放課後、昼休みにした打ち合わせ通り、講師として招集されたシュウ、リーヤ、浩太郎は、早速講習を始め、銃の撃ち方やクリアリングの仕方などを教えていく。
一方、咲耶から預かったラテラV2の慣熟操縦も兼ねてアキホの特訓に付き合わされる事になった俊は、シグレと共に立っているアキホに軽く頭を掻いた。
「じゃあ、まあ、突っ立ってるのもなんだし模擬戦するか」
「俊君もうちょっと訓練メニュー考えてきてくださいよ!」
「時間短かったんだから仕方ねえだろ。ま、やってりゃ慣れるよ、武器の扱いなんざ」
アーマー越しにケラケラ笑う俊は、不満そうなシグレにそう言えば、と灰色のカメラセンサーを向ける。
「あ、そう言えば何でシグがここにいるんだ? お前、教官じゃないだろ? 補佐か?」
「私は、兄さんに言われてきたんです。新装備のテストも兼ねて、俊と模擬戦をしろ、と。まさか、アキホも一緒だとは思いませんでしたが」
「そうかい。じゃあ2対1かねぇ……。ま、アーマチュラ分加味すりゃちょうど良いかね」
「ち、チーム戦ですか?」
「そりゃそうだろ。複数人いるのに何で一人ずつやんだよ」
「え、えと……あ、アキホも私と一緒は嫌ですよね!?」
外殻をつけた龍翔を後ろに回して待っている俊は、引きつった表情で振り向いたシグレに呆れていた。
当のアキホは、満面の笑みで首を横に振ると、ショックを受けている彼女に抱き付いた。
「つれない事言わないでよシグ姉ぇ~。一緒にやろうよぉ」
「ひぃっ」
「あ、もしかして人見知りしてるんだ? えへへ、可愛い」
「わ、私は、しゅ、俊君がいないと連携取れないんです!」
「えへへ、じゃあ私と頑張ろう!」
そう言って抱き締めるアキホは、恥ずかしそうなシグレに頬ずりする。
「あー仲良いとこ悪いがそろそろやるぞ。ルールはポイントアーマー制、二人とも付けてるよな? 1000ポイントを失ったらそいつはキルされる。最終的に生き残ってた方が勝ちだ。
ポイントの消費量は、攻撃力と防御力に影響される。まあ、俺はアーマーがあるからその分消費量は少ない。その分はハンデだ。じゃ、二人共準備してくれ」
「はーい。シグ姉どうする?」
「俺に聞こえねえ程度に話せよー」
そう言ってサウンドセンサーをミュートにした俊を他所に、装備を選んでいるアキホは、レッグホルスターにPx4とマガジンを、全身にアークセイバーを装備した。
隣で装備を身に着けているシグレは、G18Cにロングマガジンを装填し、予備マガジンに通常型を選んだ。
そして、ククリナイフにバトルファン、新たな装備である藍色の刀身のククリナイフを装備した。
「準備オッケー!」
「っし、じゃあ指定の場所に移動しろー、着いたら始めるからなー」
「はーい」
槍を片手に移動する俊は、所定の位置についたアキホ達二人を確認するとラテラV2のUIから試合開始の合図を出した。
と同時、身体強化をかけたアキホが二刀に分割したアークセイバーを手に突っ込んできた。
「はぁああッ!」
右を順手、左を逆手に持って斬りかかるアキホは、少し焦りつつ、槍を回して牽制した俊につま先を付けて接近軌道を変更。
着地と同時に掌底からレーザーを放つアキホの背後、苛立ち気味にG18を構えていたシグレが、バースト射撃で俊の頭部を穿つ。
「うっぜえ!」
眼前を火花が遮り、共振音が装甲内部に響き渡る事に苛立った俊は、身軽な動きで回避するアキホを狙って槍を繰り出す。
引きの動きを見て足のアークブレードを展開したアキホは、突き出された穂先をバク転で蹴り上げると両手のセイバーを連結させてクルクルと振り回す。
「シグ姉! カバー!」
「分かってますよ!」
アキホの怒号に苛立ちつつ応じたシグレは、通常マガジン17発を撃ち切るとスライドオープンと同時に排除してリロードする。
「行きなさいアキホ!」
「アイアイマーム!」
ロングマグに切り替えたシグレが発砲しながら叫ぶのに、笑いながら走ったアキホはP90を構える俊にアークセイバーを向けて高速回転させる。
瞬間、ブレードで偏向したアキホは、たじろく俊に迫るも突きを穂先で受け止められ、収束フィールドが激しく干渉する。
「突き抜け、龍翔!」
そう唱えた俊に呼応して槍からスラスターが解放され、噴射の勢いを使って無理矢理突き破った。
本体に到達するより早く回避したアキホは、足のアークブレードと腕のアークトンファーを使って俊を弾き飛ばす。
たたらを踏んだ俊は、前面部スラスター噴射で勢いを殺すと同時に斬りかかってきたシグレの一撃を柄で受け止めようとした。
が、彼の直感がその判断を止め、スラスター制御をうまく使い、90度スピンからのバックステップで距離を取る。
「浅いッ!」
悔し気に叫ぶシグレが握るククリナイフは、それまで使っていた金属色の物ではなく、コーティングとして薄めのブルーメタリックで塗装されていた。
「あぶねー、それ、新しい術式武装だよな」
「よく分かりましたね。正解です。私の新しい武器、『ダンシングリーパーⅡ“ニーヴェルング”』です」
「ダンシングリーパーって時点でもうやべえな。柄で受け止めてりゃ、危うくすっぱ切れるとこだったって訳だよなぁ」
そう言いながら槍を構え直した俊は、応じる様にニーヴェルングとG18を構えたシグレに突貫する。
その速度に一瞬戸惑った彼女だったが、すぐに冷静さを取り戻し、拳銃を照準する。
「シグ姉!」
そう叫び、間に割って入ったアキホが急制動から飛び出した穂先を弾き逸らす。
間合いを見誤らせる魂胆だった俊は、アキホの観察眼と動体視力の良さに舌打ちしつつ槍を引き戻して距離を取る。
「よく分かりましたねアキホ」
「武道やってる人がああ言う搦め手使うの何度も見てるから、多少はね?」
「なるほど……」
確かに、と頷くシグレを見て苦笑するアキホは、じっとこちらを見ているラテラV2のマスクにやり難さを感じつつダブルセイバーを軽く回す。
穂先を下げて構える俊に、長巻モードに切り替えたセイバーを掲げて構えるアキホは、突撃してくる俊に長巻を振るう。
直撃コースを避け、ホバリングからの滑り込みで回避した俊は、すくい上げる様な軌道で槍を振るうと、側転で回避した彼女が足のスラスターカバーを狙ってレーザーを放つ。
「ッ!?」
掠って吹き飛んだカバーにバランスを崩された俊は、右腕のスラッグガンを発砲。
「危な!」
素早く回避したアキホは、トンファーによる薙ぎ払いで顔面の装甲を切り裂いて蹴り飛ばす。
よろけた俊は、カバーに動くシグレの一撃をバックラーの障壁でパーリングし、槍で薙ぎ払った。
「ッ!」
吹き飛ぶシグレは、追撃しに来る俊に床の構造材を壁にして突っ込ませる。
衝撃で減速し、怯んだ俊はツインブレードモードに切り替えられていたアークセイバーの投擲を上方へ弾く。
その間に重力制御で無数に作った足場を飛び移っていたシグレは、アキホと斬り結ぶ俊の背後を取って迫る。
《背面接近検知:自動照準モード》
秋穂を正面に捉えていた俊は、UIからの案内にニヤリと笑うと左腕の力を抜いて、ラテラに委任した。
瞬間、バックラーが背後を向き、銃口がシグレを捉える。
「な!?」
まさかそんな機能があるとは思っていなかったシグレは、弾丸を頬に掠めさせると横ロールで右に逃げる。
「こっちなら!」
「惜しいな! ラテラ、リミッターカット!」
「え!?」
外部スピーカーから聞こえる俊の声に一瞬動きを止めてしまったシグレは、槍で固められつつ投げ飛ばされたアキホと激突する。
揃って吹っ飛ぶ二人へ追撃を仕掛けようとした俊は、いきなり乱入してきた半身装甲の機体と激突する。
鍔の無い外殻に包まれた対軽軍神用の刀で槍を流した乱入者は、偽装と高速戦闘に対応したフェイスマスクを当て、結い髪以外の特徴を隠していた。
「何もんだお前!」
アラートが鳴っていないと言う事は外部の乱入者ではない。
学内の者とはいえ、模擬戦をやっている最中に乱入されるのは、俊にとって気分の良い事ではない。
「随分と、有利に見えたから。それとも、一方的に嬲るのがご趣味?」
ボイスチェンジャーを介してそう言う乱入者は、手にしていた鞘を腰のアタッチメントに取り付けると口元を抑えて笑う。
「こんの……」
そう言って構えを上げる俊は、露出した体つきから女と見てシグレ達の方を見る。
シグレから後でガミガミ言われたくない俊は、幾分か冷静な頭で相手への手加減を考えていた。
「どこの誰だか知らねえが、覚悟しやがれ」
「とっくの昔に終わらせてるわよ。それと、手加減しようとは考えないでね、俊」
「え……?!」
いきなりの一言に不意を撃たれた俊は、斬りかかってきた相手の一閃を受け止めるとそのまま逸らす。
「どうして俺の名前を!?」
「だって、私だからよ、俊」
「え、お前!」
そう言って唖然としている俊の目の前、フェイスマスクを外した乱入者の正体は美月だった。
「ゴメンね、驚かしちゃって。近くでちょうどテストしてたから」
「お前いつも和馬の事グズグズ言ってっけど、お前も大概アイツと似た様な事するんだな……」
「一緒にしないでくれる?」
「えぇ……。俺、お前の事よく分かんねえわ」
「私と和馬はあくまでも知り合いの関係よ。恋愛感情は、な、無いわ」
詰まった言い方をする美月に、有るんじゃん、と返しかけた俊は、悪化する事が目に見えていたので大人しく口を閉じた。
「んで、どうすんだ?」
「一戦付き合ってくれる? シグやアキちゃん達には悪いけど。対軽軍神のデータが欲しいのよ」
「俺で良いのかよ?」
「あなたが良いのよ。和馬達だと大人げなく勝ちに来るから」
「なーんか褒められた気がしねえなぁ。まあ、良いや。やるか」
そう言って肩に担いでいた槍の穂先を向けた俊は、くすっと笑う美月が刀を構えるのにマスクの中で笑う。
「ルールはどうすんだ」
「ポイントアーマー制で良いわ。この機体ならどうせ途中で止まるんでしょうし」
「じゃあこのままやるか。来いよ、美月」
そう言って槍を構えた俊は、ブーストで迫る美月を横薙ぎで牽制すると右腕のスラッグガンを連発。
反動を腕で吸収する俊は、マズルジャンプを押さえ付けつつ放つ。
宙に放出されたスラッグ弾が、美月の肩に備えられた草刷り型装甲に直撃する。
高質量の弾丸が直撃するたびに彼女の体を吹き飛ばしていき、弾切れになるまでの間に刀使いには致命的な距離を開けた。
「ブースト!」
一説を唱えると同時に突進した俊は、腰からXM92を引き抜いていた美月の銃撃で減速し、顔面を蹴り飛ばされる。
打撃された事で、一瞬視界がブレ、美月を見失った俊は、上方からの一閃を回避すると槍を振り回し、彼女の側面を打撃する。
「ッ!」
吹き飛ぶ美月は、コンマの遅れでXM92を発砲し、連射する。
だが、それを予見していた俊は、穂先の障壁を展開して弾き逸らすとランス状になった穂先を突き出して牽制しながら踏み込む。
バックステップしつつ、下げていた一刀を振り上げた美月は、下げの動きで抑え込んできた俊に、拳銃を収めた左手から術式を放つ。
「ぐっ!」
頭部に直撃するが、障壁が重度化を防ぎ、そのまま突っ込んだ俊は、鞘に刀を収めた美月が離脱しながら術式陣を展開しているのに気付いた。
「火行・開門放射!」
美月の左腕から一部プラズマを巻き込んで放たれた大火球をバックラーから障壁で受け止めた俊は、爆発の勢いで吹き飛ばされ地面を転がった。
爆炎が壁の様に広がり、美月の姿を覆い隠しながら炎が走る。
「クソッ!」
辛うじて防いだバックラー表面が焼け焦げ、障壁展開機能が20%近く低下する。
優先使用設定にしていたリムカートリッジをポンプアクションでリロードした俊は、バックラーの魔力残量を確認しながら槍を腰だめに構える。
「ビックリしたぜ、何だよその威力」
「ふふっ、術式用に作ってもらったからかしらね。使える魔力量も上がって威力も上がってるの。それに、命中精度もね」
「術式用の機体か。試作段階にしてはよくやるじゃねえか」
そう言いながらUIを介して機体のコンディションを確かめる俊は、P90の電子トリガーシステムに異常が出ている事を知り、右腕のスラッグガンにリムを装填する。
対する美月は、白煙を上げる左腕の装甲に舌打ちしつつ、冷却系統がうまく機能していない機体の熱量に撃てる術式の出力を計算していた。
(これは冷却系統の改修が必要ね。この熱量では保って一撃かしら、ちょっと熱いわ)
そう思いながら、左腕を上げた美月は、右腕を刀に掛けながら機体のUIで術式の照準を付ける。
確定と同時に俊の足元から水柱を打ち上げた美月は、水の塊にバランスを崩す彼に笑うと左手を鞘に添える。
「無茶に付き合ってね、ソーサラー」
そう呟くと同時、莫大量の風圧とエーテルに包まれた刃が高速戦闘補助で起動したスローモーションの中で引き抜かれる。
暴風と眩い光の中で、一刀を振るった美月は、姿勢制御で手いっぱいだった俊の左腕部装甲をバックラーごと破壊すると、槍を防御陣を作動させた左腕で受け止めた。
「これで!」
そう叫び、押し込んだ美月だったがその瞬間に走った警告に目を見開き、それと同時に左手を刺し貫かれた。
突然の事に驚く俊は、慌てて槍を戻すとしれっとしている美月に駆け寄る。
「わ、悪い美月! 大丈夫か!?」
「え? ああ、大丈夫よ。今つけてるの暴発対策で訓練用の予備品だし、痛覚連携してないから痛くないし」
「え、いや、でもぶっ壊したのは事実だし」
「それはそうだけど、ぶっ壊れても良いものなんだから。気にしなくていいのよ」
「そ、そうか。なら、良いんだが」
そう言って背中に槍を回した俊は、データリンクから美月の機体コンディションを読み取る。
オーバーヒートで動けなくなったらしい美月の機体に苦笑した俊は、遠くから鳴った金属音に身構えた。
「おいおい、俺だよ俊。槍抜こうとしてんじゃねえよ」
「ビビったぜ、和馬か……。それで? どうしたんだよ」
「訓練メニュー途中で放り出したやんちゃなお姫様をお迎えに来たんだよ。ったく、データリンクでステータスはバレバレなんだっつーのっと!
んで、俊、お前左手ぶち抜いちまったなぁ? そこで見てたぜぇ?」
「悪い……」
「いや、まあ別に責めてねえよ。訓練用だったし、我が侭にトドメ刺してくれたようなもんだし。ま、下半身で刺し貫いたってんなら切り殺してたな、ハッハッハ!」
そう言って美月を乱暴に抱え上げた和馬は、俊と同じマスクの下でゲラゲラ笑いながら引き返していく。
「あ、そうだ。あの二人、休憩所に逃がしたから、後で会いに行けよ。待ってるぜ?」
「え、あ、ああ。悪い和馬。何から何まで」
「気にすんな。俺も美月が迷惑かけたんだ。そこまでやんねえとな」
そう言って、サムズアップを向けた和馬は、雑に担がれて不満な美月を持って別の模擬戦場へと戻る。
彼らを見送った所で、破壊された左腕の痛みに気付いた俊は、破壊され、露出している感触にため息を落としながら目的地へ向かう。
「シーグ達はっと。お、いたいた。おーい、シグ、アキホ」
そう言って休憩所に足を入れた俊は、他の模擬戦場を利用していたらしい女子達の中心でもまれているシグレに歩み寄る。
全身装甲の軽軍神を見て騒然となる女子達に、苦笑した俊は、抱き疲れているシグレに気付いて右手で掴み上げる。
「大丈夫か、シグ」
「新京都に帰りたい……」
「今更ホームシックになってんじゃねーよ」
そう言ってくすくす笑う俊は、シグレを抱きかかえると、ぐったりしているアキホの背を左手で叩く。
「うわー、左手だけ生身の軽軍神だ……痛そー」
「何あれエ○ァ? それともそう言う機体?」
「いや、ぶっ壊されたんでしょ。全身装甲型って大抵バリア無いから。大出力攻撃受けると壊れるんだよ」
「へぇー」
「へぇーってアンタねぇ……。軽軍神科所属でしょ整備士さん」
一つ離れた位置でひそひそ話をしている女子達のやり取りを聞き、左腕を見下ろした俊は、腕が腫れているのに気付いた。
(やっべ、通りで何か痛いと思ったら腫れてんじゃねえか……)
「あれ? 俊兄、その左腕……」
「え? あ、ああ。ちょっと模擬戦しててな。ぶっ壊された勢いで打撲しちまった」
「え、それ大丈夫なの? 折れてない?」
「いや、折れてないけど。まあ、ちょっとこのまま保険棟行くわ」
そう言って進路を保険棟へ向けようとした俊を慌てて引き留めたアキホは、ざわつく周囲を他所に彼へ話をする。
「そのカッコで保険棟行くの!?」
「え? あ、やべ、そうだった。アーマチュラつけっぱだった」
「何で分かんないのー!?」
「いや、まあ、神経接続してっから着てるのかどうかよく分かんねえんだよなぁ……」
「え? いや、知らないけど、どうすんの? 外してくる?」
そう言って疲れ切っているシグレを預かったアキホは、フェイスマスクを指で掻く俊に呆れていた。
「まあ、外してくるよ。もう模擬戦やらねえし。そう言えばアキホはどうだ? 新しい武器、慣れたか?」
「うん。そこそこ」
「そうか、そこそこか。ま、それくらいで良いんじゃねえの?」
「えぇ……。適当だなぁ、兄ちゃんだったらそんな事言わないよ?」
「隼人はきっちりしてるからなぁ。ま、俺からすればこれから慣れてけば良いって感じだな」
そう言って頭を撫でた俊は、嫌がるアキホに苦笑するとその場を後にした。