一方その頃、ガレージにてバイクの受け取りを行っていた隼人と浩太郎は、見学に来た日向と共にスロットルを開け閉めしてレスポンスを確認していた。
「ターボチャージャーと違って全回転域で良いトルクが絞れる。流石スーパ-チャージャー搭載車両だ。多少乗りづらくはあるが」
「車体も重いしね。そんな事言ったらCBRもそうだけどさ」
「その分排気量が大きいんだ。多少は目をつぶれ、浩太郎」
そう言ってハンガーに固定されているバイクのイグニッションを切った隼人は、相槌を打ち、整備士からもらった整備説明書を読んでいる浩太郎に苦笑する。
「改めてみるとデカいわね、このバイク」
「まあな、1000㏄オーバーのバイクだからな。早く乗って帰りたいものだ」
「乗せられる身にもなりなさいよ」
そう言って不満そうな顔をするレンカに、苦笑を返した隼人はレンカの隣でボーっとしているカナに気付いた。
「カナ? どうかしたか?」
「……ふえっ?」
「お前、大丈夫か? 今朝からボーっとしているけど」
「え……うん。大丈夫」
「いや、前言撤回だ。変だぞお前。風邪か?」
そう言ってカナの目線までしゃがんだ隼人は、声を上げるレンカを一瞥して黙らせると、驚くカナに一言告げて、額に手を当てた。
「よし、熱は無いな。さて、一体どうした? 元気も無いし、変に上の空だが」
「えっと……浩太郎がね……」
「浩太郎?」
「うん。昨日の夜、何か見てたの。携帯端末で、何かを。それで、凄く、見た事のない顔をしていた」
「どんな顔だ?」
そう言って質問した隼人は、俯いていた顔を上げ、じっと自分を見つめるカナに目を見開く。
「ダインスレイヴと同化した隼人と同じ顔……。狂気に取り付かれた様な、たぶん自分でも分かってない顔をしていた」
「そうか……。分かった」
「え? 分かったって……心当たり、あるの?」
「ああ、ある。だけどな、それは……知って良い事じゃない。知らなくて、良い事だ」
「知らなくて良い事って……私たちが入る前の事?」
そう問いかけてくるカナに、無言で頷いた隼人は詳細を問い詰めたがる彼女の表情を見て苦笑とため息を落とす。
「八年以上前の話だって事だけ、言っておく。多分お前と浩太郎が、出会う前の事だ。それとカナ。浩太郎について余計な事は探るなよ。
あいつが話す事だけ信じればいいんだ。それ以外は、何も信じるな。そうじゃなきゃ、お前はあいつを信じられなくなる。
アイツと言う存在を、直視できなくなる」
「……どうして?」
「お前や、お前の家族が考えているほど、アイツは明るい場所にはいない。アイツがたどった道を見れば、誰もが疑う。アイツは本当に人間なのか、と。
そして、こう思うのさ。目の前の岬浩太郎は、本物なのか、とな」
「分かった様な口を利かないで!」
ばん、と床をへこませるほどの地団太を踏み、カナは拳を震わせる。
その勢いを見て口をつぐんだ隼人は、息を荒げる彼女に少し反省しつつ、音に驚いて歩み寄ろうとする浩太郎にハンドサインを出して待機させる。
「分かってないのはどっちだろうな。分かってるって俺も自分を肯定できねえよ、カナ。でもな、お前がアイツの過去を知った時の事は手に取る様に分かるんだよ」
「どうして……?」
「それは、言えないな。まあ何にせよ、もうこれ以上アイツの事に探りを入れようとするな。レンカ、お前もな」
そう言って、整備課の事務所に向かった隼人は、呆然としているカナ達を振り返ると、そのまま黙って向かっていった。