僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第27話『反撃開始』

 一方反対側のエリアでは、俊達から逃走した隼人とレンカが体勢を立て直すべく裏路地で呼吸を整えていた。

 

「嫌な雨ね、隼人。匂いも分からないし、音も聞こえないし、獣人にはキツイわ」

 

「がっ……ごほっ」

 

「隼人?! ちょっと!?」

 

 装備の確認をするレンカを他所に壁に背を当て、ずるずるとしゃがみ込んだ隼人は、口からおびただしい量の血を吐き出して苦しそうに息をした。

 

 慌てて首筋にアンプルを突き刺したレンカは、ぐったりとしている隼人が立ち上がろうとするのを助け、それを見て中止を進言しようと通信機に手を掛けた。

 

「よせ……。こんな事で勝ちを諦めたくはない……」

 

「でも……」

 

「まだ、俺は立てる。だから……頼む、レンカ」

 

 そう言って力を取り戻し、立ち上がった隼人は、一過性だったらしいそれに安堵しつつ心配そうなレンカの頭を撫でようとする。

 

 が、直前、全身に激痛が走り、雨に濡れた路地に倒れ込んで蹲った。

 

「隼人!?」

 

 がくがくと震える体を押さえつけたレンカは、恐怖に負けそうな体に内心で叱咤して隼人の傍に駆け寄る。

 

「く、そっ!」

 

 そう言って息を荒げる隼人は、路地に紛れていた虫型の探査ドローンに気付くと同時、ぞわりと走った殺気に舌打ちしてレンカの位置を確認する。

 

 そして、咄嗟にドローンを潰した彼は、奇行に驚くレンカを支えに立ち上がると、移動すべく彼女を前に出そうとした。

 

 その時だった。

 

 鉄筋コンクリート製の壁からオレンジ色の火花が散り、円形状に壁をくり抜いていく。

 

「壁が……?」

 

 振り返り、呆然となるレンカの手を引いた隼人は直後爆発した壁から彼女を庇うと、

拳銃を手に突入してきた俊とシグレに気付き、その場にあった室外機を引き剥がして投擲した。

 

 瞬間、連射された拳銃弾が直撃し、ガンガンと喧しい音をがなり立て、ばらばらになった室外機を俊とシグレは回避する。

 

「何て馬力…!」

 

「だからってビビる訳にゃいかねえんだよ!」

 

「はい!」

 

 そう言って、逃げる隼人達に拳銃を向けながら走った二人は、体のブレで揺れる射線を修正しつつ、隼人達を追う。

 

 背後からその弾幕を浴びながら逃げる隼人は、反撃しようとするレンカを止めて持って来ていたワイヤーガンで屋根の上に上がる様、指示する。

 

「待ちやがれ!」

 

 堂々と中央に陣取った俊がスプリングフィールドXDを射撃し、それに追従したシグレがロングマガジンを装填しているグロック18Cをフルオートで放つ。

 

「くそっ!」

 

 下手であるが故に、逆に鬱陶しい弾幕に舌打ちした隼人は、オブジェクトとして置いてあった木箱を蹴り飛ばして二人を牽制する。

 

 同時に、レンカがワイヤーを打ち上げ、屋上に上がり、薙刀から術式ビームを、連射モードで放って二人を牽制する。

 

 その間に跳躍から屋根に上がった隼人は、痛みが酷くなる左腕を抑え、アンプルを追加で打ち込む。

 

「逃げるぞ……!」

 

 雨が降りしきる中、ジャンパーを濡らした隼人は、頷くレンカを先に行かせて屋根伝いに逃走を図ろうとした。

 

 が、レンカが跳躍する直前、重力ビームが跳躍しようとした建物を薙ぎ払い、慌てて止まろうとしたレンカの体が頭から落ちかける。

 

 慌ててフードを掴んだ隼人は、シグレの放った術式によるものと判断して、建物に入ってきた彼らへの策を練る。

 

「どちらへ逃げた物か……」

 

 破壊された方とは反対へ逃げる手もあるが、そちらは、遮蔽物が無い上に、ガソリンスタンドを避ける様にコの字型になったフェンスで行き止まりになっており、逃げ切れる地形ではなく、おまけに屋根には階段も無い。

 

 飛び降りれば何とかなるが、三階くらいの高さがある為、下手すれば足の骨が折れるか、肩を脱臼するか、それとも頭部打撃で死ぬかの三択になってしまう。

 

(強化外骨格だって万能じゃないからな……。それに、裏路地の路面状態はかなり悪い。さっきもコンバットブーツで三回ぬかるみで滑った。さて、どうしようか)

 

 そう思い、階段の出入り口に待ち伏せた隼人は、後ろで待機しているレンカを振り返ると、彼女の小さな手が目に入った。

 

「……そうだ、その手があったか」

 

「へ? 手? 私の? フェチなの?」

 

「喧しい。グローブだ、お前がさんざん遊びに使ってたグローブだよ。それで壁にくっついて奇襲の機会を待つ。あいつらも俺達が壁にくっついてるとは思うまいし、それならアドバンテージが取れる。今までの借りを返す時だ」

 

「オッケー、任せなさい! ボコボコにしてやるんだから」

 

「よし、その意気だ。じゃあ、お前から移動しろ」

 

 そう言ってレンカを移動させた隼人は、僅かに開けたドアから遠い足音を聞いて警戒すると、壁にぶら下がれた彼女のサインで移動し、壁際へと貼り付いた。

 

 そして、アイコンタクトを交わした二人は、静かに獲物が来るのを待った。

 

「残ってんのはここか」

 

 そう言って扉を蹴破った俊の声が聞こえ、雨に撃たれながら周囲を見て回っているらしい彼らは、二つ分の足音を鳴らしながら屋上を歩いて回る。

 

「誰も、いませんねぇ」

 

 シグレの変に緊張した声と、近付く足音を聞き取った隼人は、警戒しているレンカにハンドカウントを送り、ゼロのタイミングでブーツを撃発させた彼女が高く跳躍し、シグレに膝蹴りを打ち込む。

 

 鈍い音を上げてよろけたシグレが倒れていくのを、スローモーションで捉えたレンカは、落下する自身に銃を向ける俊を見た瞬間、ブーツからの撃発でサイドステップし、射線から逃れた。

 

 直後、跳躍した隼人は、倒れているシグレを踏まない様に着地点を調整しながら、ワイヤーを射出し、俊の拳銃を弾き飛ばすと、ブーストダッシュで距離を詰め、戦闘を開始した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 一方、反対側では、シュウと浩太郎が激しい撃ち合いを繰り広げており、軽機関銃の濃密な弾幕を掻い潜る浩太郎が、手にしたヴェクターで応射していた。

 

(くそっ。拳銃弾じゃあのシールドを破壊できない)

 

 そう言ってロングマグを落とした浩太郎は、マグキャッチに、代わりの弾倉を突っ込むと、腰に下げていたR.I.P.トマホークの柄に触れる。

 

(だけど格闘武器なら……勝機はある)

 

 そう思い、逆手でトマホークを引き抜いた浩太郎は、手の中で回転させると、順手から刃を回転させて再び逆手に戻した。

 

 呼吸を整え、ヴェクターを向けた浩太郎は、雨で僅かに白んでいる視界にこちらを向いた銃口を捉えた瞬間、ヴェクターを放ちつつ突貫した。

 

「何!?」

 

 その行動に驚いたのか、銃口がブレたシュウに、逆手持ちのトマホークを振り上げた浩太郎は、初撃を回避した彼に至近でのヴェクターの射撃を叩きこむ。

 

「接近戦とはな!」

 

 意外だったのか、太ももからマチェットナイフを引き抜いたシュウは、順手に直ったトマホークと真っ向から打ち合うと、懸架アームとアシストで持ち上げた軽機関銃を乱射した。

 

 元々、命中を狙わず弾幕を張って味方への攻勢を削ぐ武器である軽機関銃は、今の状況には不向きだった。

 

 だが、今更小回りの利く拳銃へ持ち替えようにも、接近戦ではその隙が無い以上、普通よりも遥かに多い装填弾数に任せて、撃ちまくっていた。

 

(持ち替え無しで保ったのは、アイアンマンシステムのお陰か。たまには新アメリカ陸軍の研究も役立つものだ。まあ、強化外骨格必須だがな)

 

 そう思いつつ、マチェットを逆手に持ち替え、サイドレールに装着したアングルグリップを掴んだシュウは、安定した姿勢で連射を継続、接近戦を狙う浩太郎との距離を放していく。

 

 一方の浩太郎は、弾幕から逃れつつ徐々に距離を話すシュウに舌打ちし、ライフル弾が着弾する道路を弧を描く様に駆け抜けると、アーケードの屋根に跳躍した。

 

「無駄な事を!」

 

 そう言ってトタン製の屋根にマシンガンを向けたシュウは、着地の寸前にワイヤーを放ってきた浩太郎に驚き、咄嗟に軽機関銃で往なしてしまった彼は、地面にブレードアンカーが食い込んだそれに舌打ちし、振り返った。

 

 振り返り様に捉えたヴェクターの銃口にシールドを展開したシュウは、それこそが浩太郎の狙いだったのだとトマホークが見えた所で察した。

 

「貰った!」

 

 体重がのせられる近接武器には、単なる目の細かい金網でしかないシールドを切り裂いた浩太郎は、ヴェクターのマグポート前部でM249を押さえつけると、トマホークと打ち合ったマチェットに重力倍加を加えて圧力をかけていく。

 

 瞬間、上がった足を踏みつけて抑えた浩太郎は、膝蹴りで脇を打つと、マチェットを弾いてからの横薙ぎを放つ。

 

「ッ!」

 

 回避され、すぐに離脱した浩太郎は、軽機関銃の銃口が上がるよりも早く、ヴェクターを放って牽制すると、シールドをパージしたシュウがロールを行う。

 

 水たまりを跳ね上げ、体を起こしたシュウは、マシンガンを乱射して距離を取らせると、アイアンマンシステムを内蔵したバックパックから、XM25グレネードランチャーをアームで引き出し、中距離戦へと移行した。

 

 一方、近場でハナと戦闘を繰り広げていたカナは、引きつつHK417バトルライフルを乱射する彼女に、雷撃を向けつつ大戦斧を投擲した。

 

「ひゃあ!」

 

 正確に当てつつも、傍らを掠めた斧から逃げたハナは、ワイヤーを巻き上げながら、上方から叩き付けてきたカナから逃れて、腰から球形のグレネードを取り出して投擲する。

 

 落下と同時に起動したグレネードがカナ目がけて猪突し、至近への跳躍と同時に爆発した。

 

「ッ!?」

 

 吹き飛び、受け身で起き上がったカナは、消耗してきている体を鑑みつつ、今まで見た事の無い追尾式のハンドグレネードに軽く歯を噛んだ。

 

「それも、ドローン?」

 

「う、うん。画像ロックオン式の新型グレネード。ドッググレネード」

 

「猟犬であり、忠犬。まさに犬って事?」

 

 そう言ってハナを睨んだカナは、オロオロと戸惑う彼女に斧の切っ先を向けると、術式で構成された鋸刃を解放した。

 

「だったら私も、奥の手。当たれば痛い、少なくとも。十秒は」

 

「な、生身で当てませんよね!?」

 

「私の気分次第」

 

「ひぃっ!」

 

「驚き過ぎ。冗談」

 

 そう言って半目になるカナに、引き攣り気味に苦笑したハナは、回転数が上がった大戦斧に、真っ青になる。

 

(い、生きて帰れるかなぁ……)

 

 何しろ、彼女にとってたった一人で戦うのは今日が初めてなのだ。

 

 その相手が無口で口数少なく、おまけにゴスロリ趣味で若干サイケが入ったカナと言うのが、何とも運が悪かったと言える。

 

「お、お手柔らかに」

 

「うん、大丈夫。ぶっ殺すから」

 

「ひぇえええ」

 

「ミンチじゃないから」

 

「安心できませんよぅ!」

 

 そう言って涙目のハナに、内心舌打ちしたカナは、苛められっ子体質で、浩太郎がかなり気に入りそうな女子だ、と思って無性に腹が立っていた。

 

(キャラ被り、いや、むしろ私を食いつぶす被虐性。殺すべし)

 

 どんなキャラであろうと被虐性満点な点だけが気に入らないカナは、そう思うと、じりじりと後ずさりする彼女に、両手の斧を投擲した。

 

 大車輪よろしく地面を掻き上げて突き進む斧に、失禁寸前までいったハナは、尿意を押さえる内股の足と、上半身の染みついた動きのアンバランスさを見せながら、コンカッショングレネードも併用して斧を迎撃する。

 

「なっ……」

 

 流石に予想外だったのか、驚くカナは、プルプル震えるハナに、何故か持っていた空のペットボトルを一つ投擲する。

 

「出そうなら、それにおしっこしたら?」

 

「ぴぇっ!? どう言う事です!? 何で持って……」

 

「試合前に喧嘩した罰で水と利尿剤と日本茶飲まされたから。うん、私もそろそろやばい」

 

「え、ちょ、ちょっとどこに行くんですか?!」

 

「黄色い聖水の採取。うん、漏れそう」

 

 そう言って内股に走り去っていくカナの言ってる意味が理解できなかったハナは、空きのペットボトルの口を見つめると、ようやく理解した。

 

(か、カナちゃんって、変態さんなのかな)

 

 そう思って、どうしようかな、とペットボトルの口を捻ったハナは、いけない誘惑を感じて、慌てて口を捻った。

 

「だ、ダメ。こんなのに入れて、どうするの」

 

 そう言ってペットボトルから顔を背けたハナは、ぶるりと震えた総身に息を呑むと、周囲を警戒しながらキャップをゆっくりと捻っていく。

 

 かちゃん、とアスファルト舗装の地面にキャップが落ち、道路の真ん中で、歩けないくらいの尿意を感じながら、少しレースの入った水色のパンティーを下ろしたカナは、そのタイミングで突っ込んできたシュウと浩太郎にばっちり見抜かれた。

 

 かこん、とペットボトルが落ち、真っ青になったハナは、戦闘の手が止まって目が合う二人に震え上がる。

 

「は、ハナ……? 何故、お前、パンツを……」

 

「あ、あの……これは、その、おしっこを……しようと」

 

「ここでか?!」

 

 そう言って周囲を見回したシュウに、武装を解除して手出ししないとした浩太郎は、周囲を見回してカナを探す。

 

「あっはっは、利尿剤が聞いたかなぁ。カナちゃーん、どこー?」

 

 カナがいないのをお花摘みと見た浩太郎は、休戦中の暇潰しに見に行こうと彼女を探しに行った。

 

 それから数分後、結局お花摘みをシュウにガン見されたハナは、泣きながら元の場所に戻ると、すっかり姿が見えなくなった浩太郎達を探すべく、腕に着けた携帯端末経由でドローンを起動する。

 

「無事なのは三号機と四号機だけかぁ」

 

「気をつけろ、奇襲してくるかもしれないぞ」

 

「う、うん」

 

 そう言って物陰に隠れたハナをカバーしているシュウは、高台を警戒しつつ、周囲にマシンガンとグレネードランチャーを向ける。

 

 空を飛ぶドローンで、探知しようとしていたハナは、肌に感じたピリピリとした感触に違和感を覚えた直後、水に濡れたアスファルトから湧き上がる様に紫電が走り、二人の体に突っ走る。

 

「きゃああああ!?」

 

 激しいスパークと共に焼ける様な衝撃、そして一瞬止まる呼吸と、継続する激しい痺れに悲鳴を上げたハナは同じく感電したシュウの動きが苦しいのに気付いた。

 

「シュウ君! エグゾが……」

 

「クソッ、感電してシステムダウンした! 」

 

「何て出力……。待って、すぐに復旧するから!」

 

 そう言ってエグゾスケルトンの制御ユニットにブックレットサイズのコンピューターを有線接続で差し込み、システムを復旧させたハナは、雨を跳ね上げる足音に腰から『IMI・デザートイーグル』50口径マグナム拳銃を引き抜いて構える。

 

 小さなハナの手からすれば不相応なほど大きな拳銃を、しっかりと両手で構えた彼女は、接近するカナに向けてマグナム弾を放った。

 

 ガツンと殴られた様な衝撃を両腕で流したハナは、斧に向けて飛んでいくマグナム弾が斧を大きく弾いた直後、構え直しからの第二射を放った。

 

「雷よ鎧と成せ! グローム・ドスペーヒ!」

 

 短く、日本語対応にした詠唱文の後、グローム・ドスペーヒを行使したカナは、雷の鎧が放つフィールドに偏向されたマグナム弾を頬に掠めさせながら、ハナとシュウに迫る。

 

 ターレットの操作でハナをカバーしようとしたシュウは、シグナルが繋がらないそれに驚き、直後鹵獲防止モードの誤作動で爆炎を上げたターレットに舌打ちした。

 

「さっきの雷撃で……!」

 

 そう言って軽機関銃を構えたシュウは、派手に雷を放つカナと、挟み打つ様に現れた浩太郎に、銃口を構え直し、戦闘を続行した。


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