僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第30話『美月と和馬』

 まるで曲芸の様に縦横無尽に拳銃を投げているカズヒサは、空中でキャッチした二丁拳銃をホルスターに納めると、腰から煙草を取り出し、話す姿勢に移った。

 

「じゃ、まあ揃った事だし話すかね。新ヨーロッパ行きの日程が決まった。今週の土曜日。日程的には一か月かけて向こうの紛争に介入、オークランド軍兵士を撃退する。

一応向こうに国連新ヨーロッパ駐留軍と新ヨーロッパ連合軍、新フィンランド軍が派遣されている。向こうにいる同僚によれば新ドイツやら新イギリス、新フランスとかから軍が派遣されているらしい。

研修がてらだから特殊精鋭部隊揃いなんだと。KSKとかSASとかCOSとかな。まあ、戦闘面じゃ俺らの仕事無いかもなぁ」

 

「連携できれば良いんですがね。対立の片手間で相手されても困りますし。まあ、今の俺らは戦闘が仕事じゃないんで」

 

「お、そうだなぁ。まあ、向こうの連中曰く子どもに戦争はさせられないって言ってるし、新ヨーロッパの学院連合の派遣はまず無いだろうな」

 

 そう言って情報を引き出しているカズヒサに頷いた隼人は、地方学院の参考書類の内容を思い出していた。

 

「新ヨーロッパは世界的には直接戦闘が苦手な学院連合ですからね。豊富な人的資源と、電子機材の投入で情報戦には長けていますが、その分、実働部隊の数が圧倒的に不足している。

今回は情報戦を仕掛ける相手がいない。彼らが活躍できる舞台は無いでしょうね」

 

「そうとも限らねえんだけどな。ま、俺ら国連の立場じゃ国際条例上学生に無理強いできねえから期待できねえなぁ」

 

「確かに。俺達は学生だが、向こうに要請を出す権限が無い。うちの生徒会長(流星)クラスなら何とかなるかもしれませんが」

 

「生徒会長ねえ……そう言えば職員室に詰めてた時、俺らんとこ来たなぁ」

 

「え? 何でです?」

 

 そう問いかけた隼人に、カズヒサはぼんやりと思い出しながら言葉を続ける。

 

「うちの遠征日程について聞いてきたんだよ。何でも新ヨーロッパに行く用事があるんだと」

 

「新ヨーロッパ? 確かアイツの従妹が新イギリスにいるとは聞きましたが……まさかこの期に及んで観光って訳でもないでしょうし」

 

「だろうな。今、世界のお友達は新日本の地方学院を過剰なほど警戒している。一年前の代表校騒乱のせいでな」

 

「かなり尾を引いてるんですね、あれ」

 

「まあな。あれは学院連合制の設置以降、もっとも大規模な内紛だったからな。俺達国連軍も、介入する一歩手前だったんだぜ?」

 

 そう言って苦笑するカズヒサに、相槌を打ち、ポケットに手を突っ込んだ隼人は、一年前に介入した事件を思い返した。

 

「確かに、あれは酷い戦いでした。対人戦のみならず、対軽軍神、重軍神戦、果ては艦隊戦まで起こった。人も死んだし、犯罪率も上がった。誰も彼もがピリピリして犯罪者を殺した」

 

「だから世界はお前らを警戒している。最強である事を示した新関東高校と言う存在を。あの混迷の中で、唯一人として勝ち残れたお前達を」

 

「迷惑な物ですよ、あれほど漁夫の利を狙っていたと言うのに」

 

「そう言うもんさ、世界ってのはな」

 

「知ってます」

 

 そう言って苦笑した隼人は、ガンスピンを続けるカズヒサが苦笑しながら話を続けるのに傾注した。

 

「まあそんな事はどうだって良い。仕事の方はよろしくな。しっかり準備しとけよ」

 

「分かってますよ。実戦を舐めるほど素人じゃありませんし」

 

「そいつは安心だ。んじゃ、集合場所は新横須賀の新アメリカ軍駐屯基地。移動は向こうさんが持ってる強襲揚陸艦で行く。集合時間は830だ。遅れるんじゃないぞ」

 

 そう言って微笑を浮かべたカズヒサは、了承の返事を返す隼人達に頷き、仕事へ戻っていった。

 

 寮へ帰宅した隼人達は、いつも通りに夕飯の準備を始めた。

 

「今日は何にする?」

 

 そんな会話を始めるリーヤ達を他所に、リビングのソファーに座って対戦ゲームの準備を始めていた楓とレンカは、ソファーで丸まっているシグレとハナに気付いた。

 

「シグちんハナにゃんどったのさー」

 

 そう言って二人に覆い被さった楓は、驚く二人に頬ずりするとフレンチキスを連発した。

 

「なっ、何してんですか!?」

 

「えー? 二人が辛気くっさい顔してるからキスしてんだよ~ん。ん~まっ」

 

「ちょっ、待っ、止め!」

 

「うへへぇ、こうして見ると二人とも可愛いねぇ。食べよっかなぁ……」

 

「え? 食べるって……え?」

 

 困惑するシグレ達を他所に、目を細め、狙いを定めていた楓は、不意に持ち上げられる。

 

「止めとけ止めとけ。後が怖いぞー、楓。はっはっは」

 

「うにゅーん。じゃあ今晩相手してよね、武ちゃん」

 

「へいへい。じゃあ、寝る時な。俺は上でPCゲーしてくっから」

 

 そう言って頭を撫でた武に嬉しそうに笑った楓は、話していた内容を呑み込めないシグレ達に視線を戻す。

 

「んで、どったの二人共」

 

「えっと、その……」

 

「あ、分かった。新しい快楽に目覚めたいんだね!?」

 

「え?」

 

「あ、ごめん冗談冗談。ああっ、はーくん?! 包丁はまずいですよ! 死ぬって!」

 

 台所の方を見て大慌ての楓を見上げた二人は、呆れた表情のレンカが覗き込んでいるのに気づいた。

 

「レンカ、私たちに何か?」

 

「辛気臭い顔してるなって思ってただけよ」

 

「あなたもそんな事を言うんですね」

 

「だってあんた達ほど、エルフランドでの事に悩んでないもの。血を見るのも、人が死ぬのを見るのも初めてじゃないし。けど……。気分が良いもんじゃないわ」

 

「だったら……」

 

「だからって悩んだってどうにかなる訳じゃないわ。なる様になるしかないわよ」

 

「レンカ……」

 

「だから隼人! 今日こそセッ○スしてよ!」

 

「えぇ……幻滅です……」

 

 ドン引きしているシグレを他所に隼人の方へアピールに向かったレンカは、キレ気味の彼にネギで殴られ、ソファーに戻らされた。

 

 ネギ臭いレンカに閉口しつつ、ソファーに座ってゲームを見ていたシグレとハナは、鼻歌を歌いながら敵を抹殺していく楓のプレイを見ていた。

 

「あ~、エッチしたい」

 

 唐突に呟いた楓の一言に何かを吹いた二人は、欲求不満になりながらゲームをしている彼女の不満げな横顔を見て若干引いた。

 

 そうしていると何も知らない美月が、ホットパンツ姿で楓の隣に座り、生足を組みながら読書を始めた。

 

「ぬ、ミィちゃん誘ってんの?」

 

「は? 何で女の子相手に誘わなきゃいけないのよ」

 

「だってそんなに足出して」

 

「外じゃこう言う服を着れないから着てるだけよ。欲求不満なのは分かるけど、なりふり構わないのは嫌われるわよ」

 

「えぇー……」

 

 不満を垂れる楓に、軽めのチョップを打ち込んだ美月は、そのまま頭を撫でた。

 

「寂しいのは分かるけどね」

 

「えへへ、ミィちゃんやっさしぃー」

 

「そうかしら?」

 

 そう言ってツンと突っぱねる美月に苦笑した楓は、そのまま読書を始める彼女の膝を枕にしてゲームを続行する。

 

 そんな彼女らのやり取りを遠めに見ていたシグレは、楓の邪魔にならない様にしゃがんで美月の隣に移動する。

 

「あら、シグ。どうかしたの?」

 

「いえ、その……新ヨーロッパの件で」

 

「不安?」

 

「えっと、その……」

 

「分かったわ。うん、無理に言わなくて良いから」

 

 そう言って空いた手で頭を撫でた美月に、体を寄せたシグレは、すんすんと彼女の匂いを嗅ぐと巨乳を枕に目を閉じる。

 

 そんな彼女に苦笑して読書を続行する美月は、耳に指を突っ込んで撫でていた。

 

「おうおうモテてんなぁ姫さん」

 

「和馬? からかってるの?」

 

「そうじゃなきゃこう言う言い方しねえよ、美月。それに、今日はずいぶん大胆じゃねえか。誘ってんのか?」

 

「あなた、楓と同じ事言うのね。盛った獣なの?」

 

「人間だって動物だぜ? 盛っても良いだろうよ」

 

 そう言ってゲラゲラ笑う和馬は、不機嫌な美月の頭をポンポン叩くと手元の携帯端末を彼女に見せる。

 

 そこにはベビードールを纏った巨乳美女のセミヌード写真があり、それを目に入れて何かを吹いた美月は、顔を真っ赤にして和馬を睨んだ。

 

「何、着ろって言うの?」

 

「おう、そうだ。いやー、美月は長身巨乳、ケツもそこそこって良いバランスだから似合うと思うんだがなぁ」

 

「着ないわよ、そんなはしたない服。今のこの格好で精いっぱいだから」

 

「ほーん、そうかぁ。いやぁ残念だなぁ。せっかく買ってたってのに着てくんねえのかぁ」

 

 大仰にそう言いながらランジェリーサイトのページを開く和馬に、若干動揺しつつ本に視線を戻す美月は引きつった苦笑を浮かべる。

 

「は、はいはい残念ね。どうせサイズ合ってないんでしょ?」

 

「いんや、ぴったし。ほれ」

 

「え、はぁっ!? 何でサイズ知ってるのよあなた!?」

 

「おお? 一緒の部屋で暮らしてて何言ってんだよお前。それになぁ、お前の机の上にこんなもん置いてあったんだしなぁ。当たり前だよなぁ?」

 

「そ、それっ、身体測定の!? 無くなったと思ったらあなたが持ってたの!?」

 

 顔を赤くして振り返る美月の目の前で、測定結果を閲覧した和馬はニコニコ笑顔だ。

 

「いやー、育ってんなぁ。一年で1サイズアップか。前戯してた甲斐あんなぁ」

 

「返しなさい!」

 

「嫌だね。それにアドバンテージは俺にあんだ。お前じゃねえんだよーん。ま、そうさなぁ、このランジェリーを着て一緒に寝てくれれば、返してやらん事もねぇなぁ」

 

「ッ……。分かったわ……着るわよ。着てあげるわよ!」

 

「よぉっし。交渉成立だ。じゃ、今日の所はコイツを大事にしまっておいて、明日返すな」

 

 そう言って尻のポケットに用紙をしまった和馬は、フルフル震える美月にニコニコ笑顔を向ける。

 

 同時に、夕食の準備が終わり、食事を始めた。


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