僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第7話『訓練開始・突破訓練』

 それから数十分後、四時間目の訓練の方に移動したアキホ達は、案内役のシュウ達に通された迷路の入り口のような場所に、二人して首を傾げていた。

 

「あー、えっと。シュウ兄、私ら何すればいいの?」

 

「ん? ああ、この迷路を突破してもらう。ああ、武装していけ」

 

「何で!?」

 

「待ち伏せしてるからな、お前らに会ってないメンバーが」

 

「会って無いメンバー……げっ、兄ちゃん」

 

 そう言って肩を大きく落とすアキホに、何かを考え始めた香美は、覚悟を決めて準備を始める。

 

 メイン武器にMP7サブマシンガンを装備し、サイドアームにPx4を選択し、ツールとしてピッキングツールとナイフ、そして破壊用爆弾(ブリーチングボム)三種類。

 

「はれ、アキちゃん爆弾持ってくの?」

 

「うん、今地図貰ってみてるけど使う場面が出て来ると思うから」

 

「ほぇー、じゃあ私どうしようかな。入り口見る限り、ポン刀持ってくスペース無いもんねぇ。持ってくなら短刀かな」

 

 そう言って短刀二振り、コンバットナイフとPx4を腰につけると、太ももと腰に予備弾倉を装着する。

 

「何か狭いねぇ」

 

「うん、多分近接戦闘(CQB)フィールドだと思う」

 

「やだねぇ、狭い所。のびのびと戦いたいなぁ」

 

「そうしたいけど、たぶん、この科目は狭い所を抜ける訓練だと思うから。あ、アキちゃん移動の時、あんまり大きな音立てない様にしてね」

 

「へ? 何で?」

 

 きょとんとして首を傾げたアキホに、香美の地図を広げて持って来ていたボールペンで移動ルートを引いていた香美が、丸しているポイントを指さしながら言葉を続ける。

 

「隼人さん達は多分、音で奇襲してくるから。足音抑えないとすぐばれるよ」

 

「あー、確かに兄ちゃん達って耳とかやったら鋭いんだよねぇ。抜き足差し足で歩いてもすーぐ気付いちゃうし」

 

「うん、だから多少は仕方ないけどなるべくね」

 

 そう言って地図の確認を終えた香美が畳むのに合わせて一回バク宙したアキホは、個人的な気合を入れると、腰から左手にコンバットナイフを引き抜いて構える。

 

 右手に拳銃を抜いて左手と交差させる様に構えると、肩に手を置いた香美に視線をやり、頷いて前進を開始する。

 

「クリア」

 

 入り口から伸びた先のT字路で左に誘導されたアキホは、背後をカバーする香美にそう告げると、後ろを警戒する香美と背中合わせになりながら移動をし、分岐路を右に曲がる。

 

 行き止まりが見える道でアキホを一旦止めた香美は、壁を叩いて厚みと向こうの様子を確認すると、一歩離れて銃を構えた状態で目を緑色に変えて術式を発動する。

 

「『エリアスキャニング』」

 

 すると、壁の向こうが透過して香美の視線に映り、誰もいない事を確認した彼女は、壁に小型のブリーチングボムを仕掛ける。

 

「アキちゃん、離れて。爆破するから」

 

 そう言ってアキホを離した香美は、腕につけたインターフェイスを操作して壁を爆破する。

 

 瞬間、音に気付いたらしい誰かが動くのを気配で察したアキホが、遠い曲がり角に見えた人影に発砲して香美の背中を叩いて走らせる。

 

「ゴーゴーゴー!」

 

 前に銃口を向けながら走った香美は、目の前に現れた小柄な人影に発砲し、狭い通路に無数の弾痕を穿ちながら、距離を詰めていく。

 

 姿勢を落としながらマガジンを落とした香美は、スライディングで減速しながらリロード。

 

「貰いましたよ香美っ!」

 

 そう言ってG18を構えたシグレに、香美の背後から捻りを加えながらのバク宙で庇ったアキホが、発砲しながらシグレとの距離を詰める。

 

 角から現れた隼人に横ロールして発砲した香美は、同じ様に出てきた俊も牽制すると、腰からスモークグレネードを引き抜いて二人の目の前に投擲する。

 

 両脇の壁にブリーチングボムを仕掛けて、シグレと格闘戦を行っているアキホの端末へ下がる様にメッセージを送って、単発でシグレを牽制してスモークを投擲する。

 

「爆破!」

 

 仕掛けた地点を同時に爆破し、アキホと共に逃げた香美は、二手に分かれたらしいシグレと遭遇してフルオート射撃を浴びせる。

 

 その間にボムを仕掛けたアキホは、香美の肩を叩いて援護する様に伝えると、香美はセミオートに切り替えて発砲して、素早くリロードする。

 

「ブリーチング!」

 

 壁を吹き飛ばした香美は、破った先で待っていた浩太郎に振り返って発砲して牽制するとアキホの状況を確かめる。

 

 体格差で圧倒し、シグレを投げ飛ばしていたアキホの状況を確認した香美は、彼女にフラッシュグレネードを使用し、合流する様に指示して浩太郎の攻撃を撃ち落とす。

 

「やるね、香美ちゃん!」

 

 そう言って笑いながら、トマホークを構えた浩太郎に、ストックを展開したMP7を構えた香美はセミオートに切り替えたそれで、振り下ろす瞬間のトマホークを迎撃していた。

 

 その間に合流したアキホが、指示通りの合流方法で拳銃を収めた腕で、香美をかっさらうと、出口に向けて全力で逃げ出す。

 

 だが。

 

「あっれ、地図と違くね!?」

 

 逃げ込んだ先は、地図に無い、広々としたホールだった。

 

 突然の事に戸惑うアキホに止まらない様に叱咤した香美は、直後放たれたライフル弾の掃射に頭を引っ込めると、軽機関銃の物であるらしい発砲音から隠れながら、出口を探していた。

 

「げっ、香美ちゃん!」

 

 慌てて香美の背中を引いたアキホは、引いた位置に撃ち込まれたライフル弾に血の気を引かせると、追ってこない隼人達に違和感を覚えていた。

 

(このホール内だと何処にいてもスナイパーライフルの射程内に入っちゃう……)

 

 そう思いながらMP7を構えた香美は、出入り口で待機している隼人達を見つけると、そちらに向けて牽制射撃を加える。

 

「うっひぃ、万事休すかぁ」

 

 そう言って茶化すアキホに苦笑した香美は、そう言えばと何かを思い出してうつ伏せに寝ている彼女にサインを送る。

 

 がばっと顔を上げたアキホに、大型のブリーチングボムを見せた香美は、意図を察した彼女が、ハンドスプリングの体勢に移っているのを見てボムを投擲した。

 

「爆弾を、相手にシュゥウウッ!」

 

 ハンドスプリングからの超エキサイティングなオーバーヘッドシュートを決めたアキホは、ギョッとなっているシュウ達にピースサインを送ると、空中で大爆発を起こしたそれが三人を吹き飛ばす。

 

 その間に着地したアキホを連れて出口へと駆け抜けるアキホは、あっ、となって出てきた隼人達へ、最後のスモークグレネードを投擲してかく乱すると、アキホを背中で押す様に移動させてドアを開けさせた。

 

 瞬間。

 

《キル判定:アキホ・イチジョウ:香美・トツカ》

 

「へ?」

 

 無慈悲なアナウンスに二人してぽかんとしていると、馬鹿にした様な間抜けな音を立てて開いたドアに、模擬戦用のトラップボムが仕掛けられていた。

 

 センサー感応式のそれが、赤いLEDライトをピカピカと明滅させており、作動している事を二人に示していた。

 

「だぁーっはっはっは!」

 

 大きな笑い声が背後から聞こえ、そちらを振り返ったアキホと香美は、槍を担いで歩いてきた俊がゲラゲラ笑っているのを見て、二人してすごく嫌そうな顔をしていた。

 

 そんな二人を見て俊の脇を肘で軽く突いたシグレは、悶絶する彼に慌てて介抱に移り、それを横目に見た浩太郎と隼人が、二人を詰りながら歩み寄ってくる。

 

「案の定引っかかったな」

 

「え、何そのリアクション」

 

「お前らの性格からすれば、上から撃たれて挟まれてりゃ焦ってクリアリングミスするだろう、って大方の予想でそこに爆弾をつけた。儲けにもならん賭けだったがな」

 

「えっ、賭けてたの?!」

 

「20対1だ。お前らに期待してた城嶋中佐に感謝しろよ」

 

 そう言って二人の頭を軽く叩いた隼人は、後ろで微笑を浮かべている浩太郎の方を振り返る。

 

「さて、今回の動きについての評価だが、香美、お前の働きが大きい。あの戦術は予想外だった」

 

「え、壁ぶっ飛ばしてくるって予想できなかったの?」

 

「ああ、そうだ。悔しいがな。普通やらないし、香美が逃げの一手でルートを組んでいるとは考えていなかったからだ」

 

 そう言って苦笑気味に腕を組んだ隼人へ、意外そうな顔をしたアキホは、その隣で照れくさそうに笑っている香美の頭を撫でた。

 

「要は逃げ切り勝ちだ。ここは突破すればいいだけだからな」

 

「あー、なるほど。無駄に戦って消耗するよりとっとと逃げてしまった方が良いもんね」

 

「そうだ。そして、彼我の戦力を見た上で退くと言う事は、これから戦う上で非常に重要になる。退くのが上手い奴は一番戦いが上手い。俺はそう思っている」

 

「戦上手って事かぁ。よかったね香美ちゃん」

 

「だが、それ以上に評価すべきはアキホ、お前の能力だ」

 

 そう言って指さしてきた隼人に、首を傾げたアキホは、恥ずかしそうな彼に半目を向けると言葉を待った。

 

「お前は、この科目の中で香美とのコンビネーションを見せてくれた。そして、狙撃を察知した勘と動体視力。お前にも評価すべき点はある。香美だけじゃないぞ」

 

「えっへへ~。それほどでも~」

 

「さて、ここからは、二人が反省すべき点だ」

 

 そう言って話題を変えた隼人は、ぴしりと固まったアキホ達に苦笑すると、映像記録を呼び出した。

 

「まず第一は、ブリーチングを使いすぎだ。今回は二人だけだったから良かったものの、味方と連携を組んでいる状況で多用すると誤爆のリスクが高まるぞ」

 

「あっ、確かに……。最初はスキャニングで確認していましたが、途中からはあまり……」

 

「それと、二つ目になるが、香美、お前はスキャニングをあまり使わなかったな?」

 

「あ、はい……。あれは使うのに慣れてなくて」

 

「ああ、それはわかっている。だが、もったいないと思わないか? スキャニングを使用すれば壁の向こうで待ち伏せている相手を一方的に狙撃できる。圧倒的なアドバンテージになるぞ」

 

 そう言って熱弁する隼人に目を輝かせた香美は、隣で白けた目をしているアキホに気付いて体をちぢ込めた。

 

「さて、次だが。アキホ、お前についてだ。お前は香美に依存しすぎているきらいがある。あまり良い傾向じゃない。戦うだけじゃない事についてもできる限りでやるのが戦場での動き方だ」

 

「えー、時間稼ぎとかしてたんだけど」

 

「それは別に良い。それしかしてない事の方が問題だ」

 

 そう言って半目になる隼人にぶー垂れるアキホは、苦笑している浩太郎に救いを求める目を向けた。

 

 が、あまり何もしていなかった彼は、手持ち無沙汰にトマホークをジャグリングして遊んでいた。

 

 むやみに突っ込むと何されるか分からなかったアキホは、浩太郎の周囲を跳ね回るトマホークを見つめていた。

 

「さて、後の時間は格闘訓練でもするか。お前らにみっちり叩き込んでやる」

 

 そう言って笑った隼人に負けじと、笑って見せたアキホは、その瞬間、参加チームの目が輝いているのを見逃さなかった。


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