僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第18話『撤収』

 咲耶を見送った和馬は、腕に抱き付いた美月を連れて本部へと歩いていく。

 

「ったく、面倒だなお前。今日はどうした」

 

「ちょっと、甘えたくなった」

 

「へいへい欲望に忠実なこって。今日はこのまま帰ってベッドインか?」

 

「そこまでしなくて良いわよ……。ただこうしたかっただけだし」

 

「そうかい。それなら安心だ」

 

 皮肉めいた口調でそう言った和馬は、恨みがましげに見上げてくる美月に苦笑する。

 

 こうされるのも久しぶりだ、と思いながら、夕暮れの空の下を歩く和馬は、美月の左腕に目を落とす。

 

「今日は腕の調子は良いのか?」

 

「え? ええ、まぁ。いつも通りね。……どうかしたの?」

 

「あ、いや。ちょっとな。気になっただけだ」

 

「また心配してくれてるの? ふふっ、ありがとう」

 

「あ、ああ。どういたしまして」

 

 照れくさく感じて頬の装甲を掻きながら歩く和馬は、苦笑する美月の艶やかな表情にどきりとした。

 

 随分綺麗になったな、と今更の様に思いながら空を見上げた和馬は、突然入った通信に応答動作を取った。

 

「こちら和馬だ、どうした隼人?」

 

『ラブロマンスの所、すまんが早く戻ってきてくれ。咲耶が機体の運用データログと装甲を回収したいそうだ』

 

「あー、はいはい了解だ。じゃ、とっとと行こうか」

 

 そう言って美月を抱え上げた和馬は、驚く彼女に笑いながら助走からのロングジャンプを行う。

 

 艶のある美月の長髪が揺れ、大空へと跳躍した和馬は、若干引いている彼女に大笑いし、金網の縁を足場に着地する。

 

「よっと」

 

 ブーストも加えてジャンプしようとした和馬は、縁のパイプが捻じ曲がったのに少しバランスを崩しながら高く飛ぶ。

 

 跳躍の最高点から新横須賀の海原が望め、夕焼けを浴びながらそれを見た和馬は、市街地フィールドのビル壁に着地する。

 

「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの!?」

 

 クレーター状になった壁を前にして顔を青ざめさせる美月は、笑っているのであろう和馬の顔を見上げる。

 

 壁に足を食い込ませていた和馬は、片腕で美月を抱え直し、短刀を引き抜いていた彼が短刀と足で突っ張りながら落下していく。

 

「破片当たんねえか!?」

 

「そ、それより血の気が……」

 

「あ、そっか」

 

 今更の様に身体強化での補助がある事に気付いた和馬は、スラスターも併用して原則をかけるがそのかけ方が急だった為に美月は気を失った。

 

「あ、やっべ!」

 

 ぐったりとしている美月に手ごろな高度の屋根に着地した和馬は、筋弛緩から失禁している彼女を寝かせると白目を閉じさせて通信動作をする。

 

「あー、和馬より隼人へ」

 

『こちら隼人、どうした?』

 

「美月がブラックアウトした。スラスタ制御ミスって気絶してる」

 

『……分かった、ゆっくり帰ってこい』

 

「了解」

 

 そう言って美月を抱え上げた和馬は、小刻みなジャンプで建物を飛び越えていくと仕切りの金網を越えて着地した。

 

 お姫様抱っこの体勢で、スラスター負荷の関係から徒歩で走っている和馬は、その振動で目を覚ました美月に苦笑する。

 

「え、あれ……。和馬?」

 

「おう、おはようさん。ブラックアウトから熟睡できたか?」

 

「ブラックアウト……? ひっ、あ、あ……」

 

「まあ、漏らした事についちゃ仕方ねえし、言いふらしても面白くねえから黙っとくし、そこら辺は安心しろよ」

 

「できる訳無いでしょ馬鹿!」

 

 そう言って頭部装甲を殴った美月に、大爆笑した和馬はもじもじしている彼女を見下ろしながら徐々に本部へと近づいていく。

 

「あんまもじもじしてるとバレんぞ。あいつ等そう言う仕草には鋭いからな」

 

「わ、分かってるわよ」

 

「なら良いけどよ。さて、到着だ、お姫様」

 

 そう言って和馬は美月を下ろすとコンテナの前でステータスチェックをしていたらしい咲耶に軽く手を上げて合流。

 

 自身の後ろに隠れている美月をそのままにして、V2用のコンテナの前に移動した和馬は、美月の目の前で装甲を外されていき、元のエグゾスケルトンを装着した状態に戻った。

 

「これで全部のアーマチュラの回収完了。あとは、佐本君のフレームからデータをもらうだけね。携帯端末を貸してくれない?」

 

「あいよ、姉さん。腕のユニットじゃなくて良いのか? ん、ほいよ」

 

「ん、オッケー。ありがと。データの摘出が終わったら返すから、もうちょっと待ってて」

 

 そう言ってハイブリッドタイプのタブレットPCを操作している咲耶の背を見た和馬は、若干湿った自身の制服の裾を握る美月を見下ろす。

 

「あーもーバレねえって。あんまくっつくなよ」

 

「でも」

 

「何かあっても、フォローしてやるって。そうなったのは俺のせいなんだしさ。俺に責任押しつけてくれよ」

 

 そう言って頭を撫でてくる和馬に、恥ずかしくなった美月は、いつの間にか作業が終わっていたらしく端末を持ってきた咲耶に気付いた。

 

 驚く彼女に苦笑する咲耶は、その様子で気づいた和馬に運用データを取り出した端末を手渡す。

 

「ご協力ありがとう、佐本君。フレームは持ってていいからね。さて、ちょっと美月ちゃんと話していいかしら?」

 

「ああ、良いぜ。席外した方が良いか?」

 

「いえ、一応いて頂戴な。多分佐本君にも手伝ってもらうから」

 

 そう言った咲耶は、面食らう二人に端末からホログラフィックで半身装甲型の軽軍神を見せる。

 

「これは?」

 

「今開発中の新型アーマチュラ。コンセプトは戦術レベルでの術式行使。この機体を、美月ちゃんに任せようってね。ちょっと前に開発部と連絡を取って合意は取れたから。

これからしばらく、空いたスケジュールで慣熟操縦とエミッタ―の調整をお願いしようと思ってるの。良いかしら?」

 

「それは……構いませんが、私で良いんですか?」

 

「良いわよ。それに、私はこの機体には五行行使に慣れているパイロットが適任だと思うんだけど、美月ちゃんはどうかしら?」

 

「そう言うのであれば、大宮美月、謹んで引き受けさせていただきます」

 

 そう言って握手をした美月と咲耶は、その様子をニヤニヤ笑って見守っていた和馬に揃ってムッとなる。

 

 似た様な姿の二人に睨まれ、苦笑しながら宥めた和馬は、腰に下げたケースがバイブレーションを発したのに気付き、二人を宥めつつ耳にかけていた通信機のスイッチを入れた。

 

「はいはい、こちら和馬」

 

『何バカやってる。帰るぞ』

 

「へーいへい。すぐ行くよ」

 気だるげにそう言って、駐車場へ向かった和馬は、後を追ってくる二人にニヤリと笑う。

 

「今日の授業は終わりだ」

 

 そう言った和馬は、同じ様に笑う二人へサムズアップを向けた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 駐車場に移動した和馬は、インプレッサを中心に話し込んでいた隼人達と合流する。

 

「揃ったな、じゃあ、インプに乗る奴とバスで帰る組で別れるとしよう」

 

 そう言ってポケットからキーを取り出した隼人が、スイッチを押してロックを開錠するとハザードランプの点滅と共に解除音が鳴る。

 

 運転席に回った隼人は、キーを差し込んでイグニッションを起動させると、力強いエンジン音と共に機関部からうなり声をあげ、そしてたちまちアイドリングへと移行する。

 

「荷物預かるぞ。ただし、晩の買い物して帰るから貴重品は手持ちでな」

 

「あ、じゃあ私乗る。武と楓もだって」

 

「分かった。じゃあ、後の連中はバスでって……。カズヒサさん?」

 

 そう言ってドライバーシートから体を出した隼人は、その声に反応して振り返ったレンカ達と共に、カズヒサ達の方を向く。

 

「どうかしたんですか?

 

「あ、いや、様子見に来ただけだ。ま、残業残ってる俺らは後で合流するから、先に帰っておいてくれや。その頃になったら、話もあるしな」

 

「了解です。じゃ、帰るか」

 

 そう言って運転席についた隼人は、クラッチを切ったままアクセルを入れて回転数を上げていた。

 

 その間に乗り込んだ武達は、バス停に向かっているリーヤ達に手を上げた瞬間、景色が吹き飛ぶのを体感した。

 

「ちょ、何も無しかよ!」

 

 そう言う武の眼前、悪い笑みを浮かべてハンドルを切っていた隼人は、エンジンを吹かしたインプレッサの軌道をコントロールしてドリフト姿勢で駐車場を出ていく。

 

 タイヤを痛めそうな無茶苦茶に、武達は揃って揺さぶられ、バス停に向かっていたリーヤ達はその勢いに気圧されていた。

 

「うわー……」

 

 ドン引きしているリーヤ達の眼前で、シフトアップしたインプレッサからターボ冷却の吸気音が放たれ、高速走行の車体が出口のスロープに突入する。

 

 瞬く間に合流路に到着したインプレッサは、買い物の為に新横須賀市街に向けて走り出した。

 

 それから数時間後、買い物から戻ってきた武達は、すっかり共同の寮と化したシェアハウスで既に夕飯を摂っていた。

 

「いやー食った食った。ごちそうさん」

 

「食い終わったらとっとと流し台に持ってけ」

 

「へーいへい。了解ですよぉ」

 

 軽口を叩く和馬に苦笑しながら、残り物の処理にかかる隼人は、一応祝う対象のアキホや香美を差し置いて出した料理の尽くを食べ尽していた武達に一瞥くれる。

 

 彼らに拳骨をくれてやった後、物足りなさそうだった二人に追加の野菜炒めを出した隼人は、嬉しそうな彼女らを見つめながらほうじ茶を飲む。

 

「懐かしいね、こう言う光景」

 

「ああ、そうだな」

 

「小学生の頃とか、お姉ちゃんの代わりにご飯作ってくれたよね」

 

「義姉さんは家事出来ねえからな」

 

「でも最近やってるみたいだよ。ヘタクソみたいだけど」

 

 そう言ってキャベツを頬張るアキホに、半目になった隼人は苦笑する香美の茶碗が開いているのに気付いて手を差し出す。

 

「おかわりいるか?」

 

「あ、はい。お願いします」

 

 炊飯器からおかわりを入れてきた隼人は、野菜炒めの味が気に入っているらしい香美に苦笑しながら茶碗を置く。

 

 まだ食べている二人の後ろでゲームを始める武達に、時計を見て先に風呂に入る様に怒声を浴びせた隼人は、びっくりしている二人に謝りつつ席に着く。

 

「大声出してすまんな」

 

「ううん、大丈夫」

 

 片膝を立てた胡坐で座った隼人にそう取り繕った二人は、ふくれっ面のレンカに気付き、揃って苦笑する。

 

 その表情を見ていた隼人は、二年前のアキホ達を無意識に振った時の事を思い出して表情を曇らせていた。

 

「兄ちゃん?」

 

 視線に気付いたのか、困り顔の二人の目が隼人を見る。

 

 その眼を、隼人は直視できずに俯いて反らし、偽る様に苦笑を浮かべる。

 

「いや、何でも無い」

 

 そう言った隼人は、二人とレンカに話を続けさせる。

 

 仏頂面の隼人を見て気にしない事にした三人は、会計簿をつけている彼をチラチラ見ていた。

 

「今週もやばいな……。仕事のシフト、少し考えて回さないと……」

 

 そう呟きながら投影式のキーボードを叩いた隼人は、思考している自身の左から徐々に変化しつつある視界に舌打ちして手を止めた。

 

 赤色の世界に変わった空間に、目つきを尖らせた隼人は、正面に座っている銀色の髪を腰に当たる位置にあるであろう場所で結わえた少女に気付いた。

 

(スレイか)

 

「そうよ、隼人君」

 

(お前、俺の思考を……?!)

 

「いいえ、この世界はあなたの心の世界。思考が言葉となる世界よ。便利でしょ?」

 

(なるほどな、俺の思考はお前に筒抜けと言う訳か)

 

 そう言ってスレイと向き合った隼人は、ケラケラと笑う彼女の姿に疑問を抱く。

 

「あっは、大方こう思ってるのね? 私のこの姿が何なのかって」

 

 そう言って、固まっている隼人の頬に手を触れたスレイは、魔力の渦を短剣に変え、動脈に当てた。

 

「これは私の本来の姿。あなたにダインスレイヴの全てを与えた為に、本来の私を取り戻せた。そして、今あなたは自分自身を嫌悪し殺意を抱いた。だから、目覚めたの」

 

(殺意の化身らしい回答だな、醜女が)

 

「あっはは、お褒め頂き感謝するわ。殺意の従者さん、あなたが私を嫌悪し、殺意を抱く度に私は強くなる。あなたと私は一体なの、宣言するわ。あなたは私の力を借りなきゃ戦えなくなるわ」

 

(だがそれは同時にお前も俺がいなければ、力を失う)

 

「そうねぇ、だからあなたには必要な時に力を上げる。その代わり、あなたはあり続けなさい。それが代価よ」

 

 そう言ってクスリと笑うスレイに、目を見開いた隼人は不思議そうな目で見てくる彼女らから視線を逸らす。

 

「新しい玩具は楽しかったわよ。隼人君、じゃあまた戦う時にね」

 

 そう言って赤い世界が萎んでいくと同時に、スレイの姿も空間に溶けて消えていく。

 

「……隼人、隼人!」

 

 それと同時に消えていた音も戻り、レンカに呼びかけられた隼人は、リビングの入り口に立っているカズヒサ達に気付いた。

 

「あ、お疲れ様です」

 

「おう、お疲れさん。あ、これ、差し入れな、ケーキ」

 

「どうも」

 

 ケーキを受け取った隼人は、カズヒサからは視線を逸らさず真っ先に動いたナツキにそれを渡す。

 

 ナツキを見送った彼らからの視線で話す内容に気付いた隼人は、ダイニングテーブルのパネルで浩太郎とシュウを呼び、リビングから美月を呼ぶ。

 

「準備が良いな、小隊長さん」

 

「大方新ヨーロッパの件だろうとは思ってたので。それで?」

 

「揃ってからの方が良いだろ。おい、みっちゃんナツキの手伝いしなくて良いから座っててくれ。話できねえだろうが」

 

 ベンチに座ったまま、そう言ってブラックホークをガンスピンしていたカズヒサは、副官二人と共に集まった四人と向き合う。

 

「さって、そんじゃ新ヨーロッパの事について話そうかね」

 

 そう言ってデータコアをダイニングの上に置いたカズヒサは、接触接続で必要なデータを引き出す。

 

「予定としちゃ二週間後、新関東高校の入学式が終わった頃に向こうに行く事になりそうだ。移動スケジュールは二日、新フィンランド経由、陸路で移動する。各自の武装は可能な限り携行して、無理なもんだけトラックで運ぶって感じだ。

現地情報は移動前に連絡する。何かあるか?」

 

「向こうの地形、環境情報が欲しいな」

 

「あいよ。未開拓地域で、典型的な新ヨーロッパの寒冷地環境、手入れされてない森林地帯多め、一部地域で高原が広がってる感じだ」

 

「なるほどな、だとすれば射撃武器はショートバレルのバトルライフルが良いだろうな……」

 

「だろうな、樹木は5.56㎜じゃぶち抜けねぇ。地球のベトナム戦争で起きた事例だ。そして、おそらくオークが使ってくるのは7.62mmR弾、容易に木材ぶち抜いてくる」

 

 そう言って森林地帯を色付けで分かりやすく表示したカズヒサは、隼人の判断に異議を唱えたシュウの方を見る。

 

「多少でも5.56mmのライフルは必要になる。特に、侵攻を目的としない個人防衛用には有用だろう」

 

「確かにな。個人防衛にライフルを使うと考えられるのは……ナツキと美月か」

 

「美月はともかくとして、ナツキもなのか?」

 

「ナツキは銃も使うぞ。リーヤのバックアップが主だがな」

 

「なるほど、珍しい術士だな」

 

 そう言って苦笑するシュウは、隼人の後ろで笑っているナツキに気付いてやりにくそうにする。

 

「すまん、ナツキ」

 

「いえ、大丈夫ですよ。よく言われるので」

 

「半狐族で銃を使うとなると、総本山派から何か言われないか?」

 

「ええ、まあ。うちの学校にも大なり小なりいますから。言われる事はありますよ」

 

「やはりか。まあつきもののネタではあるな」

 

 そう言ったシュウは、後ろに侍るナツキに苦笑すると、頃合いを見た隼人の指示で移動していく。

 

 それから、打ち合わせを続けた七人は、22時過ぎに終わらせ、リビングでだらしなく寝ているアキホと香美、レンカとカナに気付いた。

 

「あらあら。仲良いわね」

 

「大方俺らを待ってたのか……。ったく、先に入って寝ればいいものを」

 

「そう言う事言わないのよ。さて、シュウ、あなた先にお風呂入る?」

 

 苦笑しながらそう言う美月にやりにくそうな表情を浮かべる隼人は、肯定し着替えを取りに行くシュウにため息を吐く。

 

「諦めなよ隼人君、美月ちゃんには何言ってもからかわれるから」

 

「ふふっ、からかってはいないわよ。思った事を言ってるだけ」

 

「ぶれないね。まあ良いけどさ。ほらカナちゃん、起きなよ」

 

 カナを起こす浩太郎に、ソファーへ腰掛けて端末を弄る美月は、頃合いと見て部屋から出てきた和馬に嫌そうな顔をする。

 

「何だよその嫌そうな顔は」

 

「本当に嫌なんですもの。ねえ、和馬、早く寝てくれない?」

 

「姫さん待つくらい良いだろうがよぉ。風呂入ってるし」

 

「だから皆の前で姫って言うの止めなさい。殴るわよ」

 

「言わなかったら親父にぶっ殺されるから仕方ねえだろうがよ」

 

 そう言って降りてきた和馬の苦笑顔に、拗ねた顔をする美月は苦笑しながら風呂へ移動したシュウに指鉄砲を向ける。

 

 子どもがする様な反撃を、ニヤッと笑って受け流したシュウに不満タラタラの美月は、和馬に連れられて個室へと戻っていく。

 

「アイツらが来てから毎日が嵐のようだな……」

 

「でも楽しいでしょ?」

 

「それはそうだがな。まあ良い、シュウが出るまで話そうか」

 

 ソファーの背もたれにもたれ掛った隼人は、隣に来た浩太郎と天井を見上げながら話を始める。

 

「今回の新ヨーロッパ、お前はどう見る」

 

「ああ、ヤバいだろうね。新ヨーロッパは恐らくゲリラ戦メイン、それも至近での生死を目の当たりにする事になる。ショックも大きくなるだろうね」

 

「同感だ。俺達はともかくとして、な。それと、俺自身気になっている事がある」

 

「気になっている事?」

 

「ああ、オーク共の使ってる武器とバックアップの出所だ。誰が連中に銃器を譲渡したのかってな」

 

 エルフランドの地図を開いてそう言った隼人は、先ほどのミーティングで聞いていた情報を重ね合わせ、土地の半数を掌握している事実を確認する。

 

「恐らくバックは強大だ。そうでも無きゃ、連中が人間相手にこんなに領土を奪える訳が無い。連中の行動のどれもが、野性的でありながら、要所要所に違和感を覚える」

 

「ピンポイントな戦術性って事かい?」

 

「ああ、連中はエルフの村を荒らしながらも拠点は押さえている。それも短時間の内にだ」

 

 そう言って制圧されている砦をピックアップした隼人は、入手した写真に写る外套姿の人影の群れをズームアップさせる。

 

「こいつら、オークだと思うか」

 

「いや、違うね。背が低い。こっちの分隊規模は背が高いけど、手足のバランスが生物学的におかしい」

 

「俺も同意見だ」

 

「と言う事は……」

 

「ああ、敵のバックアップは人間だ。それも、軍隊規模のな」

 

 そう言って写真で確認できる限りの武装をピックアップした隼人は、そのリストを浩太郎に送信する。

 

「もう一つ懸念がある。東側銃器を中心としてはいるが、外套の連中が使用しているのはNATO規格のライフル弾を使用する西側銃器。そして、制圧の手早さ。

オークについている人間は恐らく特殊部隊の出だろうと予測している」

 

「だろうね。僕も同意見だ」

 

「波乱が起きるな、新ヨーロッパで」

 

「間違いないね」

 

 そう言って天井を見上げた二人は、目を覚ました四人に揃って睨まれていた。


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