僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

28 / 113
第6話『国連軍』

「俺達は、国連軍だ!」

 

 そう言って槍を構えた少年に呆気に取られた全員は、誰も予想だにしていない事だったらしいその行動に暫し固まった。

 

「国連……」

 

「軍?」

 

 お互いに顔を見合わせた隼人と浩太郎は、ニヤリと笑っている少年に呆れ顔を向ける。

 

「国連軍が俺達に何の用だ。学校見学か? なら五月まで待てよ」

 

「うるせえ、バカにすんな! 良いか、俺はお前を認めねえ! 俺を認めたきゃ勝って見せろ!」

 

「は? 待て、何言ってる?」

 

「問答無用だ! うぉらぁああああ!」

 

「ッ?!」

 

 言い様、隼人に斬りかかってきた少年は、レンカを抱え、咄嗟にバックステップして回避した彼を追う。

 

 それを見て何が起きたのか理解できていなかった全員は、あっとなって、それぞれ行動を取る。

 

「おい待て俊! 勝手に斬りかかるな!」

 

 先ほどシュウと呼ばれていたメガネの少年が、浩太郎やリーヤ達の銃口に晒されながらもそう叫んで止めに行き、タックルをぶち込む。

 

「邪魔すんな!」

 

「馬鹿、止めろ! 勝手な交戦は禁じられている筈だ!」

 

「うっせえ、俺は納得いかねえんだよあんな事!」

 

 地面に引き倒された少年、俊は、得物を蹴飛ばされてもなお暴れ、シュウを蹴飛ばして、槍を手に取ろうとする。

 

 その直前、槍目がけて銃撃が撃ち込まれ、彼方へと飛んでいったそれに驚いた彼は、立ち上がり、動こうとする自身の足元へ撃ち込まれた弾丸に硬直した。

 

「何をやっている皆沢准尉! 我々のうちの誰かがケリュケイオンとの交戦を許可したか!?」

 

「げ、姐さん……」

 

「業務中に姐さんと呼ぶなバカ者! 厳罰を食らいたいか!」

 

「も、申し訳ありません、メルディウス大佐殿!」

 

「全く。貴様の暴走にはほとほと呆れる。本来なら始末書作成に減棒を喰らわす所だが、貴様の今後に期待して今回は大目に見てやる。だが二度目は無いぞ、良いな?」

 

 そう言って睨んでくるこげ茶色の髪が特徴の半猫族の女性に、背筋を伸ばして敬礼した俊は、女性の腰に下がっている蛇腹剣を見下ろして生唾を飲む。

 

「まーまー。そこまでにしといてやんなぁ、あっちゃんよぉ。そんな怒鳴ると喉枯れんぞぉ」

 

「リベラ大隊長、叱らねば隊行動に締まりが無くなります。って言うか業務中にあっちゃんと言わないで下さい」

 

「へーいへい。アキナさんは厳しいねぇ」

 

 そう言って肩に担っていた『HK416A5』アサルトライフルをスリング任せで下ろした人狼族の男性は、咥えたタバコから紫煙を吸い、吐き出すと、アキナと呼んだ女性に微笑を向ける。

 

 すり減ったタバコを、携帯灰皿に入れた男性は、胸ポケットからくしゃくしゃのタバコのカートンを出し、咥えた新しい一本に火を点けながら、隼人の傍に歩み寄る。

 

 紫煙を吸い込んだ男性は、目の前に立っている隼人に、火をつけたばかりのそれを手刀で弾かれた。

 

「校内禁煙だぜお兄さん。ここら辺は精密機械が多いからなおさらだな」

 

「おっと、そいつはすまんな。最近ストレスが溜まっててなぁ、吸う本数増えちゃってんだよなぁ」

 

「で? 何の用だ、国連軍大隊長さんよ。俺ら全員を警戒させた上で、世間話に来た訳じゃないんだろ?」

 

 そう言って人見知りの気があるレンカを背後に庇った隼人は、拳銃とヴェクターを手にしている浩太郎に、待機の指示を出して男性を見る。

 

「察してくれて助かるぜ、いちいち言うのは面倒だからな。じゃ、用件だけ言わせてもらうぜ。俺らに雇われてくれ、ケリュケイオン。ウチはお前さん方の実力を見込んで、長期契約を結びたい」

 

 そう言って笑った男性が、正式な契約書を取り出したのを見て浩太郎に警戒の指示を出した隼人は、書類を受け取って中身を確認する。

 

「確認した。だが、長期契約は俺達だけじゃ結べない。社長も立ち会ってもらわないと」

 

「あー、そうか。まあ、そうだよな。じゃ、そこらの手続き済ませますかね。あっと、忘れてたぜ。これ、名刺な。んで、自己紹介だ、俺はカズヒサ・リベラ大佐。国連軍X師団第一大隊隊長で、そこのティーンズのお守りをしてる」

 

「よろしく頼む、えっと……リベラ大佐」

 

「カズヒサでいいさ、それか兄貴で。階級呼びはあんま好きじゃねえし、名字は同じ隊にいる妹と被るしな」

 

「妹?」

 

 そう言って周囲を見回す隼人に苦笑した男性、カズヒサは、シュウ達の先頭でちょこんと立っている、小柄な人狼族の少女を指さす。

 

 妹の紹介無しで、副官らしき二人の女性に後を譲ったカズヒサは、隼人の肩を叩くと、新しい一本を口に咥えて脇に避けた。

 

「では、私から。アキナ・メルディウス大佐、国連軍X師団第一大隊副隊長です。呼称は、階級呼びか、ファーストネームでお願いします。私にも、同じ隊に妹がいますので」

 

「了解した。アキナ大佐」

 

 柔和な笑みを浮かべる半猫族の女性、アキナに頷いた隼人は、満足そうに眼鏡のつるに指をかけて、上に上げた彼女に自身の義姉を思い出していた。

 

 その隣、自信の無さげな笑みを浮かべている人間の女性が一礼し、その手に名刺を取り出して、隼人に手渡す。

 

「えっと、私は城嶋三笠と言います。階級は中佐。国連軍X師団第一大隊の副隊長を務めています。私は……えっと、名字で良いですよ?」

 

「了解した、城嶋中佐」

 

 そう言って名刺を懐から出したケースに入れた隼人は、自身の背後で感心しているレンカとカナに、内心毒づいた。

 

 会社員らしい行動を見せた隼人は、交換で自分の名刺を渡すと、気の抜けた声を放つカズヒサに半目を向けた。

 

「お前さんの名刺は頂いたぜ、ハヤト。んじゃ、ま、お兄さん達はPSCイチジョウの社長さんと話をつけて来ましょうかね。じゃ、その間に、シグ、ハナ、お前さん方中心でユニウスの面々を自己紹介させときな。同じ仕事をする同僚になるんだしよ」

 

「ちょ、ちょっと兄さん! 待って! どう切り出せばいいか……兄さん!」

 

「テキトーに話振りながらやんなぁ。お兄ちゃんは妹の独り立ちを応援してるぜぇー」

 

 そう言って背を向けたまま手を振ったカズヒサに、シグ、と呼ばれた人狼の少女は、狼狽え、彼に付いて行く副官二人に目を向ける。

 

 が、カズヒサの心情を察し、その意図を優先した二人に視線で断られ、シグは肩を落として、隼人の方を振り返ると、睨んでいる様に見える彼の表情に息を呑んで後退る。

 

「別に、俺は怒ってないぞ?」

 

 その様子を見て大体を察した隼人は、やる気の無さげな声色でそう言うと、ふるふる震えているシグとハナに目を向ける。

 

「ぴぃっ」

 

 レンカやカナの様に人見知りな二人に逃げられた隼人は、それを見て苦笑しながら歩み寄って来た、細いメタリックフレームの眼鏡をかけた、日系の少年に、視線を移す。

 

「すまんな、あの二人は少々人見知りでな。自己紹介は俺からさせてもらう」

 

「え、あ、ああ」

 

「俺は、ウラガミ・シュウ・スミッソン。国連軍X師団第一大隊第二小隊、ユニウスの隊長をしている。階級は少尉。元々は、新アメリカ学院連合の特殊部隊、『NASOC』に所属していたが、訳あってこちらへ移籍してきた。よろしく頼む」

 

「ああ、よろしく頼む。えっと」

 

「シュウ。シュウで良い。俺には名字が二つある。ファーストネームじゃないと呼び辛いだろ?」

 

 そう言って苦笑するシュウに頷いた隼人は、詳しい話は後にする事にして、次に自己紹介しようと、前に出てきた大和撫子然とした長身の少女に、視線を移した。

 

「じゃ、次は私ね。私は、大宮美月。ユニウスの副隊長。階級はシュウと同じく少尉。呼び方は美月か、あだ名のミィで良いわ。私は、新東京の戦闘教導院で術式について研究していたの」

 

「戦教院で術式研究? お前、見る限り種族は人間だろう? どうして術式を扱えるんだ?」

 

「ま、そこはお家柄。私の実家は、五行って言う疑似的に術式を行使する技術を編み出しているの。だから私は似非とは言え、人間でありながら術式が使えるのよ」

 

「五行……。陰陽術の概念か?」

 

「ええ、そうよ。よく知ってるわね、イチジョウ君。詳しい事は後にでも話すけど、戦教院で私は五行を一般的な技術にする為に日夜研究を続けていたの。で、スカウトで引き抜かれて今に至る、と」

 

 そう言って口に手を当てて微笑む美月に、頷いた隼人は、彼女の片手だけについている、指の内側に滑り止めが張られた黒色のコンバットグローブに気付いた。

 

(片手だけの、グローブ……?)

 

 それに違和感を覚えた隼人だったが、後で追及しようと誰にも悟られない様に、意識の外へ追いやると、歩み出てきたシルバーブロンドの短髪が目につく人狼の少年に、視線を変えた。

 

「次は俺が。俺は日向・ツルギ・フェルディナンド。ヒュウガ、と呼んでくれ。階級はシュウやミヅキと同じく少尉だ。俺は新ドイツの地方学院で偵察警備部隊に所属し、二か月ほど新ヨーロッパの王宮で警邏の仕事をしてこちらにやって来た。

よろしく頼む、ハヤト」

 

「ああ、よろしく頼む。しかし新ドイツ出身の人狼族とは、珍しいな。大体は新ロシア出身だと言うのに」

 

「よく言われる。俺の実家は移民ではなく元から新ドイツに住んでいる家系でな、一時期は王家に使えてた事もあったそうだ。まあ、今じゃ飲んだくれの家系だが」

 

 そう言って明後日の方を見るヒュウガにコメントに詰まり、苦笑した隼人は、彼と入れ替わりにやって来た、黒い極短髪が目につくガタイの良い少年と目を合わせる。

 

「じゃ、今度は俺だ。俺は佐本和馬。和馬って呼んでくれ。階級は准尉。部隊じゃ、装備調達と修復を担当してるぜ。けど、一応戦闘要員だからそこんとこよろしくな。得物は自作の刀型術式武装だぜ」

 

「よろしくな、和馬。刀を使用する、と言う事はお前は何か剣術を収めていたのか?」

 

「ああ、実家の古流剣術をな。まあそのせいで銃とか弓はからっきしなんだけどよ」

 

 そう言って肩を落とす和馬は、笑いもせず、真剣に頷く隼人に、少し調子を崩された。

 

「どーん」

 

 そんな彼を押し退ける様に体当たりした、長いブロンドヘアを揺らす中背の人狼少女が、割り込む様にして隼人の前に立つ。

 

「カズマの次は私ぃ~。私はねぇ~、ミウ・ヴェジマーヴァ~。ミウって呼んでぇ~。私はぁ新フィンランドの地方学院で攻撃系の術式けんきゅーしてましたぁ~。よろしくハヤトぉ~」

 

「あ、ああ。よろしく頼む。攻撃系術式か、どんなのを使うんだ?」

 

「トップアタック式のぉ、術式とかぁ~、広域殲滅用の極太ビーム型術式とかぁ~。トドメにど派手な空間作用型火炎爆砕術式とかかなぁ」

 

「軍用のエグイ物ばっかりだな……。と言うか、広域作用が前提の物ばかりだな。対個人用は?」

 

「え~、面倒臭い。って言うか個人用はミィが組んでるから作らなくていいもーん」

 

 そう言ってどこかへ去っていくミウに唖然としている隼人は、シュウの後ろに隠れている半猫族の少女に気付き、警戒しているのか、怖がっているのか、毛を立てている彼女に、どうしたものか、と考えていた。

 

 そうこうしていると、敵意が無いと見た彼女が、恐る恐る歩み寄ってくると、急激な動きで一礼する。

 

「え、えっと。私、ハナヨ・メルディウスと言いますっ。か、階級は特務少佐です! 部隊では主にクラッキングによる情報支援とドローンによる遠隔攻撃支援を担当しています! よ、よろしくね、イチジョウ君!」

 

「こ、こちらこそよろしく頼む。えっと、ハナヨ少佐」

 

「よ、呼び捨てで良いよぅ。私、部隊じゃ何の役職にもついてないから偉くないし」

 

「いや、でも……階級は少佐だろ? 今の所、ユニウス小隊じゃ一番階級が上だぞ?」

 

「と、特務だから。ほら、特別に少佐待遇なだけでね? それにうちの小隊実力主義だから小隊長とかも適材適所で決めてるの」

 

 そう言って笑うハナヨに頷いた隼人は、そっぽを向いている俊と、彼の後ろに隠れている人狼の少女に目を向ける。

 

「で? そこの槍使いとお供の犬の名前は?」

 

 襲撃された故に当たりを強くした隼人は、案の定イラついている俊が手にした槍を震わせるのに警戒しつつ、彼の出方を窺っていたが、業を煮やしたシュウが間に入って二人の紹介をする。

 

「すまん、紹介しておこう。この槍使いは皆沢俊。階級は准尉、元新京都戦闘教導院所属だ。一般生徒だが、腕は俺達の中でもトップだ。次に、人狼女の方はシグレ・リベラ。階級は中尉。大隊長の実妹で、まあ……うん、ブラコン気味の甘えん坊だ」

 

「ちょっと! 何言ってるんですか! 私は兄さんに甘えてなんかいませんからね!」

 

 そう言って苦笑するシュウに、牙を剥いて威嚇したくすんだ銀色のポニーテールを揺らす人狼少女、シグレは、他の面々共々呆れている隼人をキッと睨む。

 

「私は、ブラコンじゃありません!」

 

「じゃあ何でお前はさっき兄さん兄さんと大隊長を連呼してたんだ……」

 

「あ、あれは、その……名残惜しくて!」

 

 そう言って貧しい胸の前に、拳を握った腕二つをギュッと寄せたシグレに半目を向けた隼人は、納得した様な声を出す。

 

「つまり、ブラコンだな」

 

「ち、が、い、ま、す! 何なんですかあなたさっきからブラコンブラコンと、何です? そう言うのに憧れているんですか?! うーわやらしい男ですね隼人・イチジョウ!」

 

「違う、お腹いっぱいなだけだ。もう妹は足りてんだよ。姉も」

 

 そう言ってそっぽを向いた隼人は、目を点にするシグレとユニウスの面々に、苦々しい表情をしていると、聞き捨てならないキーワードを拾ったレンカが、身長差をカバーしながら詰め寄る。

 

「ちょっと隼人相変わらずあのクソ腐れ妹に詰め寄られてんの!? もうちょっと貞操を大事にしなさい! 学校卒業と同時に私が食ってやるから! ダブル卒業よ!」

 

「うっせえお前は黙ってろクソ猫! と言うか変態度ならテメエもあいつも変わらねえよクソが! 変態だらけか俺の周囲は!」

 

「あんですってこのドヘタレのクソッタレ味噌っかす! いい加減にしないと私のお尻にションベンさせるわよ! このイチジク浣腸!」

 

 そう言って刃を向いたレンカを他所に、下ネタ祭りの罵倒合戦をばっちり聞いていたユニウスが、さっと青ざめた表情で二人を交互に見ると、その視線に気付いた彼女がさっと隼人の後ろに隠れる。

 

 そして、尻尾をピンと伸ばし、警戒している彼女は、額を抑える隼人の上着に頭を突っ込んで隠れる。

 

「その子……ああ、レンカ・イザヨイは人見知りなのか?」

 

「まあな。と言うかなぜ彼女の名を?」

 

「資料をあらかじめ見ていたんだよ。君らの名前は大体把握している。ただ、履歴に関する資料は無かった。それはこれから、知っていこうと思っている」

 

 そう言って手を差し出したシュウに、レンカを抑えて前に歩み出した隼人は、その手を取ると、ぐっと握手をした。

 

「これから、よろしく頼む」

 

 そう言ってニッと笑った隼人に、シュウもまた、微笑で答えるが、その様子を俊は忌々しげに見ていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。