僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第17話『裏切りの意味』

 一方その頃、模擬戦場の管理プレハブを拠点としていた流星達は、隼人達『ケリュケイオン』から離反したユニウスの面々と対面し、少し険悪なムードになっていた。

 

 少し動揺するユニウスの面々を庇う様に、シュウは俊と共に先頭に立ち、流星達の視線を浴びていた。

 

「それで、松川流星。君の考えを聞こうじゃないか。転入手続きに乗じて引き抜きを試みた君の目的を」

 

「目的は単純さ。今の生徒会を倒す。その為の戦力として君たちが欲しかった」

 

 眉をひそめるシュウににこやかに笑った流星は、まるで講義をする様にそう語ると、次の質問を促す。

 

「戦力ならば、ケリュケイオンがいるじゃないか。どうして俺達を?」

 

「そうだね、ケリュケイオンは確かに即戦力になり得る。だけど、僕らが使うには少々リスクが伴う」

 

「例えば?」

 

「うーん、一番大きいのはお金で雇われてるって事かな。僕と隼人君は親しいけどそれとこれとは別だ。彼は仕事で戦うから、それなりの報酬を要求してくる。だけど、僕らにはそれが無い」

 

「友情よりも実利って事かよ。はん、気に入らねえ」

 

 そう言って悪態を吐く俊に苦笑した流星は、そんな彼を嗜めたシュウに視線を向ける。

 

「だけど、君たちは違う。君たちは明確な目的があってここへ来た。そうだろう? 聖遺物回収を専門とする、『セクターエクスレイ』のチームユニウス」

 

「どうして、それを……」

 

「調べれば出る事さ。最も、権限がいる事だけど」

 

「なるほどな、生徒会権限で国連のデータベースにアクセスしたのか。それで俺達の事を」

 

「それだけじゃないけど、これ以上はちょっと言えないかな」

 

 そう言って笑った流星に、シュウは冷たいものが背中を伝うのを感じた。

 

「で、だ。僕は君達にある事を確約すると、君に言ったんだよね。君達の立場を知った上で」

 

「あの時すでに知っていたのか……?」

 

「もちろん。君達の目的の品、ダインスレイヴが回収された瞬間から、調べていたのさ。君達が来ると予想した上でね」

 

 そう言ってホロジェネレーターにダインスレイヴの立体データを表示した流星は、イラついた俊の声を聴く。

 

「それで、もったいぶらずに言えよ。お前が、お前らクーデター側が、俺らに何してくれるのかを」

 

「そうだね、権限奪取後、ダインスレイヴの委譲を速やかに行う。それじゃあダメかな?」

 

「何だと? そんなもん何時でも出来る事じゃねえか。兄貴だって言ってたぜ」

 

「それは、どうかな」

 

「何?」

 

 本気で疑った俊に、深刻な表情を浮かべた流星は状況が分かっていない彼に、諭す様な口調で話し始める。

 

「今、ダインスレイヴの管理はPSCイチジョウが担当している。だけどそれは、新関東高校からの依頼だ。隼人君がどう言ってたのかは知らないけど、譲渡には新関東高校の首脳の考えが挟み込まれる。

要は今の生徒会の考えだ。そして、これはあくまでも僕の予想だから、違うかもしれないけど、風香先輩……いや、生徒会長はダインスレイヴを防衛材料として手元に残しておくはずだ」

 

「は? そんな事、許されるのかよ。だって国連命令だぜ?」

 

「国連命令を聞く義務があるのは、各国政府とそこに属する民間組織だけだ。学院機関は違う。命令に対して拒否は認められているし、無理強いすれば条例違反で君達は処罰される」

 

「正気かよ。ここの生徒会長さんは、聖遺物の怖さを知らねえのか……?」

 

「分かってるさ。分かった上で手元に残すのさ。強力な取引材料だし、いざとなれば使用する事だってできるしね」

 

 そう言って、驚愕する俊へ、ホロジェネレータを使って簡略図を表示した流星は、驚く全員を見回す。

 

「そんな……分かってて使うってのかよ!」

 

「聖遺物相当の武装なら僕ら学院機関だって所有している。形骸武装って言うカテゴリの、『雷牙』と言う武器をね。それは去年の内戦で各学院が奪っては使用していたって言う履歴があるし、ダインスレイヴに限ってやらないとも限らない。

それに、ダインスレイヴには特別『魔剣』と言うブランドが付いている。威嚇効果もてきめんだろうね」

 

「そんな、そんな事は悪人のする事だろうが! どうして学生がそんな事を!」

 

 そう言って壁を強く叩いた俊に、呆れ半分の流星は、納得がいった表情で彼を見た。

 

(……なるほど。通りで隼人君達と衝突する訳だ)

 

 そう思い、苦笑した流星は、不思議そうに見てくる俊に慌てて誤魔化すと、秘書として少し離れた位置にいた奈々美に、資料を渡す様、促した。

 

「取り敢えず、僕が君達に依頼するのはケリュケイオンが出てきた場合の対処。要は、交渉戦闘の場で彼らを潰してほしい。ただそれだけさ」

 

「外野は外野と、か。妥当な判断だな。で、ルールはどうするんだ?」

 

「取り敢えずは……一騎打ちかなぁ。華があるし、分かりやすいし」

 

 そう言ってうーん、と声を出してシュウと共にアイデアを考える流星の背後、ぽへっとしていた奈々美の胸を揉む、金の四枚羽根を持つ有翼族の少女、ヒィロ・ユーグナントは、頭一つ低い彼女を撫で回していた。

 

「んにゃあ、止めてよヒィロ……。仕事中だよ?」

 

「うっへっへ。良いじゃあねえかお姉ちゃんよぉ。ふへ、ふへへへへ」

 

「ぴぃっ、おっぱい撫でないでよぉ……」

 

 赤面し、涙目になる奈々美を見て下種びた笑みを浮かべるヒィロは、間に割り込んできた青髪が特徴の人狼族の少女、エクスシア・フェルツシュタットに疑問の目を向ける。

 

「エクスたそ、どったの?」

 

「リューに言われて注意しに来ました」

 

「なるほどなるほど。そう言われて止まるヒィロ様ではなぁああい!」

 

 そう言ってエクスシアに襲い掛かろうとしたヒィロは、うるさいのが鼻についたのか、背後に立っていた流星に気付き、彼にアームロックされた。

 

「あーだだだだ! いけない! それ以上はいけない! う、腕、腕折れる!」

 

「うるさいよヒィロ。また星良のお仕置きがいるのかな。あの子は喜ぶけど」

 

「やーめーろーよー! 星良のお仕置きマジシャレになんないもん!」

 

 そう言って涙目になるヒィロを見てニコニコ笑った流星は、ドン引きしているユニウス達に気付いた。

 

「ああ、皆気にしないで。いつもの事だから」

 

「い、いつもの事……?」

 

「うん。いつもの事」

 

 そう言って、ヒィロの背中をポンポンと叩いた流星に、呆れかえったシュウは、涙目の奈々美が、こちらを見ているのに気付き、軽く笑う。

 

「ひぅ……」

 

 引き攣った声を上げ、流星の背中に隠れた奈々美に軽く傷ついたシュウは、自身に隠れながらも、奈々美をじっと見ているハナに気付いた。

 

「話してくるか?」

 

 そう言ってハナを見下ろしたシュウは、人見知りする彼女の頭を軽く撫でて、流星と向き直る。

 

「悪いな、俺も彼女もまだお前らに慣れなくて」

 

「大丈夫さ。最初はそんなものだよ。ね、奈々美ちゃん」

 

 温厚な笑みを浮かべるシュウと共に、柔和な笑みを浮かべた流星は、恥ずかしそうに制服の裾を掴む奈々美の頭を撫でる。

 

「あー、ズルい! 私も奈々美の頭なでなですりゅうううう!」

 

「分かった、分かった。なるべく優しくね……」

 

「わっほぉおおおい」

 

 解放され、ハイテンションで奈々美にハグをしたヒィロは、頬擦りしながら、優しく頭を撫で回す。

 

 その流れにエクスシアも加わり、人外二人に抱き付かれた奈々美はあわあわと慌てながら、なされるがままになる。

 

「さて、取り敢えずこれでおしまいにしとこうか。後は……」

 

「家探し、だな」

 

「え?」

 

 そう言ってぽかんとした流星に、青い表情を浮かべたシュウは、あっと声を上げたハナ達の方を振り返る。

 

「ケリュケイオンと別れたから宿が無い」

 

「あ、うん。そうだよ……。どうしよう。って、あれ?」

 

 そう言ってシュウを見上げたハナは、若干潔癖症の気があるシグレを除いて、割と平然としている面々に間抜けた声を上げた。

 

「皆、困ってないの?」

 

「いや……別に。ホテル探せばあるし、それに最悪野宿でも構わないけど」

 

「そ、そうだよね」

 

 そう言って引き攣った笑みを浮かべたハナに、後ろの和馬共々平然としている美月は、胸を撫で下ろす彼女の背後で冷や汗を掻いているシュウを見る。

 

「あ、あのな、ハナ」

 

「どうしたの? 物凄く汗を掻いてるけど」

 

「その……。言いにくいんだが、宿代が、無いんだ」

 

「ふぇ?」

 

「大隊長が、昨日どんちゃん騒ぎで予算使い潰したらしいんだ」

 

 そう言って虚ろな目を向けたシュウに、シグレ共々ぴしりと固まったハナは、机の上に置いていた『HK417A2』口径7.62㎜バトルライフルを手に取る。

 

 そして、ククリナイフと『G18C』9㎜マシンピストルを引き抜いたシグレと共に、外に出ようとする。

「おい、待て待て」

 

「待った、待ったぁ~」

 

 直前で自身よりも背の高い、日向とミウに止められた二人は、文字通り抱き締めた二人に、駄々をこねる子どもの様にじたばたと暴れる。

 

「何する気だお前ら」

 

「酒とタバコに現を抜かす兄さんを殺します」

 

「殺しても、どんちゃん騒ぎの金は戻らんぞ。それに、良いじゃないか、野宿くらい」

 

「絶対に嫌です! 外で寝るとか、む、虫がいっぱい湧くじゃないですか! それに、お風呂や、トイレはどうするんです!?」

 

「あー、風呂やトイレは川とかその辺の施設を使えば良いし、虫くらいなら別に構わんだろ。困るとすれば電子機器くらいか」

 

 手慣れた様子でそう答えた日向に、追従して頷いたミウは、心底嫌そうなシグレに、ほんわかした笑みを浮かべていた。

 

「まー、シグちゃんはまーだまだ、子どもだかんねぇ。ちゃんとした環境無いと不安なんしょー」

 

「そ、そんな事はありません!」

 

「えー? だったらさっきの文句は何だったのさー。本心じゃないのぉ?」

 

「ち、違います! 私はただ、国ごとに求められる環境について……」

 

「私は、環境なんて人それぞれだと思うけどなぁー」

 

 そう言ってのんびりと笑ったミウに、ムッとしたシグレは、奈々美と似てぽわっとしている彼女の巨乳に顔を埋めて自身のそれを隠した。

 

 抱き付くのも抱き付かれるのも大好きなミウは、シグレの抱っこを見て、嬉しげに笑い、ギュッと抱き返した。

 

「えっへっへー、シグちゃんは甘えんぼだなぁ~」

 

「甘えん坊じゃないです。子どもじゃあるまいし」

 

 にへー、と笑うミウに恥ずかしそうな表情を浮かべたシグレは、腕を組んだままニコニコ笑う俊と日向に気付き、顔を真っ赤にした。

 

「続けてて良いぞ」

 

 そう言ってカメラを構える日向の横、妹を見つめる兄の様な顔をしている俊に、少し寂しさを感じていた。

 

「皆、仲良いんだね」

 

 そう言って一息つく流星は、そのタイミングで部屋に入ってきた長身の少女、自分に似た顔を持つ双子の妹の松川星良に、軽く手を上げて出迎える。

 

「やあ、星良。待ってたよ」

 

「いきなり呼び出しておいて、随分と嬉しそうにしてるじゃないのよ流星。それで? 先輩達に言ってきたの?」

 

「ああ、ちゃんと、ね」

 

「そう。なら良かったわ。優しいあなたの事だから、言いきれなくなったかと思って心配してたの」

 

「大丈夫だよ。僕はもう、あの頃よりも強いから」

 

 そう言って笑った流星に、落ち着いた雰囲気を放った星良は仕方ないな、と言う様に、深呼吸交じりの微笑を浮かべる。

 

 そんな彼女らのやり取りを遠目に見ていたシュウは、真っ暗い表情のハナを慰めながら、先程の自信が消えている流星を見つめていた。

 

(あの頃……?)

 

 引っかかる単語を脳内で反芻しながら、宿の算段をつけようとしているシュウは、数名を集めて話し合っている流星達に、さらに疑問を浮かべる。

 

 流星の方へ移動しようと体を動かしたシュウは、そのタイミングで着信音を鳴らした端末に気付き、足を止めた。

 

 そして、耳にかけていた神経接続対応のマルチデバイスのスイッチを入れ、視界に割り込ませる様に、受信したメールを開いた。

 

『シュウヘ:事情を聴きたい。寮にて飯を作って待つ。:隼人より。

 追伸:寮に荷物があるが今後どうする? その話もしたい』

 

 しっかりしているな、と感心しながら、おそらく寮で待ち受けているであろうケリュケイオンの刃の様な視線を想像したシュウは、少し胃が痛くなっていた。

 

 青くなる彼を不思議そうに見上げたハナは、一息入れて戻った彼の表情に、少し笑うと気合を入れてあげようと軽く背中を叩いた。

 

「ぬ、すまん」

 

 不機嫌と勘違いされ、彼に謝られた。

 

 どうしよう、と罪悪感に囚われたハナを他所に、自分で気合を入れたシュウは、ユニウス全員に向けて集合のサインを送る。

 

「全員、集まったな。さて、これから一旦寮に戻る」

 

「戻んのかよ」

 

「ああ、荷物もあるし、それに……。目的も話していない。俺達はあくまでも任務の為に彼らと敵対する。その事を伝えなければ今後に関わるからな」

 

「何でだよ。どうしてあんな傭兵共を味方につける必要があるってんだよ。俺達は俺達のままで良いじゃねえか」

 

「編入自体は俺が提案したんじゃない。大隊長の命令だ。だけど、あの人が言うからこそ、何かあるのかもしれない」

 

 そう言って俯くシュウに、鼻を鳴らした俊は肩に担った、巻布包みの槍を軽く鳴らす。

 

「傭兵を雇った所で、何か変わるとは思えねえんだけどよ」

 

「だが、大隊長も言っていた通り、これからの戦闘は激しいものになる。彼らの助けは必要不可欠だ」

 

「だから、俺らと組む必要ないだろっての。あいつらだけで良いじゃねえか」

 

 そう言ってツンとした俊に、ため息を落としたシュウは、彼とシグレを除く面々へ、アイコンタクトを送ると、全員が諦めた様に首を横に振る。

 

 それを見て説得を諦めたシュウは、取り敢えず、と前置きを置く。

 

「ケリュケイオンのいる寮に戻る。これは確定事項だ。俊、向こうに行っても、騒ぎは起こすなよ」

 

「わーってるよ。そんぐらい。姐御にシメられるのは、勘弁だからな」

 

 そう言われ、ため息を返事にしたシュウは、不貞腐れる俊を流し見ると、流星に退室を告げてその場を後にした。


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