僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第7話『動き出す歯車』

 翌日の午前十時、ケリュケイオンの面々は、会議室に呼び出されていた。

 

 一番先頭のレンカが部屋に入った途端、薄暗かったそこに驚いた女子達と突然の事に対応し切れなかった男子達が激突し雪崩形式で会議室に入った。

 

 奥の方で半目になっている咲耶を見た隼人は、誤魔化し笑いをする浩太郎に促されて一番端の席に着いた。

 

「皆、揃ったかな?」

 

「と言うか、先輩。俺達を呼び出して何の用事だ」

 

「それを今から説明するから、まあ座ってて」

 

 そう言って隼人を制した風香は一度咳払いすると、立ち上がる。

 

「あなた方、ケリュケイオンに緊急の依頼をしたいと思います」

 

「緊急を要する依頼? 学院機関が俺達にか? まあいい。内容は」

 

「国際指名手配のテロ組織の構成員の捕縛もしくは殺害」

 

 そう言って風香は、モニターに監視カメラが捉えたらしい解像度の良い白黒写真を写す。

 

「監視カメラが捉えた映像です。彼らは国連軍が指名手配している白人至上主義を掲げる難民系のテロ組織『ティル・ナ・ノーグ』のメンバーです。彼らは新日本を中心に活動するテロ組織で、三か月前にも中部の大規模病院が襲撃され、勤務者含めた人間が全て死亡する被害が出ました。そして、彼らは今、ここ新横須賀に潜伏し何らかの計画を立てている筈です」

 

「要はその計画をどんな手段を使ってでも阻止しろ、と言う事か」

 

「そう言う事です」

 

 モニターの光で浮かんだ風香の硬い表情を睨んだ隼人は、聞き覚えがあるテロ組織の名前を無意識の内に反芻し、急にフラッシュバックした十年前の記憶に少し気分を悪くした。

 

 そんな彼に気付いたレンカが心配そうに見上げるのにも気づかず、彼は風香の方を見つめる。

 

「それで、アンタら学院機関が動けない言い訳は何だよ」

 

「武装状態での学生の警邏は無意味に市民の不安を煽ってしまう。あなた方の場合、会社側の制服を使用する事が出来るはずです」

 

「制服は無いが、それぞれが使用する戦闘用の服はある。要望があるならそれを使おう」

 

 そう言った隼人は嫌そうな顔をする女子と、それとは対照的に少しだけ嬉しそうな浩太郎を見る。

 

「それと、もう一つ。うちの生徒の被害を出さない為です。登録上、あなた達も学院機関の生徒ですが今回の任務における扱いはPSCイチジョウに所属する社員と言う事になります」

 

「なるほどな。PSCイチジョウとしての俺らが怪我したり死亡しても、学生の負傷者や死者に数えられず労働災害扱いになるって事か」

 

「そう言う事です。今、この状況で統計上の死者を出すのは世論の問題もあって好ましくないのです。特に、地球派の統一反対が大々的に報道されている現在は」

 

 苦しげにそう言う風香に連日報道されている統一反対デモの様子を思い出した隼人は、なるほどなと内心で納得した。

 

「地球側からすれば独立を謳う植民地のスキャンダル。資源供給安定化の為にも狙わない手はないだろうしね」

 

 会議室の右端で苦笑しながら皮肉めいた一言を放つリーヤに頷いた隼人は、会社の資料で見た現在の地球の状況を思い出す。

 

 特に大きな戦争を起こす理由が無い為に比較的平和な魔力次元とは異なり、地球の方では魔力次元に関わる利権を発端とした第三次大戦が勃発している。

 

 そして、その戦争には魔力次元で開発された兵器が多数導入され、それまで地球上に存在しなかった物質である魔力による土壌汚染が深刻化しており、最早惑星としても終わりを迎え始めていた。

 

 激しい土壌汚染の発生によって地球に見切りをつけた地球側の各政府は、植民地と見做していた魔力次元の所有土地へ自国民を勝手に移住させ始め、魔力次元側の住人と衝突を起こしていた。

 

「それに魔力次元のマスコミは、実質地球側の国営状態と聞くし。向こうに有利な報道をするのは当たり前だろうねぇ。無論、今回のテロの事も含めて」

 

「加えて、今は地球からの難民が待遇改善を求めて連日過激なデモを起こしている状況だ。そんな奴らに餌を与えればどうなるか、そう言う事だろう?」

 

 そう言ってリーヤの話を打ち切った隼人は、風香の方に目を向ける。

 

「ええ、そう言う事です」

 

 そう言って風香が頷く。

 

「今の状態で、世論を味方につけるには隙を作らない事が大切です。ですがそれでは身動きが取れない。だから、あなた方にお任せしたいのです」

 

「大切な事と、分かってはいてもな……」

 

「無論、あなた方に危険が及ぶ可能性については承知しています。引き受けていただけるのであれば、それ相応の報酬を用意します」

 

 いつになく真剣な風香を見ながら隼人は、引き受けるかどうかの判断に迷い、額を押さえながら俯く。

 

「俺達なら、大丈夫だ。ちゃんとやれるよ」

 

 そう言って隼人の肩を叩き、笑った浩太郎は、同じ様に笑いながら頷くメンバーを見回すと曇った顔で風香の方を見る。

 

「受けよう。報酬が何であれ、これは俺達だけが出来る事なんだからな」

 

「ありがとう。それじゃあ、ここからは依頼についての確認を。今回の依頼の目的は国際テロ組織『ティル・ナ・ノーグ』の活動阻止。阻止の手段は問いません。逮捕、殺害、あらゆる手段でもって組織の活動を停止させてください。

報酬は我々の方からは五十万円、立花財閥からは二百万円が用意されています。前金は報酬の二分の一で、これに加えて立花財閥から装備の支給があるそうです」

 

「装備の支給……? 武器も弾薬も防具も十分に足りてるぞ?」

 

 そう言って首を傾げる隼人に苦笑した風香は入れ替わりに立ち上がった咲耶にその場を任せる。

 

「定期的に支給してるのにわざわざ言う訳無いでしょうが。今回は新装備の支給よ。隼人君と、浩太郎君にね。あなた達二人、フレームは持って来てあるわよね?」

 

「ああ、持ってきてるぞ。何だ? フレームに付ける武装か?」

 

「広義にはあってるわよ、その言葉。さ、ちょっと移動しましょう。今日の荷物は少々特殊だから」

 

 そう言って使用した機材の電源を落とした咲耶は、その場にいる全員を連れて会議室を後にした。


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