僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第8話『生徒会』

 それからしばらくして生徒会室に到着した隼人は、レンカがずり落ちない様にしながらドアを開け、ぎゃあぎゃあと騒いでいる生徒会に遭遇。

 

 ちょうど飛んできた月刊の分厚い漫画雑誌を、片手で受け止める。

 

 それをおっかなびっくりと言った表情で見たシュウとハナは、武器を振り回して喧嘩しているらしいジェスとハルを見て身構えた。

 

「おーい、流星。来たぞー」

 

 そんな様子を他所に奥へ歩いていく隼人は、用事で出払っているらしい二年生の席を見回すと、雑誌を持ったまま流星を探しに歩き回る。

 

「えっ、おい、隼人」

 

 止めに行こうとしたシュウは、目の前を薙ぎ払ったナイフに慌ててバックステップをする。

 

 その目の前で、生徒会室をあさる隼人は、最早、刃物が振り回される事なぞ、日常茶飯事だと言わんばかりにうまく避けながら歩き回る。

 

 その間、身動きが取れなかったシュウ達は、ナイフを払い、ハルを取り押さえたジェスと目が合い、軽く挨拶すると、キレたハルが拘束を振り払って腰の拳銃を引き抜こうとする。

 

「ッ!」

 

 その直前、間に割り込んだシュウは、拳銃を払うとハルの腕を取って背中に回し、その状態で腰から『スプリングフィールドXD』9㎜自動拳銃を、脊髄に突き付けた。

 

「おい、シュウ止めてやれ」

 

「止めてやれって、拳銃まで引っ張り出す様な女を放せと?」

 

「こっちじゃ日常茶飯事だ。とにかく、放してやれ。そいつ、メンタル弱いからな」

 

 そう言う隼人に従って、ハルから手を離したシュウは、拘束の痛みと、拳銃を突きつけられた恐怖で、泣き出しそうな彼女を見ると、申し訳ない気分になった。

 

 そんな彼女を放置して、ジェスの方へ歩み寄った隼人は、漫画雑誌を彼に投げ渡すと、流星の所在を聞いた。

 

「ん? 奥の部屋にいないか?」

 

 そう言って漫画雑誌の持ち主の机に雑誌を置いたジェスは、明らかに隔離されている様な部屋のドアを開けると、業務をこなしていた二人の男子と、一人の女子が、揃って半目を向けてきた。

 

「あ、ジェス。喧嘩終わった?」

 

「ああ、終わったぞ。それよりも流星、客だ」

 

「お客さん?」

 

 そう言って立ち上がった流星は、隼人を連れてきたジェスに軽く手を上げ、そそくさと、用意していた書類を取り出す。

 

 書類を受け取った隼人は、背後に侍っていたシュウに書類を手渡すと、流星の方へ振り替える。

 

「流星、コイツが例の転校生の代表者だ。シュウ・ウラガミ・スミッソン、日系の元NAS0C隊員だ」

 

 そう言って流星に紹介した隼人は、確認途中ながらも一礼したシュウに続いて、彼の隣で書類の内容を見ていたハナを指した。

 

「彼女はハナ・メルディウス。シュウのパートナーだ」

 

 そう言ってハナを紹介した隼人は、慌てて一礼する彼女に流星共々苦笑すると、書類を纏めていた彼は、早速シュウと彼女に必要事項を説明しながら応接室に移動する。

 

 三人に置いて行かれた隼人は、眠っているレンカを揺さぶりつつ、退避先の部屋で作業をしていた男女の方へ移動する。

 

「隆平、セーレ、今日も仕事熱心だな。隣じゃ斬りあいしてるってのに」

 

「いつもの事だぜ隼人。それに、仕事しないとその分の手当が入らないしな。生活できなくなっちまう」

 

「……お前、生活に困るくらい課金やアニメグッズとかフィギュアとかプラモデル買うの止めたらどうだ。っていうかお前買う種類多過ぎだろう」

 

「げっへっへ。そう言うお前の嫁だって、アニメグッズやらフィギュアとかプラモ買ってんだろ? 今寝てるけど」

 

「それとこれとは別だろうが。と言うか何だ嫁って」

 

 そう言って半目になる隼人にニヤニヤ笑うエルフの少年、松田隆平は、自身の隣で冷静に仕事を続ける、胸の貧しいシルバーのボブカットが目立つ有翼族の少女、セーレ・ミッチェルの肩に手を回す。

 

「おーい、お前も隼人に絡んだらどうだよ」

 

「じゃけぇってなんでウチの肩に手ぇ回すん? キモイんじゃけど」

 

「辛辣な上に相変わらず何言ってんのか分かんねえなぁ……。その広島訛り直せよ」

 

「無理じゃ、三年経っても治らんのじゃけえ。まぁ、とにかく手ぇ放しんさい。ええ加減にせんと殴るよ?」

 

「へーいへい。お前の体術は星良仕込みだかんなぁ」

 

 そう言って手を離した隆平は、面倒くさそうにため息を落とすセーレに、ニヤニヤ笑うと、隼人の方へ振り返った。

 

「んで? 今日は何しに来てんだ?」

 

「知り合いの転校手続きだ。そう言うお前らは?」

 

「あー、俺は書記として、数多の生徒が起こした過失に対する謝罪文テンプレートの作成だ。コピって各所に配る」

 

「ちなみに何人いるんだ? 五人か?」

 

「えっと……二千人だな」

 

 そう言って名簿を見た隆平は、いつも通りか、と答えが外れた悔しさよりも、呆れの方が出ている隼人を見て笑い、その隣で、会計監査と今月生徒が出した損害の算出をしているセーレを見る。

 

「流石、破壊と傷害が有名な新関東高校じゃ。被害総額がバカにならん。後方支援委員会が献上した金の十分の一が吹っ飛んじょる……あー、嫌じゃ嫌じゃ」

 

 仕事に熱中しているセーレは、金が消える計算が心底嫌であるらしく、物凄くダウナーな顔をして、メカニカル方式のキーボードを叩いていた。

 

「アイツは相変わらずだな。そんなに金をケチってどこで使うんだよ」

 

「あ? 決まっとろうが。ライブとかグッズじゃ。ジャニューズ系アイドルとかの」

 

「そうか……お前、ナツキと同じアイドルオタだったな」

 

「チケット代が高いけえのぉ。ファンクラブの年会費もじゃけど。ちょこちょこ削らんと、楽しみがのうなるんじゃ」

 

「お、おう。ナツキも同じ事言ってたな、アイツはそんなに節約してないけど」

 

 そう言って頭の中で、ナツキにジャニューズアイドルの魅力を語られた時の事を思い出していた隼人は、愕然とするセーレに気付き、首を傾げた。

 

「何であの子そんなにお金の余裕あるん?!」

 

「ああ、リーヤが一部払ってたりとかしてるからなぁ。アイツそんなにお金使わないし」

 

「彼氏持ちかクッソォ、抜け駆けしおってからに」

 

 そう言ってエンターキーを叩いたセーレに、笑った隼人は、もぞもぞ動く背中に気付いて、顔をそちらへ向ける。

 

「ん……。ここどこ?」

 

「生徒会室」

 

「シュウ達は? 用事は終わったの?」

 

「お前が寝てる間にやってるよ。取り敢えず降りろ、話はそれからだ」

 

「ん、分かった」

 

 そう言って背中から降りたレンカは、ニヤニヤして見下ろしてくる隆平に怯えて、隼人の背後に隠れる。

 

 と、そのタイミングで、流星たちが戻ってくる。

 

「終わったよ」

 

「おう、お帰り。全員終わったのか?」

 

「八人分、全てね。まあ、後は先輩から承認をもらえば終わりさ」

 

 そう言って肩を竦めて見せた流星に笑った隼人は、シュウ達の方を見ている彼に、首を傾げた。

 

「どうした、流星」

 

「ううん、珍しいなってさ。国連の人がこんな学校に来るなんて思ってなかったからさ」

 

「確かにな……。こんな変人の集まり、誰が好んでくるんだか」

 

「あはは……。でもまあ、もうちょっとじっくり、話してみたくはあるかな」

 

「気になるのか?」

 

 そう言って首を傾げ、頭一つ低い流星を見下ろした隼人は、頷いた彼が、黙々とシュウを見ているのに違和感を感じ、興味と言うには少々詰まった表情を、不安な気持ちで見ていた。

 

 何か抱えている、直感でそう考えた隼人は、流星に話しかけようとしてぶつかってきたレンカに邪魔された。

 

「アンタ、何流星の事見つめてんのよ。キモいわね、このホモ」

 

「うるさい。また窓から投げるぞ貴様」

 

「やれるもんならやって見なさいよ!」

 

 そう言って胸を張ったレンカは、その瞬間窓から投げ出され、崩れた敬礼で送った隼人を、口汚く罵倒しながら三階から落ちていく。

 

 それを目で追った流星は、難なく着地して戻ってくるレンカに苦笑すると、内心肝を冷やしている隼人に視線を戻す。

 

「容赦ないね、隼人君」

 

「ま、まああれぐらいやらないと聞き分けないからな」

 

「分からなくもないけどさ……」

 

 そう言って苦笑する流星は、心配でそわそわしている隼人に、素直じゃないなぁと思いつつ、書類をまとめたファイルを生徒会長席に置く。

 

(……僕も、そうなんだろうけどね)

 

 内心そう呟いて目を伏せた流星は、神経接続で端末とリンクした視神経に、シュウ達の情報を映し出すと、それをチャット内のIMに添付してとあるグループに送った。

 

 そのチャットグループには『不信任決議決行組』と書かれており、グループのメンバー表には、和輝や大輝の名前が存在していた。

 

 学院における不信任決議とは、クーデターも同じ。

 

 武力、言論その全てで、今ある体制に異を唱える。

 

 自分が正しいと、声高らかに主張する為。

 

(本当なら、皆に真意を明かすべきなんだろうけど……)

 

 そして、そのデータの後に続けて、流星はメッセージを打ち込み、送信する。

 

《彼らの協力を得る》

 

 送信完了の表示の後、流星は、深く息を吐いて俯いた。

 

(それでも、僕は……この世界を変えなきゃいけないんだ。その一歩を、ここで踏む)

 

 そう決意し、顔を上げた流星は、偶然目が合った風香に驚き、無意識に触れていた机から慌てて手を放して後ずさった。

 

 奇妙な光景を見て目を白黒させている風香の背後から、アイスブルーの吊り目と、短く整った青い髪が特徴の人狼少女と、眠たげなワインレッドの垂れ目と、ブロンドの長髪が目立つ有翼族の少女が、それぞれ顔を覗かせる。

 

「流星、何をしてるのです?」

 

 そう言って半目を向けた人狼少女、柴村市子にたじろいた流星は、どう言い訳しようか考えて視線を彷徨わせる。

 

「まーまー、そんな怒りなさんな、いっちゃん。リューちゃんにも人には言えない事情があるんだからさぁ~」

 

「い、言いきらないで下さいよケルビ先輩っ!」

 

「ん~? じゃあ何か事情があるんだよねぇ~?」

 

 ニヤニヤ笑いつつそう言って流星に迫る有翼族の少女、ケルビ・ゼロールは、不気味な笑いを浮かべながら、あと数歩の間合いまで詰めた瞬間、突然首根っこを掴まれ、宙に浮かされた。

 

 唐突な浮遊感に背後を振り返ったケルビは、目の前で睨み顔を向けてくる巌の如き巨漢に、苦笑を浮かべて愛想を振りまくと、明後日の方向へと視線を逸らした。

 

「松川に、何をやっている。ケルビ」

 

「え、えーっと……あ、スキンシップ! ほら、後輩と先輩との間って溝あんじゃん? そう言うの埋めていきたいなぁって。えへへ~」

 

「俺はお前のスキンシップで仲良くなった奴を知らんのだがな。具体的にどうするのか聞かせてもらおうじゃないか」

 

「え、えっとね。股をまさぐったり、お尻を揉んだりするの!」

 

「よし、分かった。こっちにこい。俺流のスキンシップを持って貴様の性根を叩き直す」

 

 仏頂面のまま、そう言った巨漢は、暴れるケルビからの蹴りを抑え込むと、隼人達のいる方へ歩き出す。

 

「あ、ちょっと! 待ってください、瀬潟先輩!」

 

 それを見た流星が、慌てて呼び止めたのに、反応して止まった巨漢、瀬潟一郎は、仕置き部屋に使おうとしていた別室で待機していたらしい隼人達と目が合い、事情を察した。

 

「後輩に助けられたな、痴女めが」

 

 そう言ってケルビから手を離した一郎は、尻もちをついて着地した彼女に、背を向けると、苦笑顔の風香のいる方へ移動する。

 

 一郎から軽く謝罪を受けた風香は、軽く礼をする彼に苦笑を返すと、書類を抱えている方とは別の腕に抱き付いている市子へ放す様に、やんわりとアイコンタクトを送る。

 

 市子が離れたのを待って流星の方へ動いた風香は、抱えていた書類の一つを彼に手渡した。

 

「留守番ありがとう、松川君。これ、今日の展開内容ね。何かね、国連軍の人が来てるんだって」

 

「あ、そうですよ。ちょうど良かった。その国連軍の人達の転校届です」

 

「え……う、うん。ありがとう」

 

 戸惑いがちに届を受け取った風香から入れ替わりに展開内容が記載された書類を受け取った流星は、視神経にリンクした端末を、スキャンモードに切り替えると、内容を読み取らせた。

 

 瞬間、書類の縦横に光の線が走り、内容を認識した端末が、デジタル化した文面を端末のメモリーに保存し、更にオンラインのクラウドにバックアップを取る。

 

「国連の人が来る他は、長期的な重軍神の一斉点検くらいですかね大きな事と言えば。……風香先輩?」

 

 風香のいる背後へ振り返り、首を傾げた流星は、少し思い詰めた表情をしている風香に気付き、彼女に声をかけた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、うん。大丈夫。それよりも松川君、国連軍の人達の代表って呼べるのかな?」

 

「はい、隣の部屋にいるはずなのですぐにでも。呼んできましょうか?」

 

「うん、お願い」

 

「分かりました」

 

 微笑を加えて頷いた流星は、隣の部屋で風香を除いた三年生の喧騒に巻き込まれているシュウとハナを、無理やり連れてくる。

 

 肩で息をする二人に苦笑し、風香に引き合わせた流星は、今まで見た事の無い表情を浮かべて書類を見下ろす彼女に驚き、思わず声を出しそうになった自分を止めた。

 

 そして、連れてきた二人に目を向けると予想外の展開だったらしく目を白黒させている彼らが救いを求める様に流星へ、アイコンタクトを取ってくるが、意図を掴めない彼は首を横に振って拒絶した。

 

「あなた達が、転入してきた国連軍の人の代表?」

 

「え、ええ。まあ、そうです」

 

「今回の転校。どういう意図でしたのか、教えてもらえないかな。あなた達がこの学校

にいると色々不都合があるから」

 

 そう言って二人を睨む風香に、背中に冷たいものが下る錯覚を覚えた流星は、張りつめた場の空気に少し怯む。

 

「我々が転校手続きをした理由は二つあります。一つはPSCイチジョウ第三小隊『ケリュケイオン』に聖遺物回収へ協力してもらう為。もう一つは彼らが回収した聖遺物『ダインスレイヴ』を本部へ送る為です。

協力が得られるまでの間、そして聖遺物が無事本部へ送られるまでの間、この学校にいる事に対してのトラブルが無い様今回の手続きに至ったと言う訳です」

 

「それは、自分達の所属を一時的に国連軍から新関東高校へ変える、と言う事?」

 

「いいえ、国連軍でありながら一時的に新関東高校の生徒であるという形を取るつもりです」

 

「なるほど、そう言う意図であるのならば、転校は許可できません」

 

「なっ……どうしてです?!」

 

 そう言って食って掛かったシュウは、慌てて抑えに来たハナを見て冷静になり、書類を傍らの机の上に置いた風香を睨んだ。

 

「理由は明確。この学校を危険に晒さない為です。あなた方国連軍がこの学校に在籍していると分かれば、私達は中立組織であるはずの国連軍を私物化していると言う口実を生んでしまう。条例違反だとして攻め込まれる口実がね。

そうなれば、この学院はいつ攻められてもおかしくない状態へ変わってしまう。一年前と同じ様に」

 

「そんな、我々はそんな意図で―――」

 

「あなた方がどう思っているかは関係が無いんです! あなた方がここにいる、それだけで十分な口実が出来上がる。地球侵攻に怯える政府との対立を警戒している現在、介入の口実を生めば見せしめを必要とする各国の軍や戦力を必要とする地方学院に攻め込まれます。

そうなれば少なからず、犠牲者が出ます。それを避ける為にも、あなた方の転校は認められません」

 

「だが、学院は侵攻に対し防衛権はあるはずだ。それを行使しようとは思わないのか、あなたは」

 

「防衛権はあくまでも最終手段です。肝心なのは攻め込ませない事、それを行わせるだけの口実を持たせない事です」

 

 きっぱりとそう言った風香に怯んだシュウは、差し出された転校届を忌々しげに見下ろす。

 

 その隣では、諦めた表情のハナがそれに手を伸ばし、受け取ろうとしていた。

 

 が、その直前、ハナの手を掴んだ流星は、風香から彼らを庇う様に立ちはだかると

転校届を彼女へ突き返す。

 

「風香先輩、ここで我々が転校を拒否すれば学院として生徒を選別していると取られかねません。それに、現状、侵攻する余力のある組織はほぼないと言っていいと思います。地球侵攻への備えが必要がある以上、

他の地域への侵攻に割くリソースを、規模を抑えられている他組織は有していない。先輩、あなたの判断はいささか早計に思えます」

 

「松川君は、私が戦争状態を避ける為の先手を打つ事に異論があると言うの?」

 

「いいえ、ですが先手を打つ必要が無いと言う事です。世界がまだ動きを見せていない、今は」

 

 そうはっきりと言い切った流星は、苦々しい表情を向けてくる風香を見据えると、書類を手渡そうと、彼女に向けて一歩踏み出した。

 

 その瞬間、腕を取られた流星は、腕を取られたまま地面に叩き伏せられる。

 

「何をしているのです、流星」

 

「市子、先輩……!」

 

「風香の決定は絶対です。いかにあなたが優秀であろうと、その決定に逆らう事は私が許しません」

 

 拘束の手を強めた市子は、目下でもがく流星をきつく締め上げ、冷淡な目を彼に向けると、彼が手にしていた書類をシュウ達へ突き出す。

 

「持ち帰りなさい。風香が認めない以上、あなた達は我々の仲間ではない」

 

 そう言ってカナに手渡そうとした市子は、彼女の代わりに書類を受け取ったジェスを睨むと、彼はその返礼に『Px4 Storm SD』45口径自動拳銃を彼女の額に突きつけた。

 

「何のつもりです、ジェス」

 

「流星の意見ぐらい聞いてやったらどうなんだ、先輩」

 

「あなたも、風香の決定に逆らうつもりですか?」

 

 そう言ってアイスブルーの目を鋭く尖らせた市子は、トリガーガードに指を掛けたままのジェスに怯む事無くそう言うと、その手に填めているナックルガードのスイッチを入れる。

 

「逆らう逆らわない以前の問題だ。意見を聞いてやれ、と言ってるだけだ」

 

「武器を突きつけてそう言われても、従う気は起きませんが」

 

「先にやったのはアンタだろ、先輩」

 

 そう言って睨みあう二人にあわあわと慌てている風香は、二人の間に割って入った黒髪短髪の少年、片桐隆介と隼人にあっと声を出した。

 

「お前ら止めろ。何だってんだ、全く……」

 

「ジェス、流石に拳銃出すのはまずいだろ」

 

 市子を止める隆介を背に、ジェスを抑えた隼人は、渋々と言った体で拳銃を収めた彼に一息つくと、風香の方を振り返る。

 

「悪いけど先輩、こいつ等の転校については一旦保留にしておいてくれないか? 部外者が校内闊歩するのも見分が悪いだろ」

 

「え、う、うん。そうだね。でも、どのくらい保留にすればいいのかな?」

 

「二週間ほどで良い」

 

 そう言って流星を立たせた隼人は、印が為された転校届を風香に手渡した。

 

 それを見下ろした風香は、うーんと悩ましい声を上げて受け取ると、人差し指で頬を軽く叩いて考え事をする。

 

「じゃあ、こっちからも条件があるんだけど、いいかな?」

 

「ああ、良いぞ」

 

「転校してきた人達の保証を、イチジョウ君がする。それでどうかな」

 

 そう言って書類を受け取った風香は、思わず固まった隼人にニヤリと笑って、書類をめくる。

 

「全部で八人。その内の誰かが問題行動を起こした場合、君は保証人と言う立場でもって何かしらの補てんをする。器物損壊なら弁償を、不用意な戦闘ならば、その身をもって鎮圧する。

あなたが望むのと望まないとに関わらずにね」

 

「俺が言い出しっぺだからって事か」

 

「うん、そう言う事だよ。だって私は、彼らをここに置く事を認めなかったんだもの」

 

 そう言って笑う風香に苦々しい表情を向けた隼人は、肩を押さえている流星が一歩前に出たのに驚き、慌てて彼を抑えた。

 

「松川君?」

 

「その保証人、僕も加えてください」

 

「それは、どう言う事かな?」

 

 そう言って半目を向ける風香に、締め上げられた痛みを堪える流星は答える。

 

「自分も、彼等の転校を推進する身です。保証するだけの責任はあります」

 

「そう、じゃあ君も保証人と言う事にしましょう。それで良い?」

 

「はい」

 

 そう言って頷いた流星に、ため息を吐いた風香は保証書を作成し、端末からプリンターへデータを送信する

 

「じゃ、この件はここまで。あ、そうそう。イチジョウ君、PMSC部創部おめでとう。これからも贔屓にするからよろしくね」

 

「そりゃどうも。アンタらのお陰で商売あがらなくて何よりだ。あいつらを路頭に迷わせる訳にもいかないからな」

 

「リーダーは大変だねぇ。うふふ」

 

 そう言って、プリントされた保証書二つを手に取った風香の笑みを見て、リアクションに困った隼人は、変に曲がった笑みを返してしまった。

 

 そして、流星と共に保証書を受け取った隼人は、変な感情表現に笑う彼と、その隣でため息を吐くジェスに軽く手を上げて笑い、レンカとシュウ、ハナを連れて生徒会室を後にした。


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