僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第31話『新ヨーロッパまでの日(その1)』

 夕食後、美月と共に風呂に入った和馬は、先に湯船に入って彼女を待っていた。

 

「か、和馬……、入るわよ」

 

「おう、待ってたぜ」

 

「ね、ねぇ、毎度思うけど別に一緒に入らなくて良いんじゃないの?」

 

「逆に入っても良いんじゃねえか? ま、今日は後から日向達も来るし、水入らずって訳じゃねえんだから。それに、一人でお風呂は寂しいんだろ? 美月ちゃん?」

 

「う、それは……そうだけど。でもやっぱり、胸が……。恥ずかしい」

 

 そう言って深く体を抱く美月は、豊満な胸を隠す様に体を捩ると、顔を真っ赤にした。

 

 それを見て豪快に笑う和馬は、右腕で彼女を抱き寄せると、突然の事に驚く彼女の頭を軽く叩いた。

 

「仕方ねえよ。お前が選べる訳でもねえし。それに、俺は巨乳派だぜ」

 

「そう言えばそうだったわね。最悪」

 

「へっ、言ってろ」

 

 苦笑する和馬は、何かに気付いた美月が自分の胸筋に触れている左腕を庇う様にしているのに気付いた。

 

 気にしているのだろうと思った和馬は、彼女の右腕を掴んだ。

 

「気にしなくて良いぜ。慣れた感触だからな」

 

「……でも、やっぱり気持ち悪いでしょ? 生まれつき片腕だけしかない人間なんて」

 

「まーだ気にしてんのかよ。8年前にも言ったと思うんだけどよ」

 

「でも、あの時のあなたは……」

 

「ああ、気持ち悪いって言ったよ。あんなクソガキの頃の俺は。お前の事なんて考えずに。けど、今の俺は、そんな所もお前だって思ってる。信じなくて良い。けど、俺はお前を、否定したりはしない。

それだけは絶対に、破らないさ。俺はお前の、騎士だからな」

 

 そう言ってはにかむ和馬は、身を寄せてくる美月をそっと抱き締めた。

 

「ずっと信じてるわよ、和馬」

 

「ああ、ありがとう。美月」

 

 身をゆだねる美月に、そう言って笑った和馬は、顔を上げた先、全裸の日向とミウと目が合う。

 

「よう、野暮カップル。俺らのイチャコラどうだった?」

 

「誤魔化そうとするな馬鹿が」

 

「へいへい。あーあ、かっこ悪いなぁ」

 

 そう言って、美月と共に湯船から上がった和馬は、赤面しながらくすくす笑う彼女に苦笑いを浮かべる。

 

「ま、それはそうとお楽しみの時間だ」

 

「雰囲気ぶち壊しよこの変態」

 

「何とでも言え何とでも言え。俺は動じねえからなぁ?」

 

 そう言ってケタケタ笑う和馬は、生地の薄いベビードールを手にしている美月に指でフレームを作った。

 

「やっぱ様になんなぁ。俺の見立てに狂いはなかった」

 

「何決め顔で言ってんのよ」

 

「言いたくなるもんなんだよ。さ、着てみてくれ」

 

「……向こう向いててよ」

 

「裸見た中なのになんでそう言うとこだけ気にするかね」

 

 そう言って視線を逸らした和馬は、わくわくした表情で着替え終わるのを待った。

 

「お、終わったわよ」

 

 震えた声でそう言う美月に、ニヤニヤ笑いながら振り返った和馬は、凄まじい色気に思わずサムズアップをした。

 

 それを見て少し嬉しく思う美月だったが、この後興奮した和馬に酷い目に遭わされる事となった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 翌日、生徒会室に呼び出された隼人は、授業に出ているのか人気が少ないそこで一人待っていた流星と会談を始める。

 

「ごめんね、出席日に呼び出して」

 

「いや、構わんさ。俺達はコンストラクター優先だからな」

 

「ありがとう。じゃあ、話を始めさせてもらうよ。君達、ケリュケイオン及びX師団の新ヨーロッパ行きに合わせ、僕たち新関東高校も新イギリスに同盟交渉に行く事にしたんだ」

 

「同盟交渉、だと……?」

 

「そう。僕の推測だけど、地球側の侵攻は今、秒読み段階に入っていると思ってる。それに対抗する為には、世界が協力しなければならない。その一歩として学生同士による共同防衛のネットワークを築こうと思ってね。

その為の、同盟交渉を行おうと思っていたんだ。それで、僕自身のコネがある新イギリスから始めようと思ってる」

 

 そう言ってホロジェネレーターに構想案を表示した流星は、それを見て腕を組んだ隼人が端末を弄る。

 

「ああ、前言っていた従妹の事か。それで、それとうちとで何の関係がある」

 

「向こうに行く時に、ジェス達を派遣してもらいたいんだ。多分、少々いざこざがありそうだからね」

 

「……そう言う事か。なら分かった。ジェスとハルのエコーチームを派遣しよう。二人しか出せないが、良いか?」

 

「うん、大丈夫。戦闘要員はこっちにも何人かいるし、二人いれば大丈夫だよ」

 

「了解だ。じゃあ調整しておく。話は以上か?」

 

「うん、まあ、交渉次第じゃそっちの援護に行くからね」

 

 そう言って笑う流星に、頷き返した隼人は、生徒会室を後にする。

 

 基本的に介入はしないとは言えど久しぶりの大規模戦闘であるが為に、隼人も若干の緊張と興奮を覚えていた。

 

「あ、兄ちゃん」

 

「おはようございます」

 

 入学初日から友達が出来たらしいアキホと香美に出会った隼人は、異種族の兄弟に驚く友人たちに苦笑した。

 

「え、この人、アキホちゃんのお兄さん?」

 

「うん。そだよ」

 

「何か意外。アキホちゃんは普通科なのにお兄さんは後方支援科なんだね。私らだとミサもそうだけど」

 

 そう言うエルフ族の少女に、何故か得意げなアキホは隼人と指さして話し始める。

 

「んっふっふー。確かに兄ちゃんは後方支援科だけど、ミサちんとは違って傭兵をやってるんだよ」

 

「傭兵じゃなくてPMSC部だ。似てはいるがやってる事が違う」

 

「え? そうなの?」

 

「ああ。基本的に俺達は戦闘行為はしない。教導、警備、治安維持活動のみだ。まあ、人手が無ければ鎮圧任務に駆り出される事はあるが」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 そう言って相槌を打つアキホに、苦笑した隼人は興味の目で見てくる有翼族の下級生に同様の笑みを向ける。

 

「え、教導って事は何か教えてくれるんですか?!」

 

「金さえ払えばな。後は何を学びたいかにもよるが」

 

「じゃ、じゃあ、お兄さんの得意分野で!」

 

「俺の得意分野? 総合格闘か。君は格闘術得意なのか?」

 

 そう問いかけた隼人はきゅっと口をすぼめた彼女に深いため息を吐いた。

 

「参考に聞くが……君の兵科は?」

 

「えっと、インファントリー(歩兵)です」

 

「インファントリー……。教官に据えるならリーヤかシュウか……」

 

「教官は何人いるんですか?」

 

「一応17人いる。予備講師1人も含めればだがな。さて、どうする?」

 

 そう言って苦笑顔で下級生を見た隼人は、財布と相談しているらしい彼女の返事を待つ。

 

「しょ、初心者講習でおいくらですか」

 

「2、3万かな。まあ、新入生応援フェアで1万でも良いが」

 

「んー、じゃあお願いします!」

 

「決まりだな、他に入るか?」

 

「あ、もう二人追加で!」

 

 そう言ってハイテンションになる下級生に苦笑しながら業務連絡のメールを作成する隼人は、若干不機嫌そうなアキホに気付いた。

 

「それで、お前はもう一回講習受けたいのか?」

 

「えー、めんどい。まあ、付き添いで香美ちゃんと行くけどさぁ」

 

「そうか。じゃあ、新しい武器も忘れずに持って来い。俊達に頼んでおく。香美もだ。ハナからドローンの使い方を教えてもらえ」

 

「えへへ、兄ちゃん優しい」

 

「いつも通りだ。まあ、君達へは放課後、行使との引き合わせを行う。期間限定になるからスケジュールがタイトになるがそこは勘弁してくれ」

 

 説明を終えた隼人は、レンカからの怒涛のコールに気付いて舌打ちし、小走りで教室へ向かった。


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