僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第5話『変な男』

 待機スペースから案の定満席の観客席に移動したレンカは、リーヤ達と共に、普通なら勝ち目の無い軽軍神相手に、互角以上の戦いを見せる二人に感心しながら、座る席を探していた。

 

 と、席の一番後ろの壁で戦いを見ている八人ほどの男女に気付き、見覚えの無い顔ぶれに眉をひそめ、近場にいたカナの袖を引っ張った。

 

「ねぇ、カナ。後ろのあの人たち見た事ある?」

 

「無い。と言うか私に聞かないで」

 

「あ、ごめん」

 

 謝り、そして彼らの方を振り返ったレンカと、彼女に釣られてそちらを見るカナは、白熱する試合を他所に、じっと彼らを見つめていた。

 

 別段転校生と言う訳でもなく、自然と紛れていた様な違和感を感じる二人は、着席して観戦する武達を他所に、お互いに目配せすると、武器を忍ばせつつ彼らの方へ移動する。

 

「ちょ、ちょっとそこの人達」

 

「え? 俺ら?」

 

「そうよアンタ達よ。所属表、持ってんでしょ? 見せなさい」

 

 コミュ障ながら精いっぱいそう言ったレンカは、背後で恥ずかしそうに隠れているカナに内心怒りつつ、何か戸惑っている彼らを訝しんでいた。

 

(怪しい)

 

 そう思ったレンカが見れば、布に包まれた武器らしいものがチラチラ見え、二人ほどは、腰や背中の懸架用アタッチメントで、形の似通ったアサルトライフルを下げていた。

 

「アンタ達、見ればデカい武器やらライフル持ってるけど、校則で大型近接武器とライフルやショットガンとかの長物銃器の常時携行は禁止されてんの知らないの?」

 

「あ、いや、そうだけどよ……。安心しろ、俺ら怪しい奴じゃねえから!」

 

「信じる前にまず疑えってアタシの彼氏が言ってた。ま、取り敢えずアンタら纏めて風紀委員の取調室にぶち込むから」

 

「ま、待て! 待ってくれ! 俺らは今試合してる奴に用があってだな!」

 

「用事? 隼人に?」

 

 そう言って、しまった、と思ったレンカは、意外そうな顔をする彼らの視線を浴びる。

 

「知ってんのか?!」

 

「え、えっと、ドウカナー」

 

「何で棒読みなんだよ! 知ってんだろ!?」

 

 掴みかかろうとする少年から飛び退こうとしたレンカは、背後に隠れていたカナと激突し、その場でひっくり返った。

 

 その勢いで生徒証と社員証を落っことし、それが運悪く少年たちの前に落ちた。

 

「PSCイチジョウ第三小隊所属、レンカ・イザヨイ? なぁシュウ、コイツ探してる奴の仲間じゃないか?」

 

「ああ、間違いない。彼女は隼人・イチジョウが率いる小隊のメンバーだ。ぜひ話を聞かせてもらおう」

 

「おうよ、じゃあ早速……って、あれ?」

 

 気合を入れて振り返った少年は、いつの間にかいないレンカ達に驚き、周囲を見回す。

 

 それを呆れ半分で見ていたメガネの少年、シュンは後を追う事を止めて、試合に意識を戻した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 試合は互角だった。

 

 人間からすれば大剣と変わらない軽軍神用長刀を振り回す隼人は、刀と西洋剣の中間の様な厚みと、切れ味のバランスを持つそれを容易に手繰って、相手の攻撃を滑らせていた。

 

(攻撃の対処には慣れてきたが、やはり決め手に欠けるな!)

 

 内心そう思いつつ、相手の刃を滑らせた隼人は、逆手に持ち替えた長刀を横薙ぎに振るって峰打ちを叩き込む。

 

 が、バリアに阻まれ、本体へダメージを与えられず、反力で吹っ飛ばすのみだった。

 

「くっ、バンカーさえあれば!」

 

 無い物ねだりだと分かっていても、口に出さずにはいられない隼人は、振り返って来た静流の振り下ろしを、逆手のままで受け止める。

 

 スラスター全開で押し込みにかかる静流に、肘との二点で長刀を支えた隼人は、背面スラスターの出力上限を視線選択で一時的に解放。

 

『面倒ねぇ~』

 

 そう言って表示を消したスレイの補助を受けた瞬間、隼人は、高出力モードに変形したスラスターの推力を持って押し込みに対抗するが、それよりも早く警告を発したインターフェイスに意識を向ける。

 

《警告:魔力残量20%》

 

 文章表記と指向音声案内のハイブリッドで案内を出すAIに苛立った隼人は、それらをスレイに消させると、目前の静流の軸足に蹴りをぶち込んで転倒させる。

 

 その間に浩太郎が入って、拳銃とヴェクターを連射し、装弾数の少ない拳銃が先に弾切れを起こして、レシーバー側面のスライドがオープンになる。

 

 強烈なキックバックと共に最後の薬莢が跳ね跳び、それと同時にホルスターへ拳銃を収めた浩太郎は、ヴェクターで牽制しようとするがバリアに阻まれて有効打にも、牽制にも、なり得なかった。

 

「ここで決める。浩太郎、プランB-2にシフト!」

 

「了解!」

 

 言い様、長刀で静流に斬りかかった隼人の左腕を足場に、垂直に跳躍した浩太郎は、バリア目がけて残弾少ないヴェクターを連射、その間に拳銃をリロードし、スライドを引いた。

 

 作戦プラン、B-2。Bは敵を袋叩きにする事を示す符号で数字は攻撃の中心人物を示す。

 

 2とは副隊長、つまりはケリュケイオン副隊長の浩太郎を示している。

 

 浩太郎の降下に先んじて、片手のみの長刀で斬り合っていた隼人は、軸足払いからの肘打ちで叩き落とすと、バリアに向けて刃を立てる。

 

「今だ、浩太郎!」

 

 そう叫んだ隼人は、削れ取れていく静流のバリア残量と、それに比例する様に、限界近いアサルトフレームの魔力残量に舌打ちする。

 

 その間に静流の上に着地した浩太郎は銃口をバリアに押し付け、高速連射。

 

 跳ね上がる銃口を制御しながら、滅茶苦茶な弾道をバリアにぶち込む。

 

「リロード!」

 

 そう叫び、再装填した浩太郎は、起き上がる静流の上を身軽な動きに上がり、頭上を取ると、射撃を継続する。

 

 計二十四発を撃ち込んだ浩太郎は、強制停止が作動した静流に攻撃を止める。

 

《静流:強制停止作動》

 

 模擬戦の勝敗条件は知らされていなかったが、これ以上の攻撃はまずいと思っていた二人は、それぞれの武器を収める。

 

『試合終了だ。お前らの勝ち、メンテ代はチャラだ。試合で消耗した分も含めてな』

 

「随分な太っ腹ぶりじゃないか」

 

『この模擬戦が有意義だったからだ。良いデータが取れた。その装備の脅威もな。恐るべし、立花グループと言う事か』

 

「おいおい、それを手繰る俺達の評価は無しか」

 

『お前らの実力は見知っている。お前らの腕を差し引いた性能評価もしてあるから、安心しろ』

 

 そう言って通信を切った先輩に鼻を鳴らした隼人は、隣で苦笑している浩太郎と笑い合い、静流のパイロットを引き起こして回収班を手伝う。

 

 と、そのタイミングでアサルトフレームから警告が走り、隼人の体が沈み込む。

 

「クソッ、こんな時に魔力切れか……」

 

「燃費の悪さは相変わらずだね。まあ、気にしてる暇なかったけど、僕らのフレーム、細かくチューンしてくれてたみたいだ」

 

「浩太郎……。お前は時々空気読まんな」

 

「あはは、ゴメンゴメン。大丈夫? どうしたら良いのかな? 魔力供給? 助け起こし? それとも報道部の人を読んだ方が良いかな」

 

「最後のは無しで頼む……。魔力は差し支えない量を供給してくれ」

 

 そう言って四つん這い体勢でそう言った隼人の背中に触れた浩太郎は、接触供給で魔力を送ると、再起動したアサルトフレームから駆動音が鳴り、制服を軽く炙る排熱が、ドライブユニットから放たれる。

 

 通常モードに切り替わったパワーアシストの助けで立ち上がった隼人は、待機ルームから駆けてきたレンカとカナに気付き、浩太郎共々彼女らを受け止めた。

 

「おい、どうしたお前ら」

 

「え、ええ、えっとえっとね!」

 

「落ち着け、一体どうした」

 

「あ、アンタ達を狙ってる、あ、怪しい奴らがいたの!」

 

「怪しい奴ら?」

 

 そう言って浩太郎と顔を見合わせた隼人は、相当慌ててるらしく、目を回しながら話すレンカにしゃがみ込み、視線を合わせる。

 

「レンカ、深呼吸しろ。覚えてる限りの事を話してくれ」

 

「お、おお、覚えてるって言っても。あ、ライフル持ってる奴が二人! 長物持ってんのが四人! あと二人いるけど武器分からなかった!」

 

「何? 武装してんのか?」

 

「あ、あとそいつらの中で長物持ってた変な男が私の体触ろうとしてきた!」

 

「は?」

 

 軽くキレそうになった隼人は落ち着け、と自分に言い聞かせ、パニクってるレンカを落ち着かせにかかった。

 

「何で触ろうとしてきたんだ?」

 

「わ、分かんない。知ってんのか!? って言いながら掴みかかって」

 

「あー、大体分かった」

 

「ど、どうしよう。怖いよぉ」

 

「あ―、まあ落ち着け。何ともない何ともない」

 

 そう言って抱き付いてきたレンカの背を軽く叩いた隼人は、浩太郎に抱き付いたまま震えているカナを流し見ると、ケリュケイオン用にバンドを合わせた通信機の電源を点ける。

 

「ストライカーより全員に告げる、武装集団がこちらを狙っている可能性有り。脅威になり得んとは思うが一応全員警戒しろ」

 

『武装集団だぁ? 何でお前そんな落ち着いてられんだよ』

 

「一応だ一応。それにまだ敵意があると分かった訳じゃない。まあ、怪しい奴がいたらとっ捕まえてこっちに連れて来い」

 

『あ、じゃあお前らやってくれ、目の前にいるから』

 

「何?」

 

 そう言って浩太郎と共に、上階から左へ視線を動かした隼人は、巻布に包まれた武器らしいものを担ぐ少年と、彼の背後についている七人の男女に気付いて身構えた。

 

 その中で容赦無く拳銃を構えた浩太郎にギョッとなり、流石に止めた隼人は、にこやかな表情でも、目だけは笑っていない事に気付いて、ため息を吐いた。

 

「落ち着け、浩太郎。流石に人間相手にそんなものぶっ放せば俺らの信用問題になる」

 

「じゃあ、トマホークで頭蓋かち割っても良いかい?」

 

「それも止めろ。威嚇だけにしてくれ。それで? お前ら何者だ」

 

 そう言って少年たちの方を見た隼人は、背面マウントの短刀を引き抜いて逆手持ちに構えると、それに応ずる様に少年が巻布を取り払い、身の丈を超える槍を構える。

 

「俺ら? 俺達は、国連軍だ!」

 

 そう言って見栄を張った少年に、その場にいた全員が呆気に取られた。


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