僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第10話『第二のアーマチュラ』

 それから隼人は、地下の模擬戦場の方へ部屋を取っていたらしい咲耶の先導で歩いていた

 

 後ろからついてくる浩太郎達を他所に、データチップ内のデータを携帯端末へインストールして説明書を読んでいた。

 

(前評判通り、俺専用機になっているのか。全身の近接戦用武装、補助用に搭載してくれたのか。内部性能としては冷却性能の改善のみか。まあ、妥当だな)

 

 そう思い、画面上のデータを確認し終えた隼人は、模擬戦場に置かれた五つのコンテナに声を漏らす。

 

「さ、着いたわよ」

 

 そう言ってコンテナの前に隼人、浩太郎、俊、シュウ、和馬の五人を案内した咲耶は、それぞれに対応するコンテナの中身をARモード上で確認する。

 

「ん、間違いないわね。じゃあ皆、フレームを装着してコンテナに接続してちょうだいな」

 

 そう促し、フレームを装着した彼らがケーブル接続でコンテナ情報をフレームにインストールしている間にカズヒサからもらった美月のデータを呼び出す。

 

(あの子が話に聞く五行使い。五行の概念自体はうちの術式部門のメンバーから聞いてはいたけれど、本当にいるなんてね)

 

 そう思いつつ、データを閲覧していく咲耶は、読み進める内に面白いと思っていた。

 

(ハンデキャップこそあるけれど確かに強力な要素ね。なるほど、彼女専用機を作る価値はあるって事ね)

 

 結論付けた咲耶は、装着プロセスに入っている隼人達を見つめた。

 

 フレームを起点に装甲を装着していく彼らは、古い形式を使う隼人達と新しいフレームを使う俊達でそれぞれ形の違うそれに装甲をくっつけていく。

 

 レール嵌合式の装甲は、各部位を包み込むと同時に疑似モノコック構造としての装甲ロック措置を取り、それぞれの装甲を密接に寄せる事で強度を保つ様にすると、それぞれ素体の状態でコンテナから出てくる。

 

「ん? 武装は?」

 

「武装ならそれぞれ別のコンテナにしてるわ。量が多いし、特殊なものもあるしね」

 

「まあ良い。どうだ、変な所は無いか?」

 

 そう言って金属音を鳴らしながら、咲耶の元に歩み寄ってきた隼人は、以前よりもより引き締められ、体型が出ている新しいラテラ、『アーマチュラ・ラテラ・アナイアレイタ(殲滅者)』の手足を眺める。

 

 そうしている彼の背後、一回りシルエットが膨れている新型のイルマーレ、『アーマチュラ・イルマーレ・テサーク(切り裂き魔)』の調子を確かめている浩太郎は、動きに影響が出にくい様になっているそれに少し満足していた。

 

「スゲーな、これ」

 

 そう言って初めて着るアーマチュラに興奮気味の俊達は、神経接続を利用したカメラリンクと誤差ゼロの操縦感覚を味わっていた。

 

 一方の外野はと言うと、ラテラのダークヒーロー然としたスタイリングに目が輝くレンカが近寄ってペタペタ装甲を触っていた。

 

「ふわあああ。カッコいいよ、隼人! ヒーローみたい!」

 

「あんまりそう言う柄じゃないんだけどな。まあ、ありがとう、レンカ」

 

「早く武器見せて!」

 

 そう言って急かすレンカに、装甲の中で笑った隼人は、もう一つあるコンテナの前に立って認証を行う。

 

 すると、開かれたコンテナからロボットアームがレーザービーコンを発射、全身のレイルラッチを認識する。

 

 瞬間、武装全てに対応した数のアームが武器を持って隼人の周囲を囲み、爆砕ボルト止めで装備させていく。

 

「うっ」

 

 物々しい音を立てて一瞬沈み込みかけた隼人は、全身に取り付けられた武装分、出力を上げて立ち上がると、改修前と比較して物々しさを感じるほどの充実ぶりに内心満足していた。

 

「すっげえ……何だそのえげつない武器の数は」

 

「俺がオーダーを出した。前回の機体では武装が少なすぎたんでな」

 

「にしても多すぎねえ? 使い分けられんのかよ」

 

「まあ、ほぼ使い捨てだな。これだけ手持ち武器が多いと投擲にも使える」

 

「使い捨てかぁ、何かもったいねえなぁ」

 

 そう言う武に苦笑しつつ、両太ももに差していたスタンバトンを引き抜いた隼人は、最大長まで伸ばしたそれをくるくる回して差し直す。

 

 そして、両ふくらはぎ側面にフレキシブルレールを介して差さっているR.I.P.トマホークを両手に引き抜く。

 

 重量打撃武器を中心に補助武器として手持ち武器を装備した隼人は、脚部に備えた新しい固定武器のアークエッジとつま先、かかとに展開するヒートナイフ、膝の前側からネイルガンよろしく飛び出るバヨネットを確認。

 

「良い装備だ。戦いに幅が出る」

 

 そう言って装備を収めた隼人は、武装を装備したらしい俊達の元へ武達と共に移動する。

 

「そっちはどうだ?」

 

 そう言って三人の装備を見た隼人は、堅実そのものと言った装備構成を見てコメントに困っていた。

 

「さて、各アーマチュラの説明に入るわね。皆沢君達が付けているのは私達が使っていた第1世代型アーマチュラをベースとし、フレーム、そして、機体の動力源たるコンデンサ装甲に複数の改良を加えた第2世代型に当たる機体よ。因みに他に第2世代に当たるのは私の使ってるストラトフェアーだけ。

隼人君達のは第1世代型を第2世代型の技術で改修した第1.5世代型よ。さて、明確な世代分けの基準なんだけど、内部フレームが違うの。通称セカンドタイプと呼ばれる新型の高剛性フレームを採用している機体が、第二世代型。フレームの剛性が上がっている分、無茶も効くし、操縦の即応性も上がってるわ」

 

「内部性能では第二世代の方が上、と言う事か?」

 

「いいえ、むしろあなた達の方が特化している分、発揮し得る内部性能は上よ。ただ、剛性が低い分、操縦追従の限界を迎えるまでが早いのよ」

 

「なるほどな、スペックには影響が無いが酷使する分には影響がある、と」

 

 そう言って頷いた隼人に、咲耶は俊達の方へ歩み寄ると各自の装甲をつつきながら説明を始める。

 

「そう言う事。さて、皆沢君達の機体について、説明しましょうか。皆沢君達、ユニウスに提供した第二世代型アーマチュラは、量産試験型(プロト・マスプロダクトタイプ)の機体よ。第一世代の運用データを基に、量産性を意識した調整とコストダウンを加えた機体がこれら三機よ。

じゃあ、詳細ね。皆沢君と佐本君が使っている近接戦用の『アーマチュラ・ラテラバージョン・セカンド(V2)』、その名の通り、イチジョウ君が使っているラテラの量産型。だけど、ベースは量産性の問題から私が使っていたチェーロよ。

だから後継機と言うよりは、チェーロにラテラのパーツを組み込んだ派生機、と言ったところかしらね。だから、ラテラの様にアンバランスな高性能さは持っていないけど、近接戦で必要な要素はしっかり引き継いでいるわ。

それで、この機体は徒手空拳での戦闘は想定せずに武器を使って戦うことを前提として作ってあるわ。皆沢君のは槍、佐本君のは刀を使って戦う様に調整してあるわ。追加の武器とかは各自で確認してね」

 

「槍に、バックラーか。バックラーにはサブマシンガン……こりゃP90か。お、和馬も同じの付けてんのか」

 

「バックラーは共用装備。浩太郎君の機体のと同じものを使っていて、サプレッサーもついてる。右腕を見てごらんなさい」

 

「ん? 銃口……?」

 

「近接戦で使うスラッグガン。質量圧縮弾を放射して衝撃で相手を固める武器よ。まあ、牽制兼隙作り用の武器と言ったところね。装弾数は五発。ハイショートバレル(極短銃身)だから、接近戦での使用に留めておく事。間違ってもライフルの様な扱い方はしない事ね」

 

「大丈夫だって、要はショットガンだろこれ? 近接戦(CQB)以外じゃ使わねえよ」

 

 そう言って、軽軍神用の外殻を装着した龍翔を背中にマウントした俊の笑顔に、心配そうにしていた咲耶は、彼の隣で軽軍神用の軽機関銃『M31A1』を調整しているシュウの方へ話題を変える。

 

「さて、次はスミッソン君のアーマチュラね。あなたの機体は『アーマチュラ・チェーロV2』、私が使用していたチェーロの量産試験機。但し、こちらは特殊部隊向けの機体だからチェーロをベースにイルマーレのパーツを組み込んでステルス性を付与しているわ。

と言っても、量産性との兼ね合いもあるから感知しにくい程度に抑えてあるわ。頭部のセンサーユニットも、イルマーレの物に、装甲を被せた物に換装してる。だから、チェーロにあった狙撃機構は丸ごとオミット、狙撃能力は低下してるけど、索敵能力は向上しているわ。

これらに加えて新しい拡張装備としてパッケージシステムを搭載、背面や手足に追加装備を搭載する事で機能を追加したり変更したりすることができるわ。デフォルトは、私と同じコンテナシールドを装備したシールドパックを使用しているわ」

 

「シールドコンテナ……。なるほど、バックアップにライフルが持てるのか、ありがたい事だ」

 

「それと腰のホルスターにXM92対物拳銃とコンバットナイフを装備してあるわ。こちらはパッケージが無い状態でも使えるから、有効活用してちょうだいね」

 

 そう言って腰を指さす咲耶に頷いたシュウは、手にしていたM31A1を背面マウントに移すと腰のホルスターからXM92を引き抜く。

 

「アッパーレール付きか。咲耶さん、サイトをつけてもホルスターには入るか?」

 

「サイトによるけど、入るわよ。何かつけたいの?」

 

「近接戦を考慮してレッドドットをな。対人にはオーバーキルだが、対軽軍神となると、これを使う機会は多いだろうからな」

 

 そう言って大口径の拳銃のスライドを引いたシュウは、目を輝かせているハナへマスク越しに苦笑し、彼女へ拳銃を手渡す。

 

 デザートイーグルと同口径でありながら、.50BMG弾を改良した専用のライフル弾を使用する為に拳銃としてはあまりにもバランスを欠いたそれに、ハナは手元を狂わせてしまう。

 

「ひゃあ!?」

 

 思わず取り落としたハナに慌てて銃をキャッチした咲耶は、セーフティを掛けてあったそれに安堵してシュウへ投げ渡した。

 

「50口径でもライフルカート。安易に渡してはダメよ」

 

 そう言って目くじらを立てた咲耶は、ホルスターに納めて肩をすくめたシュウと、その隣で不満そうにしているハナに苦笑する。

 

 そして、最後に持ってきた浩太郎の方へ移動した彼女は、ソフトアーマーの部分がよく見えた前型機と比較してハードアーマーの割合が広がっており、戦闘服と言うよりも現代風にアレンジされた甲冑に近い見た目だった。

 

「次は……」

 

「俺の機体ですよね。確か、カナちゃんの実家が改修を担当してくれた……」

 

「もう、言葉を奪わないでよ。『アーマチュラ・イルマーレ・テサーク』、より浩太郎君専用に改修したイルマーレ。向こうから提出された企画書と設計図から読み解いた限りじゃ、正面戦闘能力の強化が主なコンセプトの様よ。

新しい武装として、手首にブレード、膝にバヨネット、脛にコールドエッジアーマーが、足のかかととつま先に高周波ブレードが追加、こちらからも武装提供をしてサブマシンガンとサプレッサー内臓のバックラーが両腕部に装備されているわ。

そして、一番大きな追加武装は、そうね、背面部の二つ。R.I.P.シリーズの新作二つね。一つは斬馬刀型の術式武装『R.I.P.|バスタードシミター』。もう一つは短弓型術式武装『R.I.P.ボウ』。本来なら選択式なんだけど今回は無理して二つ装備させたわ」

 

「短弓に斬馬刀、前者は僕が要求しましたけど、後者は何故?」

 

「現行開発している武装の中で一番あなたに合った大型兵器だったかららしいわ。抜いて見てご覧なさいな」

 

 そう言って促した咲耶は、自身の目前で柄に手をかけた浩太郎の背から、反射対策でマットブラックに染められた斬馬刀が現れたのを見た。

 

「装甲稼働分のカバーも含めてアシストモーターを外装で追加していて、内臓モーターも改良されているからかなりトルクアップしているわ。そのトルクなら、取り回すにも楽でしょ?」

 

「ええ、まあ。片手でも違和感がないくらいには……。ですけど、正直扱いきれる自信はありませんよ」

 

「初めはそう言うものよ。さて、もう一つの方も展開してみて頂戴な」

 

 腕を組み、その上に目を引く大きさの胸を乗せた咲耶に促され、バスタードシミターを収めた浩太郎は空いた手に弓を掴むと手首のスナップで展開した。

 

 バタフライナイフの様に展開した弓は、自動展張で展開した弦を渡し、調律をオートで行って発射可能状態へと移行した。

 

「高トルク型のショートボウ……。パワードスーツ用に強めに設定してくれてるんだ。矢筒は座標固定式の空間固定追従型、今あるのは徹甲矢、榴弾矢、消音術式矢かぁ……」

「矢って言うより槍じゃねえかその長さ……」

 

「こっちの矢は対軽軍神用だしね。元々暗殺用だから飛翔速度は出てもせいぜい亜音速(サブソニック)だし、それ位の速度帯なら、これ位の大きさがバリアに負担をかけやすいから」

 

「それでもこんなもんにぶち抜かれりゃ体真っ二つだぞ……」

 

「そう言う武器だから。射程は……ライフリング術式込でも、せいぜいが1㎞かなぁ。イルマーレのセンサーは精密狙撃向きじゃない広域偵察用だし、狙いつけるにも結構辛いんだよね」

 

 そう言って同期している照準を虚空に向けた浩太郎は、宙に浮かんでいるロックオンサイトの端にライフリング術式の待機を確認する。

 

「一撃、放っても良いかな咲耶さん」

 

「ええ、良いわよ」

 

「ありがとう。じゃあ、一撃だけ」

 

 そう言って手のコネクタと弓のコネクタを接続させた浩太郎は、本格的な接続に伴い再起動した火器管制システム(FCS)と弓のセンサーユニットが同調し、軽く速度を上げたターゲットサイトが宙を走る。

 

 腰の矢筒から徹甲矢を引き抜いた彼は、弦に矢尻を引っかけると一気に弓を引き絞り、矢の先端から術式陣が展開、絞り形状を模る段階的な陣はまるでバレルの様に伸び、浅く回転を始める。

 

《ライフリング術式:低強度:起動完了》

 

「ッ!」

 

 鋭く尖った呼吸の後に矢を放った浩太郎は、陣を潜り抜けた矢が浅く回転し、ジャイロ効果で直進性を保ちながら直進して抉る様に的をぶち抜いた。

 

 薄いベニヤ板製の的を撃ち抜いた矢は、板を真っ二つに割って宙へ抉り飛ばすと、クッション材の金属板に数センチ突き刺さった。

 

「凄い……」

 

「まあ、向こうには600mで鬼人族の筋肉を撃ち抜ける威力ってオーダー出してたからね。それでも、使える場面は限定的だ」

 

「使える場面?」

 

 そう言って武達と共に弾痕を見ていたカナに苦笑しながら、弓を折りたたんで背中に回した浩太郎は、改造前から使用していた武装の点検を行う。

 

「うん。これは所謂スナイパーライフルみたいな物だからね。不意打ちで使用するのが前提、見つかった状態で使うには不利な武器だよ」

 

「リーヤと同じ?」

 

「そうだね。だから、それさえあれば良いって訳じゃないかな」

 

 そう言ってXM92のボルトを落としてホルスターに納めた浩太郎は、ヴェクターを手に取ると、全身に装備した予備マガジンを確認して初期弾倉を込め、側面のボルトリリーサーを叩いた。

 

 カチンと言う音と共に、一発が込められ、それを聞いてビクンと体を跳ね上げたカナに苦笑した浩太郎は、ワイのワイのと盛り上がっている隼人達を見ながら準備を進めていく。

 

「皆、楽しそう」

 

「ここの所、忙しかったからね。こう言う日には皆、羽を伸ばすさ」

 

「うん……」

 

 そう言って、俯きながら一か月間の間に二件も大きな仕事があった事を思い返したカナは、準備が終わった浩太郎に頭を撫でられる。

 

「頑張ってたよね、カナちゃんも」

 

 そう言って彼女を抱えて歩き出した浩太郎は、嬉しそうな彼女に自然を笑みを零していた。

 

「お待たせ、隼人君」

 

「バカ騒ぎしてただけだ、気にするな。さて、時間も来た事だ。そろそろ始めるぞ」

 

 クルクルとククリナイフを弄ぶ浩太郎にそう言って金属音を鳴らしながら歩いた隼人は、それぞれの班に分けて指導を開始させた。


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