僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

65 / 113
第9話『昼食』

 ボロボロになったアキホに苦笑した隼人は、額の汗を拭うといつの間にか集まっていた面々を見上げて時計を確認する。

 

「少し早いが、昼食にするか?」

 

 そう呼びかけた隼人は、頷く面々が見える中で二人だけ拒否の姿勢を見せた美月と和馬に目を丸くし、スタンドから降りてきた彼らに俊達共々、顔を見合わせた。

 

「もう少し時間があるじゃない。ちょっと、模擬戦をしないかしら、隼人」

 

 そう言って笑う美月にその場にいた三人が驚愕し、アキホの介抱をしていた香美が状況を掴めずに目をぱちくりさせていた。

 

「俺は別に構わないが……和馬もか?」

 

「え、あ、ああ。俺もなんだが、まあ、ミィ優先で。様子見てからやらせてもらうよ」

 

「そうか、じゃあ、美月からだな。ハンデは?」

 

 そう言いながらボストンバッグの方へ歩み寄った隼人は、少し嫌そうな和馬の隣で首を横に振った美月に苦笑しつつ頷きを返す。

 

 そして、バッグからアサルトフレームを取り出した隼人は、美月の目の前で装着すると、久しぶりの起動をしたそれを動かして調子を確かめる。

 

「こっちの準備はいいぞ、美月」

 

 そう言って壇上に上がった隼人は、ヒノキでしつらえられた様に見える居合刀を手に、舞台へ上がってきた美月に少し気を引き締める。

 

「やりましょう、隼人。和馬、合図お願い」

 

 そう言って腰の柄に手を添えた美月は、フレームに包まれた隼人の体を見据えると和馬の合図と共に飛び出してきた彼に腰の一刀を振るった。

 

 瞬間、鋭い斬撃と衝撃がアサルトフレームを襲い、それを予見していた隼人はその衝撃を利用して飛び退くと、踏み込みつつの斬り返しを弾いて一度距離を取った。

 

「……なるほどな」

 

 そう呟きながら、構えた隼人に対し、鞘に刀を収めて居合いの準備をした美月は牽制代わりの二撃でそう呟かれた事に警戒しつつ、常に勢いを溜めていた。

 

 迂闊に放つと不味いのは隼人に限った話ではないが、彼に限っては特に警戒すべきだと美月は内心で呟く。

 

「どうした、来ないのか?」

 

 そう言って挑発する隼人に美月は涼しい顔を続けるが、瞬間、飛び込んできた彼に度肝を抜かれ、一瞬の躊躇の後に刀を抜いた。

 

「ブースト!」

 

 一気に距離を詰めた隼人は、無意識にバックステップしていた美月の鳩尾に肘打ちを打ち込む。

 

 吹き飛ぶ彼女にサイドステップに移った隼人は、袈裟掛けの居合いを回避すると、振り子運動のステップで美月に迫る。

 

「金行、放射!」

 

 そう言い放ち、左手から拡散した光を放出した美月は、散弾の如く散らばったそれを大きく回避する隼人に居合いを構えて弾き飛ばした。

 

 フレームで受けて吹き飛んだ隼人は、空中で姿勢を制御して着地すると、両手にアークセイバーを引き抜いて逆手に構えた。

 

「やるな」

 

 そう呟いて、ニヤリと笑った隼人はスラスターで距離を詰めつつ、術式をアークセイバーで受け止めながら迫る。

 

 逆流で焼き付く寸前のセイバーの出力を、コントロールしながら接近した隼人は、引き寄せる様に縦斬りを放つと抜き身の状態の刀と打ち合う。

 

「剣術なら!」

 

 そう言って圧しに来た美月に即座にパーリングした隼人は、そのまま彼女の脇を潜ると、右のセイバーを投擲して美月の追撃を阻む。

 

 そのまま、彼女目がけて低空の飛び蹴りを繰り出す。

 

「ッ!」

 

 両腕で受け止めた美月は、重く響く蹴りに表情を歪めると、左腕から術式を放出して弾き飛ばした。

 

 スラスターで相殺した隼人は、相殺の勢いそのままに膝蹴りを繰り出す。

 

 そして、ハンマーブロウからの打ち下ろしで美月を地面に叩きつけた。

 

「ぐッ!」

 

 ポイントアーマーの作用で顔面強打せずバウンドした美月は、顎を狙って蹴り上げてきた隼人に脳を揺らされ、地面に沈んだ。

 

「ヴおー……えっぐ」

 

 流石に顎狙いは引いたのか、外野で引いていた和馬は気絶した美月を担ぐと、申し訳なさそうな隼人に苦笑しつつ、運んでいく。

 

「あ、和馬、やるか?」

 

「いや、良いよ。それにそろそろ良い時間だ。早いとこ飯にしねえと女子連中がやかましいぜ?」

 

「ああ、それもそうだな。飯にするか」

 

 そう言って、模擬戦場を後にした隼人は、和馬達と共に部室の方に戻ると、上官三人がそれぞれノートパソコンと面向かって作業していた。

 

「あ、おかえりなさい。ああ、邪魔ですよね、すぐどきますから」

 

「あ、ああ。ありがとうございます、城嶋さん」

 

「いえいえ、どういたしまして。あ、お昼ご飯にするの? じゃあお茶煎れるね」

 

 そう言ってパソコンを片付けるついでに電気ケトルの方へ歩いて行った三笠に、弁当箱を置いていた隼人があっとなる。

 

「大丈夫だ、三笠姐さん。俺が煎れるから。アンタは上司なんだ、しっかり座って待っててくれ」

 

「え、う、うん。ありがとう、日向君」

 

「俺らの隊長が、そこらへんうるさいからな。な、隼人」

 

 そう言って隼人の方を見た日向は、三笠を席に戻すと少し照れくさそうな彼に微笑を向けてケトルからポットに湯を注ぐ。

 

 その間に机や椅子の用意の指示を出した隼人は、喧嘩しているシグレとレンカを摘み上げて邪魔にならない位置に投げると二人からの反撃を背中に受けながら作業をしていた。

 

「さ、食うかね」

 

 そう言っておにぎりを手に取ったカズヒサは、隼人からインスタントの味噌汁を受け取り、上機嫌で一口頬張った。

 

 その様子を隣で見ていたアキナに気付いたカズヒサは、おにぎりにしどろもどろしている彼女の口に軽く押し込んだ。

 

「食ってみな、不味いもんじゃねえからよ」

 

 そう言ってアキナに食べさせたカズヒサは、マイペースに食べている年下のメンツを見回すと警戒心が強い彼女の性分に苦笑した。

 

「お前は相変わらず都会っ子気質だなぁ。あっはっは」

 

「それ、どう言う意味」

 

「極端じゃねーにしろ、潔癖症だってこったよ。見てみろこいつらを。もぐもぐ未知の食いもん食ってるじゃねえか」

 

 そう言って俊たちを指さしたカズヒサは半目で返してくる彼らにうっと詰まる。

 

「あのよ、兄貴。ユニウスは半数が新日本出身だぞ流石におにぎりぐらい食わせてるっつの」

 

「約一名凄まじいのを作ろうとした奴がいたがな」

 

「ああ、そうだな」

 

 そう言ってミウの方を見た和馬とシュウは、ぽえっとした様子でおにぎりを食べている彼女が彼らを見て首を傾げているのを見て揃ってため息をついた。

 

「そんなに美味しくなかった~?」

 

「塩味強すぎるんだよ」

 

「えー、だって薄いんだもん」

 

「死海の水食ってる気分だったぞあのおにぎり」

 

「って言うか和食って全部味薄いよね。パンチがない」

 

「和食にパンチ求めてどうすんだ」

 

 冷静に突っ込んだ和馬に悪びれない様子のミウは、もしゃもしゃおにぎりを食べていた。

 

「さてと、食いながらで良いから聞いてくれ。午後からは応用編になる。最初は個々人に向けた基礎戦術指導、後半は実践的な模擬戦闘になる。アキホは俺、浩太郎、美月、和馬が担当。香美はリーヤ、ナツキ、シュウ、ハナが担当だ。

まあ、ここで呼んでいない連中も、あくまでも主担当の教官ではないだけで出番はある。指導に関わる積極的な発言も歓迎する。二人の為に、良い指導をしてやってくれ」

 

 そう言って穏やかにしめた隼人は、拍手も何もない面々に若干の哀愁を漂わせつつ着席した。

 

「取り敢えず午後からは午前の比じゃねえぐらい動くからな」

 

「ふあい」

 

「食いながら返事するな。じゃあ、教官組、聞いてくれ。午後のメニューだが、アキホに白兵と格闘戦の技術指導と近接射撃も織り交ぜた総合的な戦闘訓練を、香美には情報戦と中遠距離での射撃戦、ショットガンなどを用いた室内戦などの射撃武器を使った戦闘訓練を行う」

 

「香美ちゃんにだけ詰め込み過ぎじゃない?」

 

「当たり前だ、お前は純粋なアタッカー、香美はお前との連携を想定しつつ、色んな事をこなすマルチタスクとして育成しようと思っている。香美の方が科目は多いが、その代わりお前には集中講義を受けてもらう」

 

 そう言って訓練メニューを表示した隼人は、時間数の変わらない予定表を見て愕然とするアキホの頭を軽く叩くと、その場にいる全員に予定表を送信する。

 

 と、同時、窓の方が騒がしくなり、ガタガタと物音を立てる。

 

「あん?」

 

 窓際の武が、Mk48を手に取って様子を見に行くとグラウンドに一機のティルトローター機が着陸しようとしていた。

 

「何だあれ……。今日なんか来るのか?」

 

「ああ? 何だ、見せてみろ。あれは……立花グループのロゴマークか」

 

「ってことは姐御が?」

 

 そう言って隼人の方を振り返った武は、ティルトローター機に視線を戻そうとして目の前に現れた咲耶に仰天した。

 

「うぉお!? 姐御!?」

 

「うふふ。びっくりした?」

 

「あ、当たり前だろ!? 普通空から人は来ねえよ!」

 

 そう言って、上げていた銃口を下ろした武は、頭部にヘッドギアを装備し、装甲を包まれて空中浮遊をしている咲耶の姿を見る。

 

 ニコニコ笑っている彼女は一週間前の救援時に装着していたアーマチュラを装備しており、操縦者の一部が露出する様な設計の機体には白色と青色のツートンにスカイブルーをアクセントに使ったカラーリングで染められていた。

 

 背面には、青色の装甲でカバーされたウィングスラスターとアームが装備され、アーム先端にはシールドコンテナが装備されており、その広大な投射面積はウィングスラスター共々制動翼として利用するような設計となっている様だった。

 

「皆、ちょっと時間をもらえないかしら? 下に来て頂戴な」

 

 そう言って下へと降りていく咲耶に呆気に取られていた隼人達は、彼女に言われるがままに下に降りると、私服であるらしいジーンズと七分袖のTシャツを身に着けた咲耶がアーマチュラで低空ホバリングしながら近寄ってくる。

 

「ふふっ、皆お久しぶり」

 

「何の連絡も無しに来るとは言うつもりだアンタ」

 

「届け物よ、二人とも、そして、ユニウスの三人。隼人君、浩太郎君フレームは持ってるわね?」

 

「まさか……」

 

「ええ、そうよ。新型アーマチュラのプレゼント。隼人君達だけじゃなく、俊達にもね」

 

 そう言って、手にしていたボストンバッグ三つを下ろした咲耶は、隼人と浩太郎にデータチップを投擲する。

 

「前に言っていた最新型か。だが、俊達にもあるのは予想外だったぞ」

 

「ええ、まあ前の段階じゃ供与するって決まってなかったから。ね、カズヒサさん」

 

 意外そうな顔で驚く隼人越しにそう言って、ニコッと笑った咲耶は、笑い返してきたカズヒサに注目する全員を見回す。

 

「戦力供与、助かるぜお嬢さん。アンタらのとこの新装備は、この前の模擬戦で見る限りかなり有用だからな」

 

「こちらとしても、国連軍にテストをしていただけるのを光栄に思ってます」

 

「良いビジネスチャンスだろ? お嬢さん。良い広告にもなるしな」

 

「ええ。そうですね、ケリュケイオン共々」

 

「はっはっは。素直だなぁ。嫌いじゃねえぜ、そう言う奴は」

 

 そう言ってゲラゲラ笑ったカズヒサは、彼を前にやり難そうな咲耶を他所にボストンバッグを担ぐ俊達の輝いた眼を見回す。

 

「さ、お嬢さん。こいつらをそのアーマチュラとやらの場所まで連れて行ってやってくれ。俺らはまだ仕事があるんでな」

 

「分かりました。じゃあ、皆。必要なものを持って付いてきてちょうだいな」

 

「おう、行ってらっしゃいだ」

 

 そう言って部室に戻っていくカズヒサ達を見送った咲耶達は、後方支援科棟の方へ移動して行った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。