僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第15話『雇用問題』

 それから三十分後、一旦落ち着いたカズヒサ達は物凄く暗い表情の隼人が、涙声で切り出すのに傾注していた。

 

「値切り、何とかならないか……」

 

「切実な感じで言われてもお兄さん困るぜ。それにもう履行されちゃったみたいだしなぁ」

 

「だとしても四千万も値引くのはやり過ぎだ!」

 

「仕方ねえだろー。うちだって火の車なんだから。そんな中、三千万も出してんだぜ? 無いよかマシだと思って――」

 

「アンタらと違ってこっちは能力給なんだよ! 仕事取れなきゃ給料が減るだけだ! 長期雇用だぞ? その間、俺らは他の仕事が出来ねえんだよ!」

 

 そう言って、机を叩く隼人に気圧されたカズヒサは、どうしようか悩んだ挙句、こう言った。

 

「が、学校の仕事貰えば良いじゃねえか」

 

 そう言って苦笑いをした彼だったが、それが隼人の怒りに火をつけた。

 

「学校の仕事も出来るか分かんねえから撤回してくれと……言って……」

 

 がっくり膝を突いた隼人が、言葉に詰まったのに、全員が凄く微妙な空気になり、カズヒサを責める様な視線を向ける。

 

「なっ、何だよ! 言っとくけどなぁ、七千万円とかうちの予算の最大値だっつの! 所費払えなくなるぞ!」

 

「まぁ、そうなるわね……」

 

「だろ?! 三千万円が限界なんだよ。悪いけどそれで納得してくれ」

 

 そう言って手を合わせて拝むカズヒサを視線で詰った美月は、深いため息を吐いた隼人の手に、自身のそれをそっと重ねる。

 

「ごめんなさいね、うちもうちで火の車なのよ」

 

 そう言ってにこっと笑った美月は、カズヒサの方に振り返ると、一つ息を吐いて切り出す。

 

「その他にも、何かあるんじゃないかしら? 例えば、今回の回収の経緯についてとか」

 

 そう言って、カズヒサを苦笑顔で見つめた美月は、やりにくそうに後頭部を掻いた彼に傾注する。

 

「あー、そうだったな。一応話しとくか。ユニウスの連中も含めて聞いてくれ。今回、俺達がここに来たのには新日本政府からの打診による物だ」

 

 そう言って小型のホロジェネレーターを近場に投げたカズヒサは、腕のバンドから外した端末を操作して、プレゼン用のファイルを展開する。

 

「これは新日本政府から秘密裏に伝えられた事だが、一週間前ダインスレイヴの存在が確認されたと同時に日本政府より引き渡しの要求が来た。理由については研究用として接収したいとの事だったが

地球側での動きに付いては各国家から収集した情報で知ってたんだが、どうやら聖遺物を軍事目的に使おうって動きがあるようでな。新日本政府は要求を受け入れつつも接収より早く回収してくれと俺らに要請した」

 

「それで、俺らを雇用ついでに回収するって訳か」

 

「そう言うこったよ。まあ、聖遺物回収の話に着いちゃここに限った話じゃねえ。世界各地で、国連主導による聖遺物回収の動きが出始めている。地球側へ渡さない為にな。

まあ、おめえらには分かってるとは思うがそこできょとんとしている初々しい女の子達の為に聖遺物の戦略的価値について説明しとこうかね」

 

 そう言ってホログラムの画面を切り替えたカズヒサは、説明用に用意していたらしいスライドを取りだす。

 

「聖遺物って言うのは昔作られた大魔術式武装みたいな代物の事だ。物によるが大体一つで戦術核クラスの価値がある代物だ」

 

「せ、戦術核?」

 

「あー、こういっても分かんねえか。えーっとな、ヒーローもんの通常モード必殺技みたいなもんだ」

 

 そう言ってスライドを操作するカズヒサに、少し納得しているアキホを見た全員は、内心で突っ込む。

 

(あれ、戦術核ってそんなに威力弱いっけ)

 

 若干ずれてる気がしないでもないツッコミをする彼らを他所に、説明は進む。

 

「んでな、核とは違った点として何度でも使えるって事がまた恐ろしいんだなこれが」

 

「完全に人事みたいですね……。それで、何度も使えると言う事はメリットなのですか?」

 

「ああ、そうだぜ。メガネっこちゃん。核は一発だが聖遺物はチャージさえあれば連発だってできる。町一つを薙ぎ払えるだけの威力を何回もな」

 

 スライドにやたらファンシーなイメージ画像を表示させたカズヒサに、香美はいまいち実感できない恐ろしさを何とかイメージする。

 

「それを地球側が手に入れれば土地にトドメを刺す事になるし、その後予想できるであろうこっちの占領に持ち出されれば被害は甚大だ。それとまだ重要な事がある」

 

「それは?」

 

「地球側の連中は、魔力の怖さを何一つとして理解していないと言う事、そして連中は地球がどうなっても良いと考えていると言う事だ」

 

 ニヤッと笑いながらも目は笑っていないカズヒサに少し怯えた香美とアキホは、黙々としているケリュケイオンと、少し驚いているユニウスを交互に見て、その違いに気付いた。

 

「まあ、分かってる奴もいれば分かってない奴もいるだろうけどこれは事実だ。つまり近いうち全面戦争が待ってるってこった」

 

 そう言ってケラケラ笑うカズヒサに、全員が黙りこくる。

 

「辛気臭い顔するなよ。要は生き残って、聖遺物を回収していけばいいんだ。難しい事じゃねえ、皆協力して信頼し合えば出来ねえ事じゃねえ」

 

「ん~、でもぉ、すでに会話のドッヂボールが繰り広げられているんだけどぉ。それについてはぁ?」

 

「……どう言う事だ?」

 

 困惑するカズヒサにマイペースを維持するミウは、ケリュケイオンを指さすと、ビクッとなっている彼らに垂れ目を向ける。

 

「仲良くねえとあんな会話しねえよ!」

 

「そーだよ、スケベ話とか仲良くないと『あ、うん、そうだね』って微妙な空気になるしかないよ普通!」

 

「女がそう言う話題振るなよ!」

 

 ツッコミを返した武と、返されて嬉しそうな楓になるほどな、と納得したカズヒサは、ミウの方を見る。

 

「うん、これはこれでありだな。まあ、お前らもお前らで雰囲気合わせられる様になれよな」

 

「えー……面倒臭いなぁ……」

 

「ミウはミウで、もうケリュケイオンのノリに近いと思うぞ」

 

 そう言って腕を組むカズヒサにだらしなく笑ったミウは、日向に抱き付こうとして、ふわっと香ったゲロの残り香に、鼻をつまみながら距離を取った。

 

「っと、もう一つ大事な事を忘れてた。あー……すまん、そこのエルフの子とメガネの有翼族の子はちょいと席外しててくんねえか? ちょっとした機密事項だからよ」

 

「だ、そうだ。アキホ、香美、席を外しててくれ」

 

 カズヒサの発言を受けて二人に指示を出した隼人は、隣の部屋に移動していく彼女らを見送ると、アハトに構っているレンカとカナに一瞥やる。

 

「さてと、話しましょうかね。数日前、新アメリカで銃撃戦があった。国連軍と、ある依頼を引き受けた傭兵集団との、だ。国連側はきっちり装備を整えた特殊精鋭部隊。対し傭兵側は軽装、装備も拳銃のみ。

普通なら国連側が全滅する筈のないカードだ。だが、国連側が全滅した。分かった事は二つ。傭兵は、地球での戦役を生き延びた相当な手練れであると言う事。もう一つは連中が地球製パワードスーツ、通称AASを運用していると言う事だ。

これは、現場に残された死体の写真だ。銃撃で死んだ連中の写真がこれで、こっちはナイフで頭を刺された写真、で、問題はこいつだ」

 

 そう言って二枚のスライドを出したカズヒサに、全員が息を呑んで傾注する。

 

「一つは大質量の斬撃武装で斬り潰された死体、もう一つは粒子ビーム兵器で心臓を打ち抜かれた写真だ」

 

「斬撃武装の斬り痕、大剣や斧の切れ方じゃないな……。思い当たる武器と言えば……大鎌か」

 

「あたりだ、隼人。検視官の見解も同様の予測をしている。あと、司法解剖でそれに加えて高周波が使用された形跡が認められた」

 

「大鎌型のソニックブレードか……。それで、国連を全滅させた連中と俺達、何の関係がある?」

 

「まあ、それについてこれから話すから。国連の部隊がこいつらを鎮圧しに行ったのはある情報がリークされたからだ」

 

 そう言って、その情報を表示したカズヒサに、全員が息を呑む。

 

「数日前、新横須賀のPSCイチジョウに回収された聖遺物、ダインスレイヴを奪取しようとしている傭兵部隊がおり、新アメリカで奪取依頼に関する取引をしようとしている、と言う情報が匿名で国連新アメリカ駐在所に寄せられた。

この情報が出回った時、俺は裏を取ろうと情報屋を使ったが上層部はそれを待たず精鋭部隊を動かした。功を焦っていた、と言えばそうなるが実際には初動解決をしたかったんだろうな」

 

「で、結果精鋭部隊を失うだけで何の効果も無かった、と」

 

「そうだ。いや、むしろ状況としては相手に警戒する余地を与えた分、こっちに不利だ。戦闘をする際に、こちらの戦力に対して対策をしてくるかもしれないからな」

 

「なるほど。で、一つ質問なんだが、その情報主、誰だったんだ?」

 

「こっちで分かってる内じゃ取引相手だって事くらいか。この情報は闇社会じゃとっくに広まってたらしくてな。一部じゃ独占を狙った無謀な騙し討ちだって話もある。まあ、確定した情報がねえから特定はできないんだけどよ。

相手の大元は恐らく地球人だろうな。今一番聖遺物を欲しがってるのは地球人だからな」

 

 そう言ってプロジェクターを収めたカズヒサは、うーん、と思い悩むケリュケイオンの面々と、どうしようか迷っているユニウスの面々を見比べてため息を吐いた。

 

(こればっかりはしゃーねえか。俊達ゃ実戦経験ねえもんなぁ……。こう言う話題出ても想像とか想定できねえよなそりゃ)

 

 横でダウンしている副官二人を流し見つつ、そう思ったカズヒサは、手持無沙汰になって、ブラックホークをくるくると回し始める。

 

「何か質問はあるか?」

 

「一つある。襲撃が予測される連中、どう考えても人間が使える武器ではないものを使用している。クラスとしては、軽軍神クラスだ。だが、こちらでまだ粒子ビームは軍用化されていない。

だとすれば、だ。相手は一体どんな兵器を持ち込んできている? そこら辺の情報、アンタは持っている筈だ」

 

「……良い質問だ、隼人。相手が持ち込んできた兵器、それはな、地球製のパワードスーツ、通称AASだ。六年前、地球で起きた大規模紛争において主力兵器となっていた代物でな。第六世代型まで開発された所で、国力が続かなくなり何処も開発を止めちまった。

地球産の軽軍神と言っても良い代物だが、こっちのそれと違うのは動力源であるユニゴロス反応炉の恩恵で活動時間に制限が無い事だ。平均的な出力こそ軽軍神には劣るが、活動時間が長いお陰で戦闘では優位に立てる。

加えて、兵器自体の研究や戦闘経験による構造の最適化が進んでいるおかげで兵装選択の自由度や信頼性も高い。つまり兵器としては向こうの方が完成度が高いってこったよ」

 

「なるほどな。だが、何でそんな物が地球からこちらへ来ている? 輸出はともかく私的な事情での兵器持ち込みは禁止している筈だぞ?」

 

「それについては、わからねえ。だが最近無差別にゲートが開いてるって報告が国連の各支部からあってな、そのドサクサで持ち込まれたのかもしれん。ただまあ、こちらへの恭順を示しているAASパイロットもいない訳じゃねえから、違法であっても咎めようって動きゃ今んとこねえらしい。

だが、今回の奴らはそう言う姿勢じゃないんでな。それに、ビームライフルの装備が確認できる世代ってのは第五から第六。つまり相手様は最新鋭機を保有してるって事になる」

 

 そう言ってブラックホークを宙に投げたカズヒサは、暗く成る隼人達の中で挙手したリーヤに、視線を変える。

 

「あの、AASについての資料って無いんですか? 基礎構造や研究されていた兵器の解析さえできれば幾分か対抗できると思うんですけど」

 

「あー、悪いなメガネ君。AASの資料ってのは特A級でな、そう簡単に見せる訳にゃいかねえんだよ」

 

「そうですか……。うーん、粒子ビーム兵器かぁ……。微粒子とかで撹乱幕とか形成できれば威力を減らせるとは思うんだけどなぁ」

 

 ぶつぶつ呟くリーヤに苦笑したカズヒサは、頃合いと見て手を叩いた。

 

「ほい、この話は終わり。解散解散、あ、後しばらく俺らここの臨時顧問だからよろしく」

 

 そう言って手を上げたカズヒサに、全員が驚愕しつつ、そそくさと退室していった。


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