僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第21話『動き出す不穏』

 翌日、流星から不信任決議についての内容展開があるとの知らせを受け、全校集会代わりの放送がテレビ、ラジオ問わず校内全域に流れた。

 

『我々クーデター軍は、決議を三日後の三月二十五日に決行すると決め、そしてその方式を言論・戦闘の両方式で行うと決定しました。合わせ、生徒会側の先輩方には、それに対応していただきたいと思います』

 

「様になってるねぇリューちゃん」

 

 凛々しい流星の演説姿に皮肉る様にそう言ったケルビは、静かにしろ、とジェスチャーを返してきた一郎に肩を竦めて黙りこくった。

 

『開催場所は、第五演習場。戦闘方式は分隊同士の戦闘、殲滅戦です。出場生徒については当日の展開とし、期間中の偵察、情報交換は禁止とします。以上、決議戦の展開を終了します』

 

 流星がそう言ったのを最後に放送が終了し、合わせて校内テレビを消した風香は、ケリュケイオンの面々を見回す。

 

「分隊での殲滅戦だって、どうするの?」

 

 そう言って首を傾げる風香に、昨日シュウに言われていた事を隠して相槌を打った隼人は、浩太郎達の方を振り返る。

 

「一応ではあるが、アルファ小隊での参戦を考えている。俺と浩太郎が、一番戦闘経験が長いからな。実力未知数を相手取るには、ちょうど良いだろうし」

 

「でも、イチジョウ君、今左腕が……」

 

「これくらいならハンデだ。構う事は無い。それに、俺と浩太郎だけで戦う訳じゃないんだ」

 

 そう言ってレンカの頭を撫でた隼人に、全員が少し違和感を感じており、それ故に隼人の表情から、無理をしている事を感じ取れていた。

 

「それで、良いだろ。生徒会長」

 

「え、う、うん。良いよ、戦うのは君達だから。私達の代わりだって事を忘れなければ、私は大丈夫」

 

「分かった。他の先輩達や、ジェス、ハルも、それでいいか?」

 

 そう言って、全員を見回した隼人は、首肯する全員から遠慮を読み取ると、内心申し訳ない気持ちになってしまう。

 

 心配させまいとしていたが、結局か、と情けない自分を嘲笑した隼人は、突然の電話に驚き、生徒会室から出て廊下で応答する。

 

「こちら隼人」

 

『ああ、やっと繋がりました。イチジョウ君、私城嶋です。今、時間大丈夫ですか?』

 

「あ、いや、もう少し待ってください。今、生徒会と打ち合わせ中なので」

 

『生徒会と……ああ、対クーデターの事ですね。分かりました。終わったら一度連絡をください』

 

「申し訳ない。では」

 

 そう言って通話を切った隼人は、気になっているのか覗き込んできたレンカ達に気にするな、とサインを送ると、生徒会室へ戻ってくる。

 

 改めて、依頼を確認しようと生徒会長の方を見た隼人は、突然襲って来た痛みに足をもつれさせる。

 

「イチジョウ!?」

 

 慌てて支えに入った隆介が、痛みから鈍い汗を掻いている隼人に気付き、机を支えにした彼が立ち上がるのを、離れた位置で見守る。

 

 ばれない様に太ももへ注射した隼人は、ドクンと体を巡った薬物に強い不快感を発し、体から拒絶反応が出る。

 

「大丈夫か……?」

 

 それでも、周囲への破壊衝動や殺戮衝動が出ない事だけを救いに、何度打ったか分からない薬物の拒否反応を受け入れる。

 

 こみ上げた吐き気を下し、荒く息を吐いた隼人は、アンプルをそっと隠すと左肩の力で体を起こす。

 

「大、丈夫だ」

 

 そう言って立ち上がった隼人は、キンキンと鳴る耳鳴りを無視してそう言い返す。

 

 それに気圧された全員は曖昧な返事を返しながら、話題を別の物へと変える。

 

「じゃあ、改めて。私達生徒会・副生都会連合は、あなた達PMSC部第一小隊『ケリュケイオン』にクーデター戦の代理出場を依頼します。報酬は五百万+契約継続。これでどう?」

 

「ああ、それで構わない。俺達は、俺達の仕事をやる。それで良いだろ?」

 

「うん、大丈夫。私も、頑張るね」

 

 そう言って笑う風香に頷き返した隼人は、少し心配そうな表情を浮かべた彼女から契約書をもらうと、ケリュケイオンを連れて生徒会室を後にする。

 

 と、そのタイミングで通信端末を起動した隼人は、視界の端に現れたウィンドウを切り替えて三笠との通話画面に変える。

 

 そして、起動待機状態になったインカムのスイッチを入れた。

 

「もしもし、城嶋中佐ですか?」

 

『はい、そうですよイチジョウ君。打ち合わせは終わりましたか?』

 

「はい、おかげさまで。これからは時間も空いているので伺いましょうか」

 

『ぜひ、お願いしますね。あ、そうです。今いる場所のデータを送信します。この地図通りに来てくださいね。ルートを飛ばさない様に』

 

「へ? あ、はい。了解です。と言っても地図なんて出さなくても」

 

 そう言いかけた隼人は突然切れた通話に驚いた後、不貞腐れながらポケットの端末を操作して転送されたデータを開く。

 

「地図通りに来いって……ここは俺達の庭だぞ」

 

「何かあったの?」

 

「ああ、ちょうどいい。これからこの地図のルート通りに目的地に向かうぞ」

 

「何それ。何か意味あるの?」

 

「分からん。取り敢えず、転送する」

 

 そう言って端末を弄ってデータを飛ばした隼人は、奇妙な回り道をしているルートを見た全員の表情を確認すると、ため息交じりに歩き出す。

 

 ルートは、終点を模擬戦場の総合指令室に設定しており、隼人達がいる本棟からは、直接歩いて一時間はかからない場所にある。

 

 だが、ナビゲーションルートは、そこへの道を二時間近く使うように設定してあり、しかも通行路に模擬戦場を突っ切る様に設定してあった。

 

(何か仕掛けて来るのか?)

 

 そう思い、全員に武器を持たせて移動する様に指示した隼人は、突然鳴り出した耳鳴りに一瞬足元がふらつかせる。

 

 全員が振り返る前に立て直した隼人は、薬の効きが悪くなっている事を確信し、首筋に一本、追加で太ももに一本のアンプルを差して全員の後を付いて行く。

 

「しっかし隼人、何でこんな重武装で移動しなきゃなんねえんだよ」

 

「つべこべ言うな。ルートを見ろ。ポイントデルタ、エコーの間。模擬戦場内を突っ切る形だ。何か仕掛けてくるかもしれんだろうが」

 

「そ、そうだけどよぉ。でもここ学校だぜ? 普通、何の断りも無く仕掛けるかぁ?」

 

「普通が通じる学校じゃないのはお前も分かり切っているだろうが馬鹿!」

 

「うっ、そうでした」

 

 縮こまる武にため息を吐きながら、強化外骨格を装着して歩く隼人は、その隣を歩くレンカの曇った表情を見下ろすと無言で前を見る。

 

 いつもなら元気にじゃれつく彼女が、今日は黙々と黙りこくって付かず離れずでいる事に負い目を感じた隼人は、気になっている全員が振り返ってくるのに申し訳ない気持ちになって顔を俯けた。

 

「ポイントブラボー通過」

 

 淡々とそう告げる浩太郎に、ハッとなった全員が隼人の方から前を向いて歩き始める。

 

 それを見ていた隼人は、ハンドサインで気にしないで、と返した浩太郎に柔らかく笑って周囲を警戒した。

 

 ポイントチャーリーを過ぎ、件のデルタに迫ろうとしている道の途中、海沿いの防波堤に青年一人とあどけなさが僅かに残る少女が海を見ながら何か話しているのに気付いた。

 

(見た事無い生徒だな。上級生か?)

 

 生徒にしてはやけに落ち着いた雰囲気だな、と不審に思っていた隼人は、学園の見取り図を広げて話し合っている二人を怪しみ、声をかけた。

 

「おい、そこのアンタら。ここで何やってる?」

 

「ん? あ、俺達か。いや、知り合いを探していてな。迷子になったらしい」

 

「迷子か……アンタら見た限り三年生だな? だったら言わなくても分かるだろうが、単独捜索は二次災害の元になる。後方支援委員会の方で捜索手配を出してくれ。良いな?」

 

「お、おう。すまんな」

 

「それじゃあ、良いデートを」

 

 そう言って隼人は二人から離れて、レンカ達を追ってポイントデルタへと向かっていくのだった。


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