僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第20話『迫る影』

 同時刻、新横須賀埠頭。深夜も稼働している新関東地方最大の貿易港であるここは、夜中である事から、明かりの強さを自粛して稼働していた。

 

「あーあ、ねみい」

 

 地元の中規模PSC、『中山警備会社』の社員である一人の男が、あくびをしながら、肩に自衛用の『HK・G36C』5.56mmアサルトカービンを下げて、深夜の見回りをしていた。

 

 支給品のタクティカルライトを左右に振りながら、不審者や密航者がいないか探していた彼は、コンテナから鳴ったゴトン、と言う音に気付き、腰から『HK45』45口径自動拳銃を引き抜いた。

 

「こちら、ブラボー1。セキュリティポスト、応答願う」

 

『こちらセキュリティポスト。ゴー、ブラボー1』

 

「警備エリアC4B5にて不審音確認。念の為、バックアップを要請する」

 

『了解、ブラボー1。該当エリアにエコーチームを送る。警備を続行せよ』

 

「いや、俺が先行して様子を見る」

 

 そう言いながら、HK45のマウントレールに着けたライトを点けた警備員は、コンテナの間に出来た通路を歩いていく。

 

 銃口と共に明かりを向け、周囲を照らして確認しながら、コンテナ内部を進んでいく。

 

「気のせいか……?」

 

 そう言いながら、奥へ進む男は急に陰った足元にハッとなり、上に注意を向ける。

 

 その後、隣で二段に積まれたコンテナから無視できないが小さな軋みの音が鳴り、銃口を上げた彼は、応援が来るまで待とうと思考を切り替え、元の場所へ戻ろうと振り返る。

 

「ハロー、お兄さん」

 

 その視線の先、コウモリの様な翼を折り畳んだ白い死神の様なシルバーブロンドの少女が、ぼんやりと見えるだけの姿で立っていた。

 

「な、何だお前!?」

 

 引き攣り気味の声でそう叫び、HK45の銃口を向けた男は、左腕のバックラーからマチェットを引き抜いた死神が、一歩ずつ歩み寄ってくるのに合わせて後退していく。

 

「く、来るな、来れば撃つぞ!」

 

「撃ってみなさいな、お兄さん。もっとも、効けば良いけどねぇ」

 

「な、何!?」

 

 その発言に、軽軍神装着状態であることを確信した男は、腰から鎮圧用のガスグレネードを投擲し、狭い倉庫群から逃亡して仲間の目につきやすい車両通行路へ出ようとした。

 

 だが、出る直前、彼の腹部に鋭い痛みが走り、その直後、破れた腹部から、胃液と血液が混じって漏れ出した。

 

「一体、何が……」

 

 それを断末魔に、地面に倒れた男の死体を見下ろした透明な影は、全身を覆わせていた光学迷彩を解除する。

 

 すると、破片の様に散る迷彩の中から新アメリカで国連軍を壊滅させた青年が、フレームむき出しのパワードスーツ姿で露わになり、彼は大型のコンバットナイフを血振りして鞘に収めた。

 

 直後、一瞬で死体に近づいた少女は、同じく、国連軍の一兵士を大鎌で薙ぎ払った少女の姿を月光の元に晒しながら、つまらなさそうに口を尖らせる。

 

「もう賢人、私の楽しみを取らないでよ」

 

「すまんな、ヴァイス。少し焦ってしまった」

 

「ふふっ、せっかちなのは相変わらずね」

 

 そう言って笑いあう二人は、割り込む様に入った通信に、意識を移す。

 

『お姉ちゃん、賢人、新手。多分そいつが呼んだ援軍。こっち来てる』

 

「数は?」

 

『四。奈津美も一緒に狙ってるからやろうと思えばやれるけど』

 

「ドローンを使って暗い場所に誘い込め。それから殺すんだ」

 

『了解』

 

 コンテナの上で待機している少女達との短いやり取りの後、光学迷彩でシルバーブロンドの少女、ヴァイス共々隠れた青年、賢人は、センサーリンクで同期したドローン映像を見た。

 

 内蔵された重力制御機構でふわふわと浮いている円盤型のドローンは、コンテナの隙間から、四人並んで迫る警備員の姿を捉え、うち一人に指向性の雑音を鳴らした。

 

「ん?」

 

 案の定、足が止まった男を、隊の面々は不審そうに振り返る。

 

「どうした中田」

 

「あ、いや、変な音が。ちょっと様子を見てくる」

 

「待て、一人で動くな。エコー4も連れていけ」

 

「りょ、了解」

 

「何エコー4のおっぱいにドギマギしてんだよスケベ野郎。とっとと確認して、ブラボー1の援護に来い。先に行く」

 

 そう言って、もう一人とツーマンセルを組み、G36Cを手に移動した隊長格のエコー1に、中指を立たエコー2は、同僚らしいエルフ族のエコー4と共に、コンテナの間に入った。

 

 お互いに背後をカバーしながら、G36Cのタクティカルライトで周囲を捜索する二人の後方を捉えていたドローンの映像を見つめた賢人は、その周囲に浮かぶ羽根状の砲台を映像に捉える。

 

「撃て」

 

 そう通信機に呟いた賢人は、砲台から放たれた粒子ビームが、警備員の体を貫くのを確認し、ヴァイスと共にドローンとの同期を解除する。

 

『ブラック、タンゴツーダウン。待機する』

 

「了解。命令を待て」

 

『ブラック、待機了解。アウト』

 

 上のコンテナで待機したブラックと呼んだ少女が、そう返したのを確認した賢人は、通信バンドを新アメリカで一緒にいた少女、奈津美のものに切り替える。

 

「奈津美、そこからビームマシンガンで二人を狙えるか?」

 

『駄目、コンテナに隠れてて狙えない』

 

「分かった。奈津美はそのまま光学迷彩で隠れつつ、ブラックを護衛してくれ。緊急時は迎撃弾の使用を許可する」

 

『奈津美、了解。迷彩起動状態で、ブラックの護衛を行います』

 

「ヴァイス、出番だ。数分で片をつけるぞ」

 

 そう言って、腰からマット加工がなされたナイフを引き抜いた賢人に、ニヤリと暴力的な笑みを浮かべたヴァイスは、赤い目を月光で光らせると、その姿をブレさせる程の動きで飛び上がった。

 

「零式、ディメンジョンパッシブ(次元移相式迷彩)メタマテリアルアクティブ(偏光疑似透過式光学迷彩)起動」

 

 対する賢人は、静かに姿を消し、シリコンカバーと相まった静穏性で足音を抑えたまま、ターゲットに向かっていく。

 

「さあ、ショウタイムの始まりよ!」

 

 月光を背に、逆光効果で姿をあいまいにしたヴァイスは、空力制御の為に広げたコウモリ状の推進翼を起動し、衝撃波の出ないギリギリの亜音速で、目下のターゲット二人に迫る。

 

 流石に気付いているのか、銃を向けてくる二人を前に、左右に動き回って照準を撹乱したヴァイスは、両側の推進翼の基部に取り付けられた超高出力パルスジェット推進器を起動させる。

 

「行くわよ、賢人」

 

『ああ、合わせる』

 

 短いやり取り、だがそこには、確実な信頼と意思の伝達があった。

 

 腕部のバックラーで弾丸を弾くヴァイスの一閃が、敵の首を刈る瞬間、光学迷彩を解除した賢人が、エコー1の目の前に現れ、いきなりの事に狙いがブレてしまう。

 

「これで」

 

「終わりね」

 

 そう声を合わせた賢人の刺突、そしてヴァイスの一閃が、エコーチームを襲う。

 

 エコー1を腹、喉、心臓の順で刺した賢人と、高周波ブレードであるマチェットの切れ味に任せてエコー3の首を斬り落としたヴァイスは、それぞれ血振りすると鞘に納めた。

 

「案外楽な物ね」

 

「それだけ平和だと言う事だ、羨ましい」

 

「私にとってはつまらない事だけどねぇ」

 

 そう言ったヴァイスに苦笑した賢人は、通信機にクリア、と呟くと元のコンテナに引き返し、内部に収めていたキャリアーを運び出してどこかへ消えていった。


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