒトの耳とウサ耳とで耳が四つあるのが一番気になるな。あ、突っ込んじゃダメですかそうですか。

 

ピクリとウサ耳が跳ね、こちらに向いた。視点を鮮少に下げると形の良い瞳とカチ合わせになった。

 

気まずくなってそそくさと目を逸らすが、土を踏む音が段々と近づくのが聞こえた。

 

「えっと……比企谷さん、ですよね?」

 

そう問われ、務めて冷静に簡潔に答えようと心がける。

 

「フヒッ、そ、そうですが」

 

おいフヒッってなんだよ。材木座馬鹿にできなくなってきた。

 

「鈴仙・優曇華院・イナバです。名前長いし周りの人は鈴仙って呼んでるから鈴仙って呼んでください」

 

しかし彼女はそんなことは気にせず先程と同じトーンで話し始めた。

 

おいなんだこのスルースキル。川なんとかさんばりのスルー力じゃねぇの?鈴仙君には川崎名誉賞をあげよう。そうだね、川崎さんだね。知ってた。

 

「俺の目には突っ込まないのか?」

 

気になってそう聞いてみた。

 

いやだって会う人会う人口を揃えて目のこと言うもんだから言ってくれないと逆に不安になっちゃう。あれ?言ってくれなきゃ不安とかこれMに目覚めたんじゃね?

 

「その程度でいちいち驚いてたら医者の助手なんてやってませんよ」

 

鈴仙はからからと陽気に笑ってやだなぁといった風に手を振った。

 

「医者の助手?」

 

「知りません?人里を少し離れた竹林に永遠亭っていうお屋敷があるんですが、そこで私の師匠が医者をやっているんですよ」

 

「人里に普通に医者いるけどそっちに人来るのか?」

 

「おっと、師匠を人間と一緒にしないでくださいよ。なんたって師匠は蓬莱の薬を作った八意永琳様その人なんですから!師匠に治せないものはありませんよ‼︎」

 

ふんすっと鼻息荒くして力説する彼女を見てなんでお前が偉そうなのと言いそうになったが寸でのところで押し留めた。

 

「機会があったら利用させてもらう」

 

まんま社交辞令の常套句を言ってからはたと気付く。

 

この受け答えすると結構嫌われるんだけどまぁ、この場限りの関係だし別にいいよね。基本人里から出ないから大怪我することはないと思うし。

 

しかし常識が通用しないのが幻想郷である。

 

彼女は特に気にした素振りを見せず

 

「はい、怪我した時などは是非!…あ、それとここだけの話ですが時々人里で薬を売り歩いているので贔屓してくれると助かります」

 

めっちゃ宣伝してきた。なんだこの兎、抜け目ねぇ。

 

「ウチも財政難でしてね〜。私達の食費だけじゃなく、他の兎たちの面倒を見たりしないといけませんから」

 

「永遠亭って兎屋敷なのか」

 

なにそれなんてシルバニアファミリー?若しくはラビットハウス。いやラビットハウス兎一羽しかいなかったわ。

 

くいっと服を引く感触に振り返る。

 

見れば博麗が少し不機嫌そうな顔で立っていた。

 

「なんだよ」

 

「いつまでくっちゃべってるつもりよ。私はさっさと終わらせて明日には宴会開きたいんだから」

 

「え、俺が悪いの?」

 

「あんたの長話のせいでしょ」

 

そんなに長く話をしていたつもりはないが、この様子を見るに切り上げた方が良さそうだな。経験から言ってこいつ怒らせると怖いし。

 

「それじゃあ行くか」

 

「なに仕切ってんのよ」

 

声をかけたところで腰の辺りを軽く蹴られた。

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

前回と同じように廊下を歩く、かと思っていたのだが本日は力こそパワーの霧雨がいたことにより最初から天井やら壁やらをぶち破って進むことになった。

 

壊れたところは直ぐに修復されるが直り切る前に新たな破壊痕が生み出されなんだか大変そうである。

 

 

 

そうやって直線距離でショートカットしまくり、俺たちは無事理科室に着いた。

 

「よし、じゃあ」

 

「いえ、ここは私が」

 

俺が扉に手をかけたところでマーガトロイドが制止した。

 

彼女は既に興奮を抑えきれない様子で鼻息荒く、だが慎重に戸を引いた。どうやら、魔法使いは往々にして変態の気があるようだ。

 

部屋の中は真っ暗だった。何台かの大きめの机、黒板と折れたチョーク、棚には鳥の標本やら何の生き物のものかわからない内臓が液体の中に浮いていた。

 

「うわぁ、懐かしい〜」

 

そうテンションを上げるのは東風谷だ。

 

「あ、アルコールランプじゃないですか!小学校のとき以来一度も使ったことないですよ」

 

好奇心に任せてどんどん物色していく様は犬に近い。

 

それに続いて霧雨まで物を漁り始めた。

 

「肝心の人体模型はどこかしら」

 

他には目もくれず模型を探すマーガトロイドと場はカオスの様を呈し始めた。

 

「はぁ……」

 

俺の横の博麗は眉間に皺を作り、手を当てて小さくため息を漏らした。そのポーズ雪ノ下を思い出すなぁ。万国共通のポーズだったりして。

 

「ちょっと、動く人形はどこよ」

 

辺りをあらかた探し終えたらしいがどうやら見つからないようだ。

 

「俺に言われたってなぁ」

 

「あそこのロッカーとかは?」

 

博麗はそう言って部屋の隅の、所々サビで禿げたようになっている、ーー恐らく掃除用具を入れるロッカーであろうーーを指差した。

 

「ああ…確かにまだ見てなかったわ」

 

そう呟くとロッカーの方へとさっさと歩いて行ってしまった。それを見届けてから博麗に向き直った。

 

「あれ、そういやあのウサ耳娘どうした」

 

すっかり忘れていた。ついでに名前もすっぽ抜けた。なんだっけ?そばとかそーめんみたいな。

 

「ウサ耳って……、鈴仙なら勝手にどっか行ったけど?」

 

……冷麺?ちげぇようどんだよ。鈴仙・優曇華・イナバだ。冷静に考えれば分かることだよ。鈴仙だけに。

 

つーか単独行動とかそれナニタニ君だよ。俺はこの世に二人と要らない。真の比企谷八幡はこの俺だ。

 

「ちょっと探しに行くわ」

 

別に心配してるわけじゃない。ここにいる時点で彼女が普通の人間なワケがなく、俺なんかよりもずっと強いことは必然。

 

なら何故行くか?

 

本人の前で言うことはないし博麗達の知り合いっぽいからあまり考えたくはないが……、俺は若干彼女を疑ってる。

 

集団の中で急に外れるなんて怪しいことこの上なし。俺じゃないんだから(二回目)。

 

「ダメよ」

 

光のない廊下を三歩程踏んだところに背後から静止される。

 

博麗はこちらを振り返らず、理科室に視線を向けたまま言葉を繋ぐ。

 

「弱いくせにふらふらしないで」

 

「なんだ?心配してるのか?」

 

「ええ、心配してるわ。私が付いていながらアンタが死んだら私の株が落ちるもの」

 

「俺の心配じゃなくて自分の心配とか人を護る巫女としてどうなの?」

 

この時点で俺からの株めっちゃ落ちてますよ?

 

しらっとした目で博麗の後ろ姿を見てると彼女の顔が突然こちらを向いた。

 

「私は人を護ってる訳じゃないわ」

 

今までの気怠げな表情は何処へやら、急に真面目な顔をしてこちらを真っ直ぐに見つめる。

 

「私は幻想郷を護ってるの。その過程に人がいるだけ」

 

現に妖怪も助けたりするしね、と囁くように言ってまた理科室に向き直った。

 

「……そうか」

 

年下の少女に気圧されてそれだけしか言えない自分が情けない、とは思わなかった。今の彼女は少女としてではなく管理者という役割を持ったヒトの顔つきだった。

 

それに、今の言葉は幻想郷を護る延長線上に人を護る行為が無ければ見捨てるということだ。

 

 

 

「幻想郷と向こうじゃ、価値観がちげえな……」

 

 

 

それとも彼女が特殊なだけか、今のところは分からない。

 

俺は普段より若干大股になって二歩で彼女の側に戻った。

 

だけど横に立ち、彼女の横顔が見えた途端、俺は初めてタイル二枚文にしかならない程度の距離を遠いと感じた。

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

十五分経ってようやく理科室を離れた。

 

あの後天井裏から出てきた人体模型をマーガトロイドがあっさり捕まえてはい終了。小さな人形たちに四肢を押さえつけられて、暫くもがいていたようだったが、マーガトロイドが嬉々として奴に手を触れるなり、突然糸が切れたように動かなくなった。

 

 

 

「とんだ無駄足だったわ」

 

「まぁまぁ、落ち着けって」

 

 

 

マーガトロイドの文句とそれを宥める霧雨の朗らかな声が聞こえる。

 

博麗や霧雨の見解ではあの人形は魔力や呪いのようなものでパターンをプログラミングしていたということだ。こういうタイプは自立人形には程遠いらしい。

 

「それにしても触っただけで動かなくなるなんて随分柔ですね〜。襲ってきてもうっかりでも触ってしまえば無問題じゃないですか。ノープロブレムですよ。略してノープロですよ」

 

「何故略したし……」

 

東風谷は緑がかった黒髪を弄びながら、軽い感じで疑問を呈すると同時になんだかよく分からないノリも口にする。

 

ノープロってなんかノーブラっぽくていいですね。東風谷さんは果実をなにで包んでるんでしょうねぇ?あすいません博麗さんそんな冷たい視線をこっちに寄越さないでください死んでしまいます。

 

「それについてはなんか妙なのよね。人形が動かなくなったのは人形を動かしてる力が消えたからなんだけど、消えたっていうより……」

 

「入ってきた、って感じだぜ」

 

挿入ってきた?いや這入ってきたか?

 

なんか今日の俺は下ネタばっかだな。これが深夜テンションという奴か、恐ろしい。

 

 

 

「つーかそれ危なくねぇか?呪いみたいなので動いてたらお前らに呪いが移ったってことじゃねぇの?」

 

「そうなった時はその時だぜ。今はまだなんともないしほっといても問題ないだろ」

 

「魔理沙……あんたねぇ、ずぼらにも程ってもんがあるわよ」

 

「そうかぁ?」

 

 

 

マーガトロイドが呆れたように言うが、霧雨は特に気にしたそぶりを見せない。

 

 

 

「まぁ今はまだ悪い気を感じないし大丈夫じゃない?」

 

「霊夢がそういうならいいけど……、あれ…ピアノの音しない?」

 

「ほんとだ聞こえるな」

 

 

 

耳を澄ませば微かに聞こえる鍵盤を叩く音。バイオリンじゃないよ。

 

 

 

「考えなくても四階の音楽室でしょうね」

 

 

 

東風谷の言葉に従って俺たちは上へと続く階段に足をかけた。音楽室に近づいているのだろう、音がはっきりと聞こえるようになった。

 

なんだろう、この音楽すごく違和感があるぞ。雰囲気に合ってないっつーか…。

 

そう思ったのは俺だけじゃなかったらしく、博麗と東風谷も微妙な顔をして呟いた

 

 

 

「…なんか、軽快な音楽ね」

 

 

 

「ていうかこれ子犬のワルツじゃないですか?」

 

 

 

ああ、なんか聞き覚えがあると思ったがそれか。

 

確かショパンだったはず。音楽に造詣が深くない俺でも耳にしたことくらいはある。

 

だが何故この選曲なんだ?もっとレクイエムみたいな暗い曲の方がいいんじゃないだろうか。

 

 

 

「お、曲がやんだぜ」

 

 

 

霧雨の言う通り、確かにピタリとピアノがやんだ。だが次の瞬間ーー

 

 

 

「また軽快な音楽…」

 

 

 

また始まった。

 

あれ?でもなんだこれ聞いたことあるぞ……、あっ

 

 

 

「ココロオドルじゃねぇかっ!」

 

「わっ!びっくりした…、急に大きな声出さないでよ!」

 

「あ、ああすまん博麗」

 

 

 

ヤベーヤベー知ってる曲すぎてつい突っ込んじまったぜ。

 

というか…これを弾いている奴は人を怖がらせる気があるのか?ちゃんと働けよ。

 

 

 

 

 

 

 




大筋は考えてるけど細かい設定までは考えきれてないの
適当な部分あるかも

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