僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第37話『交戦開始』

「クソ! 残りマグ一!」

 

「こちらは拳銃しかないです!」

 

 怒号を発しつつ、教会の二階から銃撃を撃ち込む国連軍S師団第13大隊第3小隊の隊員は、かれこれ3時間近い籠城戦により激しく消耗していた。

 

「各自応戦を継続しろ、直に応援が来る!ジェイムズ! 機銃弾は!」

 

「あと1マグ! くそ、小隊長、連中も機銃を撃ってきてます! AKだ!」

 

「クソッ! デルタチーム、そこから移動しろ! 壁抜かれるぞ!」

 

 小隊長の指示に移動する4人は、瞬間石造りの壁を貫通した7.62mmに戦慄する間もなく撃ち返す。

 

 教会の一階はアルファ、ブラボーの2チームが避難民を防御しており、時折奇襲してくるゴブリンを射殺していた。

 

 どの隊員も弾薬類と同じく消耗しきっており、荒い息を吐きながら銃撃を繰り返していた。

 

(このままでは叩き潰される……)

 

 出せる限りの指示を出していた小隊長は、不利を悟っており、神経をすり減らしていた。

 

「隊長! オークが突破してきた!」

 

 すでに破られた入口からRPK機関銃を構えたオークが姿を現した、その時だった。

 

 上空から降り注いだ爆音と共に、トリガーを引こうとしていたオークが縦に真っ二つになり、そのまま血飛沫を上げながら倒れ込んだ。

 

「な、何だ……?!」

 

 そう呟いた小隊長は立て続けの銃声を聞いた後、あれほどうるさかった銃声やゴブリンの鳴き声が聞こえなくなっていたのに気づいた。

 

『援軍ですよ、小隊長殿』

 

 無線で隼人がそう言うと同時にインプレッサが教会に突っ込み、それを塞ぐ様にハンヴィーが停車する。

 

 飛び降りた浩太郎が助手席を開け、親子を下ろすとレンカやカナと共に外へ走っていく。

 

「ありがたい! こちらも消耗しきっていてな。これ以上攻められればどうなっていたか」

 

「では我々への援護は不可能ですね……。了解です、敵部隊はこちらで対処します。貴隊は、避難民の護衛をお願いします」

 

「了解した。頼んだぞ」

 

 そう言って敬礼する小隊長に頷き、外へと走っていった隼人は、突然の事に混乱しているオークを屠るレンカ達と合流する。

 

「状況は!」

 

「教会周辺は粗方片付けてる! 問題は……」

 

「町の内部か!」

 

 言いながら、手に取ったR.I.P.トマホークでゴブリンの頭を薙ぎ払った隼人は、薙刀を手に降り立ったレンカにアイコンタクトを送る。

 

 瞬間、巨大な戦斧を手に挑みかかってきたオークの一撃をレンカと共に回避した隼人は、両肩目がけてトマホークを投擲する。

 

 勢いよく骨まで食い込んだ片手斧に獣の叫び声をあげたオークは、顔を上げた先に見えた小柄な足裏に眼球を蹴り潰された。

 

「グォオオオ!」

 

 咆哮を上げるオークの頬に追撃の回し蹴りを打ち込んだレンカは赤黒い口腔を切り裂いて着地し、隼人と入れ替わる。

 

 肩に突き刺さったトマホークを引き抜き、神経を切り裂いた隼人は、血振りしながら振り被るとハサミの様に組み合わせて太い首を斬り飛ばした。

 

「クソ、一体にこれじゃ、埒が明かない!」

 

 そう言って血に塗れたトマホークを収めた隼人は、レンカと背中合わせに周囲を見回すとオークがピンポイントに撃ち抜かれているのに気付く。

 

『ヘヴィライフルなら撃ち抜けるわ。オークはライフル持ちに任せて、あなた達はゴブリンを』

 

「よし、分かった。援護は任せるぞ」

 

『ふふっ、任されて』

 

 通信にそう返した咲耶は、上空に佇むと同時セミオートに切り替えた飛行モードで安定させつつ、額のコンバットバイザーを目元に下ろし、内蔵された受信レドーム兼用のカメラセンサーを起動する。

 

 等倍視界カバー用のツインアイが瞬くと共に、中央のレンズがスコープレス時対応の為にピントを調整。

 

 それと並行して、手にした20㎜セミオートカノン『XM28A3』を構え、スコープセンサーの有効内にターゲットを捉える。

 

「風は微風、この感じだと調節は無し。距離200m。ファイア」

 

 人の使用を考慮していない重めのトリガーを引き絞った咲耶は、迸る閃光と爆音をセンサーに緩和してもらいつつ着弾を観測する。

 

 音速弾の直撃で、真っ二つに引き裂かれたオークの体は、鮮血と臓物を吹き出しながらその場に崩れ落ち、赤黒い血だまりを形成する。

 

「残りは……12人」

 

 農村全域へセンサーを展開したハナと香美が形成する広域データリンクからオークの情報を拾い上げた咲耶は、狙撃用に精査した香美から優先順位も受け取って狙撃を開始する。

 

 20㎜の貫通、破壊力は対物狙撃銃や重機関銃に使用される12.7㎜BMG弾をも凌ぎ、例え遮蔽物があろうと、それが鉄の塊でもない限り、障子紙の如く撃ち抜ける。

 

「隠れても無駄よ」

 

 石造りの家であっても、貫通時のズレこそあれど撃ち抜けない事は無い。

 

 それを証明する様に、家屋に隠れて武達と撃ち合っていたオークの頭部を撃ち抜いた咲耶は、オーグメント表示で示されていたオークのシルエットから頭が霧散しているのを見て手応えとした。

 

 と、何かを感知した広域センサーが警報を発し、そちらへ注意を向けた咲耶は、自身に向けて放たれたRPGに視線選択からショットカノンを起動する。

 

「ファイア」

 

 一つ一つが炸裂弾の子弾となっているショットカノンのシェルを射出した咲耶は、RPGを取り囲んで炸裂したそれに安堵し、応射を撃ち込んで上半身をズタズタにした。

 

 真っ二つになったシルエットが消えうせ、死んだ事を知らせると視線を逸らして別のターゲットを狙う。

 

「残り6人……」

 

 残弾数をHMDで確認しつつ、空に走り始めた弾幕を回避していく咲耶は、地上に走る味方の火線を見下ろしながら素早い射撃で処理していく。

 

 巻き添えでゴブリンも殺害しつつ、重火器を持っているシュウと美月に合わせて射撃を放つ咲耶は、落下でケガさせない様に低空でマガジンを交換する。

 

「オーク排除、そっちはどうイチジョウ君」

 

『コールサインで呼べ、咲耶《フィアンマ》! ゴブリンは排除した!』

 

「と言う事は周辺クリアね」

 

 そう言いながら周囲をセンサーで精査させた咲耶は、息絶え絶えの隼人に苦笑しながら降り立つ。

 

 足裏から金属音を鳴らしながら教会へ歩いていく咲耶は、XM28を右のアームに懸架すると集まりつつある面々と合流して無事を確認する。

 

「クリアか?」

 

「ええ、オールクリア」

 

「よし。五分後に、護送部隊が到着する。それまで待機だ」

 

 そう言う隼人に従った咲耶達は、町中に転がるオークやゴブリン、そして村民らしいエルフの姿を見回す。

 

 その中にはAK-47やRPKと言った東欧系銃器が最小でも部品の単位で散乱しており、また、空薬莢も、家屋に穿たれた数以上に転がっていた。

 

「粗方コピー品だな……。だが、この数は一体……」

 

「ゴブリンもそうだが、一人に一丁行き渡らせているな。闇市で買うにしろ、大規模な量だ。普通はすぐに足がつく」

 

「ああ。それに連中、多少の扱いは心得ていた。普通ならあり得ない事だ」

 

 隼人にそう返しながら装甲越しに木製ストックのRPKを手にしたシュウは、粗末なスチール製マガジンを外すと本体をストンプで叩き壊した。

 

 木片と金属パーツが飛散し、血溜まりに沈み込んでいく。

 

 無数の死体が散逸する凄惨な場に居合わせ、堪らず恐怖するシグレ達を他所に、息がある敵がいないか探って回る隼人と浩太郎は、下半身を失ってもなお生きているオークに遭遇する。

 

「せっかくの狩りを邪魔したな……異人共が……」

 

 呪詛を吐きつつ、ゴブリンが使っていた『Vz61 スコーピオン』サブマシンガンを手に取ろうとしたオークは、直前で手に打ち込まれたナイフに戦慄し、引き抜こうと柄に手をかける。

 

 その間にゆっくりと歩み寄った隼人達を見上げたオークは、逆光の中で煌々と光る双眼に戦慄する。

 

「し、死神と、悪魔……」

 

 そう呟いたオークは、眼前に向けられたXM92の銃口に顔を引きつらせ、直後、対物弾に顔面を真っ二つに割られた。

 

 最後の一発だったらしいXM92は、ボルトオープンさせ、排莢口を大きく開けていた。

 

「お似合いのニックネームだったな」

 

 そう言って突き刺したナイフを掴み上げ、背中のシースに投げ入れた隼人は浩太郎の様子がおかしい事に気付く。

 

 声をかけようとした瞬間、浩太郎は突然その場に崩れ落ち、慌てて抱え上げようとした隼人は、胸部をスリーブブレードで斬撃された。

 

「こ、浩太郎!?」

 

「アンタ、隼人に何してんのよ!」

 

 驚愕と怒号の声に隼人が振り向けば、武器を収めたまま驚いているカナとレンカが今にも駆け寄ろうとしていた。

 

 その声に、反射神経でホルスターからヴェクターを引き抜いた浩太郎に、舌打ちした隼人は、蹴り上げで腕を弾き逸らす。

 

「……ッ!」

 

 数発のACP弾を宙に放ち、正気に戻った浩太郎は仰向けに倒れている隼人に気付くと自分が何をしたのか、理解した。

 

「ゴメン、隼人君」

 

「良いさ。それよりも、目が覚めたか」

 

「ああ。短い悪夢だったけどね」

 

 そう言って、見下ろした浩太郎は、モーターの音を響かせながら起き上がる隼人にマスクの中で笑う。

 

 ふと、視線を感じた彼は、怯えるレンカとカナに気付き、目を合わせられずそっぽを向いた。

 

「浩太郎、大丈夫……?」

 

「え、あ、うん。大丈夫だよ、カナちゃん」

 

「本当?」

 

 覗き込もうとしてくるカナから逃げる様に顔を背けた浩太郎は、発砲したばかりのヴェクターを太もものホルスターに納め、教会に向けて歩き出す。

 

 その後ろをとことこ付いて行くカナは、R.I.P.ボウをマウントしている背中を見上げるとこちらを機にしたらしい浩太郎と一瞬目が合う。

 

 無機質な目がこちらを一瞬見ると、そのまま気にした素振りも見せず、また前に視線を戻す。

 

「何か、隠してるの?」

 

 敢えて聞こえる様に呟き、俯いたカナは、動揺して足を止めた浩太郎を涙を浮かべながら睨み上げる。

 

 彼女からの視線に耐えながら、教会へ歩いて言った浩太郎は、ノイズの様にフラッシュバックする従妹の顔を頭を振って追い出した。

 

 それから数百メートルの森林の中、様子を観察していた一機のAASが監視を打ち切る様に、センサーバイザーを額に跳ね上げていた。

 

「オーク共の襲撃部隊は全滅、か。にしてもあの連中、識別信号じゃ国連だけど何者なの……?」

 

 そう呟いた少女は、身に着けたダークブラウンのAAS、ネフティスが記録したログを確認していく。

 

(賢人から頼まれてた仕事は終わったけど……。これに何か意味はあるのかな……)

 

 ネフティスを提供した傭兵、賢人から依頼された内容を頭の中で反芻していた少女は、やたらと楽しそうだった彼の横顔も思い出していた。

 

「ま、良いや。帰ろ」

 

 そう声に出し、少女はネフティスの光学迷彩を起動して宙に消えていった。


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