僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第12話『基礎戦術:香美-1』

 一方、フィールドを移動して香美の訓練をしていたシュウ達は、シュウ、ハナ、リーヤ、ナツキ、香美の五人対楓、武、俊、シグレの四人で分けた模擬戦を行っていた。

 

 香美の能力を図り、育てるためのルールとして、五人チームの方には以下の制限があった。

 

 ハナとナツキは戦闘管制を行わない。

 

 やるとしてもアドバイスを送るのみで、彼女らが別で請け負う無人機による電子戦と索敵、術式による補助のみを行うとして、取得した情報の処理から判断まではすべて香美が行うとするという内容である。

 

「それで、どうする管制官」

 

 背後にそう言ってシールドを構えつつ、様子を伺ったシュウは、開始から数分経って情報処理が追い付いていない香美にハナ共々護衛としてついていた。

 

 シュウが手に携行している武装は、模擬戦に使っている近接戦闘(CQB)フィールドに合わせて選択した『HK416C』口径5.56㎜カービンライフルだ。

 

「えーっと……。索敵情報取得、俊さんが前、その後方に武さん、楓さんシグレさんと続く一直線のフォーメーション……。索敵しつつこちらへ接近中だから……」

 

 縦を構えたまま、考え込むアキホを見ていたシュウは、索敵データを送信しているハナの苦笑顔を見て待機を続ける。

 

「データリンク更新します。ターゲット排除順序を付与しました。これより戦闘管制、開始します」

 

「了解。総員傾注」

 

「ナツキさん、C-07へ雷属性の罠術式準備をお願いします。リーヤさん、ポイントA-09にて伏せ撃ち体制で狙撃準備を。牽制射で構いません。シュウさんはC-07への誘導も兼ねた囮をお願いします。

ハナさんはこのまま私と共に行動して、索敵情報をリアルタイムで送ってください」

 

 そう言って腕のモニターを閉じた香美は、腰に下げていたHK416Cのセレクターを単発に変えると、ハナのカバーを受けつつ移動を開始した。

 

『リーヤ、配置完了』

 

『ナツキ、準備完了。効果消滅まで120秒』

 

 通信から二人の報告を受けた香美は、身軽さと素早さから優先順位を一番高く設定したシグレの位置を捕捉するとそこへ移動しつつあるシュウに指示を出す。

 

「シュウさん、初手は40㎜グレネードでお願いします」

 

『40㎜? ランチャーか? 弾種は? 榴弾(HE)か? 徹甲焼夷弾(API)か?』

 

「HEでお願いします。APIは影響範囲が必要以上に広い事と爆炎で視認性を阻害する可能性があります」

 

『了解した。こちらは射撃戦闘メイン。敵が見えにくい事は致命的だからな。HEで第一優先ターゲットを攻撃。その後、他の優先ターゲットを引き付ける』

 

「了解しました。指定ポイント到達後、砲撃開始してください」

 

 そう言って指示を出した香美は、チェーロV2のセンサーから取得した映像を見ながら作戦を組み立てていた。

 

(初撃が決まれば、電撃戦の案は潰せる。あとの問題は……楓さん)

 

 内心で呟き、サイドアームとして選択していた『キンバー・カスタムTLE/RLⅡ』に手をかける。

 

「香美ちゃん、良い銃を持ってるね」

 

「え? あ、キンバーの事ですか?」

 

「うん。キンバーのカスタムガンは向こうじゃ有名だからねぇ。NLAPD SWATが正式採用してるって有名だし」

 

「そうなんですか……」

 

「知らなかったの?」

 

「はい……。この銃は、うちの姉達が使っている銃ってだけなので」

 

 そう言って銃のグリップに軽く触れた香美は、頭に触れたハナの優しさに少し驚き、強張っていた力を緩めた。

 

「思い入れ、あるんだ」

 

「はい。そうなりたいって思うと、この銃がなんだか気になって」

 

「そっか。じゃあ、訓練頑張らなきゃね」

 

 そう言って笑うハナに、笑い返した香美は爆発音に気持ちを切り替え、シュウとの通信を開いた。

 

「効果確認を」

 

『すまん、何故か砲撃を察知された。対象への効果無し』

 

「そっ、そんな……」

 

『ッ! 気付かれた! 誘導を開始する!』

 

「りょっ、了解!」

 

 予想外の事態に焦る香美は、移動するシュウの光点をトラッキングするが次にすべき事が思いつかなくなっていた。

 

「香美ちゃん、どうしたの?」

 

「えっと……次、どうしたら、良いんでしょう」

 

「えっ」

 

 突然の事に目を丸くしたハナは、パニックになり涙目を浮かべ始めた香美に慌てた。

 

「なっ、泣いちゃダメだって! ほらほら、落ち着いて、ね?」

 

 付け焼刃の様なフォローに、内心心が挫けたハナは、泣き出しそうな香美にどうしようか逆にパニックになっていた。

 

『香美ちゃん、突然の物事に対処するにはまず落ち着く事が必要だよ』

 

『それに、初手でつまずいたのならばまだ修正が利くから、大丈夫』

 

 見かねたのか通信越しにフォローに入ったリーヤとナツキが、パニックの元を掴み、落ち着かせる様にそう話す。

 

『メルディウスさん。香美ちゃんが落ち着くまでの間、任せていいかな』

 

「え、でもルールじゃ戦闘管制はダメじゃ……」

 

『分かってる。だから、戦闘管制じゃなくて、スミッソン君と敵位置の観測をお願いしたいんだ。狙撃タイミングの位置合わせの為に』

 

「え、あ、うん。了解!』

 

『スミッソン君、C-07まで持ちそうかい?』

 

 そう言ってシュウとの会話に切り替え始めたリーヤにリアルタイムの索敵情報を送っていたハナは、すがる様にキンバーを抱えている香美を見下ろす。

 

 まるでキリストの十字架の様だ、と思っていたハナは戦闘の爆音を聞きながらショートバレル仕様のHK417からデザートイーグルにスイッチングし、香美を庇える位置まで連れてきた。

 

「ッ!」

 

 周囲に銃口を巡らせながら位置についた瞬間、横合いからの連射が宙を走る。

 

 バリケードに叩きつけられた9㎜パラベラム弾に悲鳴を上げる香美の頭を押さえつけ、姿勢を落とさせたハナは、角から見えたG18Cに身体強化を併用しての応戦射撃を撃ち込む。

 

「このままじゃ……」

 

 凄まじい威力と着弾音でシグレを抑えつつ、香美の様子を見ていたハナは、背面のバックパックからドローンを取り出して宙へ放った。

 

 自動索敵を起動したハナは、シグレへ牽制射撃を繰り返すそれを囮に移動する。

 

「ごめん、リーヤ君、ナツキちゃん、そっちに移動する!」

 

『了解。香美ちゃんは?』

 

「まだ落ち着かないかな……。あ、それと、多分向こうの陣形崩してきてる。近くにシグちゃんがいたから」

 

『まずいね、遭遇戦になったら僕らが不利だ。メルディウスさん、データリンク索敵情報の更新は続けてもらって良いかな。それだけで幾分か対処は出来る』

 

「シュウ君の方はどうなんでしょう……」

 

 そう呟いて、ナツキに香美を預けたハナは、ちらと顔を見せたシグレに50口径弾を撃ち込んで牽制する。

 

『くそっ、こちらシュウ! 三人に包囲された! 身動きが! ぐぉっ』

 

 通信機にノイズを走らせながら、救援を求めたシュウにリロードしていたハナが真っ先に反応する。

 

「シュウ君!?」

 

『予想外の展開だ……。向こうはスミッソン君を潰しに来てる』

 

「それって……」

 

『軽軍神の装甲、機動力、攻撃能力を警戒してだろうね』

 

「早く助けに……!」

 

『それは、ちょっと待って。今動けば巻き込まれる可能性がある。それに、リベラさんがこっちの抑えで動かされてる可能性も、無きにしも非ずだよ』

 

「じゃあ、どうすれば……」

 

 そう言って困惑していたハナは、震えていた香美が一連のやり取りを聞いて何か言っているのに気付いた。

 

「私が……抑えます」

 

「え?!」

 

「私がやらなきゃ……負けます。お姉ちゃんにも、お兄ちゃんにも、追いつけない。隼人さんの背中も、追えない。アキちゃんとも、並べられない」

 

「でも、大丈夫なの?」

 

「怖い、です。でも……やらなきゃ、いけない筈です。私が、ここで」

 

 そう言ってキンバーを構えた香美は、戸惑うハナとナツキに膝を笑わせながら立ち上がって見せる。

 

『香美ちゃん』

 

「は、はい」

 

『リベラさんを、任せていいかな。バックアップにはナツキちゃんをつける。君が自分に必要な指示をするんだ。良いね?』

 

「……はい。分かりました」

 

『よし。じゃあ、メルディウスさん。僕と合流してスミッソン君の救援へ。香美ちゃん、救援完了後の指示は、おいおいちょうだいね』

 

 そう言って通信を切ったリーヤに自然と緊張がほぐれた香美は、苦笑するナツキとハナに恥ずかしそうに俯く。

 

「じゃあ、頑張ってね」

 

 そう言ってリーヤとの合流を目指して走り出したハナを見送った香美は、かすめた弾丸に悲鳴を上げつつ壁に隠れて様子を窺った。

 

 撃ち合いであればライフルが有利なのはわかっていた香美だったが、相手が接近戦型であると言う事が冷静になり始めた頭の中にあったが故にキンバーをそのまま使っていた。

 

「ッ! いた!」

 

 そう叫んだ香美の目の前をG18Cを持って駆けていくシグレが、ハナ達にマシンピストルを照準する。

 

 その瞬間、オレンジ色に目の色を変えた香美はキンバーを構えるとシグレが持っているG18Cをロックオンする。

 

照準固定(ロックオン)

 

 安定した両手構え(ウェイバースタンス)で、射撃した香美は拳銃を穿ち、そのまま連射でシグレを追い散らす。

 

 素早い動きで逃れたシグレに、警戒しつつ、腰からナイフを引き抜いた香美は、背中のハーネスにライフルを引っ掛けて固定する。

 

「ナツキさん、援護お願いします」

 

『了解。ん、いつでも大丈夫』

 

「タイミングは指示します。それまで待機で」

 

 そう言って周囲を探った香美は、右側からバリケードを避けて迫るシグレに気付き、ロックオン術式を起動して連射した。

 

 あらかじめ撃ってくる事を予測していたシグレは薄く展開していた重力場で弾丸を逸らすと、一撃離脱でククリナイフを振るった。

 

「リフレクト!」

 

 寸前で反射場を展開した香美に、キックバックで回転しながら距離を取ったシグレは、ステップを踏みながら予備用のスプリングフィールドXDを引き抜いて発砲する。

 

 それも力場で弾いた香美は、驚く彼女へ牽制射撃を撃ち込んでバリケードへ隠れる。

 

 荒く息を吐く香美は、スライドオープンしていた拳銃の弾倉(マグ)を落とし、腰のマグポーチから引き抜いた予備マグを装填してストップを解除する。

 

『香美ちゃん今のって術式? 練習時使ってなかったよね……?』

 

「えっと、その……ロックオンよりも得意な術式だったので、使わなくて良いかなって」

 

『えぇ~……。ん~、もやっとするけど気にしないでおくね』

 

 苦笑気味のナツキの声に罪悪感を感じた香美は言い辛そうに話を続ける。

 

「あ、あと……」

 

『ふえ?』

 

「もう一つ……使ってなかった術式が」

 

 そう言ってバリケードに手を触れた香美は、一瞬緑色に光った目を閉じ、自分自身の集中力を上げて術式を作動させ、壁越しに魔力を射出した。

 

 放たれた魔力は、地面を通して信号として走り、魔力に触れた物体全てが視界に浮かび上がる。

 

 そして、その中から香美が設定していた『人型の種族』を魔力が選び取り、味方と認識している全員にその情報を送り込む。

 

「『エリアスキャニング:セレクトチョイス』……」

 

 広範囲に及ぶ対象限定探知でシグレの位置と状態を察知した香美は、振り返りざまにキンバーの銃口を向けると、横っ飛びにちょうど銃口を向けてきたシグレと目が合う。

 

 驚く彼女だったが引き金を引くことは躊躇しなかった。

 

 同時に引き金を引いた香美は、直撃コースにあった9㎜弾を回避すると、体勢を崩していたシグレの脳天に照準し射撃する。

 

「ッ!」

 

 横ロールからのブレイクスピンで逆立ちしたシグレは、カポエラキックで牽制すると、そのまま立ち上がってナイフとハンドガンを構える。

 

 いったん距離を取った香美は、腰からトンファーを引き抜いて構えるとハンドル越しに拳銃を支えて発砲する。

 

「無駄です!」

 

 拳銃弾を回避しながら接近したシグレにトンファーを振るった香美は、振り子運動で抑え込んだ彼女に銃口を向けられる。

 

 瞬間、肘で銃口を弾いた香美が応じる様に銃口を向けると、ナイフで銃口を弾いたシグレががら空きの香美の喉に向けてナイフを薙ぎ払う。

 

「ッ!」

 

 寸での所で回避した香美は、トンファーでナイフを弾きつつシグレを巻き込む形で体勢を立て直した。

 

 投げ飛ばされたシグレは、側転で体勢を保って立ち上がった後、.45ACPの銃撃を回避する。

 

「ッ、の!」

 

 返す腕で銃口を向けたシグレは横ロールでの回避からトンファーで銃を弾いてきた香美に舌打ちすると、返す腕でダンシングリーパーを引き抜いた。

 

 束ねられた刃に数か所切り傷を作りながら殴られた香美は、突きの動きで迫るククリナイフをリフレクトで防ぐと、キンバーを牽制に距離を取る。

 

 その間にXDを回収したシグレは、ダメージが軽かった拳銃のマガジンを落としてリロードすると隠れている香美を探しに慎重な足取りで移動を始める。

 

「どこへ、行ったのです……」

 

 慎重に角を警戒して動くシグレは、周囲でがなり立てる銃撃と剣戟の爆音に舌打ちしつつ、クリアリングを進める。

 

 そんな彼女を壁越しに探知しながら無線機を起動した香美は、離れた位置で照準しているナツキへシグレの座標を送信し続ける。

 

 そして。

 

「撃て」

 

 香美がそう吹き込んだ瞬間、声に気付いて銃を動かしたシグレの首筋に雷撃が直撃し、一瞬で気を失った彼女の体が地面に倒れる。

 

 予めクッションとなる術式を敷いておいた香美は、その上に倒れ込んだシグレに銃を向けつつ、脈と呼吸を確認し、彼女の腕を拘束して無線機を起動する。

 

「お見事です、ナツキさん」

 

『えへへ。ありがとう。でも、あの一瞬によく考え付いたね』

 

「お姉ちゃんがやった事あって、それを思い出したんです」

 

 そう言ってちょっと照れくさそうに言った香美は、感心しているナツキに逆に驚いていた。

 

(でもすぐに実行してくれるナツキさんも凄いんだけどなぁ)

 

 自分が咄嗟に指示した『座標を使って壁越しに術式攻撃を行ってほしい』と言う無茶をナツキは咄嗟に実行してくれた。

 

(追い付かなきゃ。私も、この人達に)

 

 そう思いながらシグレにキル判定を出してもらった香美は、そのままナツキと共にリーヤ達の元へと向かっていった。


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