比企谷八幡の幻想縁起   作:虚園の神

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頑張って書きました。
可愛がってください。


7月下旬

チリン、と風鈴が鳴く。耳に響くその音は頭にスッと入る。感覚的に涼しくなり、今の季節を意識せざるを得ない。あくまで感覚的に、だが。

夏で在る現在、うだる様な暑さが続いていた。所謂酷暑である。横の扇風機がカタカタと首を忙しなく動かしている。だが、たいして涼しくなる訳もなく、「焼け石に水」というか「焼け俺に風」といった感じである。

濁った目で目の前にいる奴を睨みつける。俺は過去に無い程の苦戦を強いられているのだ。というのも前述の奴こと、夏季休暇の宿題それも数学だ。

くっ!分からん!恒等式も二項定理も数列の和もマジ意味不明。なんなの?rとかnとかアルファベット使うのは英語だけで充分だわ。数学など欠片ほども理解できん。もういやっ!ハチーチカお家に帰る!何て事を口走りそうになるくらいにはやる気が無くなる。

 

「マッカンでも飲むか」

 

独り言(特技)を呟き、冷蔵庫を開ける。周りがこんなに暑いから冷蔵庫の温度差が際立つ。マックスコーヒーは上段にあった。取り出し、タブを開け、中のものを一気に呷る。

この粘りつくような甘み・・・。流石俺のマッカンだ。そんじょそこらのコーヒーとは絶望的に違うぜ!(甘さが)。ふぅ、と息を一つつく。

机の方を見やれば、半分も終わっていないノートが寝そべっている。眉間に汗が流れる。コーヒーもまた、気温差で汗をかいてた。

面倒くさいなーまた今度やろうかなーまだ夏休み始まったばかりだしなー。そう思い、そっとノートを閉じた。そのままうつ伏せになり、床に倒れ込んだ。DIVE!!したからなのか、段々と睡魔に襲われる。まぁ俺はそれ程泳ぎは得意ではないのだが。

突然ガチャとリビングの扉が開く音がする。音源に目を向ければ、黄色のシャツと水色のスカートを履いた小町がいた。二階から降りてきたのだろう。

「どったの?お兄ちゃん。そんなとこに寝そべって。死んだ魚の真似?」

「ちょっと、酷くない?確かに俺は死んだ魚のような目をしてるが、身体まで腐ってるとは言われたことないぞ。」

「前者は肯定しちゃうんだね。お兄ちゃん・・・。」

「俺は賢いからな。もう諦めた。」

はは、と苦笑いの小町。ゴメンねこんなお兄ちゃんで。

それからはたと思い出したように、顔を上げた。

 

「小町ちょっと出かけるから 」

「何処へ?」

「ムー大」

 

ムー大かぁ。ムー大とは総合デパートの様なもので、服屋、雑貨屋は勿論のことゲームセンターから映画まで揃っている場所であり、遊びには事欠かない。つまり一人で行くようなところでもない。俺なんかは専ら本屋に用があるから一人で行くが、アホの小町が本屋に行くわけがない。

 

「誰かと買い物か?まさか大志か?大志なのか?」

 

大志とか言った日にはぶっ殺すぞ。大志を。

 

「何その食いつき方……。キモい、キモいよお兄ちゃん。」

 

そう言ってフルフルと首を振る小町。さながら赤べこのようであるが、そんなことはどうでもいい。

俺が答えを待っていると小町は少し嫌そうな顔をしてから口を開く。

 

「別に大志君じゃないから。クラスの娘達だよ」

 

良かった。この手を血で濡らさずに済みそうだ。

一人安堵してると小町は既に荷物を纏め、出る準備を終えていた。

 

「じゃ、小町行ってくるから。留守番よろしくね〜」

 

リビングを出て、一拍して玄関から扉を閉める音がする。

家には俺一人。暇すぎる。

特にやることもない俺は床をお掃除ローラーよろしくゴロゴロ転がるだけ。

チリン、と風を受け風鈴がまた響く。すると心地よい風が通り抜けていった。髪は流され、気力も流れる。

ーーー寝るか。そう思い、俺はゆっくりと意識を闇の中に落としていった。




次回から幻想入りします。
お楽しみに〜。


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