僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第11話『買い出し』

 一方その頃、買い出しに出ていた面々は、ユニウスとケリュケイオンで別れ、なし崩し的に付いて来ていたアキホと香美は、それぞれに分かれていた。

 

 ユニウスの後を付いて行くアキホは、買い物メモを読みながら歩く美月の後ろを付いて行く。

 

「そう言えば、自己紹介してなかったわね。私は大宮美月。あなたのお兄さんと一緒に仕事をする仲よ」

 

「ん~? 一緒に仕事ってパパの会社の新人さん?」

 

「そうじゃないわ。あなたのお兄さんを雇った上で、一緒に仕事をするって意味よ」

 

「ふーん、そうなんだ。じゃあ他の人達と同じだね」

 

「ええ、そうね」

 

 そう言ってアキホの方を振り返った美月は、少し心配そうに見てくる彼女に微笑み、頭を撫でると、抱き寄せた。

 

「そんな顔しないで。後ろめたくなっちゃうじゃない」

 

「ゴメンね、えっと……みづ姉ぇ」

 

「勝手にあだ名付けるのねあなた」

 

 そう言って半目になった美月に、誤魔化し笑いを浮かべたアキホは、肩に押し付けられた巨乳に一瞬頬を緩ませる。

 

 それを見て背筋を凍らせた美月だったが、気にせず話を続ける。

 

「ところで、あなたのお兄さんについて教えてくれないかしら。どんなお兄さんなのか」

 

「ああ、それは俺も気になっていた」

 

「俺もだ」

 

 そう言って覗き込んでくる美月に追従して、疲れてダレているミウをおぶった日向と、カートを押している和馬も、アキホの周囲を囲む様に立つ。

 

「えーっとね、ツンデレドS暴力兄貴」

 

「もうちょっと膨らませられない? って言うか一言で表せと言ってないわよ」

 

「えー、長話苦手なんだもん」

 

 そう言って頬を膨らませるアキホに、ため息を落とした美月に、苦笑する男子二人は、話しやすいような話題を考える。

 

「君のご両親はどちらかが人間なのか?」

 

「へ? 二人とも純血のエルフだけど?」

 

「ん? じゃあなんで隼人は人間なんだ?」

 

「え、あ、ああ。兄ちゃんはねぇ、貰われてきたんだ」

 

「もら……養子って事か?」

 

 そう言ってアキホを覗き込んだ日向は、気味の悪い笑みを浮かべる彼女から視線を逸らすと、話を膨らませる。

 

「彼が君のお兄さんになったのはいつから何だ?」

 

「ん~……兄ちゃんが来たのはえっと……八年前だから……んー、私が七歳の時かな。その頃の兄ちゃんは何か荒んでたね。学校でも喧嘩ばっかだったし」

 

「何でかは、分からなかったのか?」

 

「うん、パパもママもお兄ちゃんの事そんなに言わなかったし、兄ちゃんもすっごい怖かったし。お姉ちゃんは平気で弄ってたけど」

 

「八年前、か」

 

 そう言って上の空になる日向を見上げたアキホは、周りの事が見えなくなったらしい彼に、頬を膨らませる。

 

 そんな彼女らを見ていた和馬と美月が、苦笑交じりにアキホを撫でる。

 

「よぉし、じゃあ兄ちゃんと姉ちゃんと他の事喋るか。何喋るよ美月」

 

「私に振らないで。アキホちゃんと喋るとか、和馬が言い出したんでしょ」

 

「だってよぉ、女の子との会話とか不慣れだぜ、俺」

 

 そう言ってニヤッと笑う和馬にため息を吐いた美月は、巨乳に顔の半分を隠されつつも、あからさま嫌な顔をしているアキホに気付き、顔から胸を離した。

 

「おっぱいはそのままで良いよ。ナツ姉並にデカくて柔らかくて気持ちいいおっぱいソムリエ一押しのおっぱいだから」

 

「何、この子……。って言うか、何で嫌な顔してたのよ」

 

「えー、だってぇ、砂糖吐く様なイチャコラとか私求めてないしぃ。私がぁ、求めてるのはぁ、おっぱいと女の子」

 

「あなた男の子じゃないわよね。和馬みたいな汚い男の子じゃないわよね」

 

「大丈夫、おちんちんついてないよ。おちんちんランドはたまに見るけど」

 

 わぁい、と言いながら目を引くくらいの大きさの美月巨乳に顔を寄せるアキホは、尻を突き出した方で、若干引き気味の和馬に眼光を向ける。

 

「和兄は何フェチ?」

 

「待て、落ち着け、ここはスーパーマーケットだ」

 

「私を見てから目が泳いでるから……あー、これはケツだねケツ」

 

「ケツって言うな尻って言え! 後何で分かるんだよ!」

 

「そりゃあ、ツンデレの兄貴がいますから。でーも案外普通だなぁお尻フェチかぁ。もっとアブノーマルかと思った」

 

 露骨にがっかりするアキホに、青筋が浮かんだ和馬は拳を震わせる。

 

「お前、人を何だと……」

 

「変態性の塊。火にくべたら亡者から復活できるよ!」

 

「それゲームの話だし、くべるのは変態性じゃなくて人間性じゃねーか!」

 

「えー、くべないのかぁ。じゃあ、ニンゲンヤメマスカ」

 

「止めねえよ!」

 

 怒涛の様なボケに突っ込む和馬を感動の目で見るアキホは、肩で息をする彼の背中をバシバシ叩く。

 

「やるねえ。これが兄ちゃんだと一発目からガン無視されるんだけど」

 

「引き出し凄まじ過ぎてやりたくなくなるわよ普通」

 

「じゃあみづ姉もやって見ようか。突込み千本ノック」

 

 そう言ってちら、と美月の方を見たアキホは、日向に買い物メモを手渡す彼女を見ると、ニヤニヤ笑いながら話を切り出す。

 

「お、やる気ですなぁ。うむ、良い巨乳」

 

「関係無い事喋るの止めなさい。あと揉まないの。公共の場よ」

 

「胸揉まれてローテンションな人初めて見たよ」

 

 そう言って片胸を押し潰しながら頬擦りをするアキホを、悲哀に満ちた目で見降ろした美月は、日向から降りてきたミウに抱き付かれた。

 

「ミィのおっぱいはぁ、私が育てたんだよぉ」

 

「自然成長よ」

 

「気持ちいいでしょぉ」

 

 アキホとは反対の方から押し潰しにかかったミウが、気持ちよさそうに抱き付いてくるのを適当にあやした美月は、若干距離を取る日向と和馬を交互に睨んだ。

 

 そんな視線なぞどこ吹く風、と視線を逸らす二人にため息を落とした美月は、すれ違うおばさま方のニコニコとした笑顔に、いたたまれなくなっていた。

 

「ねえ、二人ともいい加減離れてほしいんだけど。歩きにくいし」

 

「お菓子買ってくれたら離れる」

 

「あのねぇ、子どもじゃないんだから……」

 

 そう言って額に手を当てる美月に、揃って笑うミウとアキホは、困り顔の彼女の頬を突っつく。

 

「やめ、やめなさい。止めなさいって」

 

「うりうり」

 

 いちゃつく女子には目もくれず、黙々と買い物をこなす日向と和馬は、遠い売り場から、買う物を確保してきた俊とシグレと合流する。

 

「持ってきたぜー」

 

「ご苦労。って、何ドサクサに紛れて菓子を入れている」

 

「ギクゥっ、良いじゃねえか。シグだって食べたいって言ってたぜ。なっ」

 

 そう言ってシグレを方を見る俊に、半目を向けた日向は、買い物かごにぶっ込まれた菓子類を取り上げる。

 

「なっ、そんな事言ってないです!」

 

「言ってないと言ってるぞ俊、返して来い」

 

「えっ、あっ、ちょっと……」

 

「何だ」

 

「トルポはその、残してほしいなぁって」

 

 そう言ってもじもじするシグレに、めんどくさそうにため息を吐いた日向は、シグレに件の品を投げ渡す。

 

「ダメだ」

 

「えええええ」

 

「駄々をこねるな16歳児。ほら、とっとと返して来い」

 

 そう言って追い散らす様に手を振った日向は、名残惜しそうにチラチラ見てくるシグレと俊に、指で作ったピストルを向けて威嚇する。

 

 三回目の振り返りで、腰に下げた本物をこっそり引き抜いて銃口を向け、グズグズしている彼らを追い散らす。

 

「ったく、成長しないな。あいつらも」

 

 そう言って『スプリングフィールドXD』9㎜自動拳銃を、ホルスターに収めた日向は、両腰に二丁下げているそれを、不思議そうに見てくるアキホに指を唇に当てる。

 

 秘密だ、とメッセージを送った日向は、ときめいている彼女とミウに頭を抱えると、ため息を吐いて気分をリセットした。

 

「やれやれ、平和な国でよもやこれを引き抜く日が来るとはな」

 

 そう言って私服の上着で拳銃を隠した日向は、苦笑する新日本出身の二人の、のほほんとした顔に、表情を曇らせる。

 

「気にしなくていいのに。日常茶飯事だから」

 

「そうだぜ、日常茶飯事だから」

 

 二人してそう言う美月と和馬に、大きくため息を吐いた日向は、憂鬱そうな顔をする。

 

「そう言う所が嫌だな、新日本は。銀行強盗とか起きたらどうするんだ」

 

「んー、言ってもなぁ。自衛目的で武装するのは法令で許可されてるしなぁ。それに、犯罪起こそうものならばそれを上回る武装を持ってる治安組織がすっ飛んでくるしな」

 

「暴力による解決か」

 

 気分悪げにそう言った日向に頷いた和馬は、気にする事も無く話を続ける。

 

「まあ、暴力っつっても最終手段だけどよ。でもこの国じゃ基本的に自分の身は自分で守るのが常識なんだよ」

 

「軍隊の無い国。自ら進んで裸になった所で、周りは棘の王ばかりと言う訳か」

 

「お前の発言、時折詩的になるよな。中二病か?」

 

「何だその病は。初めて聞いたが」

 

「病気じゃねえよ。伊集院何とかってタレントが作った造語だ。ラジオとかから広まったってよ。まあ、ある種精神病だがな」

 

 そう言って話題が変わった事に内心安堵する和馬は、悩ましい声を上げる日向の肩を叩いて誤魔化すと、メモを元に買う物を確認する。

 

「よし、粗方揃ったな。じゃ、帰るか」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 和馬の気さくな声に頷いた美月は、すっかり居ついた二人を引っ張る様に連れて、レジへ移動した。


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