僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第4話『訓練開始・格闘訓練』

 次の訓練である格闘訓練の部隊となる第一模擬戦場は、スタンダードなアリーナタイプの模擬戦場で、特定環境に関わらない基礎を教え込む為に作られた施設だ。

 

「さて、次の訓練へようこそ。お二人さん、ここの教官は私達が務めさせてもらうわ」

 

 そう言って微笑んだ美月の背後、武器を収めたコンテナを背負って来た楓と和馬、日向が負っていたそれを地面に叩きつける様に下ろし、それと同時に解放式のそれが観音開きに開かれた。

 

「武器を用意したわ。槍から剣、ナイフまで。好きな物を使ってちょうだいな」

 

 そう言って、レンタル用の武器を両腕で指した美月は、我先にとコンテナにある長刀二つを手にしたアキホに苦笑する。

 

 腰のマウントシステムに長刀の鞘をマウントしたアキホは、サイドアームの短刀を背面側の腰にマウントして軽く動き、装着の調子を見る。

 

 一方の香美は、コンバットナイフ、マチェットとトンファーを選択し、ナイフは腰にマウントしてトンファーを手に持っていた。

 

「トンファー? 珍しいものを選ぶわね」

 

「え、えっと……使い慣れてますので」

 

「使い、慣れてる? 香美ちゃん、あなたご実家の家業は?」

 

「実家は……要人警護兼従者を、やってます」

 

「なるほどねぇ、それならその武器の方が使いやすいわね」

 

 そう言って腕を組んだ美月は、おどおどとした香美に、クスリと笑うと、手にした杖刀をくるっと回して和馬達が待つ場所へ移動する。

 

「さて、この訓練じゃ二つのコースがあるわ。まずは、基本的な動き方を学んでから私達の誰かと模擬戦をする基礎コース。もう一つは最初から本気の模擬戦闘をしてその後アドバイスを受ける上級コース」

 

 そう言って仮想現実に二つの選択肢を投影させた美月は、それを携帯端末の神経接続で見ているであろう二人の反応を待つ。

 

「はいはいはい! 私、上級コース!」

 

「じゃ、じゃあ、私も上級コースで」

 

 そう言って二人ともが上級コースを選んだ事に驚いた美月は、後ろで闘志を燃やす楓と、心配になっている日向と和馬の方を振り返る。

 

「じゃあ二人共、準備してちょうだいな」

 

 そう言ってその場を後にした美月は、楓達を巻き込んで対戦カードを相談する。

 

「最初、誰が出る?」

 

「出るって言うかどうやってやんだよ、一人ずつか?」

 

「うーん、そうねぇ。一人ずつやりましょうか。最初は、アキちゃんと……」

 

 そう言った美月は和馬達を見回してやる気満々の楓と目が合った。

 

「楓、あなたがやる?」

 

「うんっ! 暴れたい!」

 

「そう、なら良いわ。一番手は楓、次は香美ちゃんの相手、誰がやる?」

 

 そう言って見回した美月は、手を上げた和馬に意外そうな顔をするとやや不満げな彼に苦笑気味に謝った。

 

「和馬、やるの?」

 

「香美って子の戦闘スタイル、気になるんでな。それに、やり合うのに二刀流続きじゃ、飽きちまうだろ?」

 

「ええ、見せてあげなさいな。佐本一刀流の実力をね」

 

 そう言って和馬に微笑んだ美月は、苦笑する日向とその様子を見て不思議そうにしている楓に頬を染めると俯いた。

 

「と、とにかく、始めるわよ」

 

 そう言って楓を送り出した美月は、一歩早く位置についていたアキホと彼女の間に立つ。

 

「じゃあ、二人共、準備は良いわね?」

 

 そう言った美月は、ニヤリと笑いながら腰に手を回す二人が放つ殺気を肌に感じつつ、開始の号令を放つ。

 

「始め」

 

 そう言うと同時にバックステップした美月は、真っ向から激突した二人からの余波を防ぎつつ和馬達の元へ走って戻った。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 美月達が見守る中、戦闘を開始したアキホは両手に引き抜いた長刀二振りに伝わる衝撃のノックバックから瞬間的に戦術を切り替え、パーリング主体で立ち回った。

 

 一方の楓はそう来る事は容易に分かっていたので、弾き逸らしを利用ながらすれ違い様の斬撃を浴びせてアキホを吹き飛ばしていた。

 

「ッ!」

 

「は―君の真似してちゃ勝てないよ!」

 

「なら!」

 

 瞬間、加速したアキホの腕に驚愕した楓は、宙に走った剣閃を正確に捉えて防ぐとその中で光を纏わせた右の刀身を捉えた。

 

「切り裂け、セイクリッド・ブレイド!」

 

 目の前にいるアキホがレンカの術式を行使した事に驚き、一瞬反応が遅れてしまった楓は身体強化を併用してその場を離脱する。

 

 そして、その隙を逃さんとばかりにアキホが距離を詰めにかかり、逆手に変えた左の長刀をガードにした彼女にニヤッと笑った楓は、両刀に炎を纏わせながら振り回す。

 

 炎の色に一瞬怯んだアキホは、目の前を振り薙ぐ炎刀に歯を噛んで距離を取ると、ムラサメマルを突き出して突っ込んできた楓にパーリングを放つ。

 

 それこそが、失敗であったとは夢にも思わずに。

 

「爆ぜろ、村雨」

 

 瞬間、水蒸気爆発に吹き飛ばされたアキホは、ノックバックで横に軌道をずらした楓が着地すると同時に村雨丸を一度回して鞘に納めた。

 

 刃にこびり付いた魔力を削り、刃を研ぐ鞘に村雨丸を収めた楓は、咳き込むアキホにニヤニヤ笑い、一刀残した威綱を構えた。

 

「アキちゃん、どったのさ、最初の威勢は」

 

「ぅ……。カエ姉遠慮無さすぎ……。げほっ」

 

「まー、遠慮なくやって良いって言ってたからねっ」

 

 そう言って挑発した楓に、ムッとしながら立ち上がったアキホは、一刀流で攻めかかって来た彼女の速度に引き気味に受け止める。

 

 その後に刀の軋みと共に激しい共振を手首に受ける。

 

 刃越しに戦闘狂の笑みを浮かべる楓を睨み返したアキホは、膝蹴りを放とうとするもそれよりも早く片手を掌底に変えた彼女に殴り飛ばされた。

 

「ぶへ!」

 

 鼻血を流しながら転がったアキホは、下段に溜めながら斬りかかってくる楓の一閃を左の一刀で流す。

 

 そして、彼女の腹を蹴り飛ばし、右の刀に光を纏わせて突きの動きで放った。

 

「貫け、セイクリッド・アロー!」

 

 牽制目的で放った一撃を回避した楓が、手にした威綱で捉えがたいほどの連打を繰り出し、アキホは寸での所で弾き逸らした。

 

 その時、彼女は、楓が持っている威綱に光が宿っているのに気が付いた。

 

「解き放て、威綱」

 

 ニヤッと笑った楓がそう唱えた瞬間、音速の振り抜きと同時に凄まじいインパクトが放たれ、アキホが構えていた両手の刀が、斬り砕かれる。

 

 刃を失った柄を手放したアキホは、腰の短刀を逆手で掴むと、交差の動きで両刀切りを放とうとする。

 

「ちぇいさァ!」

 

 それを食らう前に蹴り飛ばした楓は、右に構えていた威綱を振り回し、曲芸の様に左に持ち替えて構え直して、空いた右手で挑発する。

 

 右だけ順手に直して挑みかかったアキホは、刀の間合いに入る直前、左腰に手を回した彼女に舌打ち。

 

 スイングも加えた居合切りを跳躍して回避すると楓の背中を足場に離脱する。

 

「エンチャント!」

 

 そう唱え、足場を蹴ったアキホは、身体強化で加速した体を疾駆させてがら空きの背中を晒す楓に短刀を突き出す。

 

 ポイントアーマーに直撃し、数値化された体力が削れ、舌打ちした楓が肘打ちでアキホの側頭部を打撃して脳を揺らす。

 

 引き抜いていた村雨丸の強烈な突きでアキホを吹き飛ばした。

 

「ッ!」

 

 滑空からの空中転回で着地したアキホは、ポイントアーマー越しの痛みでスイッチが入ったらしい楓の狂気に満ちた笑みの目を見て怖気づいた。

 

 恐らく楽しんでいるのであろう楓だったが、戦い慣れていない秋穂からすれば、彼女が見せる技の本気ぶりは恐怖でしかなった。

 

「来ないの? アキちゃん」

 

 そう言って笑う楓に歯を噛んで頭の中で整理をしたアキホは、頭から消え去った戦闘技術に戸惑い、必死に思い返そうとしていた。

 

「ボーっとしちゃ駄目だよ!」

 

 そう言いながら攻めかかった楓に邪魔され、慌ててバックステップしたアキホは、捻りつつの回転切りを回避する。

 

 そして、叩き付けられた左を抑えた状態からの蹴りを、顔面にぶち込んだ。

 

 鞭で叩かれた様な快音が走ると同時に、足場にしていた手が無理矢理に振り上げられてバランスを崩してしまい、空中でくるくると回転して蹴り飛ばされる。

 

「ッ!」

 

 地面でバウンドし、リングギリギリまで飛ばされたアキホは、自由が利かなくなった体目がけて投擲された刀に弾き飛ばされ、ポイントアーマーを全損しながら場外負けを迎えた。


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