僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第26話『交渉戦闘・開始』

 それから数十分後、後方支援科からもらった装備を含めていつもより五割増しの装備を持った隼人達は、雲行きが怪しくなってきた市街地戦用の模擬戦場、開始地点ブラボーに立っていた。

 

 事前展開された情報ではすでにユニウスの準備が終わっている事、そしてお互いに場所を知らないと言う事だった。

 

「どうする?」

 

「取り敢えず建物に隠れるか。それから策を練ろう」

 

「そうしようか」

 

 そう言って近場の模擬店の中に入った彼らは、ぽつぽつと降り出した雨に不安になりつつも薄暗い模擬店の中に入って雨を凌いだ。

 

 湿度が高くなるのに合わせて毛並が立ってきたレンカとカナは、そんな感触が嫌なのかむくれつつ、今回の戦闘着として使用する強化ジャンパーのフードを被っていた。

 

「さて、現在位置はここだ。そして、普通の模擬戦で使うスタート地点は残り三か所。開始時刻は今から十分前、まあレンカ達が手間取ったせいで遅刻したんだが……」

 

「ごめんてばぁ」

 

「もういい、もう既に二回聞いた。それで、市街地フィールドは中央に貧民街を模した建物が密集している区画がある。この区画には背の高い建物があり、ここから狙撃されると爆破物の無いこちらの装備からして一方的になる可能性が非常に高い。

そこで、だ。作戦目標をここに立て、ここを確保してから次の作戦に動くとする」

 

 そう言って、背中のバックパックから、ラぺリングロープを取り出して見せると、左腕のコンソールを操作して情報を得る。

 

「さて、シュウ達の武装や装備は、悪いが未知数だ。何を使って、何をして来るか、見えない以上、いつも通りに行くか」

 

「そうしよう。新しい装備もあるしね」

 

「正直役立つか分からんが、無いよりはましと思おう。よし、動くか」

 

 そう言って裏口から出て行った隼人達は、建物の隙間から攻撃目標を確認すると、広い道路に向けて走り出す。

 

 開けた場所に出た瞬間、ビルの上から連続した閃光が放たれ、案の定と思い、そのまま全力で走った隼人達は、シャッターに体を叩き付けて様子を窺った。

 

 そして、攻撃が止まない事を確認しつつ、浩太郎とカナにハンドサインで分断を指示する。

 

 そのサインに頷いた二人は、腰のポシェットから引き抜いた、ポンチョ状のシート(光学迷彩)を被ると、そのまま空間に溶け込んで見えなくなった。

 

シグナルトラッカー(音波探査機)起動」

 

 隼人の言葉と同時、彼と共にコンバットバイザーを起動したレンカは、シグナルを発信する浩太郎とカナを拡張された視界に捉えつつ、密集地区の小道に入っていく。

 

「レンカ、気をつけろよ。どこにいるか分からないからな」

 

「う、うん」

 

 周囲を確認しつつ、そう言った隼人は、雨脚が強まり始めた空を見上げると、雨が宙に浮かぶ何かへ当たっているのに気付き、そのシルエットを凝視した。

 

 赤い光が僅かに見えたのに、レンカを伏せさせた隼人は、頭上を掠めた弾丸に舌打ちし、直後に浴びせられた亜音速の拳銃弾(.45ACP)が、彼らを周囲を叩きまくる。

 

「クソ、ドローンからの射撃か!」

 

「きゃああ!」

 

「動くぞレンカ、行け!」

 

 先にレンカを行かせた隼人は、ビルの外壁にたどり着いたらしい浩太郎からの短いメッセージを受け取ると、弾雨を抜けて大通りに出る。

 

 レンカを抱えてのブーストドライブで横っ飛びに飛んだ隼人は、抜けたと同時に出てきた槍の切っ先を回避して、後方ロールで槍の持ち主である俊から距離を取ると、レンカを下ろした。

 

「待ってたぜ、イチジョウ隼人」

 

 そう言って槍を肩に担った俊に、苦笑を向けた隼人は、薙刀を構えるレンカと並んで立ちあがると、頭を突き抜けた狂気によって頭痛を抱える。

 

「俺は、お前みたいな奴をリーダーとは認めねえ。仲間を見捨て、正義に背く事をいとわない奴なんかにな」

 

 そう言って穂先を向けた俊は、腰のラックに手を伸ばした隼人に歯噛みをすると、腰から拳銃を引き抜いて構えた。

 

「どうして兄貴がお前なんかを選んだのか分からねえ。だから教えろ、お前がリーダーにふさわしいかどうかを!」

 

 そう言って発砲した俊は、瞬間、飛び出した二人に照準をぶれさせ、闇雲に撃ちまくって牽制射撃を繰り出す。

 

「速攻で決めさせてもらうわよ!」

 

「させる物ですか!」

 

「ッ!?」

 

 真横からの声に、咄嗟にガードを上げたレンカは、飛び蹴りの体勢で突っ込んできたシグレと、揉みくちゃになりながら道路を転がる。

 

 その間に距離を詰め、俊と打ち合った隼人は、穂先とぶつかり合って火花を散らすアークセイバーに舌打ちし、質量差で振り落とされたそれを切ると、目の前に迫った切っ先をのけ反りで回避した。

 

「な……!?」

 

 必中の位置故に回避されると思ってなかった俊は、追い散らしの蹴り上げをバックステップで回避すると、アークセイバーを収めた隼人に槍を構え直す。

 

 一方の隼人は、鋭敏化する身体感覚とは裏腹に、敵味方の判別が曖昧になりつつある思考回路を必死に押さえつけ、拳を握りしめた。

 

「貰った!」

 

 その一瞬を狙いすまし、槍の先端に仕込まれたブーストで接近した俊は、その瞬間、確実に槍を捉え、回避した隼人に驚愕し、横殴りに吹き飛ばされた。

 

「俊君!」

 

 斬り結んだレンカから離れ、俊の元へ急いだシグレは、いつの間にかいなくなった隼人達に違和感を覚えつつも、彼の治療を優先した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 一方その頃、隼人達と別れて行動している浩太郎とカナは、光学迷彩を起動したポンチョを被り、上方からの観察を凌ぎつつ目的であるタワーを目指していた。

 

 そして、その道すがら、サプレッサー(消音器)を銃口に装着したMk23自動拳銃を構えた彼は、マルチインカムに流れるある違和感に気付いていた。

 

「カナちゃん。さっきから通信、使える?」

 

「ううん、使えない。ノイズばかり。それに、何だかピリピリする」

 

「やっぱりか……」

 

 そう言ってインカムとフレームのパネルを弄る浩太郎は、透明に見えるポンチョから顔を覗かせてもじもじしているカナに、インカムのノイズの傾向とフレームが受信した電波を合わせた情報を流す。

 

「多分、ジャミングだ。それも一定周期で抜け道の周波数を変えてる。ある程度のパターン出しは出来るけど、僕らが抜け道を使える確率は無い」

 

「でも、どこから?」

 

「電波は……上から出てるね。ここの空間を、ドーム状に覆ってる」

 

「上? 空を飛んでるの?」

 

「電波の発信源はね。でも、使用者が飛ぶ必要はないさ。便利な物が、ここにはあるから、ね!」

 

 そう言ってカナの方へ銃口を向けた浩太郎は、咄嗟に伏せた彼女越しに射撃し、射撃体勢にあったドローンのローターと電源を撃ち落とす。

 

 出力と動力源を失ったドローンが、生気の抜けた虫の様にフラフラと墜落し、おもちゃが壊れる様なポリマーの砕ける音を立てて、雨の降る道の上を転がった。

 

「これ、ドローン?」

 

「ああ、それも光学迷彩付きだね。軍事用の、最新型じゃないかな」

 

「どうしよう」

 

 そう言ってツンツンとドローンを弄っていたカナは、周囲を警戒していた浩太郎を見上げて、そう言った。

 

「うん、どうしようかな。多分二人一緒だとバレちゃうよね」

 

「うん」

 

「じゃあ、こうしようか」

 

 そう言ってカナの耳元に顔を近づけた浩太郎は、くすぐったさでピコピコ動く彼女の耳に作戦を吹き込むと、寂しげな表情で頷いた彼女をしきりに撫でてあげた。

 

 前払いのスキンシップを終え、雨の降るアーケードの下にカナを置いて浩太郎は、一人路地裏へと移動した。

 

 十字路で左右を警戒し、クリアリングをした彼は、店舗裏の壁を軽く触ると、グローブをくっ付けた。

 

 分子同士でくっついたグローブの引っ掛かりを確認した浩太郎は、そのまま壁をよじ登り、商店街の屋上に出ると店舗の間を跳躍し、距離を詰めていく。

 

「隼人君達、どうしてるんだろう」

 

 激しい激突音がぴたりとやんだ事に心配しつつも、足を止めない浩太郎は、一瞬見えた反射光に舌打ちし、その場で伏せた。

 

 恐らくこちらが見えても、相手は撃たない。

 

 逃げ道が限られたこの状況下でもし発砲でもすれば、運良く浩太郎を仕留められたとしても、隼人達やカナに居場所がバレるからだ。

 

 とすれば、取る行動は一つ。

 

(確保した逃走手段で逃げる!)

 

 ポンチョが翻るのも構わず全力で走った浩太郎は、目標の建物の六階部分の窓枠目がけて、左腕のワイヤーを射出。

 

 手応えで引っ掛かりを確信した浩太郎は、ブーストと巻き上げの勢いで、そのまま窓へ突入し、運よく降りてきたシュウとハナに消音器付きの銃口を向けた。

 

「下がれ!」

 

 ハナを庇い、エグゾスケルトンを装着した左腕を突き出したシュウは、そこに仕込まれた折り畳みのシールドで銃撃を防いだ。

 

「ッ!」

 

 銃撃が効かないと分かった浩太郎は、拳銃で牽制しつつ、窓から飛び降りて屋根を走って逃走する。

 

 それを手にしたACOGスコープとグリポッドを装備したM249軽機関銃で追ったシュウは、ドローンにトラッキングさせたカナに諌められ、大人しく移動する事にした。

 

(くそっ、防弾性のネットシールドなんて意外な物を……)

 

 内心毒づき、屋上をパルクールの要領で駆け抜ける浩太郎は、サブマシンガンを発砲しながら付いてくるドローン二機に舌打ちし、ノイズばかり迸らせる通信機のバンドを手動で切り替えていた。

 

 屋根を穿つ拳銃弾(.45ACP)の雨あられを回避しつつ、マントの様にポンチョを翻らせた浩太郎は、ブーストと組み合わせてのスイングでドローンを翻弄し、振り返り様の射撃で一台の飛行機能を破壊する。

 

「一つ」

 

 ワイヤーを回収し、そう呟いた浩太郎は、そのまま距離を置いてしまったカナのいる場所へと、引き返すルートを辿って行った。

 

 一方のカナはと言うと、建物から出てきたシュウ達の道を阻む様に、彼らと対峙していた。

 

「そこをどいてくれないか、カナ」

 

 そう言って軽機関銃を構えたシュウは、その隣で『HK・HK417』7.62㎜バトルライフルを構えたハナに、アイコンタクトを送る。

 

「そう言うなら、どかない。あなた達は……そう、ここで倒すから」

 

 そう言ったカナは、背中に追っていた二振りの大戦斧、『R.I.P.アックス』を振り上げ、地面に叩きつけた。

 

 そして、動くのに邪魔なポンチョを脱ぎ捨てると、その下に着こんでいたゴスロリアレンジの入った制服を露出させる。

 

 そして、袖口から延ばされた術式ワイヤーが斧の後部に接続、それによってコントロールを得たカナは、一度斧の刃を解放してチェーンソーを露出させる。

 

「当たると痛そう」

 

「痛いで済むのか……?」

 

「どうだろ」

 

 そう言って銃を構えた二人は、チェーンソーで地面を削りながら迫るカナに、射撃を開始するが、直前で弾道を予測したカナは、射線から逃げる様に横へ走る。

 

 あまり早いとは言えない速度に銃口を合わせた二人は、それを阻む様に横回転で投擲された大戦斧を回避し、カナへ射撃を集中させる。

 

「甘い」

 

 言い様、ワイヤーを引いたカナは、強制的に回転を止めると、宙に浮かせた斧をブースターで位置調整しつつ、ハナに向けて落下させる。

 

「避けろハナ!」

 

 言いながらマシンガンの射撃で斧を叩き、ハナへの落下を防いだシュウは、その隙に接近したカナに斧で殴り飛ばされる。

 

 地面へ引きずられる様に吹き飛んだシュウは、マシンガンをカナに構え、ハナとの十字砲火で仕留めようとした。

 

 が、ハナの射線を斧で塞がれてしまい、自身のタイミングも、雷撃で潰され、追い散らされた。

 

「くそっ、上手く行かないな!」

 

 そう言ってマシンガンを連射したシュウは、投擲した斧で銃弾を弾くカナに舌打ちし、直前で回避して構え直す。

 

 HMDと連動した簡易照準器の範囲内に、カナを捉えたシュウがトリガーを引く直前、背後から軽い破砕音が聞こえ、直後ドローンとのリンクが断たれた連絡が入る。

 

「何!?」

 

 背後を振り返ったシュウは、空中で側転しながらMk23を構える浩太郎と目が合い、咄嗟にシールドを展開、牽制射撃を盾で受けた。

 

「悪いね、カナちゃんの相手してもらってさ!」

 

 そう言って、着地と同時にトマホークを引き抜いた浩太郎は、ニヤリと笑うシュウに違和感を覚えた。

 

「何、礼には及ばんさ。そこにいる以上、な」

 

 直後、トマホークを振り上げた浩太郎の背後に銃撃が加えられ、痛みと驚きでバランスを崩した彼は、前傾姿勢からのハンドスプリングで立て直し、遮蔽物に隠れて銃撃のあった場所を振り返る。

 

(建物……。ターレット(自動砲台)かな)

 

 そう思った一瞬、マシンガンから放たれたライフル弾が遮蔽物を撃ち抜き、慌てて退避した浩太郎は、コンパクトな構えで拳銃を発砲する。

 

 牽制射撃をしながら逃げ込んだ彼は、シールドで防ぎながら近づいてくるシュウに違和感を覚えていた。

 

(おかしい、ベルト給弾式とはいってももう弾が切れても良い頃だ)

 

 そう思いながら拳銃のマガジンを交換した浩太郎は、薄い金属板で出来た遮蔽物の傾斜で、ライフル弾を弾き、至近に掠めさせながら、拳銃からヴェクターへ武器を交換。

 

 手にしたトマホークの牽制として発砲しつつ、戦闘を再開した。


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