僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

8 / 113
第8話『アーマチュラ』

 咲耶に言われて隼人達がやってきたのは、通称“後方支援科棟”と呼ばれる敷地内の大型施設だ。

 

 そこは隼人達が所属する後方支援科が主として使用する、整備、生産の為の設備、武装の販売店や改造受付窓口などの施設が集約された巨大な工場だ。

 

「相変わらずでっけえなぁ」

 

 そう言う武に振り返った隼人は彼に苦笑を見せつつ、全周囲の施設を指さした。

 

「後方支援科は前衛・中衛担当の普通科とは違ってバックアップ任務が主だからな。此処にはメンテナンスや兵站供給の維持に必要な施設がある訳だ」

 

「そう言えば、僕らが後方支援科扱いなのは普通科に行けるほど出席できないからって理由だっけ」

 

「ああ、俺が全員の入科申請書にそう書いた。今の勤務状況を鑑みるに、学生が本業とはとてもじゃないが言えないからな」

 

 そう言う隼人に頷いたリーヤは、別の方角を見ている武の方を見て薄く笑う。

 

「そう言う事には興味無いみたいだね。さて、サクヤさんは地下の試験場に用があるのかな?」

 

「ああ。みたいだな、それで、俺と浩太郎の装備もそこにある、と」

 

 そう言って後を追った隼人にリーヤ達も追従する。

 

 階段で地下に降りた彼らは、模擬戦場の中央に置かれたコンテナ二つに気付き、サクヤの先導でそこに移動する。

 

「さ、これが今回支給する装備、アーマチュラ・シリーズよ」

 

「そうは言われても、見た感じコンテナだけなんだが。まさか変形して装甲になるとかじゃないだろうな」

 

「そこまで変態ギミックじゃないわよ。件の品は中に入ってるの」

 

 そう言ってコンテナに端末を繋いだ咲耶はパスコードを入力しながら、隼人と浩太郎の方を見る。

 

「二人共、フレームを装着してちょうだいな。それから説明するから」

 

「分かった」

 

 コードと暗証番号の照合を待っている咲耶にそう言われ、二人は持ってきていたボストンバッグからフレームを取り出し、装着した。

 

 神経接続由来の軽い神経の痺れの後に、フレームの起動画面が視神経に割り込んで表示され、通常モード独特の大人しいアイドリング音がアサルトフレームの背面から放出される。

 

「よし、認証準備完了。二人ともフレームの左腕のコンソール、あるわよね?」

 

「ああ、あるぞ。超薄型ディスプレイだっけか」

 

「それの手首側に端末接続用のケーブルがあるはずだからコンテナ左側の認証装置に接続して。後は自動でやってくれるから」

 

 そう言ってその場を譲った咲耶に代わってコンテナに歩み寄った隼人と浩太郎は、コンテナの認証機器にコネクターを接続する。

 

《認証機器確認:神経パターン送信:認証完了》

 

 コンソールに表示されたインフォメーションの後に、コネクタを外したコンテナ側の画面に認証完了の文字が表示され、コンテナの中身が解放される。

 

「これは……アーマー? それと、装着装置か」

 

「そうよ。取り敢えず二人共、コンテナの中に入って。認証されれば装着が始まるはずだから」

 

 戸惑いがちに一歩前に出た隼人は咲耶の笑顔を流し見つつ、コンテナの中身と対面した。

 

 人が入ったと認証したコンテナから二対のアームが展開され、隼人の四肢を掴むと軽いパルスを放射する。

 

 ピリッとした痛みが走り、苦痛に表情を歪めた彼は、プログラム言語が走るコンソールの最後に唯一分かる日本語の文章を見た。

 

《接続:アーマチュラ・ラテラ:認証》

 

《ユーザー:隼人・“五十嵐”・イチジョウ:神経パターン:照合》

 

《アーマチュラシステム:装着プロセス:開始》

 

 瞬間、無数のアームが展開し、全身を包む様に隼人のフレームへと装甲が装備されていく。

 

 首から下までの装甲が装備され、続いて武器と頭部装甲の装備が始まる。

 

 グリップの無いショットガンの様な形状のランチャーが、ふくらはぎの装甲が展開して現れたレールマウントに爆砕ボルト止めで装備された。

 

 続けて装甲が展開した腕部のマウントレールに、伸縮式のパイルバンカーがこちらも爆砕ボルトで装備される。

 

 そして、黒と赤で塗装されたヘルメットが、分厚い前面部がせり上がった状態で後頭部から装着される。

 

 アームによる位置合わせの後に閉じた前面部が、顔を覆う様に後頭部の装甲にロックされ、目に当たる位置でカメラを防護していたマスクユニットが顎まで落ちる。

 

 側頭部に接続されたアームが高速回転し、内蔵されたギアで位置を動かし、スカルフェイスペイントがなされたマスクユニットを隼人の顎に密着させる。

 

 ギアが固定される音の後に、首元を覆う装甲が胴体から蛇腹状にせり上がり、頭部と胴体とをつないだ。

 

《装着完了:アーマチュラ・ラテラ:初期起動開始》

 

 真っ暗な隼人の目の前に走った文章の後、外部では鋭く釣り上がった印象のカメラアイが、クリアカラーの混じった灰色の光を灯していた。

 

 それと同時、最早馴染んできた神経接続時の痛みが隼人の体に走り、視神経に投射された周囲の風景が、隼人の意識に飛び込んでくる。

 

《頭部カメラアイ:各種サーボモータ:神経接続完了:送受信状況に拒絶反応なし:規定基準値クリア》

 

 まるで直接見ているかのような鮮明さに、内心驚いていた隼人はようやく見える様になった周囲を見回しつつ、武達の方を振り返り、コンテナの範囲から出て行く。

 

 歩く度に鳴る重々しい金属音が、今隼人が唯一自覚できるパワードスーツを装着している感覚だった。

 

 視神経も、触覚も、そして、聴覚も。ダイレクトな接続がなされた普段通りを再現した感覚がむしろ隼人自身を混乱させていた。

 

「どう、装着した感想は」

 

 そう問いかけた咲耶が苦笑するのにムッとした隼人は、大方自分の感覚が分かっているのだろうとも思いながら、言葉にしにくいこの感覚を如何にか表す。

 

「覚悟していたよりも感覚誤差が無くてな、少し戸惑っている」

 

「そう。なら、大丈夫ね。それじゃあ、装備の説明に入ってもいいかしら?」

 

「あ、ああ。頼む」

 

 戸惑いがちにそう答えた隼人は隣で装着していた浩太郎の方を見る。

 

 彼の方は、全身の装甲が軽量かつ薄めの物になっており、人と変わらぬ運動性を意識してか、装甲では全身を覆わずインナースーツらしき布状の物が装甲の隙間を覆っていた。

 

 そして、側頭部装甲が鋭く伸びている頭部は、ヘルメットの前面部が青いクリアカラーのパーツになっており、時折あみだ状に走る光のその奥にツインカメラアイである二つの光眼が灯って、こちらを見ていた。

 

「対軽軍神用強化装甲ユニット、プロジェクトコード『JA-01《アーマチュラシリーズ》』。フレームに装着して使用するタイプの軽軍神。ああ、“軽軍神”って言って分かるかしら?」

 

「分かっている。要はパワードスーツだろう?」

 

「ええ、流石に仕事柄知っているわよね。それで、このスーツはフレームに軽軍神並みの能力を持たせるために開発した物なの。ただし、装備とか性能のコンセプトは各フレームを踏襲してるわ。

隼人君が使っているのはアーマー二号機の『アーマチュラ・ラテラ』で、浩太郎君が使っているのが三号機の『アーマチュラ・イルマーレ』と言う名前なの」

 

 そう言って隼人と浩太郎の間に立った咲耶はまず、と隼人の方を指さす。

 

「隼人君の物は、アサルトフレームと同様に近接戦闘用のチューンと装備がなされていて、対人を意識したフレームから対装甲兵器を意識したものに変えられているのが特徴。

開発時の想定戦術として被弾しながら接近する事が考えられていたから、装甲強度はかなり高いの。で、武装は腕に瞬間硬化機能を持ったパイルバンカー、足には発砲の爆炎を叩き付けるブラストランチャー、腰には重力術式を使用したグラビコンサーベル。装備の内、腕と足については装甲貫徹力を優先した装備、グラビコンサーベルはアークセイバーの強化版だと思ってくれればいいわ」

 

「なるほどな。コンセプトは分かった。使用方法についてはまた機体が教えてくれるか」

 

 そう言って武器を見下ろした隼人は浩太郎の装備の説明を聞いた。

 

「まず最初に行っておくけど。浩太郎君の方のアーマーは戦闘用じゃないわ。潜入工作用、もしくは撹乱用のチューニング。装甲とかは保険だと思ってね、まああなたの場合は装甲とか関係なさそうだけど」

 

「必要な時は必要ですよ。咲耶さん」

 

「それもそうね。で、あなたのアーマーは表面にステルス塗装と術式処置が施されていてフレームに追加された光学迷彩の術式を使用する事で疑似的に透明になれる。ただし、装甲強度はそこまで高くないから基本は隠れながら戦う事ね。

武器はフレームで使っていたヴェクター、ワイヤードブレード、外殻と取り付けて大きくした愛用のトマホークに、ククリナイフに加えてこの『XM92A1』アンチマテリアル・ハンドガンかしら」

 

 そう言って、ライフル銃を極端に切り詰めた形状の銃を手渡した咲耶は不思議そうに見回す浩太郎を他所に銃の説明を始める。

 

「メーカーはモチューレット・オーグメンタ。口径は12.7㎜。使用弾種は徹甲弾、榴弾、術式弾。対車両用の銃で、銃身にはフラッシュハイダーとそれに取り付けるサプレッサーを用意してあるわ。

だけど、これはあくまでも緊急用の物だから積極的に使うのは避けるのよ」

 

「分かりました。まぁ、僕としても積極的に対物兵器を使うのは嫌ですからね。極力避けますよ」

 

 少し怒り気味の咲耶にそう言ってマガジン無しの銃のスライドレバーを引いた浩太郎はばね仕掛けで戻ったそれのショックを受けつつ、ハンドガンの照準を覗き込む。

 

「それで今日もまた、模擬戦で試すつもりかしら?」

 

「無論だ、と言いたい所だがつり合いそうな相手がいないな」

 

「あら、意外。てっきりやるとか言って無茶するかと思ったのに。でもまあ、ちょうど良かったわ。そのアーマー、まだ調整段階なの。実戦には出せるけどまだ詰めが甘いと言うかね……。

何にせよ、あなた達が満足のいく代物ではないとここで言っておくわ」

 

 そう言って端末をいじった咲耶は、驚いた表情をしてみているのだろう二人の鎧騎士に目を向けるとくすくすと笑う。

 

「じゃあ、何でこんなもんを渡すとか言ったんだよ」

 

「今日はあなた達の神経パターンをうちのシステムとそのアーマーに認証させただけよ。それに、このアーマーを支給するとは言ったけど、持ち帰って良いとは言ってないわ。状況に応じた適切な輸送方法で貸し出す事になるのよ」

 

 アーマーを指で小突きながらため息を吐いた隼人は、端末でデータを入力する咲耶に視線を流す。

 

「なかなか不便だな。それで、こいつはもう脱いだ方が良いのか?」

 

「それは、あなたのとこのメンバーに聞いたらどうかしら」

 

「あん?」

 

 間の抜けた声を出した隼人は咲耶の指さす先、目を輝かせている武、楓、レンカのアニメオタク三人衆と機械オタクのリーヤが引き目で見るカナと苦笑するナツキを他所に隼人達の傍に寄りたくてうずうずしていた。

 

 少々オーバー気味に肩を落とした隼人は、太もものホルスターにXM92A1をマウントした浩太郎に目を向けると、彼らに手招きをした。

 

 瞬間、声として捉えられない様な声を上げて突撃してきたオタク三人衆に、体当たりされた隼人は戦闘出力で受け止めると傍らに投げ飛ばした。

 

「まとまるな! 重いんだよ、お前ら!」

 

 キレ気味に言った隼人は通常出力に戻ったアーマーの調子を見ながら、装甲を触ってくるリーヤを見る。

 

「何、してるんだ?」

 

「装甲材が気になってね、何使ってるんだろう」

 

「聞いてみればいいじゃないか」

 

 そう言って、咲耶の方を見た隼人は、ちょうどその話がしたかったらしい彼女が二人とリーヤを纏めて、話を始める。

 

「装甲材、か。教えてもいいわよ、製造方式も含めてね」

 

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

「装甲の材質は二人とも同じオリハルコニウムを使っているわ。聞いた事ある?」

 

 そう言って隼人と浩太郎の方を見た咲耶は、首を横に振った二人にため息を突き、それとは対照的に首を縦に振ったリーヤに説明をお願いした。

 

「オリハルコニウムって言うのは、今、金属産業界で注目されている最高硬度の金属なんだよ。一説ではダイヤモンド並みの強度を持ちながらも金属の粘りを持つ装甲としては理想的な金属とも言われてるんだ。

それと、オリハルコニウムはマナマテリアルって言う魔力物質でもあるんだ。分子構造に魔力をため込む隙間があって、魔力が無い状態で金属が術式を受けると術式の魔力を吸収する効果もあるんだ。

まあ、この効果が発生する時ってのは分子構造が脆くなってる時だから物理攻撃には非常に弱くなるんだけどね」

 

「く、詳しいな。要するに、どう言う素材なんだ、そのオリハルコニウムと言うのは?」

 

「魔力が充填されていれば物理に物凄く強く、充填されていなければ魔法を無効化できる素材って事さ、加工しにくいから値段は高いんだけどね」

 

 そう言って苦笑したリーヤは、赤と黒の塗装が施されたラテラの装甲を叩くと、説明を引き継いだ咲耶に後を任せる。

 

「じゃ、ここからは加工した装甲の話をしましょうか。近接型に調整されたラテラの装甲は鍛造装甲とセラミックの複合装甲なんだけど、可動範囲重視で装甲は二重構造になっていてね。

徹甲弾はともかく、榴弾には結構脆いのよ。一撃でも喰らえば、パワードスーツとしての機能は失われるから注意してね」

 

「分かった。榴弾と言う事はグレネードとかか。気を付けよう」

 

 指さしで注意した咲耶は、納得の口調で頷いた隼人に微笑を向けると、浩太郎の方の説明に移った。

 

「それで、次はイルマーレの装甲の説明ね。これは運動性能悪化を防ぐ為、強度を犠牲に、繊維状にしたオリハルコニウムを幾重にも織り込んで作ってるの。

しなやかさを得た事で生身と同じ運動性を維持できたけど、繊維にするまでの加工コストは馬鹿にならないから大切に使うのよ」

 

 そう言って半目になった咲耶に珍しく気圧された浩太郎は、一番お金が掛かっているんだろうなと内心思いつつ、薄っぺらいトタンの如くへこんでは復元する装甲を見下ろした。

 

「さて、一通り説明は終わったから。一旦外してちょうだいな、コンテナに入れば取り外してくれるから」

 

「イジェクションコマンドじゃ駄目か?」

 

「何で通常の脱着に緊急取り外し装置を使う訳? 馬鹿なの?」

 

 半目になる咲耶に冗談だよ、と返した隼人は、浩太郎と共に着装に使用したコンテナに入ると、取り外しの是非を問うウィンドウに是と回答して脱着を始めた。

 

 フレームから次々に外されていく装甲がコンテナの内部に収められていき、元のフレームを備えた制服姿に戻った隼人達が、コンテナから出ると役目を終えたコンテナが閉じられた。

 

「なかなかいい着心地だったな。蒸し暑いが」

 

「暑かった? 僕はそうでもないけど。イルマーレがそう言う部分では特別なのかもしれないけどさ」

 

 そう言って出てきた二人は物凄く落胆しているオタク達に揃って苦笑する。

 

「外し終わったみたいね。じゃ、私はこの辺で本社の方に戻るわ。調整が終わったら即時に連絡するわね。前金の方はもう振り込ませてあるから確認してちょうだい」

 

「了解した。アーマチュラの件は宜しく頼む。それじゃあな」

 

「ええ、武運を祈ってるわ。それじゃあね」

 

 そう言って運搬用の軽軍神に持ち上げられたコンテナと共にその場を立ち去る咲耶を見送った隼人は、けたたましい警告音を発したフレームの燃料切れを示すウィンドウを見て驚き、その場に膝を突かされた。

 

「ちょっと、アンタ大丈夫?」

 

「ああ。クソッ、大飯喰らいが!」

 

 心配そうに見下ろしてくるレンカを少し下がらせつつ、悪態を吐いて立ち上がった隼人は、リチャージングと書かれた状態表を見て舌打ちする。

 

 全身に10㎏もの荷重がかかった状態で立ち上がった隼人は、その周囲をちょろちょろ動くレンカに半目を向け、身動きが取りにくい自身に突撃してきた彼女を辛うじて避ける。

 

「動きにくそうだね」

 

「まあな、重りが全身についている様なもんだからな」

 

「アサルトフレームの瞬発力特化も考え物だね。まあ、俺のサイレントフレームの持久戦特化もそれはそれで困るけどさ」

 

 そう言って肩を竦めた浩太郎に笑い返した隼人は、チャージが進んできたらしいアサルトフレームが自重を支える程度のトルクを発揮したのを感じて立ち上がる。

 

「やっと元通りか。この野郎」

 

「あはは、隼人君はじゃじゃ馬に愛されるタイプだね」

 

「ああ、全くだ。どこかの猫と同じくな」

 

 アサルトフレームの調子を見ながらそう言う隼人は苦笑する浩太郎と共に、カナと楓に助け起こされているレンカを見た。

 

 相変わらずだな、と首を横に振って一息ついた隼人はフレームのコンソールで時刻を見ると、携帯端末経由で丁度送信されてきたメールに気付き、画面をタップする。

 

 すると、秘匿回線経由で資料フォルダが送信された。

 

(コイツは、今回の依頼内容の資料か。確認ポイント含め、浩太郎達と一度話し合うか)

 

 そう思ってコンソールを消した隼人は表情から意図を汲んだらしい浩太郎に頷くと、武達の方に視線を変える。

 

「すまんな、皆。ここで少しブリーフィングを行いたい」

 

 そう言って全員の視線を集めた隼人は、後方支援委員会からホログラフィックジェネレーターを借りてきた浩太郎がそれを投じ、難なく受け取った。

 

 そして、ケーブルを繋いで地面に置いた隼人は、送信されてきた資料を空間に出力する。

 

「送信された資料を確認しつつ、これから各エリアで担当分けをする。アルファは新横須賀地区の東側を担当。ブラボーは西側を担当だ。発見したら俺か浩太郎に連絡しろ。行動はそれからだ。

特に、今回は組織の壊滅が目的だ。迂闊な行動で、危険な状態を生む事だけは避けろ。何としてもだ」

 

 吐き捨てる様に言った隼人は、フラッシュバックしかける記憶を押さえ付ける様に奥歯を噛み締め、心配そうに見てくる浩太郎から目を逸らす。

 

「ああ、そうだ。言い忘れがあった。今回の依頼には特例処置三条、任務内容の偽装許可が適用される。事情を知っている者以外にはあくまでも警備業務として振る舞う様に頼む」

 

「それは、市民にパニックを起こさせない為?」

 

「それもあるが、相手に行動を起こしにくくさせる為だ。抑止力だな」

 

 当然知らないふりをしていれば攻撃される可能性もあるが、と内心付け加えた隼人は心配そうな表情のリーヤに誤魔化す様な苦笑を返す。

 

「さて、ブリーフィングは以上だ。質問はあるか?」

 

「一つだけ。もし、テロが起きてしまった場合、対処方法はどうなるの?」

 

「自己判断に任せる。優先事項は一つは市民の命、その次に自分の命だ。故に、決して敵を助けようとは思うな。知らない奴が銃口を向けてきたらそいつは敵だ。殺してもいい。責任は俺が取る」

 

 そう言いきった隼人は少し怯んでいたリーヤに気付き、彼に謝りつつ、佇まいを直す。

 

「とにかくだ。テロが起きた場合、無事な市民を誘導、避難させろ。その後何事も無ければ避難ポイントで警護だ。良いな?」

 

「分かった」

 

「よし、じゃあ一旦本社に戻って着替えるぞ。この格好じゃ、学生業務だって思われる」

 

 そう言って手を叩いた隼人は、蜘蛛の子を散らす様な速さで移動していったリーヤ達の後を追いかけた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。