僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

69 / 113
第13話『基礎戦術:アキホ-2』

 一方その頃、隼人対女子四人で戦っているアキホは、寄ってたかって叩いても大してダメージが通っていない隼人に息を荒げていた。

 

「どうしたお前ら。だらしが無いぞ」

 

「そのアーマチュラ堅いのよ! アンタもアンタで大人げないし!」

 

「本気でやらないと訓練にならないだろ」

 

 そう言って両手のトマホークを器用に回す隼人に、突っ伏していたレンカが噛みつく様に吠えた。

 

 そんな彼を見た美月がニヤッと笑い、自分と浩太郎を入れ替える為に呼び寄せると、ちょうど練習を見に来ていたらしい咲耶に気付く。

 

「イチジョウ君、ちょっと美月ちゃんを借りるわよ」

 

「え? あ、ああ。良いぞ。何するんだ?」

 

「ふふっ、秘密」

 

 そう言ってウィンクして連れ去っていった咲耶に呆気に取られた隼人は、苦笑しているらしい浩太郎と目が合う。

 

 本気でやるならこっちはこうだ、とでも言いたそうだった美月の顔を思い出して、鼻で笑った隼人は、トマホークを収めて腕を組む。

 

「やるか? 浩太郎」

 

「レンカちゃん達が良いのなら」

 

「だとよ。どうだ?」

 

 そう言ってレンカ達の方を見た隼人は、サムズアップを返したカナを見て了承と受け取り、出力を戦闘モードに切り替え、構えた。

 

 それを見て腰からベクターとトマホークを引き抜いた浩太郎は、グズグズのレンカ達をアーマーの出力を使って運ぶと準備完了の合図を出した。

 

《試合開始》

 

 瞬間、高トルクの蹴りを持って接近した隼人が迎撃射撃を打ち込む浩太郎目がけて突進する。

 

「散開!」

 

 浩太郎の号令と共に跳躍して散開したレンカ達が術式で側面から隼人を攻撃する。

 

 だが、装甲表面の障壁術式が彼女らの術式の貫通を阻み、その間に浩太郎に接近した隼人は逆手持ちでスタンバトンを引き抜くとトマホークと打ち合わせて押し込む。

 

「うっ、ぐぅっ!」

 

 肘を折った変則的な構えで顔面に発砲した浩太郎は、膝蹴りで蹴飛ばされ、その間に接近していたアキホの援護に移る。

 

 それに気づいていた隼人は、着弾の衝撃を吸収しつつ、左のバトンをアキホへ投擲する。

 

「にゃあっ!?」

 

 殴り飛ばされたアキホが吹き飛ぶのと入れ替わりに、大剣二本がロケット推進で接近する。

 

「ッ、ちぃっ!」

 

 咄嗟に両手で受け止めた隼人は、背後から迫る浩太郎に大剣を逸らしてからの肘打ちでトマホークを迎撃する。

 

 そして、踵蹴りで浩太郎の足を払うと、腕の裏に装備していたヨーヨー型ユニットを射出する。

 

 瞬間、のけぞって回避した浩太郎はサマーソルトキックと組み合わせたエッジの刺突を放つが予想していた隼人はスウェーで回避。

 

 引き戻しの動きで動かしたユニットで側面を打撃する。

 

「くぅッ」

 

 吹き飛ぶ浩太郎に掌の方向を向けた隼人は、大ジャンプから斬りかかってきたアキホとレンカの攻撃を回避すると、脛のアークブレードを展開して回し蹴りを繰り出す。

 

 咄嗟のスパイカーで相殺したレンカは、アキホに攻撃させると吹き飛んだ隼人に歓喜の声を上げた。

 

「やっと通った!」

 

 そう言って無邪気に喜ぶレンカが飛んできたスタンバトンに吹っ飛ばされ、アキホが慌ててカバーする。

 

 それを見てほくそ笑んでいた隼人は、入れ替わる様に接近してきたカナの一撃を回避して踵落としからのヒートエッジで右の一振りを抑える。

 

グローム()!」

 

「何の!」

 

 大剣からの雷に耐えた隼人は至近で光をため込んでいた掌をかざし、カナ目がけて術式砲撃を打ち込む。

 

グローム・シチート(雷の盾)!」

 

 カナの詠唱と共に大剣から放っていた雷が円形に収束し、高密度のエネルギーがバリアーとなって光学レーザーを拡散させる。

 

 光の粉が宙に散る中、大剣から重量が消えたのを見計らってバックステップしたカナは、眼前に迫っていた隼人の拳に目を見開いた。

 

「グローム!」

 

 苦し紛れに雷を放ったカナは、ある程度の衝撃があるらしい雷と真っ向から打ち合った隼人が無理矢理突き破ってくるのに、ダメージを覚悟した。

 

 が、直前に隼人の体が吹き飛び、カウンタースラスターで衝撃を殺した彼が、何かに気付いて両手にトマホークを引き抜いた。

 

光学迷彩(メタマテリアルカモフ)……。浩太郎か」

 

 姿が見えない事に警戒しているらしい隼人に、大剣を向けたカナは神経接続で繋げている歩兵用インターフェイス上の更新情報のウィンドウに攻撃の手を止めた。

 

 更新の許可を出した彼女は、更新完了と同時にシルエットで見えた浩太郎の位置に少し驚き、そしてハンドサインで指示を出す彼に合わせて攻撃を始めた。

 

「ッ!」

 

 意識の外だったらしいカナからの攻撃に慌ててパーリングした隼人は、レンカとアキホの連携を相手取ると背後に殺気を感じて不意に伏せた。

 

 瞬間、元いた位置を斬馬刀の風圧が駆け抜け、反撃で肘打ちを放った隼人は、直撃の金属音を聞き、直後剥がれ落ちた術式からイルマーレの悪魔的な衣装のマスクが現れ、索敵情報の更新をしたのかセンサーマスクの双眼が瞬いた。

 

「やはり奇襲か! お前らしい!」

 

「正面戦闘ができる戦力が揃ってれば当然だと思うけど、ね!」

 

 マスクの下で笑った隼人に、斬りかかった浩太郎は、交差したトマホークと打ち合った斬馬刀を押し込む。

 

 カウンタースラスターが遅れた隼人が一瞬体制を崩しかけ、その隙を見逃さなかった浩太郎が、つま先に展開した高周波エッジを彼の脇腹に叩きこむ。

 

「させるか!」

 

 瞬間、肘打ちで足を落とした隼人は、側転気味の噴射で横回転してエッジを回避すると両腕からユニットを射出した。

 

「つぅッ!」

 

 咄嗟にバックラーから防護障壁を展開した浩太郎は、アークエッジで抉られた衝撃を受けて仰け反るも完全にこちらへ隼人の意識が向いている事にニヤリと笑った。

 

 瞬間、背後に攻撃を食らった隼人は、体を捻りながら着地するとトマホークとユニットを収めて構えた。

 

「子の射撃……咲耶か!?」

 

「私も混ぜてちょうだいな。もちろん、レンカちゃんの方にね」

 

 そう言って空中浮遊している咲耶は手にした20㎜セミオートカノン『XM28A3』をサイドグリップで構えると隼人に照準する。

 

「チィッ!」

 

 前方への低姿勢ダッシュで狙撃を回避した隼人は、一斉に射撃してくるレンカ達を掻い潜ると、ハイジャンプで咲耶に向けて突進する。

 

「無駄よ!」

 

 垂直グリップを掴んでの二連射で隼人の勢いを殺した咲耶は、飛び蹴りで叩き落とす。

 

 その間に接近していたレンカとアキホが抜群の連携で、光学レーザーを放ち、直撃をもらった隼人は稼働限界を確認しながら弾幕を潜り抜けると、目の前に現れたカナの振り下ろしをレーザーで減速させながら受け止める。

 

「流石に大人げないぞお前ら!」

 

 言いながら蹴り飛ばした隼人は、斬馬刀を振り薙いできた浩太郎の一閃を回避するとエッジを出した脛で脇腹を蹴り飛ばす。

 

 バチバチと音を上げる装甲に防がれた隼人は、そのまま脇を蹴ってダメージを与える。

 

「ぐッ」

 

 苦悶を上げた浩太郎が斬馬刀を振り上げた瞬間に高速のカウンターを打ち込んだ隼人は、そのまま吹き込んだ彼に内心詫びつつ、背後から迫る女子二人の一閃を裏拳で受け止める。

 

「あんたも十分大人げないわよ!」

 

 得物を受け止められたレンカとアキホは、そのままターンしつつ彼の顔面に膝蹴りを打ち込もうとするがその前に避けていた隼人は、着地した二人の刺突を回避し、バク転と共に脚部のアークエッジを振るうと引けつつも追従してくる彼女らに苦笑する。

 

 三度目の着地を決めた瞬間、上空に向けてレーザーを放った隼人は、肩部シールドで防ぎつつも衝撃で嬲られた咲耶にニヤリと笑う。

 

「前言撤回かもな、これは」

 

 そう言って全員のポイント表示を見た隼人は、お互い高いHP設定でなぶり殺しを演じていたが故にここでようやく軒並み3割ほどになっていた。

 

 と、その隣に残りの燃料残数が表示されており、ゲージが一割ほどの位置で赤いビビットカラーを表示していた。

 

『あらあら、稼働限界近そうねぇ。リチャージング入れるのかしら?』

 

「いや、止めておこう。今の状態で起動させるとシャレにならん」

 

『それもそうねぇ。じゃ、このままね?』

 

「いや、被害が無い程度に吸引しろ」

 

『りょうかぁい、あははっ』

 

 そう言ってフレームとアーマチュラのUIとなっているスレイの笑い声を聞きながら、レンカ達に被害が出ない程度に緩やかに魔力吸引をさせた隼人は、5パーセント回復した所で打ち切った。

 

 その間に対軽軍神用の大型サーベルを手に降下してきた咲耶と、レンカ、そしてアキホが同時に攻めかかってくる。

 

 それをトマホークで捌いた隼人は、レンカとアキホにトマホークを投擲して牽制。

 

「もらったわよ!」

 

「こちらのセリフだ!」

 

「!?」

 

 瞬間、白刃取りの体勢でサーベルを受けた隼人が至近で光学術式を作動。

 

 相殺の衝撃波で刃を折った隼人は、咄嗟に柄を手放していた咲耶にアッパーカットを構える。

 

「くっ!」

 

 左腕からせり出た折り畳み式の仕込みナイフを掴んだ咲耶は、突きの動きでアッパーとかち合わせる。

 

「うまい手を!」

 

 コンパクトさを優先した小型のナイフとは言えど、突きの動きで出されたものを素直に破壊は出来ない。

 

 そうして時間を稼ぎ、増援を待つのだろう咲耶の手に、狂気じみた笑みを浮かべた隼人は、ハイキックで咲耶を蹴り飛ばし、増援としてきた浩太郎とカナを弾き飛ばす。

 

『燃料残り10パーセント』

 

 そう呟くスレイに、内心焦りを持ちつつ二人に止めを刺した隼人はポイントアーマー喪失でリング外へ強制転送された彼らも見ず、レンカの攻撃を受け止める。

 

 薙刀を弾き飛ばした隼人は、蹴り技で攻めに来たレンカの飛び回し蹴りを潜って避け、顎狙いのハイキックを回避すると叩き付ける様なチョッピングブローを打ち込む。

 

『残り8パーセント』

 

 カウントが過ぎる中、熱量限界間際の警告がウィンドウ端に現れ、それと同時に体力を消耗している自分を自覚した隼人は、ふらつく体を戻そうとした刹那に振り下ろされた踵の鉄槌に地面に叩きつけられた。

 

 一瞬バウンドした隼人は、脳震盪を起こしかけるが気合で持ち応え、体前面部からの噴射で起き上がると刃の様な蹴り上げを回避し、アキホと咲耶にも意識を向けつつ拳を構える。

 

『残り7パーセント』

 

 カウントを聞きながらレンカの攻撃を捌いた隼人は、アキホの一閃を回避するとジャブを顎に撃ち込んでよろけさせ、姿勢を落とした彼女に膝蹴りを入れようとしたがその瞬間、背中を通ってロールを決めたレンカの打ち下ろしを回避する。

 

 大きく距離を取り、リーチの短さを露呈させようとした隼人はそれを見越していた咲耶の援護射撃に打ちのめされ、体制を大きく崩される。

 

『残り5パーセント』

 

 その表示を見た隼人は背中に手を回すとスラスター側面にシースごとレールに搭載されていたナイフを掴み、咲耶に向けて投擲した。

 

 シールドに直撃したそれが激しい火花と共振音を鳴らし、シールドを懸架していたアームから激しい軋みが鳴る。

 

「くっ、なんて威力なの!」

 

 衝撃をカウンタースラストで殺した咲耶は、その間にナイフを手に接近していた隼人に腰のマチェットナイフを引き抜いて対応するが、薄い刃はナイフの厚刃で砕かれ、逆手に持ち替えたナイフがアームに直撃してシールドが落下する。

 

「ッ!」

 

 浮遊できることを生かした回し蹴りを放った咲耶だったが、反射的に防いでいた隼人が回転しながらの斬撃でシールドを斬り落とす。

 

 同時にバリアの数値も削れ、舌打ちした咲耶はそのまま回転してアームを掴み、殺意に満ちた目で放たれた隼人の横薙ぎを寸での所で防ぐ。

 

「くっ……」

 

 返す腕でグラビティサーベルを振るった隼人はナイフが食い込んだシールドを弾き飛ばすと、返す刃をアキホに投擲、反対の手にもう一つの柄を掴んで咲耶を薙ぎ払う。

 

 その間に接近してきていたアキホに蹴り上げを放った隼人は、着地兼用の踏み込みからパイルバンカーを加えたカウンターを刀に撃ち込んだ。

 

 刀を回転させていたアキホは激しいノックバックを手首に受けつつ、砕かれた刃に片柄を排除して一刀で挑みかかる。

 

『残り2パーセント』

 

 刀を膝のバヨネットで受け止めた隼人は、そのまま踏み込んで拳を叩きつけようとしたが、それよりも前に叩きつけられた3点バーストの射撃に視界を塞がれ、狙いが逸れた。

 

 何事だ、と振り返った隼人は、空中でバレルロールをしながらM93Rを射撃して来る咲耶に舌打ちし、掌を向けようとしたが残量を見て躊躇した。

 

「アキホちゃん!」

 

 1マガジン分を撃ち尽くした咲耶がそう叫ぶのに振り返った隼人は、右手に水流を掻き集めていたアキホの姿を捉え、左手を犠牲に迎撃しようとした。

 

 が、それよりも早く懐に入ったアキホが隼人の胸部に高圧水流を叩き付け、防御の為に残量全てを使いつくしたラテラが機能停止を起こす。

 

《試合終了:勝者:アキホ・イチジョウ》

 

 アナウンスと同時に強制冷却に入ったラテラがラジエータ兼用のインテークを開放。

 

 機体に滴っていた水がすべて蒸発し、吸引と熱を含ませての放出を繰り返しての強制冷却が完了する。

 

 動けるだけの燃料を吸引し、再起動したラテラに若干引きつつ、刀を収めたアキホは、しんどそうに立ち上がる兄に苦笑する。

 

「大丈夫? 兄ちゃん」

 

「疲れた」

 

「珍しいねぇ。戦闘の後に兄ちゃんがそんな事言うなんて」

 

「バカ野郎、このアーマー、平均機内温度30度だぞ。サウナで戦ってる様なもんだ」

 

「えぇ……何でそんなの着れるのさ……」

 

 ドン引きのアキホを他所に、フェイスアーマーのロックを解除した隼人は汗だくの顔を露呈させつつリング外へ移動する。

 

 水分補給をした隼人は、不機嫌そうな咲耶に気付き、肩にあったシールド無しのかなりシンプルな格好になった彼女に思い当たる事があった隼人は、ペットボトルを置いた。

 

「すまん」

 

「分かってるなら良いわ。全く、アーム破壊されるなんて思ってもみなかったわ」

 

「切りやすかったんでね。そう言えば、アンタ美月と何の話してたんだ?」

 

「聞いたら面白くなくなるわよ」

 

「そう言う類なら別に話しても構わん。別に聞かれても困らないんだろう?」

 

「はぁ、つまらないわね。まあ良いわ。美月ちゃん専用機の開発の件でね、第二世代型のバリエーションとして術式対応の機体を作りたくて彼女に協力を依頼したの」

 

 そう言って美月の方を見た咲耶に、なるほどな、と返した隼人は、嬉しそうな彼女の表情から返事は良好だったのだろうと思い、苦笑する。

 

「人間の使用が大前提のアーマチュラで術式対応と言う事は……なるほど、五行ベースか」

 

「ええ、でも彼女曰く五行を使用する事による弊害は潜伏期間が長期化するだけで術式と変わらないらしいから、そこの解消が問題になるみたいよ」

 

「安全な術式の使用を補助する為のフレームか。実用化すれば戦術が変わるな」

 

 そう言って苦笑する隼人に同意して頷いた咲耶は、神経接続上にデータを表示させつつ、その場を後にした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。