僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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エピローグ『鏡写し』

 それから三日後、深夜二時。

 

 新アメリカ・ニューバージニア州、移設されたDARPAの研究施設があるそこの一角、隔離される様に立てられた魔力兵器研究の専門施設があった。

 

 深夜にも関わらず、夜空に響き渡るほどの音量で、警報を鳴り響かせるそこは、賢人が率いる傭兵部隊『セルブレイド』の襲撃を受けていた。

 

 研究員と警備員の死体が廊下と部屋に倒れており、おびただしい血の塗装が壁を赤黒く染め、その中心でケタケタと笑うヴァイスとブラックが、生き残りを射殺していた。

 

「吐け、ロックウェル。どうしてアメリカ軍を、チーム9を介入させた」

 

 所属研究員が皆殺しにされ、血だらけになった施設の一角、ダインスレイヴが納入され、解析されていた場所で主任である老人、ロックウェルは、ある目的で施設を強襲した賢人に拘束され、拷問を受けていた。

 

 失禁したズボンから不快なアンモニア臭が漂う中、入り口を固める奈津美に助けを求めたロックウェルは、敢え無く無視され、拷問は続行される。

 

「喋らないのか? だったら……次は、左の親指か。アンタの左手の指、全て無くなるぞ?」

 

 そう言って、USPを親指にあてがった賢人は、がたがたと震えるロックウェルを一度見ると無表情で指を撃ち飛ばした。

 

「ああああ、あ、あああ! うぅううううう、ぅあ、あああ!」

 

 止血器をした上で、指を撃ち飛ばした賢人は、指を全て無くしたロックウェルの左手を見ると、唯一残った第一関節を暴れさせるロックウェルに、哀れだと思った。

 

「俺は言った筈だ。邪魔はするな、と。邪魔をすればどうなるか保証はしないと」

 

 うめき声を上げる老人にそう言った賢人は、黙らせる為にロックウェルの顎を銃口で突き上げる。

 

「だが、アンタは邪魔をした。俺達を潰そうとな」

 

「ち、違う、あれはアメリカ軍の……」

 

「ではなぜ連中が俺達の名前を知っていた。バーの臨検もそうだ。誰かが故意にリークしたとしか思えない状況だった。それをするなら、アンタだ、ロックウェル。アンタの立場が一番密告の旨みがある。

俺達が消えてしまえば、アンタは悟られる事無く聖遺物を入手できる。俺達を囮としてな、違うか?」

 

 そう言って銃口を泳がせたロックウェルは、どうにかして助かろうと視線を彷徨わせると机の上にあるモニターを見つけ、残った指で必死に指した。

 

「ま、待て! 殺さないでくれ! あの情報! あれを見てから、考え直してほしい!」

 

 そう言ってがたがたと椅子を鳴らすロックウェルを訝しんだ賢人は、モニターに映るダインスレイヴの情報を見ると、起動しなかったらしいそれの解析データが映し出されていた。

 

「起動条件に権限を有する資格者を必要とする、か」

 

「そ、そうだ! だが、これから私はその剣の解析を進め、資格とは何かを暴いてみせる! だから、この通りだ助けてくれ!」

 

「そうか、そうだな……」

 

 そう言ってニヤリと笑った賢人は、心当たりのある資格者、隼人を思い出しながらロックウェルの眉間に銃口を突きつける。

 

「ひ!?」

 

「それが分かれば用済みだ」

 

「待っ―――」

 

 言い切る前に脳漿をぶちまけたロックウェルはその反動で倒れた椅子諸共地面に叩きつけられ、赤黒い血の海を広げた。

 

 そして、ニヤリと笑った賢人は、始末が済んだ頃合いを見て歩み寄って来た奈津美に首を傾げられた。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、嬉しくてたまらないんだ。俺は、アイツを殺さなくて良かったとな」

 

「アイツ?」

 

「イチジョウ隼人。アイツが、このダインスレイヴの資格者だったんだ」

 

「それって、あの時賢人が殺そうとしていた男の子の事?」

 

 そう言って歩み寄った奈津美は、目の前に立つ賢人から感じたすさまじい殺気に一歩後退る。

 

「賢人……」

 

「俺には分かる。アイツは世界を壊したがっていた。俺達と同じ、何もかも奪われた奴の目をしていた」

 

「仲間にするの?」

 

「いや、アイツは仲間にならない。だが、この剣は持っていく。あいつが俺達を必要とした時、力を振るえる様に」

 

「優しいね」

 

 そう言ってビームマシンガンを下ろした奈津美は、黙々と頷いた彼に苦笑すると、彼を持ち上げたダインスレイヴの赤黒い刀身を見て取る。

 

「それにしても、不気味な剣だね。まるで血を吸って赤くなったみたい」

 

「あながち間違いでも無いかもな。この剣、データによれば魔力を帯びる金属物質、オリハルコニウムとミスリウムの合金製らしい。オリハルコン・ミスリル合金と言った所か。それで、今までに切った人間の血液を刀身に取り込んでおり、ヘモグロビンと魔力が反応して赤みを帯びているらしいな。

そして、魔力物質が異常を引き起こしている、と。なるほど、伝承通りに血に塗れた魔剣と言う訳だ」

 

「また暴走しそうで、ちょっと怖いけど。それで、ここでの用事は済んだの?」

 

「ああ、ロックウェルの始末は完了。ここの警報器もカメラも全て切ってある。増援が来るまで時間がかかるだろうな。よし。セルブレイド、撤収だ」

 

「了解」

 

 そう言って笑う奈津美と共に、ダインスレイヴを回収した賢人は、力を失った赤黒い剣を見てほくそ笑む。

 

(お前と俺は敵。だが、お前と俺は同類だ。だからこそ、分かる。お前はいずれ俺と同じ道を歩む。お前が拒もうと、道は勝手についてくる。それがこの剣だろう? イチジョウ隼人)

 

 そう心の中で問いかけた賢人は、剣を逆手に持つと、奈津美達共々光学迷彩で消え、そのままどこかへと去って行った。


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