僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第16話『応用戦術-2』

 一方の隼人は、攻め込んできた楓の二刀流をスタンバトンで捌くと、鳩尾に先端を突き付けて電撃を放って一瞬だけ気を失わせる。

 

 白目を剥きかけた楓が復帰するより早く、回し蹴りで顎を穿った隼人は、意識を失った彼女が地面に倒れる前に担ぎ上げてホバー移動。

 

 気を失った彼女を壁に凭れ掛らせて戦闘に復帰する。

 

「もらった!」

 

 開幕一番に術式を放ってきたレンカにバトンを盾にした隼人は、爆光に紛れて迫るシグレとアキホの攻撃を回避。

 

 回避で生じた隙を狙うカナの一撃をサマーソルトキックで迎撃した隼人は、レンカの薙刀を白羽取りすると両手から放った拡散式レーザーで刃を破壊した。

 

「ッのぉおおお!」

 

 白羽取りされていた反動を利用して踵落としを放ったレンカは、無詠唱での『ジャッジメント・ハンマー』を繰り出す。

 

 が、予備動作で読んでいた隼人は光の鎚へカウンターパイルを打ち込む。

 

 ギリギリ相殺した隼人は、芯材破損の警告が出ているパイルバンカーをパージして地面に落とす。

 

 地面に叩きつけられたタングステン製の芯材はまるでガラスの様に破片となって散らばり、レンカの術式がもたらした破壊の程がよく理解できた。

 

「凄まじい威力だな……」

 

 そう呟いた隼人は、レンカをカバーする様に挑みかかってきたシグレのククリナイフを回避すると、背中からナイフを引き抜いて返す一刀を迎撃。

 

 圧倒的膂力に弾かれたナイフが宙を舞う中、ダンシングリーパーを掴んだシグレは、刃を展開させながら斬りかかる。

 

「ブースト……ッ!」

 

 武器の効果を知っているが故に緊急回避した隼人は、身体強化からのダッシュで追いついてきたアキホの一閃をバンカーで受け止める。

 

 仰向け体勢で受け止めた隼人は、そのまま地面に引きずられながらもアキホを真上に弾き飛ばし、寝た体勢のまま、ナイフを背中に納めた。

 

 そして、片手でハンドスプリングを決めると、追う様に叩き付けられた大剣に冷や汗を掻いた。

 

「む、外した」

 

「そう簡単に当たってやれないんでね!」

 

 不機嫌そうなカナにニヤリと笑った隼人は、飛んできた大剣にバンカーを合わせて弾き飛ばすと、警告と共にバンカーユニットをパージ。

 

 その間にユニットを飛ばした彼は、ユニットを掠らせたカナから走った電撃を装甲表面に浴び、全身からスパークを連鎖させながら大きく仰け反った。

 

「もらったぁあああ!」

 

 二度目の叫び声に顔を上げた隼人は、スパイカーを構えるレンカに拳を放った。

 

 真っ向から打ち合った拳部装甲表面の障壁と掌の方向から放たれたレーザーが干渉しあい、バリバリと激しいスパーク、腕を振るわせる衝撃、そして爆音を響かせる。

 

「ッ!」

 

 お互いに弾かれ、仰け反った隼人は大出力をコントロールした緻密なスラスター制御で最小限の時間で姿勢を整える。

 

 それと同時に機内温度の警告が発せられ、ぼんやりと歪み始めた神経接続の映像に、危険域を悟った隼人は、ノイズの様に走った血にまみれた悪夢の様な世界のビジョンに歯を噛んで立ち上がる。

 

「くそっ! スレイ、ふざけるのもいい加減にしろ」

 

『あっは、ごめんねぇ。でもユーモアも必要じゃない?』

 

「笑えんユーモアなぞいらん。きっちり仕事しろ」

 

 そう言ってラジエーターの一部を開放して熱を逃がさせた隼人は、排熱の中に術式攻撃で蓄積していた余剰魔力も含ませて放出する。

 

 ラジエーターから光の粒子となって、宙に舞う活性化状態の魔力は、放熱の熱エネルギーに反応して、一部が火の粉に変わる。

 

「タイムアップも近い。そろそろ本気で行かせてもらう」

 

 そう言って、ラテラのインターフェイスに視線誘導で解除コードを打ち込んだ隼人は、出力比率のリミッターを解除するモード、通称『マックスモード』を起動する。

 

 それに呼応して全身の装甲が解放され、ラジエーター兼リチャージングインテークが露出して身体強化用の魔力を吸引。

 

 それと同時に、過負荷のかかった内部機構から出てきた熱を排出。

 

 一回り膨れ上がったようなシルエットと、悪魔の口の様な意匠で開いたフェイスラジエーターが、ヒロイックだったラテラの印象を一変させていた。

 

《マックスモード:起動:残り時間293s》

 

 インターフェイス端にそう記載され、横目に見ながらマスクの中で、ニヤリと笑った隼人は、たじろくレンカ達に手招きして挑発した。

 

「まとめて来い、5分間だけだがな」

 

 そう言ってセンサー取得情報のリセットをかけ、センサーユニットの光を強めさせた隼人は、いの一番に挑みかかってきたアキホの攻撃を亜音速で回避する。

 

 あまりの速度に驚愕したアキホの背後に回った隼人は、脚部ブレードを振りかぶりながら迫るレンカの動きを高出力化された身体強化の副次効果で感じ取る。

 

 そして、ピンポイントに絞って出力した掌で足を受け止めた。

 

「なぁ!?」

 

「なるほど、予想以上の面白い機構だ。アンケートに書いたかいがある!」

 

「隙あり!」

 

 動きを止めた隼人に向けて掌を向けたレンカは、拡散したレーザーに驚愕し、放出した出力の1.5倍以上の光量をまともに浴びて目がくらんだ。

 

 隼人の方も予想外の事態に光の壁を凝視してしまったがシステムが許容外光量を感知。

 

 一時的にセンサーシステムをシャットダウンして隼人の視神経と期待センサーを保護する。

 

「ッ!」

 

 無理矢理瞼を閉じさせられたかの様な錯覚を得た隼人は、身体強化で強化された気配感知で背後に迫っていたアキホの位置を正確に捉えて両刃刀を受け止める。

 

 その間に咲耶がいる位置目がけてレンカを投げ捨てた隼人は、振り返りながら復旧した視界の中にアキホを捉えると左に掌底を構えた。

 

「まずっ!」

 

 咄嗟に水圧を放出したアキホは、隼人の周囲に変換式のパルスパターンが乗った水圧カッターが接触した瞬間に莫大量の水霧に変わったのに驚愕した。

 

「へ!?」

 

 一気に姿が見えなくなった事と突然の現象に一瞬動きが止まったアキホは、その間に迫った掌底を回避。

 

 腕を蹴り上げてバランスを崩させながら距離を取り、拳銃を抜いて射撃する。

 

「拳銃も何か弾かれてるし、バリアでも張ってんのぉ?」

 

『いいえ、あれは高密度の魔力よ。ラテラのマックスモードは元々の高い燃料消費率から稼働時間確保の為に外部から身体強化用の魔力を強制的に吸引している。吸引の為に寄せられた魔力が分厚い壁となって機体の周辺に展開。

術式処置によるコンパ―ジョン現象。隼人君から習ったでしょう? あれが大規模で起こる様なもの。だから、術式攻撃は無効化される。入力パルスからの共振で威力が増幅された上でね』

 

「じゃあ拳銃が利かないのは……?」

 

『弾丸の軽さと運動エネルギーからでしょうね。吸引される魔力はすぐに使用されるから半活性化状態で引き寄せられる。単純計算で7.5倍のエネルギーと弾丸は激突するから弾かれるのよ』

 

 そう言いながら降下し、遠距離での攻撃手段を失ったアキホを庇った咲耶は、困惑する彼女にウィンクした上で言葉を続ける。

 

「だけど周囲に展開しているエネルギーは排気に反応した熱エネルギーで展開されている。つまり、大口径ライフルと近接武器は弾かれずに突破できる」

 

 そう言ってXM28A3を構えた咲耶は、一射目を牽制に二射目で回避地点へ射撃する連続射撃で攻撃を当て、大質量と音速に達する直進速度のエネルギーでもって仰け反らせる。

 

「今よ!」

 

 そう叫んだ咲耶に、突貫したアキホは同時に攻めてきたレンカと攻撃を合わせ、むき出しのラジエーターに刃を突き刺す。

 

 ラジエーターも装甲化されているが故に蛇腹状のインテークに刃が噛みこまれた瞬間、しなりが限界に達した刀が破砕音を鳴らして砕け散る。

 

「至近距離なら防げないでしょ!?」

 

 そう言って回転も加えた飛び蹴りを打ち込んだレンカは、抑え込もうと振り返りの動きを見せる隼人の背に向けて至近距離で術式を作動する。

 

「『インパクトスパイク』!」

 

 至近距離で作動した術式が衝撃波を生み、自らも吹き飛んだレンカは、咄嗟に避けたアキホのいた地点に吹き飛んで行った隼人を見る。

 

 視線の先、背中のラジエーターを損傷したらしい機体が紫電を走らせながら起き上がっていた。

 

「どんだけタフなのよ……」

 

 荒く息を吐きながら足を掴んだレンカは、少し痛むそれに術式をかけて治療する。

 

 一方、インテーク破損により、排熱がうまく循環しなくなってきたらしいラテラはUIのスレイを介して隼人に警告文を送り、機体は熱暴走寸前で性能が大幅に落ちていた。

 

《警告:熱量限界:インテーク破損:身体強化機能維持不能:通常モードに移行します》

 

 隼人への警告文送信と同時に破損したものも無事なものも全てまとめて塞ぐ様に、インテークカバー兼用の全身装甲が閉鎖され、マックスモードが強制解除される。

 

「くそッ!」

 

 排熱口も兼ねていたインテークが破損した為にうまく熱が逃がせず、オーバーヒートを起こした機体がシステムダウンを起こした。

 

 かろうじて破損していない口のインテークから排熱が迸り、赤熱化したラジエーターが陽炎を生み出す。

 

「今よ!」

 

 その間に射撃を加えた咲耶は、システムが落ちたのみのラテラの装甲が、弾丸を弾くのに舌打ちし、残弾を撃ち切る。

 

 そして、腰部スカートアーマーからマガジンを引き抜いてリロードする。

 

 障壁が削られたラテラに接近したアキホは、ミスリウム鋼製ブーツに魔力を込めて両足蹴りを繰り出した。

 

「でぃいいやああああ!」

 

 掛け声とともに蹴り出したアキホは、再起動が完了し、立ち上がった隼人目がけて突っ込み、障壁で多少相殺されつつもテナント建造物の外壁を砕くほどの威力で蹴り飛ばした。

 

 そのまま一回転して着地したアキホは、流石に耐えきれなかった隼人の撃墜判定を確認すると足を痛めたらしいレンカを背負い、一連の流れを傍観していたカナやシグレと共に浩太郎の元へと移動した。


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