「じゃあ、デブリーフィングを行うぞ。今回は撤退までに二十三分かかった。まずまずだそうだ」
「内容に不服が」
「後にしろ。それでだ、これで俺達の採用試験は終了。合格をもらったから明日から第四小隊として、治安維持に移る。部隊長は風香、お前だ。お前には交渉を担当してもらう。
副隊長は俺だ。男女で班を分け、女子には基本的に風香のバックアップを担当、男子は俺と共に前線に出る」
手元のタブレットを見ながらそう告げる隆介は、市子を抑えてもらいながら今後について話し始める。
「さて、俺らがこの仕事についたのは、生徒会業務が松川達の手に移った事により、イチジョウ達もアイツらに付いて行くだろうからって事だ。
要は第三小隊の抜けた穴を俺らが埋めるって話だ」
「仕事無いと暇だし、ちょうど良いよねぇ」
「いや、俺ら受験生」
「あ、そっか」
「あ、そっか、ってお前なぁ……」
タブレットを肩に預け、そう言った隆介に、愛嬌を湛えた笑みで笑った風香は、恥ずかしそうに頬を掻く彼に噴き出す。
「隆ちゃん続けてよ~。私、もう砂糖吐きそうだよぉ。オェエエエ」
「吐き真似をするんじゃねえ。んで、契約期間は今から三か月、三か月後に更新通知が来る予定だ。それまではPSCイチジョウの社員として、俺達は働く事になる」
「ほえ? 契約社員て事?」
「そうなるな。まあ、今の時期、3年生がやってる事なんて引継ぎ位だしな。時間も余るからそう言う形式にした」
「へぇー。断りも無く?」
腰のサーベル型の術式武装を立て、半目になるケルビに詰まった隆介は、慌ててフォローに入る風香に心配になった。
「んまー、大体分かったけどさぁ。相談してよ、私だって暇じゃないんだよ? 漫研経由で新刊出したりするんだしぃ」
「同人活動は趣味の領域だろうが」
「ニーズがあれば仕事だよッッ!」
カッ、と目を見開くケルビに額を抑えた隆介は、その隣で頷く風香に目を丸くした。
「そうだよ、需要があるんだから供給しなきゃ」
「お前は、何を、言ってるんだ……?」
「じゅ、需要、あるから、供給」
顔を真っ赤にしながら言う風香に、意味を理解して若干引いた隆介は、ニマニマ笑うケルビを睨んだ。
「お前、また何か仕込んだか!?」
「へぇええええ!? 仕込んでませんけどぉおおおお!?」
「いちいち挑発してくるんじゃねぇ! そうか、疑って悪かったな」
「過去作全3冊と、新作のプロットとストーリーライン見せたけどね!」
「テメエ……」
手にしたタブレットで殴ろうとした隆介は、白目を剥いて挑発しているケルビを庇う風香に、振り上げた腕を止めた。
ふるふる小動物の様に震える風香に、ゆっくり腕を下ろした隆介は、ほっとしている彼女に若干萌えていた。
「さて、デブリーフィングは良いか、隆介」
「え、ああ。悪いな、変なやり取り見せてしまって」
「いや、構わん。それよりもケルビ、あれほど汚染するなと言っただろう」
そう言ってケルビをつまみ上げた一郎に、胸を撫で下ろした隆介は、するっと入り込んだ市子に半目になった。
ハートを浮かばせながら抱き着く市子は、隆介と目が合うなり睨み目で舌を出していた。
「相っ変わらず可愛くねえなお前」
「あなたの評価はどうでも良いです。私には風香からの評価さえあれば良いので」
「本ッ当、男殺しだなお前……」
ため息と共に青い表情を浮かべた隆介に、ムッとした市子は、その隣で悲しそうな顔をしているレオンに首を傾げた。
「レオンはどうしたんです?」
「……いや、何でもないよ」
「何でも無い感じでは無いのですが?」
「いや、まあ、俺の問題だし、君に言ってもね……」
「はあ……。そうですか、なら深掘りは止めましょう」
そう言って風香へのスキンシップを続行する市子に、若干泣きそうなレオンは隆介に慰められていた。
「何、この光景……」
「知らん」
ペアの片方同士がくっ付いている光景に、若干引き気味のケルビと一郎は、もう何も言わない事にして早々にその場を去っていった。