僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第17話『応用戦術-3』

 一方、浩太郎の方はと言うと、先読みしていた美月とハナ、そしてミウに足止めされ、突破口が開けずにいた。

 

(くっ、光学迷彩を使ってもここら辺に巻かれたセンサーチップで空間の歪みを感知される。これじゃ有視界以外に降下が無い)

 

 そう内心で思いつつ、ハナを狙って斬馬刀を振り薙いだ浩太郎は、一刀目を回避され、返す刀を庇いに動いた美月に受け止められた。

 

 一瞬の鍔迫り合いから、至近距離での術式をバックラーで防ぐと、そのままバク転の連続で距離を取り、ホルスターからヴェクターを引き抜いて発砲する。

 

「水行・開門」

 

 美月がそう唱えた瞬間、空間の魔力が水へ変わり、重い水圧の壁が弾丸を減速させ、貫通した弾丸は全て美月が弾いていた。

 

 悔しげに舌打ちする浩太郎だったが、そんな暇もなく、間髪入れずに莫大量の風圧をセンサーが検知した。

 

「ッ!」

 

 咄嗟にバックラーで防いだ浩太郎は、隼人撃墜の表示を見て分の悪さを悟り、頭部のセンサーで周辺状況をスキャン。

 

 香美の位置を下の階層だと特定すると、腰から苦無型のセムテックダガーを引き抜いてハナ達との間に投擲し、爆炎で紛れさせながら降下した。

 

(隼人君がダウンしたのならこれ以上長引かせるのはまずい。幸い香美ちゃんのガードはナツキちゃんだけだ。今しかない)

 

 そう思い、迷彩を作動させた状態で移動した浩太郎は、斬馬刀からヴィントレスに持ち替えて移動。

 

 吹き抜けの手すりを使って下に降りると、ナツキと共に逃げている香美を捕捉、彼女に照準を合わせて連続して発砲する。

 

「きゃあ!?」

 

 香美に直撃した9㎜ライフル弾がその弾の重さでバランスを崩させ、ナツキの目の前で香美が転倒する。

 

(仕留められなかった。集中力が落ちてる)

 

 舌打ちし、ヴィントレスをフルオートに変更した浩太郎は、接近戦で仕留めようと、バリアを張って庇うナツキに射撃を撃ち込みながら接近、迷彩を解除しながらのブーストで迫る。

 

「させるかぁああっ!」

 

 それを阻む様に大剣に乗って迫ったアキホに驚愕した浩太郎は、咄嗟に飛び退いて突進を回避しながら、射撃を浴びせる。

 

 空中で身を捻って回避したアキホは、シグレと咲耶から、それぞれ借りたG18CとM93Rを発砲して弾幕を形成、足止めしながら接近して蹴りを打ち込む。

 

「甘い!」

 

 受け流しながら投げ飛ばした浩太郎は、ヴィントレスをがら空きの背中に照準する。

 

 無理に空中で捻って姿勢制御したアキホは、脚からスパイカーを地面に放射、スラスター代わりに跳躍して、9㎜ライフル弾を回避した。

 

「うわっ?!」

 

 流石にそんな事をやるとは思っていなかったらしい浩太郎は、その間に迫ってきたカナの一振りを回避すると、最後のマガジンをリロードしたヴィントレスのセミオートを浴びせる。

 

 盾代わりとして背中にソードを背負っていたカナは屈む様な動きで弾丸を弾くと、両手で構えた大剣を袈裟軌道で振り下ろした。

 

「くっ!」

 

 人狼の膂力で振り抜かれたフルスイングに、堪らずバックステップした浩太郎は、爆裂した地面から散った破片に、香美への照準を諦めて腰の背中のポーチ側面からフラッシュバンを引き抜いて投擲した。

 

 爆発と同時に眩い閃光と強烈な炸裂音が周囲にばら撒かれ、まともに食らったカナがショックで気絶し、直立不動のまま大剣を手から滑らせる。

 

「ッ!」

 

 その隙を逃さず、制動をかけながら照準した浩太郎は、背中に叩きつけられた9㎜パラベラム弾に姿勢と照準を狂わされた。

 

「アキちゃんか!」

 

 腰のククリナイフに手を回した浩太郎は、順手に持ち替えながら振り返ると、蹴りを繰り出すアキホを峰打ちで迎撃し、吹き飛ぶ彼女に銃口を向ける。

 

 脚部からの放射で空中を移動したアキホは、両手の機関拳銃を発砲して、浩太郎を牽制。

 

 接近戦に持ち込み、術式を併用しながらの蹴りを初撃に放ち、浩太郎のガードを弾くと、片足での跳躍から膝蹴りを打ち込んで、カメラセンサーにひびを入れる。

 

「くっ!」

 

 カメラの一部に、ノイズが入ったイルマーレに歯を噛んだ浩太郎は、刃を反転させるとM93Rを投棄したアキホの短刀と打ち合った。

 

 火花を散らすそれをアシスト出力任せで弾いた浩太郎は、G18を撃ち尽くして投げ捨てたアキホが、短刀二振りを構えて挑みかかって来たのに、ニヤリと笑った。

 

「良いノリだね、アキちゃん!」

 

 そう言いながらヴィントレスを上に構えた浩太郎は、咲耶に抱えられている美月達を狙って、残弾全てをぶち撒いた。

 

 咄嗟に反応した美月が金行のエーテルでバリアを張って防御し、自ら足場にしていた咲耶のシールドから飛び降りた。

 

「わ、ちょっとミィちゃん!?」

 

 慌てるハナに苦笑しながら地面へと落ちていく美月は、脚から激突する直前で、制服に隠していたフレームのスラスターを噴射して勢いを殺すと、膝をつく様に着地する。

 

 そして、腰の杖刀に手をかけた美月は、弾き飛ばされたアキホと入れ替わりに、浩太郎へ挑みかかると、居合いからの一閃をスリーブブレードで受け流される。

 

「何の!」

 

 返す刀で浩太郎のセンサーマスクに切断痕を刻み込んだ美月は、刀を中心に体を回して相対すると、トマホークの一閃を受け流す。

 

 コンパクトな振りで脇腹に刃を当てた美月は、火花を散らす刃を装甲の隙間に噛ませながら、腰のXDを引き抜いて至近で発砲。

 

 ピンポイントに浩太郎を痛めつけた彼女は、ホルスターに拳銃を戻して刀を構え直す。

 

「似てるね、和馬君と」

 

「ええ、彼の家元から分化したのがうちの流派だもの。それを私が少しアレンジしてるって訳」

 

「確かに拳銃使う流派なんて聞かないな!」

 

 そう言い、トマホークを構えながら接近する浩太郎を、下段の構えで迎え撃った美月は、逆袈裟の軌道で刃を振るって牽制。

 

 ロールで回避しつつ、軸足のふくらはぎを狙おうとトマホークを振るった浩太郎は、柄での打撃に移った彼女の牽制を見て、スラストからの強制回避で距離を取る。

 

「流石に引っかからなかったわね」

 

 そう言いながら鞘に刀を収めた美月に、太もものホルスターからヴェクターを引き抜いた浩太郎は、ニヤリと笑う彼女に上げかけた銃口を止めて気配を感じた方へ発砲する。

 

 フルオートを受けて進路変更したアキホは、体を捻りながらのアクトバットで着地すると、中庭のオブジェクトに隠れて拳銃弾をやり過ごす。

 

「ハナ、香美ちゃん、援護!」

 

 そう言って、腰からXDを引き抜いて発砲した美月は、腕のP90を向けてきた浩太郎に、咄嗟に飛びすがって遮蔽物に隠れる。

 

 オブジェクトの半分を砕く衝撃を壁越しに感じていた美月は、上半身を起こす様に伏せ撃ち体勢を取り、低い射点から浩太郎を射撃した。

 

「ッ!」

 

 援護射撃にハナと香美も加わり、さらにドローンからの銃撃も入り始めた事で、分の悪さを悟った浩太郎は、二人を牽制しつつ、ブレードワイヤーで移動しようとしたが、直前でハナに銃撃される。

 

 のけぞり、よろけた浩太郎は、片手で銃撃しながら義手で何か術式を起動しているらしい美月に、咄嗟に抜いたMk23の銃口を向けるが、アキホの強襲に阻まれる。

 

「させないよ!」

 

「くっ!」

 

 短刀で抑え込みにきたアキホを、サポートハンドの掌底で弾き飛ばした浩太郎は、胸に銃を寄せたC.A.R.Systemの構えで、彼女に三連射を加える。

 

 着弾の勢いで吹き飛んだアキホにニヤリと笑った浩太郎は、バク転して下がっていく彼女の背後で術式を展開し、終えたらしい美月を目に入れて驚愕する。

 

「特撮番組ばりのド派手な技を出させてあげるわ、アキちゃん」

 

 そう言って光り輝く術式陣を前に、莫大なエネルギーを湛えたエーテルの干渉で吹いている風に、髪をなびかせた美月は、隣に立つアキホに笑うと、掌を向けた左手を指鉄砲に変えて親指で浩太郎を照準する。

 

 複合させていた土行の重力式ロックオンが作動し、浩太郎の体が固定される。

 

「『金行・開門』」

 

 美月が唱えた一節と共に陣が作動し、力強い発光と共に、エーテルの流れが停止する。

 

 だが、何も放たれず、一瞬呆気に取られた浩太郎は直後、陣に向けて突進するアキホに気付いた。

 

「『エーテルストライク』! うぉりゃああ!」

 

 飛び蹴りの体勢で足先から陣に突っ込み、自らを光の砲弾に変えたアキホは、そのまま浩太郎と激突する。

 

《ポイント全損及び致命箇所大破《クラッシュ》:岬浩太郎:撃墜》

 

 大破しているイルマーレを見ながら着地したアキホは、過負荷で砕け散ったブーツを足首の調子を確かめながら回収。

 

 ほぼ破片と化しているそれに嫌な顔をしたアキホは、苦笑しながら寄ってきた美月の背中に負われると、ちょうど降下してきた咲耶達と合流する。

 

「お疲れ様、美月ちゃん。レンタル品だったけど、どうだったかしら」

 

「発動レスポンスは調整が利いてて文句無し。けれど、今一つ出力に無駄が出ますね、もう少し大型のエミッタ―が必要になるかも」

 

「なるほどね、他には?」

 

「五行行使には少し、貯蔵燃料が少ないかと」

 

「フレーム内蔵タンクだけじゃなくて、追加の増槽が必要なのね。分かったわ。その意見は、開発部の方に送るとして。体調の方はどう?」

 

 そう言ってフレームを回収した咲耶は、きょとんとしている美月に苦笑して、アーマチュラのセンサーで体をスキャニングする。

 

「うん、毒性の方は基準値よりも下ね。良かったわ、無茶してくれないで」

 

 そう言って微笑んだ咲耶に恥ずかしそうにそっぽを向く美月は、撤収作業に来たらしい和馬に気付き、視線から隠れる様に抱き着いた。

 

「何だよ、邪魔くせえなぁ。抱き着くなら後にしてくれよ」

 

「バカ。今が良い」

 

「っと、はいはい。じゃあ背中に頼むな。んで、シュウ、俊、そっちはどうだ。いけそうか?」

 

 そう言って通信動作で通話している和馬が、背中に移動した美月をあやしながら浩太郎の方に視線を移す。

 

『こちらは二人で行けそうだ。そちらこそ、大丈夫か?』

 

「ああ、ラテラと違ってイルマーレは軽いし、それに何かありゃ立花の姉さんに頼むさ」

 

『そうか。分かった』

 

 そう言ってシュウとの通話を切った和馬は、イルマーレを装着した浩太郎に触れると、内部チェックを行った。

 

 浩太郎自身もダメージがあるらしく、思うように立ち上がれない様子で、それを見た和馬は、美月を適当にあしらいつつ、イルマーレを抱え上げた。

 

「あら、動かないの?」

 

「まあ、それもあるだろうけど浩太郎自身も動けねえっぽい」

 

「一人で大丈夫?」

 

「大丈夫……あ、いや、ダメだな。悪い姉さん、本部まで浩太郎を連れて行ってくれねぇか。美月がこれじゃ安定して運べねえ」

 

「はいはい了解よ。ま、美月ちゃんがそうなった原因なのは私だものね」

 

 そう言って苦笑しながらイルマーレを抱え上げた咲耶は、先に行っていたハナ達を追う様にホバリングして、本部へと戻っていった。


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