僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第34話『出発』

 新ヨーロッパ出発の日8時30分前、新アメリカ海軍・新横須賀駐屯地――――

 

 航空戦闘艦などの船を多く擁す、新日本に点在する新アメリカ基地でも最大規模の軍事基地の内部、航空戦闘艦のドライドック。

 

 見る者を圧倒するそこに車とバイクで来ていた隼人達は、遅れてYZR-1でやってきた咲耶と合流した。

 

「あら、お揃いね。あら? 大隊長さんは?」

 

「まだ来てない。そう言えばバイク、直ったんだな」

 

「テロ事件が終わってからすぐにね。フレーム折れてなかったし、部品とカウルの交換で元通りだったわ。ついでにチューンもしたけどね」

 

「そうか、そいつは羨ましい限りだ。俺達はフレーム損傷だったからな。新車を買うしかなかった」

 

「でも、最新型手に入って良かったじゃない。乗りたくないけど」

 

 YZR-1のエンジンを止めた咲耶は、隼人のH2を見ると小馬鹿にした様な笑みを浮かべながらヘルメットを取った。

 

「そう言えば、皆には言ってなかったけど今回の新ヨーロッパでアーマチュラと新武装のデータを取らせてもらうわ。

アーマチュラの対象者は七人、美月ちゃんも含めてね。それと新武装について何だけど、対象者は三人。アキちゃん、香美ちゃん、それと、レンカちゃんよ」

 

「へ? 私?」

 

「そう、向こうで渡すけどレンカちゃん用の新しい装備一式。アナイアレイタのデータから作ったアッパータイプを評価試験用に提供するわ」

 

 携帯端末にデータを送りながらそう言う咲耶は、データ取りの対象であるレンカ達10人の相槌を聞きながら話を続ける。

 

「アーマチュラ組には立花重工からアーマチュラの予備3セットを提供。それと電磁射出システムの試験運用も行うわ。システムの詳細は追って話すけど、

簡潔に言えば装着者の元へレールガンでアーマーの予備コンテナを射出するシステム。まだ実戦での運用はしていないから、今回行わせてもらうわ」

 

「ああ、軽軍神の電磁射出システムか、新アメリカの企業が軍と共同で研究していると聞いた事があるが、もう実用化レベルまでにしてあるのか」

 

「軽軍神飛ばす新アメリカと違ってこちらはコンテナ飛ばすだけだから。危険性も負荷も少ないのよ」

 

 そう言って笑う咲耶は、データを受け取り終わって暇な隼人の方へ歩み寄り、新車のH2を見ていた。

 

「これがカワサキの最新型ねぇ……。スーパーチャージャー付きの」

 

「思っているほど乗りにくくは無いぞ。前のと違って中身に手は入れてないからな。ただ、剛性不足な感は否めないな」

 

「へぇ、それじゃあラテラと一緒で随分と手のかかる子なのね」

 

 そう言って苦笑する咲耶に、頷いた隼人は、周囲を見回し、武達が固まって話し込んでいるのを確認して話題を変えた。

 

「……今更だが。良いのか、咲耶」

 

「あら、それは立花グループのトップが戦場へ出ていくのがって意味? それとも」

 

「新新宿で心に傷を負った立花咲耶が、本格的な戦場に出て良いのか、と俺は聞いている」

 

「だったら答えは……イエスよ。私は大丈夫、あの時みたいに弱くはないわ」

 

「それは、実力の事か、それとも精神の事か? まあ、どちらも期待はしておく」

 

 皮肉る様にそう言って頭を撫でた隼人は、少しムッとした顔で不満そうにしている咲耶に苦笑を返す。

 

「期待じゃ困るわ。信じてもらわないと」

 

「それはお前次第だ。ほら、この話は終わりだ。それよりも、早く戻らないとお前のYZR、アイツらに破損させられるぞ」

 

「え? あ、こら! バイクに寄り掛からないの! スタンドが壊れるでしょ!」

 

 慌てて戻っていく咲耶に、含み笑いを浮かべながら遠目に喧騒を見ていた隼人は、手持無沙汰になり、携帯端末でデータの再確認に入っていた。

 

「新オプション……。多節棍に、鞭剣、それとこれは……対城兵器か」

 

 そう言って情報を見た隼人は、対城兵器と表示された項目をタップする。

 

 3Dモデルで表示されたそれは一般的な対城兵器である、野砲と言うよりもむしろ長大なランスに近かった。

 

「何だ、コイツは……」

 

 総重量は約3t。人どころか鬼人や人狼ですら携行に難色を示す非常に重い重量、そして、火薬と電磁投射のハイブリッド推進。

 

 専用武器、と言うよりも候補が絞られ過ぎてアナイアレイタに回ってきたと言うべき武器だった。

 

(恐らく攻城戦はあるが扱いきれるか……?)

 

 そう考えた隼人は、目の前に止まったハンヴィーに顔を上げた。

 

「よう、悪い悪い! 遅くなっちまった。みっちゃん達が寝坊しちまったせいで早めにする予定だったんだが、追加の手続きとか何やら大変でなぁ」

 

「うっぷ……寝坊って……昨日深夜まで飲んでたじゃないですか……」

 

「さぁ、知らねぇなぁ?」

 

「この……」

 

「ま、何にせよもう乗って良いぜ? 車とバイク持ってきた奴は地下の格納庫へ移動させろ。車もだ」

 

 そう言って、バイク3台とインプレッサを見たカズヒサは、二日酔いの二人を担ぐとドン引きのシグレ達に自分たちの手荷物を任せる。

 

 武達の分の荷物を下ろし、格納庫に車両を移動させた隼人は、突然の一般車両に興味を惹かれる兵士たちの視線に晒される。

 

「ここら辺に駐輪していいですか?」

 

「え、あ、ああ。構わない。しかし、何だってこんな物を」

 

「向こうでの移動用に使うんですよ」

 

 そう言いながらH2から降りた隼人は、呆気に取られている兵士を他所に後続へ駐車を指示する。

 

「民間の車両をか? 君は学生か民間軍事組織の一員のどちらかなのか?」

 

「両方ですよ。ただ、今回は国連軍の一員として、乗船します。よろしくお願いしますよ」

 

「国連軍……。そうか君達が例のゲストか。なるほど、よろしく」

 

 そう言って笑う兵士に笑い返した隼人は、後続の浩太郎達がガンケースなどを取り外すのを後ろ目に確認していた。

 

「さて、取り敢えずその荷物を検査させてもらいたいんだが。良いか?」

 

「ええ、分解さえしなければ」

 

「そこまではしないさ。さ、渡してくれ。ジャクソン、マイク、ミレイア、荷物を受け取ってくれ」

 

 部隊長であるらしい兵士の指示で警備係の兵士が荷物を受け取りに来る。

 

 携行している武器も併せて手渡した隼人達は、格納庫にある重軍神、そして軽軍神を見回す。

 

「流石強襲揚陸艦だ。巨大兵器が並ぶこの光景、壮観だな」

 

「この艦は、まだストライクイーグルを搭載してるのね。てっきりラプターがあると思ってたわ」

 

「ラプターは最新型だからまだ回ってこないんだろ。ラプターは製造コストが高くて台数確保が難しいらしいからな」

 

「へぇ、随分のん気なのね」

 

「今、何か起きている訳でもないからな。軍事力拡大に否定的な今の世界情勢から、ラプターは過剰性能とさえ言われている」

 

 垂直式の駐機ハンガーに収まる新アメリカ製の重軍神『FM-15E ストライクイーグル』を見上げた隼人は、あまりそう言う事情に詳しくないらしい咲耶の、微妙に理解できていない顔を見て少し笑う。

 

 笑われた事に気付いてムッとなる咲耶は、後ろで様子を見ていた浩太郎とリーヤにも笑われ、二人も睨んだ。

 

「少年達! 荷物検査が終わったぞ。取りに来てくれ」

 

 兵士に呼びかけられ、隼人達は荷物置き場へ引き返す。

 

 それぞれの荷物を受け取り、甲板上のブリッジを目指して移動した隼人達は、慣れない艦内で迷いまくり、実に30分かけてブリッジへ上がった。

 

「よう、遅かったな」

 

「中が広かったもので……」

 

「ハッハッハ。そりゃそうだ。さて、遅れてきたお前らに、紹介しておこう。このワスプ級強襲揚陸艦『フリント』の艦長、ジム・ホーキンズ大佐だ。今回の作戦の為に船を出して下さる」

 

 後ろにいる初老の男性、ジムを紹介したカズヒサは、訝しげな顔をしている隼人達を見回している彼に笑みを向ける。

 

「すいませんね、こいつら警戒心強いんで」

 

「いやいや、そこは気にしていないとも。力強い目をした良い子達じゃないか。特に真ん中の彼は小隊長だそうじゃないか。若いのにしっかりしている」

 

「ありがとうございます。じゃあ、紹介はここでいったん切り上げて。早速今後のスケジュールについて、話し合いましょうや」

 

 そう言って一升瓶を取り出すカズヒサに、ニヤッと笑った艦長は後を副長に任せ、奥の艦長席に引っ込んでいった。

 

「大丈夫なのか、この船は……」

 

 呆れた口調でそう言った隼人に、その場に居合わせた三人は揃って頷いた。


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