僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第19話『入学前日』

 入学式前日、一大イベントにてんやわんやとなる学校の屋上、ちょうど入り口が見えるエリアに固まっているPMSC部一同は、間食のおにぎりを頬張りながら検問所監視のカバーをしていた。

 

 隼人の指揮の元にある彼らの配置は、検問所前でデモを行っている市民団体と、過激な平和主義者が検問所を突破しようとすれば、いつでも射撃出来る様にしていた。

 

『オーダー6よりマーセナリ6、定時報告をせよ』

 

「マーセナリ6よりオーダー6。異常なし、市民団体もガンラインを維持している。監視を続行する」

 

『オーダー6了解、現状を維持せよ』

 

 オーダー6(中央監視指揮所)への報告を終えた隼人は、腰に下げたモノキュラーで遠方を監視しながら検問所の様子を見る。

 

 検問所の前には、白線で示された発砲可能領域(ガンライン)の前で横断幕を掲げて抗議している市民団体が拡声器を使用して声明を発している。

 

「今日はいつにも増してうるさいな」

 

「入学式前だからな。っと、ジェス、休憩入れろ。ハナ、交代だ」

 

「了解」

 

 M700を肩に下げて交代に入ったジェスを下げ、ハナを入れた隼人は、草むらにも視線を巡らせて怪しい者が無いか探す。

 

 と、検問所に回り込む草むらが不自然に揺れているのを見つけ、射撃指示を出す。

 

「マーセナリ6よりオーダー6」

 

『オーダー6、ゴー』

 

「ゲートポイント右側に不審者確認。射撃後、確保を頼む」

 

『オーダー6、了解』

 

「リーヤ、ハナ、右側だ。やれ」

 

 草むらから上半身を起こし、AK74を構えた男に警告する様に牽制射撃を加えたハナは、退路を塞いだ上でリーヤのAWMを直撃させた。

 

 血飛沫が散り、抗議団体が慌てる中、冷静に指示を出す隼人は、乱れた団体の中で武器を持っている者がいないか探す。

 

「ナツキ、美月。武装持ち二名、ハンドガンとサブマシンガン。撃て」

 

 隼人の指示に従い、MASADAとHK416A5でそれぞれ武装したナツキと美月は倍率の入った照準器の視界で、走り回る抗議団体に舌打ちする。

 

 それを感じ取った隼人は、軽機関銃を構えるシュウに威嚇目的の射撃指示を出す。

 

「非武装要員を追い散らすだけで良い」

 

「了解」

 

「ナツキ、美月牽制しろ。リーヤ、ハナ、撃てるなら撃て」

 

 銃撃戦が展開され始めるのをヘッドホン越しに聞いていた隼人は、射撃を始めるシュウ達のターゲットを調整する。

 

「シュウ、分断成功、他の連中のカバーに入れ。リーヤ、ターゲットを殺すな、足だけ撃て。ハナ、ナツキ、美月、射撃中止。リロードしておけ」

 

『こちらオーダー6、全ターゲット確保。これより移送する』

 

「マーセナリ6了解。警戒状態で待機する」

 

 そう言って全員に射撃を止めさせた隼人は、警備担当である戦闘科の生徒達に引きずられていく襲撃犯を見ながら、警戒を解く。

 

 戦いや襲撃が日常茶飯事だった一年前の経験から、新関東高校の生徒は学校前での銃撃戦にすっかり慣れていた。

 

「過激な素人相手とは言え、銃撃戦は疲れるな」

 

「ああ、俺もだ」

 

「そう言えば、流星達はどうなったんだ?」

 

 コーラを飲みながらそう問いかけたシュウは、麦茶を飲んでいる隼人のやりにくそうな表情に笑う。

 

「え? あ、ああ。風香先輩達と政権交代したよ。だからうちにジェス達が移籍してる」

 

「なるほどな。俺達の勝敗は結局意味がなかったと言う訳か」

 

「うやむやになったからな。まあ、あの戦いからして風香先輩の考えは否定された様な物だからな。その事に、誰でもない……先輩自身が気付いてくれたのは、良かったよ」

 

 そう言って潮風に吹かれた隼人は、弾倉を取り換えているシュウのきょとんとした顔にきまりが悪そうにする。

 

「ねえー、隼人ぉ暇~暇暇暇! ひーま!」

 

「うるせえ、屋上から投げ落とすぞ」

 

「何よ、シュウと私で態度違うじゃないのよホモ野郎!」

 

「業務連絡なんだから当たり前だボケナス。大体暇になるって分かってんのに何でこっち来た」

 

「隼人がいるから」

 

 そう言ってうへへと笑うレンカは、隼人の腰に抱き付くと彼を邪魔する様に振り回す。

 

 見かねたナツキと美月がライフルを下げたまま、剥がしにかかるが腹を抱えていたが為に、隼人の胃を圧迫して吐きそうになっていた。

 

「くっそ、離れろ! おい!」

 

「やーだー!」

 

「邪魔だボケ! ッの!」

 

 背中に軽めの肘打ちを打ち込む隼人は、貼りついたまま離れないレンカへ触れたカナに気付いた。

 

 ナツキ達を離し、軽く力を込めたカナは電流を放出すると感電したレンカが痙攣を起こし、隼人の体から滑り落ちる。

 

「仕事中。邪魔はダメ」

 

「だからって電流は止めろ、シャレにならん」

 

「む、ダメ?」

 

「ダメだ。後始末が面倒臭くなる」

 

「むぅ、隼人の為なのに」

 

 そう言って頬を膨らませ、電撃の残滓を耳から放つカナにため息を吐いた隼人は、痙攣しているレンカを寝かせて監視を続ける。

 

 バックアップで待機していた浩太郎が、不満タラタラのカナを抑え、頭を撫でて慰めていた。

 

「でも、まあ、近接職はバックアップ役だからってこのままなのもあんまり面白くないけどね」

 

「我慢しろ。明日は入学式だ。お前らにとっての面白い事があっては困る」

 

「あはは、分かってるよ」

 

 笑う浩太郎に、ため息を落とした隼人はヴェクターを下げて周囲を探っている彼から視線を逸らす。

 

 すると、検問所の方から連絡が入る。

 

『ゲートポイントより、マーセナリ6』

 

「マーセナリ6、ゴー」

 

『トラック一両接近中、カバー求む』

 

「マーセナリ6、了解」

 

『二名出ます』

 

 検問所から、二名がライフルを下げて出て来るのを観察していた隼人達は、トラックの運転手への検問を開始した彼らの周囲を観察する。

 

 観察している内に検問が終わり、トラックが敷地内に通される。

 

『ゲートポイントよりマーセナリ6』

 

「マーセナリ6、ゴー」

 

『先ほどの荷物はマーセナリ6と5宛てでしたよ』

 

「俺達宛て? 分かった、確認する。運び先は」

 

『後支委員車両整備課の整備場ですよ。ミノヤモータースとか言う業者さんだった様な』

 

 そう言うゲートポイントのリーダーに、思い当たる節があった隼人は、浩太郎の方に視線をやる。

 

 その視線に気付いた和馬は、隼人からモノキュラーをひったくる。

 

「ここは見といてやっから、荷物確認して来いよ」

 

「あ、ああ。すまん、頼む」

 

「あいよ、何かあったら端末に連絡入れる。スイッチは切るなよ」

 

 そう言って見送る和馬に、頷いた隼人は浩太郎と共に屋上から駆け降りていく。

 

 それに気づいて慌てて追ったレンカとカナは、先攻する二人が、身に着けているフレームの効果で凄まじい運動能力を発揮しているのに舌打ちしながら後を追う。

 

 三階の窓から跳躍した隼人達は、壁蹴りの要領で壁にワイヤードブレードを突き立ててベクトルコントロールしながら降下。

 

「久しぶりだねこう言うの!」

 

 そう言う浩太郎に頷いて壁走りを敢行し、着地した隼人は後について来ようとしている二人に気付いて、浩太郎共々、後ろに引き返して二人を受け止めた。

 

 恥ずかしそうに笑う二人を下ろした隼人達は、整備場に向かうとちょうどトラックが荷卸しをしている段階だった。

 

「やっぱりバイクか。義父さんも変に気を利かす」

 

「あはは、まあまあ。どんなバイクか見に行こうよ」

 

「ああ、そうだな」

 

 整備場へ歩く隼人と浩太郎は、馴染みの店主たちと目が合う。

 

「よう、隼人。お前の親父さんからお前さん方にプレゼントだ」

 

「プレゼント?」

 

「ああ、それもカワサキの超最新型だぜ。俺が羨ましいくらいだ」

 

「キーは?」

 

「あるぜ、おらよ」

 

 そう言って店主が投げてきたキーを受け取った隼人は、カワサキと記されたキーと、ホンダと書かれたキーの内、後者を浩太郎に投げ渡す。

 

 それを確認した店主は、まだ出していないバイクを連れてきたドライバーに出す様に指示した。

 

 バイクハンガーのロック解除音と共に、周囲に稼働を示すサイレンが鳴り響く。

 

 グレーの車体と、ライムグリーンのフレームカラーのツートンが目を引くバイクと、純白で染められたホンダ・CBR1000RRがそれぞれ並ぶ様に搬出される。

 

「あのバイクは……。まさか、ニンジャH2か?!」

 

「その通りだ。超最新型だって言ったろ? はっはっは。親父さんにはちゃんとお礼を言っておけよ」

 

「え、あ、はい。って、そうじゃない。何を思って義父さんはこんな高額なバイクを?」

 

「……ニンジャがぶっ壊れたのはお前さんの責任じゃないから備品として補填するって事らしいぜ。それにな、俺達地元の人間もお前さん方のお陰で生きていけてる。

 

その感謝の気持ちもあるんだよ。だからまあ、受け取ってやってくれや」

 

「そう言うのなら、まあ、受け取らない訳にもいかないな」

 

 そう言い、それぞれハンガーからバイクを受け取った隼人と浩太郎は、ストッパーを掛けた状態でエンジンを始動させた。

 

 イグニッションキーを捻ると同時に隼人はH2の、浩太郎はCBR1000RRの太く響くアイドリング音を聞き、二人して感嘆の声を上げた。

 

「ねぇ隼人、これって新しいバイク?」

 

「ああ、そうだ。前のは新横須賀テロでぶっ壊れて鉄屑になったからな」

 

「あーあの時ね……。んで、コイツあのバイクと何か違うの?」

 

「見た目もあるが、エンジンとか出力、何よりも設計が違う。前のよりも早く走れる」

 

「えぇ……」

 

 若干引いているレンカは、目を輝かせている隼人が空ぶかししているH2を見て若干引いていた。

 

 また隼人の無茶苦茶に付き合わされる、と考えていたレンカは、目の前にある鉄の騎馬が忌々しく思えていた。

 

「不機嫌だな、レンカ」

 

「うぇっ!? そ、そう?」

 

「いや、まあ……俺にはそう見えるってだけだが」

 

「ふ、不機嫌な訳無いじゃない! アンタの気のせいよ! 気のせい!」

 

「……おう、そうか」

 

 引いている事などとっくに察していた隼人は、誤魔化し気味に笑う彼女を見てため息を落とす。

 

 CBRの方で調子を見ている浩太郎の方は、バイク導入に前向きなカナがわくわくした表情を垣間見せており、キラキラ輝いた目で彼を見上げていた。

 

「おい、ほら、カナを見てみろ。不満そうな貴様と違って良い顔をしているぞ」

 

「アンタと浩太郎じゃ運転方針違うでしょうが! あの顔、バイクデートの妄想してる顔よ! 処女ビッチが!」

 

「……ああ。生憎だが、アイツはもう処女じゃないぞ」

 

「え……?!」

 

 隼人の衝撃発言に呆然としたレンカは、かっ開いた目で恥ずかしそうなカナの方を一度見ると、彼の方に視線を戻す。

 

「クーデター戦後に性交渉した」

 

「……あ! キモデブ親父と!?」

 

「ンな訳あるか、浩太郎だ! ったく、援交系エロ同人誌の読み過ぎだボケナス。焼くぞ、いい加減にしないと」

 

「止めてよ、風香義姉様から借りてるのもあるんだから!」

 

「あのクソ姉貴……。まあ良い。そう言う訳だから、お前はカナに一歩負けていると言う事だ。ハッ、盛った処女ネコが」

 

 愉悦に歪んだ顔を向けてくる隼人に悔しげな表情を浮かべたレンカは、的確に脛を狙う。

 

「大体アンタのせいでしょうが!」

 

 怒号と共にローキックを放つレンカは、狙いを読んでいた隼人が回避するのに苛立ちを浮かべて地団太を踏む。

 

 そんなやり取りに飽き飽きしていた隼人は、バイクのエンジン音に気付いて出てきた整備課の面々に嫌そうな顔をする。

 

「おい、おやっさん、まさかコイツ」

 

「ああ、大急ぎで用意したから納入後点検送りだ。まだ乗れねえぞ」

 

「クソッ」

 

 悪態を吐く隼人に苦笑した店主は、大人しく整備課にバイクを引き渡した二人に手を振ってトラックに乗り込む。

 

「何かあったら連絡くれや!」

 

「ああ、分かってる」

 

「じゃあな!」

 

 店主のトラックが走り去っていくのを見送った隼人達は、二輪専用の整備台に持っていかれる新たなバイクも見送った。

 

 若干落ち込んだ隼人は、苦笑する浩太郎に慰められながら振り返ると、R.I.P.アックス二振りを背負ったカナに全く効果の無いチョーキングをしているレンカが目に入った。

 

「何やってる」

 

「抜け駆けしたから締めてんのよ!」

 

「首の筋肉強いから通用してないぞ」

 

 間抜けな顔で呆けるレンカに、ため息を落とした隼人は、ケロッとしているカナが投げ飛ばすのを受け止めて抱えた。

 

 変にドギマギしているレンカを見下ろした隼人は、首絞めが鬱陶しかったのかムッとしているカナに謝った。

 

「別に気にしてない。平気」

 

「あはは、じゃれてるみたいだったけどね。今度やったげようか」

 

「流石にそれは止めて。嬉しくないし、興奮しない」

 

 尻尾を丸めて怯えるカナに、ニコニコと真っ黒い笑みを浮かべた浩太郎はしきりに撫でまわしながら隼人の方を見る。

 

「そろそろ戻ろうか」

 

「ああ、持ち場を離れてしまっているしな」

 

「肩貸してくれる?」

 

 渡り廊下を見上げながら位置を調整した浩太郎は、カナを抱えたまま助走距離を取る。

 

 その間に、レンカを庇う様に抱え、腰を落とした隼人は、背中を足場に跳躍した浩太郎を屈伸の動きで跳ね上げる。

 

「さて、こちらも跳ぶか。レンカ、歯を食い縛れ。舌を噛むぞ」

 

「わ、分かってるわよ」

 

「じゃあ行くぞ。3、2、1!」

 

 垂直跳躍と共にスラスターを焚いた隼人は、レンカを抱えた腕の力を調整しつつ渡り廊下のヘリを掴んで体を引き上げる。

 

 先にレンカを入れて、後に続いた隼人は、ぐにゃっと曲がっている手すりに気付き、敢えて無視して屋上へと急いだ。

 

「浩太郎、先行しろ」

 

 後ろについた隼人は、拳銃を持っている浩太郎を先行させ、カナ、レンカの順で続かせると階段を上がっていく。

 

 ノックしてからドアを開けた浩太郎は、ドアを警戒していた俊とシグレに拳銃の銃口を向けられ、反射でMk23を向けてしまった。

 

「あ、すまん」

 

「気を付けてよ。俺も向けちゃったけどさ」

 

 謝りながら銃を下ろした俊の肩を叩いた浩太郎は、ムッとしているシグレに微笑を向けると後の三人を通す。

 

 時計を確認しながら和馬の元へ移動した隼人は、笑みを浮かべて迎える彼からモノキュラーを受け取る。

 

「お帰り、小隊長」

 

「ああ、ただいま。変わった事は?」

 

「無いよ。何もな、ポイントに来た車もさっき来たトラックだけだし、抗議団体のジジィババァもこっちの銃火器にビビって出てこねえし」

 

「なるほどな。引き継ごうか。っと、すまん、通信だ」

 

「あいよ、カバーカバー」

 

 そう言って監視を続行する和馬にしばらく任せ、通信に出た隼人は、いきなりのノイズに思わずミュートにした。

 

『あ、もしもし~? 聞こえる~?』

 

「誰だ」

 

『ああん、そんな言い方しなくていいじゃん。元身内なんだしぃ~。あ、ごめんごめん私私!』

 

「新手の詐欺か?」

 

『ちーがーう! ケルビ! ケルビ・ゼロールだって!』

 

 ようやく名を名乗った通信相手に、ため息を落とした隼人は、遅れて飛んできた映像で彼女の姿を確認する。

 

「ああ、アンタか……何だよ」

 

『うへへ、後輩君達の状況確認』

 

「本当は?」

 

『追い出されて暇だから構って』

 

「フリーコールじゃないんだぞこっちは。そんなに暇ならハルに電話しろ」

 

 そう言ってその場に座った隼人は、画面のケルビが不満そうなのに舌打ちした。

 

「大体、何やってて追い出された」

 

『んえ? ふうちゃんのシャツめくって下着丸出し』

 

憲兵(MP)飛んでこないだけましと思え、痴女が」

 

『ええー、先輩相手にひどくなぁい!?』

 

「犯罪行為に年功序列は関係ない。それよりもバイト先でやらかすな、痴女先輩」

 

 そう言って通信を切ろうとした隼人は、ケルビが同時通信でつなげたらしいPMSC部の面々に嫌な顔をした。

 

「何のつもりだ先輩」

 

『だって冷たい後輩君が切ろうとするんだもーん』

 

 額を抑えた隼人は、不満そうなケルビの映像を見て苦笑する面々を見回した。

 

「先輩、一郎先輩に通報しますね」

 

『ま、待って待って! じぇ、ジェス君は何か欲しいものある!?』

 

「仕事をする時間。はい、通報しました」

 

『うわぁああああ! 薄情者! ヘタレ! 粗チン!』

 

「いい加減にしないと会った時に射殺しますよ、先輩」

 

 若干キレ気味のジェスが、座った眼でボルトアクションをするのにケルビは背筋を凍らせる。

 

 そんな様子を映像で見ていた隼人は、共有設定で繋がった一郎のウィンドウを見て、あ、と声を出した。

 

『ケルビ、貴様どこにいる』

 

『え、えっと……第三小隊オフィス……?』

 

『またキーブレイカーを使ったのか貴様……。後輩の部屋で何をやっている』

 

『マンガ読んでる』

 

『……今すぐ戻ってこい』

 

 怒りを抑えてそう言った一郎に、のん気に答えたケルビは、ウィンドウに割り込んできたレンカと楓、ナツキに気圧された。

 

「ちょっと先輩、私の漫画開いてないでしょうね!?」

 

「春画、春画見た!?」

 

「私の、秘蔵の、写真集……」

 

「テメエら職場から持って帰れ……」

 

 職場に何かしら持ち込んでいる三人に怒りを覚えた隼人は、ケルビに代わって通信に出てきた風香に何かを吹いた。

 

「先輩、何やってる」

 

『え、あ……うん。その……』

 

「そこは俺達のオフィスだ、あんまり荒らさないでくれ」

 

 そう言ってウィンドウを閉じようとした隼人は、絶叫を発し、大きくのけ反っているレンカに気付いた。

 

「何だ、ヤク中にでもなったか」

 

「やられた」

 

「はあ? 何をだ」

 

「エロゲ」

 

「何でだ」

 

「インストールしてそのままにしてたのよぉおお! 楽しみにしてたのにぃいいいい!」

 

「……お前、クビにするぞ」

 

 半分切れかけている隼人を他所に、ゴロゴロと転がるレンカは、まんざらでもない風香を見て彼女にレビューを聞き始める。

 

 彼女を横目に見ながら通信を切った隼人は、和馬からモノキュラーを受け取って監視を続行した。


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