シルフィードを送り、城の一室を借り、昼間の襲撃も含め今後の事を改めて確認していた。
「さてと、もう城下町にオークとかオーガが潜伏できるって考えると俺らに残された猶予は結構短いって事になる。
そこで、だ。予定を変更する。あと、俊とシグが前回いなかったから今回の回収対象についても説明する。
今回の回収対象は、聖槍ロンゴミアント。かの有名なアーサー王の所有していた槍だ」
「あれぇ? エクスカリバーじゃないのぉ?」
「おいおい、何聞いてたんだミウ……。さっきのデブリーフィングで言ったろ? エクスカリバーは
そんで今じゃ時間操作の能力も付与されてんだ」
「そうだっけ?」
「お前の地元の事だろ……?」
呆れるカズヒサに、誤魔化し笑いを浮かべるミウは、いまいち分かっていない俊達の方を見る。
「説明した方が良~い?」
「お、おう」
「んー、日向ぁ~。お願いしていい~?」
そう言って自身の隣を見たミウは、えっ、と詰まった俊を他所に呆れた顔をしている日向を見上げる。
「言い出しっぺだろうがお前」
「めんどくさい」
「どんだけものぐさなんだお前……。ったく、仕方ないな。かの有名な、聖剣エクスカリバーはエルフランドと新ヨーロッパ共同体との契約により、譲渡された聖遺物だ。
現在は新ヨーロッパの地流行術式である時間操作術式を付与された上で神王邸にて保管されている」
「あぁ~、エリーの家だっけぇ?」
「愛称で呼ぶな。本人もいないのに。まあ良い、新ヨーロッパの神王はエリーゼ・フォン・エルスタル陛下。俺とミウの顔馴染だ」
そう言って、国連データベースから資料を持ってきた日向は、のんびり笑うミウと自分を交互に見る俊に苦笑する。
「初耳だぞ俺」
「そりゃそうだ。大隊長達以外、誰にも言ってないんだからな。言ってもしょうがないし」
「神王と友達って結構凄い事だと思うけどな。どう言う経緯だ?」
「単に俺達の元同級生ってだけだ。ジュニアハイスクール時代のな」
「いや、それでも凄いんだけど」
そう言いながら壁にもたれる俊は、ミウの頭を小突く日向に思い出した事を話し始める。
「新京都時代の話だけど、知り合いに神王様の親衛隊に所属してる奴がいたなぁ」
「お前も人の事言えないじゃないか」
「いや、直接知り合ってる奴よりは凄くないだろ」
そう言って肩を竦める俊に半目を向けた日向は、こっちを見ているカズヒサに気付いて話題を止めた。
「よし、じゃあ話を戻すぞ。今回ロンゴミアントを回収するにあたり、王女殿下に同行していただく。そして、目的地はここ。キャメロット旧市街だ」
「キャメロット? かのアーサー王が拠点としていた……。しかし、現神王が在住している地域もキャメロットだった筈では?」
「元々はこっちがキャメロットだったんだが、エクスカリバーの移譲に伴ってキャメロットの名前も移された。ま、それでこっちは旧市街って名乗ってんだが。
そんで、旧市街に行く訳だがここで問題がある」
「問題?」
「ああ、単純で無茶苦茶大事な問題だ。ここ、キャメロット旧市街北門から数キロ先が現在の前線。つまりだ、強襲される可能性が非常に高い。
そして、西門から3㎞先がロンゴミアントが保管されているカタコンペだ。俺達はここへ向かう事になる」
今日日珍しい紙の地図を広げ、説明するカズヒサは顎に手を当てて考えている隼人に視線を向ける。
「この距離だとキャメロットまで半日はかかるな。車で移動して、だが」
「滞在時間を短くしようにもこの地域での深夜行動は夜襲警戒の観点から厳禁。陛下が危険に晒される可能性もある事だしな」
「良いか、政治的観点からも要人の保護は絶対だ。特にエルフの連中は血統と伝統を大事にする。王女陛下がどんな形であれ、殺されたとなれば奴らは俺達に刃を向ける」
そう言って全員を見回した隼人は、頷くカズヒサに続きを委ねる。
「さて、お前らもすでに遭っていると思うが、親衛隊の連中が何やら俺達の行動を妨害しようとしてこそこそ嗅ぎまわっている。多分、王子様の策略だろうな。ま、詳しい事は俺とみっちゃん達で探ってみる。
聖遺物回収についてはお前らに任せた。シュウ、隼人、うまくやってくれ」
そう言ってカズヒサはその場を後にする。
後を任された隼人は、紙の地図はそのままに、全員を見回しながら話を始める。
「それじゃあ向こうでの活動について、話を始めるか。地形データを表示する。今回の中継点となるキャメロット旧市街は、ある程度背の高いアパートメントが立つエリアだ。
周囲を囲む砦には四か所の入り口があり、門は跳ね橋で管理され基本ここを通って移動する様になる」
「中世期の建物としてはスタンダードな作りだな。さて、今回の装備についてだが射撃班は長中射程武器とCQB装備の二つを用意した方が良いな。前者はもしも襲撃された際に防衛戦で使用。
後者は、町中に入り込まれた時や、カタコンペでの襲撃。車両で取り廻す際に使用する。移動車両にはそれらと予備弾薬を詰めるだけのキャパシティはあるはずだ。
加えて近接班も、使える奴は射撃武器を持っていくと良いだろうな。相手の種族がオーク、オーガとなると体格、筋密度の差から近接戦は不利になる。よほど技量が無ければな」
「なら、俺と和馬以外だな。接近戦についてだが、武装の取り回しには十分注意しろ。とくに狭い路地での戦闘はな。さて、後は日程だが大まかに明日出発し、二日かけて回収する、と言う手筈で行こう。
車両についてはインプレッサ、A3、追加でハンヴィー2台を使おう。ドライバーは村へ行った時と同じ奴がやる。準備は今日中に済ませろよ」
そう言って会議を終わらせた隼人は、俊、シグレ、レンカを連れて王女の元へと向かっていった。