僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第22話『後悔の夕暮れ』

 数時間後、日の傾く場所は戻って、海原に沈む夕日に照らされる新関東高校。

 

 その屋上では仕事を終えた隼人達が、撤収準備を進めており、各々展開していた機材を片付けていた。

 

「お疲れちゃんー」

 

 間延びした声でそう言いながら歩いてくるのは、セーレと隆平の二人で、ジェスや小春共々PMSC部に移籍した生徒会メンバーだった。

 

 書類整理に片が付いたらしい彼らは、同じ様に契約の時間を過ぎて撤収に入ろうとしている隼人達に顔を見せに来ていたのだった。

 

「一応、出さにゃならん分は終わらせたけんね。明日まとめて流星んとこ出してくるわ」

 

「ああ。すまんな、書類の代行を頼んで」

 

「ええよ。それがうちらの仕事じゃけん。行く当てものうて後支委員にも入れんうちらを拾ってくれとんじゃ。これぐらいはせんとね。のぉ、サボり魔」

 

 そう言って隆介の方を振り返ったセーレは、苦笑する隆介に指鉄砲を向けた。

 

「初日からサボるって何考えとんじゃ石潰し。うちら二人は戦闘系技能無いんじゃけ、事務仕事で貢献せえと言うとるじゃろうが」

 

「だけどよ、あの量を二人でやったら早く終わっちまうじゃねえか。仕事調整、仕事調整」

 

「調子のええ事言いやがって、しばくぞワレ」

 

「へいへい、やれるもんならやってみろよ」

 

「何じゃと!?」

 

 歯噛みしながら詰め寄るセーレに苦笑した隆介は、ため息を落としている隼人に業務報告書を提出する。

 

「確かに受け取った。じゃあ今日は上りか」

 

「おうよ。セーレはともかく俺は明日から本気出す。まあ、後方支援委員会から仕事もらえるだろうしな」

 

「そう言う派遣をする気は無いんだがな。まあ、自主的に仕事を持ってきてくれるのであれば、部費も潤う」

 

「……大変なのな、お前ら」

 

「ああ、申し訳ないがな。わりと火の車だ」

 

 そう言って、端末を閉じて腰のホルダーに入れた隼人は、同情気味に引きつった笑みを浮かべる隆介がその場を去るのを見送った。

 

 腰から引き抜いたライトを使い、撤収準備の確認に入った隼人の隣、ナツキが手持無沙汰のセーレの元へとやってくる。

 

 セイフティをかけた『レイヴァーン』補助ロッドをハードポイントで腰に下げ、一点スリングでHK416Cを吊り下げたナツキは、マガジンを取り外し、スライドを引いて薬室の弾丸を弾き飛ばした。

 

そう言うの(銃の動き)に慣れとらんけん、ヒヤッとするわ。ナツキもよう扱うわ、そんな物騒なもん」

 

「えへへ、リーヤ君に教えてもらったんだ」

 

「ええのう、彼氏がおって。って言うかアンタ半狐なのに銃使うんか、珍しいのぉ。うちの知り合いの半狐の子は魔法剣士(マギセイバー)じゃが、両親からの教育で銃は使わんのと」

 

「まあ、使うか否かは、個々の環境の差だよね。私は、リーヤ君の家族やお父さんお母さんの影響もあって銃は使う物だったし、それに今はケリュケイオンがあるし」

 

「隼人の合理主義か。まあ、アイツらしいのぉ……」

 

 呆れ半分のセーレは、苦笑しているナツキを他所にアイドル関連のまとめサイトを開く。

 

「何にせよ、うちらは働いて給料をもらうだけじゃ。分かりやすいのぉ」

 

「えへへ、アイドルライブに向けてね」

 

「リフレッシュがそれってアンタ凄いわ……」

 

 若干呆れ気味のセーレに、きょとんとしているナツキは、ガンケースにライフルを収め終えたリーヤの呼びかけに応じてそちらへ移動する。

 

 ため息交じりに何時帰ろうか算段しているセーレは、長大なケースを背負ってちょこちょこと寄ってきたハナに気付いた。

 

「ん? どしたん? 私に何か用?」

 

「ふえ?! あ、うん。何してるのかなぁって」

 

「あー、まあ、何じゃ。アイドル関連のサイトを見よった」

 

「アイドル……? どんな人達? あ、この人達、朝のニュースに出てた」

 

「ほうか。アンタは純粋じゃのう」

 

 そう言ってハナの頭を撫でたセーレは、純粋無垢な彼女の目を見て自らの心の汚れぶりに涙が出そうになっていた。

 

 物悲し気なセーレにきょとんとしているハナは、大体を察した美月に呼び出され、その場を後にした。

 

「よし、撤収準備完了だな。帰れる奴からとっとと帰るぞ」

 

 そう言ってライトを収めた隼人は、ぞろぞろと帰っていくPMSC部の面々を屋上から出しつつ、浩太郎と共に最終確認を行って施錠した。

 

 薄暗い校舎を騒ぎながら降りていく部員達にため息を落とした隼人は、憂鬱そうな浩太郎に気付き、彼の方を振り返った。

 

「どうした、浩太郎」

 

「え? ああ、ごめん。嫌な事を思い出しちゃって」

 

「新新宿テロの事か?」

 

「ううん、それよりももっと昔の事さ。君と知り合う以前の、ね」

 

「ああ、そっちか。十年前の事だっただろう? どうして急に」

 

 階段をゆっくり下りながら、日が落ち始めている新横須賀港を見た隼人は、極力目を合わせないでいる浩太郎に背を向けて一歩先を行く。

 

「たまにさ、思い出すんだ。こんな日暮れに、殺しに行ったなって。母さんと、加賀美の仇を、討ちに行ったんだなって。仲の良かった従姉を殺しに行ったんだなって、さ」

 

「……お前、まだ、従姉を殺した事を後悔してるのか?」

 

「ああ、後悔してる。怒りに任せて、取り返しのつかない事をした事も。あの子、美沙里(従妹)から美南(従姉)を奪った事も。何もかも」

 

「そうか。そんなお前が、羨ましいよ。美南さんには、不謹慎だけどな」

 

「いつも言ってるよね。まあ、そうなんだろうけどさ。本当は、どうしたら良かったんだろうね、俺は」

 

 そう言って一歩一歩、ゆっくりとしたペースで降りる浩太郎に、振り返った隼人は、目に怒りを宿しながら言葉を紡ぐ。

 

「人間、皆賢者じゃない。怒りも、痛みも、絶望も、苦しみも、喪失も、吐き出せなきゃ消えずに膨らませながら抱え続けるだけだ。誰も消せない。自分自身でさえもな。

そう言う意味じゃ、お前はどうしようもなくなるほど膨らむ前に吐き出せたんだ。だから、後悔できる」

 

 そう言って窓から見える海の景色に目を向けた隼人は、くすぶり始めた殺意を抑えて吐息にする。

 

「すまん、八つ当たりだな」

 

「気にしないで。俺も、少し我がままになり過ぎた」

 

「いいさ。なら、お互いまだ子どもだな」

 

 そう言って苦笑した隼人は、苦笑を返す浩太郎と共に階段を下り切ると、下駄箱で待っていたレンカ達と合流して駐車場に向かった。


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