僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

76 / 113
第20話『入れ替わった後』

 それから十数分後、PSCイチジョウの方では風香達元生徒会メンバーが、臨時の治安部隊として訓練を受けている最中だった。

 

ムーブメント(移動)

 

 その一言と共に移動した隆介は、護衛役として、後ろに連れている風香を守る様に移動し、その後に一郎達も続く。

 

 想定する状況としては要人の救出であり、たまに依頼が飛んでくる仕事でありながらかなりの難度を誇る状況だった。

 

「一郎、レオン、先行しろ。市子、ケルビ、風香を連れて二人に続け」

 

『了解』

 

「俺が殿につく。移動」

 

 手にしたKeyModレールのカスタムHK416を周囲に向けつつ、移動させた隆介は、通って来た道からの気配を感じ取り、単発射撃で牽制する。

 

 広い倉庫に移動した彼らは、隆介の牽制射撃で追跡を抑え込みながら出口へ向かう。

 

「くっ、会敵《コンタクト》!」

 

 レオン達の目の前から、進路を塞ぐ様に教導部隊の面々が、各々の武器を持って攻め込んでくる。

 

 『FNH・P90』口径5.7mm短機関銃で、反撃するレオンは、バリケードに隠れながら接近すると腰からサーベル型の術式武装を引き抜いて接近する。

 

「行け行け行け!」

 

 シールドを構え、風香を護衛する女子を庇う様に円運動で動きながら、『Z-Mウェポンズ・ストライクガン』を発砲、三人を入口へと近づける。

 

 その間に追いついた隆介は、素早い近接戦で数を減らすレオンの援護を行いつつ、四人の元へと急ぐ。

 

「レオン、離れすぎるな! 合流できなくなる! 一郎、俺は良い。女子を優先して防御!」

 

 フルオートに切り替え、バーストで敵を牽制しながら移動する隆介は、一郎から離れ、弾幕に対してバリアを張っているケルビの元へ急がせる。

 

 ケルビ達の方は、半透明のバリアを盾に応射する市子と共に移動していた。

 

「やっべ、もう保たないよぉ!」

 

「ちょっと! 男子は何やってるんですか!」

 

「知らないよぉ!」

 

 傾斜付けて銃撃を受けるケルビは、限界近いバリアに魔力を送り込みながら後ろで震えている風香に触れる。

 

「ふうちゃん怖くても漏らしちゃ駄目だよ!」

 

「ペットボトルありますよ!」

 

「いっちゃん、そのフォローはどうかなぁ……」

 

 苦笑しながら風香を片腕で抱えたケルビは、『グロック・G22』をリロードしている市子と歩調を合わせつつ移動する。

 

 その間にマチェットナイフを持って迫る敵兵士に気付き、市子はそちらに連続して発砲する。

 

「くっ、避けられた! ケルビ、風香を頼みます!」

 

「了解だよん。ほれ、ふうちゃん、動くよ~」

 

「一郎達は何してるんですか!」

 

 走りながら通信機に叫ぶ市子は、手にはめているグローブ型の術式武装を起動すると、バリケードに隠れたケルビからの援護射撃を受ける。

 

 怒号を受けて移動している一郎と隆介は、組打ちで一人処理した市子を回収して移動する。

 

「下がれレオン! 撤退するぞ!」

 

 駆け戻ってくるレオンに通信機でそう呼びかけながら、フルオートで制圧射撃を掛けた隆介はシールドの後ろでリロードをする。

 

 そして、至近で炸裂した爆炎術式に慌てて隠れてやり過ごし、レオンを通しながら射撃を放って撤退する。

 

《状況終了》

 

 押しボタンにより風香の撤収が確認され、アナウンスが鳴り響く。

 

「くは、何とかなったか……」

 

「みたいだな。相変わらず良い指示だったぞ、隆介」

 

「後輩にゃ負けらんねえからな……。しかし、イチジョウ達はこんな事してたのか。そりゃ学園最強の傭兵部隊にもなる」

 

 そう言ってその場に座り込んだ隆介は、シールドを背負った一郎に手を借りて立ち上がる。

 

 ワンポイントスリングで吊ったHK416を肩に預けた隆介は、ぞろぞろ戻ってくる風香達と合流する。

 

「お疲れ」

 

「お疲れ様~。えへへ、かっこよかったよ」

 

「そ、そうか? ああ、それより、お前は大丈夫なのか?」

 

「え? あ、うん。大丈夫……かな」

 

「何だその微妙な返事……」

 

 苦笑する隆介が見下ろしてくるのにもじもじと体をくねらせる風香は、気に入らないとばかりに間に入ってくる市子に驚いた。

 

「何です? あの援護の仕方は、風香を守っていたのは私とケルビだけじゃなかったですか!」

 

「集中砲火浴びるかもしれんから、べったりつく訳にもいかんだろうが。それに、俺はお前とケルビを信用して任せていた」

 

「それで、もし風香に怪我でもあればどうするつもりで?」

 

「そんなのお前が許すとは思えんな」

 

「それは……そうですが」

 

 頬を膨らませる市子にめんどくさそうにため息を落とした隆介は、マガジンを外してスライドを引く。

 

「ま、まあまあ! ちゃんと出来たんだし、良いでしょ? ね?」

 

「俺は別に文句はないぜ? 市子が気に入ってないだけで」

 

「もう、そう言う事言わないの!」

 

 頬を膨らませる風香を苦笑交じりにあしらった隆介は、ますます不機嫌になる市子に額を抑える。

 

 見かねたレオンが、掴みかかろうとした市子を羽交い絞めにして連れていき、そのまま一郎達と共に撤収していく。

 

 気付いた時には練習場に二人きりと言う状態だった。

 

「……デブリーフィングに行くか。風香?」

 

「ふぇっ!? う、うん」

 

 弾を抜きながら先導する隆介は、恥ずかしそうにちょこちょこ歩いてくる風香に苦笑し、彼女の手を取った。

 

 真っ赤になる風香を敢えて無視し、手を引いて歩く隆介は追いついてきた彼女がバランスを崩しながら腕に抱き付いたのに硬直した。

 

「あ、ご、ごめんね!」

 

「いや、大丈夫だ! ……怪我無いか?」

 

「う、うん」

 

 腕に抱き付く力が強まったのに変な汗が出始める隆介は、鍛え抜かれた腕に顔を埋める風香にどうする事も出来なかった。

 

 そんな二人を遠くから見ている一郎達は、揃いも揃って初心な二人のやり取りを静かに見守っていた。

 

「うわー、早く付き合っちゃえば良いのに」

 

「あいつ等にはあいつ等なりのペースがある。強要するな、ケルビ」

 

「んでもさぁ、あそこまで言ってたらラブホ行きじゃない?」

 

「そんな度胸があると思うか?」

 

「無いね、うん、無い。そう言う意味じゃ隆ちゃん一郎より劣ってるよね」

 

 辛口コメントをぶっ飛ばすケルビは、ため息を吐いている一郎にニコニコ笑いながら抱き着く。

 

 その隣で尻尾を縦に振りながら不満そうにしている市子は、レオンに宥められつつも漏らさずにはいられなかった。

 

「どうしていつもいつも、風香の隣に隆介がいるんですか!」

 

「いや、まあ、二人とも一方通行的両思いだし……。ああでもして機会増やさないと」

 

「むぅ……。レオンは、私と風香が一緒に過ごす時間が減るのを好ましく思うのですか!?」

 

「え、あ、ううん。そうじゃなけどさ……」

 

「じゃあ邪魔しに行きましょう!」

 

 そう言って出口へ走ろうとする市子に慌てて腕を掴んだレオンは、内心複雑な心持になっていた。

 

(うーん、俺も本心を言った方が良いのかな)

 

 ヘタレているというよりも、市子が聞く耳を持ってくれないが故に告白すらできていないレオンは、終始不機嫌な彼女に仄かな苛立ちを浮かべていた。

 

 このまま強引に行くのも良いが、大穴に等しい。

 

「レオン? そろそろ手を放してくれませんか」

 

「あ、ごめん。痛かった?」

 

「いえ、動いてはいけない様な殺気を感じたので」

 

「あ、ごめん」

 

「私、何かレオンを怒らせるような事、言いましたか?」

 

 純粋そのものと言ったあどけない表情で見上げてくる市子にどう言うべきかと迷うレオンは、胸筋に触れる巨乳を見て少し赤面した。

 

 そんな事にも気づかずに詰め寄る市子は、戻って来た隆介と風香に気付いて頬を膨らませながら二人の間に割って入る。

 

「……レオっち」

 

「うん、臆病だなって思うよ自分でも」

 

「うーん? でもさ、ありゃしゃーないよ。フラグ立って無いもん」

 

「フラ……? ケルビはいつも不思議な言葉を使うね」

 

「えへへ~。レオっちは優しいから好きだよ私ぃ」

 

 そう言ってニコニコ笑うケルビに、疲れた様な笑みを浮かべるレオンは、隆介と揉めている市子を流し見た。

 

 つくづく恋愛とはわからない物だと、そう思いながら。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。