僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第14話『不穏』

 場所は変わって新関東高校。

 

 併設された寮の一室、コミュニティルームに流星、和輝、大輝、そしてもう一人、半狐族の少年、新原浩二がいた。

 

 寝間着姿でありながら武器を携行した物々しい風体の彼らは、リラックスした態度とは裏腹の話題で話し合っていた。

 

「それで、今日来た国連軍の人達……チームユニウスには、聖遺物の速やかな譲渡の取り付けを条件に協力を打診しておいたよ」

 

「根回しが早いな流星。流石の先見性と言った所か」

 

「いや、今回は運が良かっただけさ。正直実力が分からないから不安ではあるけど、その肩書に偽りの無い人材である事は調べたから」

 

「これで、ケリュケイオンを押さえられるカードが出来た訳だが、本当に向こうはそんな条件で良いと言ったのか?」

 

「うん。恐らく風香先輩はダインスレイヴを引き渡す気は無い筈だから」

 

 そう言って炭酸飲料を飲んだ流星は、ダインスレイヴと書かれたアイコンを現行生徒会の方へ移動させる。

 

 それを見た和輝達は目を丸くし、流星の方を見る。

 

「どうしてそんな事を?」

 

「簡単さ。保有戦力で守り切れなくなった時の交渉カードにする為。要は取引材料にする為だね」

 

「取引か、あの先輩の得意とするところだな。それで、お目当ての聖遺物が不確実な存在となる可能性を見た国連の連中は条件を飲んだ、と」

 

「後、もう一つ。ダインスレイヴで懸念事項がある。隼人君の事だ。保健委員会からの情報によれば隼人君は左腕と左目をダインスレイヴに侵食されている。

それに応ずるようにダインスレイヴ本体は起動しないまま、PSCイチジョウからこちらへに移送されている」

 

「……つまり、ダインスレイヴが持っている機能は現在隼人の体の中にあって、本体は単なる抜け殻、と。そうなれば、先輩以上に厄介かもな」

 

 そう言って前屈みになった和輝に頷いた流星は、先ほどから黙っている大輝と浩二の方を見る。

 

「さっきから元気ないね、二人共」

 

「当たり前だぜ、流星。大体なぁお前ら、そんな落ち着いているけど何の話をしてるのか自覚出来てんのかよ」

 

「あはは。まあ、緊張したり沈み込めばそれだけ視野が狭くなるし、それにばれちゃうかもしれないからね」

 

 そう言って苦笑する流星に呆れている大輝は、同じ顔をしている浩二の横に現れた奈々美に軽く手を上げると、枕を抱えて眠そうに眼を擦っている彼女が彼らを見回す。

 

「皆、寝ないの……? もう、一時だよぉ……?」

 

 ふわぁ、とあくびをする彼女に揃って苦笑した流星達は、テーブルに置いていた飲み物を一気に飲み干すと、解散の動きを取った。

 

「それじゃあ、明日。皆よろしくね」

 

 そう言って奈々美を抱えて笑う流星に

 

「ああ、任せろ」

 

 胸を張る和輝。

 

「ここまで来たんなら仕方ねえな。任せろよ」

 

 多少迷いながらも覚悟は決まっている大輝。

 

「何で俺だけ今までセリフ無いねん!」

 

 オチ要員としてメタに走る浩二。空気読んでくれ。

 

「もう寝ようよぉ……」

 

 更に被せる奈々美。

 

 何とも締まらない決意表明を終えた彼らは、それぞれの部屋に戻る。

 

 その道途中で、半分寝ている奈々美を抱える流星は、おもむろに端末を開いて先程の画像を開く。

 

「クーデター……か」

 

 その画像には、詳細な日程や行動予定が掛かれた表が映し出されていた。

 

「ここから世界を変えるんだ、僕は。あの子の為に」

 

 決意を固めた流星の顔には、柔和な笑みなど無く、そこには覚悟を決めた少年の顔があった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 翌日、新関東高校へ登校した隼人達は、いつの間にか付いてきたアキホ達を連れて、探偵部の部室に向かっていた。

 

「ったく、何でお前らまで」

 

「えへへ~良いじゃん良いじゃんどうせあと二週間で来る事になるんだしぃ」

 

「それはそうだがな、このタイミングで来る事も無いだろうに」

 

「家にいたら暇なんだもん。それに、ちゃんと宿題も持ってきたし」

 

「お前の事だ、どうせやらないんだろ」

 

 ぶっきらぼうにそう言った隼人に、アキホは頬を膨らませる。

 

「えー、信用無いなぁ。そんな事してないっしょ?」

 

「実績あるから信用してねぇんだよバカ。後、お前らの所属だとそれに加えて入学当日に実技試験があるぞ」

 

「実技?」

 

「まあ、模擬戦だな。白兵、射撃、何でも良い。入った頃の実力を測る為の物で、ランダム選抜で戦う」

 

「うっへぇ実技かぁ……」

 

 そう言って嫌そうな顔をするアキホは、同じ様に嫌そうにしている香美に抱き付くと、頬擦りする。

 

「裸の実技ならイケイケだけどね!」

 

 そう言ってニコッと笑うアキホの頭を掴んだ隼人は、ギリギリと力を込める。

 

「あーだだだだ!」

 

「何がイケイケだバカが。自信を持つなら身になるものにしろ」

 

「ぷぅー。ま、私は実技関連なら兄ちゃん達仕込みだし、香美ちゃんもそこそこ戦えるしね」

 

 そう言ってニヤニヤ笑うアキホは、同意する様に笑顔を向けてくる香美に笑い返す。

 

「そう言えばお前ら。入学祝いの武器、父さん達に頼んだのか?」

 

「あ、やっべ。忘れてた」

 

「やはりか……。どうする? 俺らで渡すか?」

 

「え、マジで!? 兄ちゃん達からくれるの!?」

 

「学校から払い下げられた中古で良いなら」

 

 そう言ってニヤッと笑う隼人に、少し困惑したアキホは、やれやれとため息を吐いているリーヤに救いを求める。

 

「ま、中古って言ってもこっちでリファインするから安心して。いつもの事だし」

 

「リー兄までそんな事言うの!? 中古だよ中古! 新品の方がお祝い間出ていいじゃん! 何で中古!?」

 

「あー、うん。お金の事もあるけど何より重要なのがね……」

 

 そう言って溜めるリーヤに生唾を飲んだアキホと香美は、その空気を読むケリュケイオンの面々をちらちら見る。

 

『武器が大抵被る』

 

 そう言って声をそろえたケリュケイオンに、ずるっとずっこけた二人は、まじめな顔をしているリーヤに食って掛かる。

 

「何それ、オリジナリティ出したい中学生の発想じゃん!」

 

「いやいや、まじめな話だってば。初心者向けの装備なんて売ってる会社一ケタくらいしかなくてさ、対応パーツ作る会社も無くて拡張性も乏しいし出力も据え置き。どうせ買い替える事になるんだよ」

 

「だったら最初から調整した武器使おうって事?」

 

「そう言う事。まあ、払い下げならコネで銃もおまけしてもらう事もできるし、悪くはないと思うよ」

 

「むー、そう言うなら納得しない事も無いかなぁ」

 

 そう言ってバスの座席に戻るアキホに苦笑したリーヤは、小さくサムズアップした隼人に、ウィンクをして見せる。

 

 そうこうしている内に到着し、隼人達はそれぞれの武装を置く為に、部室へと移動する。

 

 基本、地方学院では槍やライフルと言った、全長の長い武器の常時携行は認められていない。

 

 いつも持ち運ばず、必要だと思った時に持ち出すのが、この学校におけるルールだ。

 

「よー、おはようさん」

 

 部室に入った隼人達は、部室の机でコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいるカズヒサに目を丸くし、その対岸で机に突っ伏している女性二人に、全員が青い表情を浮かべた。

 

「あー、悪いな。昨日飲ませ過ぎちまってよ。御覧の通りさ」

 

「……何でアンタは無事なんだ?」

 

「ん? ああ、俺は酒強いし、そんなに飲んでねえから」

 

 そう言ってにかっと笑うカズヒサに、半目を向けた隼人は、おんなじ表情をしている俊のつぶやきを聞く。

 

「相変わらずのナチュラル畜生かよ」

 

 そう言った俊は、腰からシングルアクションリボルバー『スタームルガー・スーパーブラックホーク』を引き抜いて、ゆっくりとスピンさせているカズヒサに気付き、口を噤んだ。

 

 そんな彼を他所に、今時珍しいシングルアクションのリボルバーに興味津々のリーヤは、キラキラ輝いている目に苦笑したカズヒサからスピン状態のブラックホークを投げ渡される。

 

 慌てるリーヤに、間に入った浩太郎が宙を舞う銃の銃身を掴んでキャッチ、びっくりしている彼にグリップを差し出す。

 

「やるな」

 

 そう言ってニヤニヤ笑うカズヒサに笑い返した浩太郎は、銃を受け取ったリーヤを他所に、隼人をカズヒサの方へ移動させる。

 

「カズヒサさん、バカ話はここまででいいだろう。そろそろ本題に入ってくれ」

 

「あいよ、お前さんは相変わらずまじめだなぁ。さて、お前の親父さんと通話を繋ぎますかね」

 

 そう言ってタブレットを操作したカズヒサの対岸に座った隼人は、スタンドに建てられたそれに映る義父に、視線を変える。

 

「もしもし、初めまして社長」

 

『おお、秘書から連絡があったよ。君がカズヒサ君だね。何でもうちの第三小隊を長期に雇用したいとか』

 

「ええ、その許可と……雇用費用の交渉をしたく第三小隊の面々にも立ち会ってもらってます」

 

 そう言って若干垂れていた目尻を吊り上げたカズヒサは、対岸で不貞腐れ気味だった隼人を見る。

 

 すらりと抜身の刃の様な眼を見た隼人は、何か考えているのかと内心で身構える。

 

『うむ、国連軍との契約は第三小隊にもきっとプラスになるはずだ。許可は出そう。では、値段についてだが相場でそうだなぁ、基本料金七千万円とさせていただこうか』

 

「なるほど……。確かにPMSCの長期派遣の値段としては妥当です。ですが、こちらとしてはそんな額は出せない。学生となればなおさらだ」

 

 そう言って画面の社長を睨んだカズヒサに、そう言う事かと納得した隼人は、机を叩いて反発する。

 

「ふざけるな。学生とは言え俺達も社員だ。それ相応の支払いを受ける権利がある」

 

「だったら世間にリークしても良いんだぜ? 坊ちゃん、お前ら学生の身分でありながら社員でもある奴らがいるって事をよ」

 

 そう言って隼人に眼光を向けてくるカズヒサは、困惑する周囲の面々に、やりにくさを感じつつ、そのまま押し切る。

 

「……カズさん、何でいきなりあんな強気なのぉ?」

 

「……うち、最低限の人件費しか予算おりない貧乏師団だからねぇ」

 

「……ああ~、そう言うこと~」

 

 ひそひそ話すミウと美月の会話は、隼人自身が発する怒号にかき消され、彼らの耳には届かなかった。

 

『分かった、割り引いて三千万にしよう。それ以上は値引きできない』

 

「社長!」

 

『これも会社を、ひいては社員を守る為なのだ、許してくれ』

 

 そう言って通話が切れたのを見た隼人は、ニヤッと笑うカズヒサに、本気で殺意が湧いていた。

 

 が、殺す訳にもいかないのでグッと堪え、着席した。

 

 直後、背後にいた武やレンカ達から抗議の声が飛ぶ。

 

「お前ら……」

 

 少し感動した隼人だったが、その内容を聞いて一気に冷めた。

 

「代引き料金払えねえじゃんよ! それにバイトの数増やさねえとならねえし!」

 

「おやつの数とかゲームの時間激減するじゃんどうしてくれんの!」

 

 完全に我欲の為だった。

 

「うるせえ! もっと別の心配をしろ! 明日からの生活とか他の事を考えろ!」

 

 そう言って黙らせた隼人は、かなり現実的な怒号に沈黙するユニウスの面々を他所に、リーヤから返却されたブラックホークを回すカズヒサを睨むと、悔しさを下して席に付く。

 

「それで、何をすればいい」

 

「聞き分けが良いねぇ。お兄さん嬉しいぜ。で、仕事についてだが、主に俺らの支援だ。一緒に行動してもらう。基本料金こそ値切らせてもらったが作戦参加時の手当ては出す」

 

「つまり金が欲しけりゃ死ぬ気で働け、って事か」

 

「そう言う事だ。ま、お仕事頑張ってくれや」

 

 そう言ってケラケラ笑うカズヒサに俯いた隼人は、明日からの生活費用の切り詰めと、繋ぎの仕事の有無を計算していた。

 

 その様子が大分ヤバかったらしく、気にしていないカズヒサ以外の面々が、隼人から距離を取っていた。

 

「うぅ……気持ち悪い」

 

 そんな彼らを他所に二日酔いでダウンしている三笠が、吐き気をもよおしており、それを見て気付いた日向が、トイレへ連れていく為に担いで離席する。

 

 青い三笠に心配になるユニウスの面々を他所に、発狂寸前の隼人から目を逸らした浩太郎は、そう言えば、とカズヒサに話を切り出す。

 

「聖遺物回収の話はどうなったんですか?」

 

「あ、わり。すっかり忘れてた。回収の話だな、えっと……ダインスレイヴってどこにあんだ?」

 

「今はうちの倉庫に入れてありますよ。いつでも引き渡せます」

 

「おう、そりゃ良いな。じゃ、今度持ってきてもらうとしようかね」

 

「あ、あの……それと、もう一つ」

 

 珍しく戸惑った様子の浩太郎は、隣で怯え隠れたカナをあやしつつ、カズヒサの隣を指さす。

 

「アキナさんが限界っぽいです」

 

 指さす浩太郎の先、プルプル震えているアキナに、全員が気付いた。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「あー、窓開けても限界だったかぁ」

 

「乗り物酔いじゃないんですよ! た、大変どうしよう」

 

「おう、こんなもんはな、吐かせればいいんだよ。おら、吐け吐け」

 

「ひぃいいいい、お姉ちゃぁあああん!」

 

 青い顔のハナを他所に、窓の外へゲロらせたカズヒサは、崩れ落ちるアキナを抱え上げる。

 

「ゴメンね、ハナ。こんな酒の弱いお姉ちゃんで……」

 

 ネガティブ思考のアキナにどん引きしたシュウは、三笠を抱えて帰ってきた日向から香る悪臭に、鼻を摘まんだ。

 

「日向、どうしたその臭い! ドブに落ちたか!?」

 

「廊下にドブがあるか。三笠姉さんが吐いてしまったんだよ。そこらにいた人に頼んで処理してもらってる」

 

「お、おう。で、どうすんだよ制服。代わりに何か着るか?」

 

 そう言って視線を彷徨わせた和馬と日向は、何処からともなく出てきたコスプレ衣装を抱えるオタク女子四名から、そっと目を逸らした。

 

「ジャージ借りればいいじゃない?」

 

 そう提案してくる美月に頷いた日向は、口端に吐いたものを垂らす三笠を、和馬に預けると、保健室に移動する。

 

「まあ、取り敢えず、今後の事を話そうじゃねえか、部屋ン中ゲロくせえけどよ」

 

 部屋に立ち込める悪臭に思わず窓を開け、消臭剤を撒いている面々を見ながら、カズヒサはそう言った。


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