翌日、入学式が始まった新関東高校の屋上。警備業務にあたっていた隼人達PMSC部は、ガンラインを維持する抗議団体を観察していた。
「まーた来てんのかよジジババ共は。鬱陶しいぜ」
「そう言うな、和馬。向こうはまだ何もしていないんだ、こちらからは何もできない。っと、あと5分。準備しろ」
「とっくに出来てんぜ。リード、
そう言って、建物の裏に隠れて通信機にそう呼びかけた和馬は、その隣で二丁のXDを準備している日向に待機のサインを出す。
『リードよりナイト、フェンサー両名へ、規定時刻超過。抗議団体を帰らせろ』
「あいよ、了解」
『手荒な真似はするなよ。向こうがしない限りな』
そう言って念を押す隼人に苦笑した和馬は、日向と共に抗議団体の方へ歩み寄っていく。
「おーい、おっさんおばさん、規定時刻だ帰んな」
「何? 規定時刻だと? そんなもの関係ない! 我々は君たちの為に抗議活動を」
「俺らの邪魔だから帰れって言ってんだよ」
「こ、このッ。生意気なガキが!」
「はい、一名ご案内」
そう言って居合い切りで拳銃を切断した和馬は、驚愕する中年が殴ろうとしてくるのを、峰打ちで逆に殴り倒した。
頭から血を流して倒れた中年を回収した日向は警備係へ雑に投げ渡す。
「さて、聞き分けのねえジジィとババァはまだいるか?」
「この人殺し! あなた達は何をやっているか分かってるの!?」
「ああ? 決まってんだろ、話し合いじゃどうしようもねえ奴殺しだよ。はっ、何だよババァ、アンタ話し合いで全部解決できると思ってんのか? 笑えるぜ、最高のジョークだ」
「だからと言って暴力なんて! 野蛮な!」
「あのなぁ、力がねえと言葉なんて意味ねえんだよ、誰も聞きやしねえんだ。アンタらみたいなお脳の固いクソ野郎共は特にな」
そう言って刀を収めた和馬は、腰の引けている中年女をひと睨みすると、彼女のアイコンタクトを読み取り、背後からの襲撃を受けた。
頭部に警棒が当たる直前、拳銃のアンダーバレルで受けた日向は、力が緩んだ瞬間に腹に膝蹴りを撃ち込み、両肩に三連射を浴びせると、周囲に銃口を巡らせる。
「さて、今日はもう帰りな。これ以上怪我人出したくねえだろ。自滅でな」
そう言って、一歩引いた和馬達は詰め寄ろうとした女との間に放たれたライフル弾にニヤリと笑う。
「やろうと思えばあんたら全員弾痕塗れにできるぜ? さっさと帰ればそうしねえけどさ」
そう言って抗議団体を帰した和馬は、安堵の息を漏らしながらホルスターに拳銃を収めた日向に苦笑を返した。
「どうした? 緊張でもしたか?」
「多少な。危うく回りの人間も撃ちそうになった」
「それで多少かよ。緊張感ねぇなぁ」
そう言って腰のフレームに下げた雷切の柄に肘を置いた和馬は、右手を長剣型術式武装の柄にかけながら背後へ振り返った日向に身構えた。
吊り目が鋭き研ぎ澄まされ、その目から殺気を放つ日向の隣に並んだ和馬は、人気の失せた周囲に目配せすると、そこに充満した殺気を感じ取る。
「二人、いや三人か?」
そう言って、雷切の柄に手をかけた和馬は、腰から一振り引き抜いて構えた日向に、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。
援護は頼まず、実力で排除する、そう呼びかけていた視線にため息を落とした日向は、両手の術式武装を回しながら上段に持ち替えた。
「やるか」
「おう」
もう一振り術式武装を引き抜いてそう言った日向に、一刀の上段構えで応じた和馬は道路の中央に移動すると草むらから襲撃してきた人狼族の一閃を突きの様な構えから鍔で受け流す。
その勢いで回転しながら背中を浅く切った和馬は、そのまま襲撃者の背を押して突き飛ばすと、上段に構え直して次の一撃を弾き流した。
「おっとっと!」
弾き流しと共にサイドステップした和馬は、立て続けに迫る襲撃者の攻撃を流した。
「日向!」
そう叫び、上着を投げ捨てた和馬は、戦闘状態に移行したフレームを駆動させ、日向と挟み撃ちする形で挑みかかる。
和馬に一人が、二刀流の日向に二人が挑みかかる。
「ほう、買いかぶられたものだ」
そう言って下段に下ろしていた剣を振り上げ、カウンター気味に相手の得物を打ち上げた日向は、回避しようとする相手の脇腹を狙って切っ先を掠らせた。
「ブレイジング!」
振り向き様、そう叫んだ日向は、分断する様に長剣型術式武装『ルーインズブレード』に纏わせた炎を叩き付ける。
道路を抉る一撃で牽制した日向は、動きの鈍い相手を見切って横一線を叩き付けて吹き飛ばす。
「この!」
若い声でそう叫び、逆襲してきた対岸の襲撃者の一撃を回避した日向は、袖から隠し武器のワイヤードブレードを射出する。
肩に当たった一撃に怯んだ襲撃者は、接近してきた日向に蹴り飛ばされた。
「ッ!」
吹き飛ぶ襲撃者に、視線を向けていた日向は、ニヤリと笑うと背面に剣を回して、一撃を受け止める。
一撃を止められた事に驚愕するもう一人の襲撃者は、背中回しのパーリングから、回し蹴りで怯まされた。
「キリング! フリージング!」
双剣の術式をそれぞれ起動させた日向は、起動寸前だった術式を右の術式武装『ファントムキラー』で切り裂くと、左の剣で相手の武装を凍結させて、急激な凍結で脆くなったそれを蹴り砕いた。
舌打ちし、バックステップしながら、サイドアームの拳銃を引き抜こうとする相手を見据えつつ、体の触覚でもう一人の動向を察知した日向は、左の剣を突きの形に構える。
「ライトニング」
日向がそう唱えたと同時、相手の腰から『G17』拳銃が引き抜かれ、9㎜パラベラム弾が放たれる。
高出力の電撃に触れたパラベラム弾は急激に軌道を乱し、安定飛翔する筈だった弾丸はあらぬ方向へ吹っ飛んでいく。
「な……!?」
「残念だったな」
「だが!」
そう言って牽制射撃を続ける相手の攻撃を電撃で弾き続ける日向は、背後から迫ってくる気配に期を見計らって構えを解除した。
「グライディング!」
そう叫び、質量を倍加した一撃を叩き付けた日向は、ミシミシと悲鳴を上げている相手の得物にニヤリと笑う。
倍増した重量がじわじわと攻めていくのを手応えで感じつつ、右の剣を収めて拳銃を引き抜き、応戦射撃を繰り出す。
「……! 限界か」
そう呟き、剣の術式を解除した日向は牽制射二発からの回し蹴りで蹴飛ばす。
なぶり殺しの体を演じる日向は、同じ様にじわじわと無力化していく和馬を一瞬見ると、目の前に迫った襲撃者の一閃を後方転回で回避して射撃を撃ち込む。
(ルーインズはオーバーヒート、持ち替えるか)
そう内心で呟き、射撃しながら右の鞘に納めた日向は左手に拳銃を引き抜きつつ、右手に剣を引き抜く。
踏み込もうとする相手の足元へ、牽制射撃を置きつつ迫った日向は、得物を砕きつつ剣を振り下ろして浅く胸部を切り裂く。
そのまま払う様に足を切り裂いて顎に蹴りをぶち込み、その場に沈めた。
「一人無力化」
そう言って攻めかかってきた襲撃者を投げ飛ばした日向の隣、雷切を駆使している和馬は、相手取っていた人狼族へ音速の峰打ちを振るった。
寸での所で回避した人狼族は、好戦的な笑みを浮かべる和馬から一歩距離を取ると、得物であるハンドメイスを構え直した。
「なかなかしぶてぇなぁ」
そう言って峰を前に刀を回す和馬は、距離を取る相手に苦笑し、刀身から電撃を放って牽制する。
『和馬、相手で遊ばないの。見えてるのよ?』
「あー、すまんすまん。さっさと片した方が良いかぁ?」
『別にそうじゃないけど、長引かせるのも酷じゃないかしらってね』
そう言う美月に苦笑しつつ、メイスをパーリングする和馬は、刀身から放った電撃で相手を感電させた。
しびれと共に筋弛緩を起こしている相手は、メイスから離れそうになる握り手に、力を込めていた。
「くっ……」
「辛そうだなぁ。ここでくたばれば楽だぜぇ?」
「ふざけるな! 我々は生徒会長から……ッ!」
「おうおう間抜けだなぁ。口割ってくれるなんざ。んで? 生徒会長? お前、どっかの地方学院生か?」
「それ以上話すものか!」
そう叫び、メイスを振り下ろした襲撃者は、一歩引いた和馬を睨みつけると、叩き付けた地点から火柱を迸らせる。
突然の術式に驚愕した和馬は、慌てて引きつつ刀を構え直す。
「っぶねぇ。もうちょいで焼肉だったぜ」
『油断してるからよ馬鹿。たまにはやられてみなさい』
「おうおう。相変わらず姫さんは厳しいねぇ……。あまりの優しさで涙が出るぜ」
『うるさいわよ。いい加減にしないと、撃つわよ』
「へいへい、集中しますよっと」
軽口を叩きながらパーリングした和馬は、視界の端に出た美月からのIMに、援護射撃可能である事を確認する。
だが、それでも、面白くない、と射撃指示を出さなかった和馬は、眼前に迫る敵に、一突きを牽制に繰り出す。
「長引かすとめんどくせえから、見せてやるよ。奥義って奴を」
鞘で飛び込みを牽制しつつ、一回転しながら鞘に刀を収めた和馬は、鞘内で過充電している雷切を一定のタイミングで撃ち出した。
電磁投射砲の如く射出された刀を、空中でキャッチした和馬は、その勢いをベクトル操作しつつ、刀身に蓄電していた電撃全てを放出しながら地面へと叩き付けた。
「『佐本古流剣術奥義・爆雷閃』ッ!」
わざと直撃を外し、至近距離に叩きつけた和馬は、爆裂した電撃を相手に浴びせ、続く衝撃波でメイスをへし折った。
空中放電が続き、一気に白煙を上げていた道路へ、雷撃で感電していた相手は倒れる。
それを確認した和馬は、手に着けたグローブで、残留していた魔力をぬぐい取り、一回転させて鞘へ納めた。
「ほい、一丁上がり。日向、どうだ?」
「今始末した。全員拘束だ」
「へいよ、こちらナイト。侵入者を全員拘束した。回収員を求む」
そう言って通信を繋いだ和馬は、まだ意識のある侵入者へ拳銃を向けている日向にハンドサインで指示を出した。
回収要員である風紀委員と文化委員が、手錠と拘束用の結束バンドを持って歩み寄ってくる。
「こいつら三人だ。多分、他の地方学院生だと思う。まあ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「ああ、久しぶりの生贄だ。楽しませてもらうとしよう」
「はっ、良い趣味だ」
軽口を叩いて笑った日向は、拘束した襲撃者を連れていく文化委員を見送ると、リロードしながら持ち場へ戻る。
その隣についた和馬は、整備工場から轟く爆音に苦笑すると通信機を起動させた。
「整備工場でうっせえのは隼人と浩太郎かぁ?」
『ええ、整備完了の連絡と共に飛び出していったわ』
「今指揮してんのは?」
『私よ。シュウは今射撃監視してるし、他の皆も忙しそうだしね』
「そうかぁ、お前かぁ。あ、日向が工場の方行った。ま、俺は引き続き下で見とくから。寂しくなったら連絡しろよ~? お話してやるからさ」
『仕事中にする訳無いでしょ、馬鹿。良いから監視、続けて頂戴な』
「へいほー」
そう言って監視所に入った和馬は、傍らに分隊支援仕様のSCAR-Hを置いて、コーヒーを飲んでいる有翼族の生徒を見つけた。
「おっ、お疲れ。休憩か?」
「まあ、そんな所だ。お前は?」
「俺もだよ。まあ、俺は実働までの待機なんだがな。上で仲間が監視してるし、それから連絡受けて動くって感じだ」
「なるほどなぁ。にしても、今日は入学式だというのに外が騒がしいもんだ」
「まったくだなぁ」
そう言って外に目を向けた和馬は、勧誘準備を始めている部活動の面々を遠巻きに、監視していた。
「ラノベにありがちだなぁこう言うの」
「ああ、そうだな」
「あいつら射撃されなきゃいいが」
そう言って生徒手帳の規定を読んでいた和馬は、過剰な勧誘を禁じる項目を見ると、めんどくさそうにしている生徒が腰の拳銃に手を回す。
規定違反は無論処罰の対象だが、大体面倒だから、と大目に見られるのが現状だった。
「つーかこう言うの風紀委員の仕事じゃねえのかよ」
「いや、うちじゃ生徒の逮捕も警備業務についてる生徒の仕事だ。その分給料が良い」
「じゃあ風紀委員は何してんだよ」
「捕まった奴の取り調べと調書作成だ。お前らも連れて行ったろ? あの後の事をやるのさ」
「あー、そう言う事か。まあ確かにこんな学校で起きる事にいちいち委員会単位で対処してたら人足りねえもんなぁ」
そう言って、自販機から買った飲み物を手に取った和馬は、背中に回していた刀を腰に持ってくる。
「ところでお前のそれ、強化外骨格か? 見た事無いフレーム構成だが」
「ん? ああ、これか? こいつは企業からのもらいもんだ。テスター品って奴だな。どうかしたのか?」
「個人的に、興味があってな。テスター品と言う事は非公開品か。通りで見た事無い訳だ」
そう言って横目に見た生徒は、柄に腕を置いた和馬が一歩前に出ていくのを見送りつつ、監視を続けた。