僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第18話『ダインスレイヴ』

『隼人君! 後ろだ!』

 

 慌てたリーヤの声に腰からヴェクターを引き抜いた浩太郎は、体力を消耗しているのか、反応が鈍い隼人の背後に迫った人影に銃口を向ける。

 

 が、誤射を恐れて撃てなかった。

 

 その直後、人影に弾き飛ばされた隼人は、レンカを抱えたまま柱に突っ込み、鉄筋コンクリート製のそれの一部を崩して落下する。

 

『隼人君!』

 

 うめき声を上げ、気を失った隼人に叫んだリーヤは、スコープに移る人影に発砲するが、まるで殺気に過敏な獣の様に、人影は弾丸を回避してしまう。

 

 舌打ちし、急ぎボルトアクション(次弾装填)をしたリーヤは、スコープを覗いて敵影を探す。

 

 その真下では、銃撃から格闘に対処法を切り替えて身構えた浩太郎が、隼人の救助に回るカナを離れた位置でカバーする様に動き、ククリナイフとトマホークを引き抜く。

 

『警戒態勢! 動ける人は浩太郎君の援護を!』

 

 通信機に響くナツキの声を聞きながら周囲に目を向けていた浩太郎は、不意に走った真横からの殺気を感じ取り、おもむろにそちらへ振り返った。

 

 振り返った先、目前に迫っていた拳を、彼は頬を引きつらせながら最小限の動きで回避。

 

 拳を放った相手を足裏で踏みつける様に蹴り飛ばした。

 

 軽軍神の膂力で吹っ飛ぶ影が、その勢いを振り子運動の要領で利用して迫るのに、辛うじて反応し、突き出された左拳を真横に逸らして、ククリナイフを顔面に突き出す。

 

 が、相手はそれを回避して右脇に膝蹴りを入れる。

 

「ぐっ……! この!」

 

 相手の左腕を弾いてトマホークを振り下ろした浩太郎は、それをも回避した相手に驚き、バックステップで距離を取った相手の、光学補正で明らかになった姿に二度驚かされた。

 

「君は、あの時、ダインスレイヴを持っていたアーマード……!」

 

「あっはは、ご名答。覚えていたのねぇ」

 

「生憎覚えの良い性質なんでね、忘れる訳無いのさ!」

 

 そう言って構え直した浩太郎に迫ったアーマードは、ヴェイパーコーン(衝撃波)を伴う右拳を突き出すと、彼のトマホークと打ち合って衝撃波を生む。

 

 痛む手首に表情を歪めた浩太郎は、アーマードが放つ凄まじいラッシュにギリギリの所で対応し、手持ちの得物で裁くも右拳でククリナイフが弾かれる。

 

 それでもラッシュが止まらず、捌く手を止めまいと、浩太郎は引き抜いたヴェクターを、バースト(指切り)と単発を打ち分けて射撃しながら距離を取る。

 

 だが、その全てを見切ったアーマードは全て回避し、ニヤリと笑う。

 

(隙が無い……。それに、あの動きと反応速度、まるで隼人君だ)

 

 内心で呟き、神経接続のディスプレイで残弾数を確認した浩太郎は、銃各所に仕込まれたデータチップからの送信で10発を割り込んでいるのに舌打ち。

 

 左手をマガジンキャッチに動かしてマガジンを排除する。

 

 そして、予備マガジンが収められたステルスケースから、小型の17連装マガジンを取り出した浩太郎は、その間に迫ったアーマードに、急ぎマガジンを装填しながらトマホークを振り下ろす。

 

「遅い!」

 

 叫んだアーマードの脳天目がけ振り下ろされたトマホークは、焦りから単調な軌道を描いて回避され、得物の慣性に引かれた浩太郎は大きな隙を生む。

 

 そして、超高速のアーマードの膝蹴りを右脇に受けた浩太郎は、目の前に現れたダメージ警告を、膝蹴りの衝撃で揺れている視界に入れた。

 

「ぐはっ……!」

 

 そのまま地面に伏し、咳き込んだ浩太郎は、トドメを刺そうとしないアーマードに疑問を覚え、周囲に彼女の姿を探しながら起き上がる。

 

 地面から離れた際にみしりと音を立てた装甲の一部が、構成していたオリハルコニウム製の金属繊維をこぼす。

 

 直後、レッドサインが視界の端に現れた、機体コンディションに表示されていた事に気付いた浩太郎は薄く笑い、その後に咳き込んだ。

 

《警告:右脇部装甲:損傷》

 

 咳き込みながら損傷箇所を撫でた浩太郎は、装甲の下に着こんでいたソフトアーマーに触れて顔をしかめた。

 

(あれだけの勢いがあれば、貫通してるか……)

 

 金属片で怪我する可能性があるので、損傷箇所である右脇の装甲を分割でパージした浩太郎は、ごっそり消えた右脇の拘束感に違和感を覚えつつ、ヴェクターを引き抜いた。

 

「リーヤ君、さっきのアーマード、どこにいる?」

 

『……死んだピエロ男の所にいる何か、探してるみたいだ』

 

「そこには確か……。ッ! 不味い! リーヤ君、彼女を撃て! 今すぐに!」

 

 そう言ってピエロマスクの男のそばで、何か探しているアーマードに接近した浩太郎は、単発でヴェクターを放ち、腕や足、胴体に直撃させるが、骨格や装甲で全て弾かれた。

 

(やっぱり、拳銃弾じゃ駄目か!)

 

 アーマードは個体差があるが、基本的に機械で出来ている為、人体に多少なりと効果のある拳銃弾でも機械で出来ているアーマードではあまり効果をなさない。

 

 特に、ヴェクターが使用する45口径ACP弾では、亜音速弾であるが故に、物質に対して貫通力に乏しく、機械への攻撃にはいささか威力不足だ。

 

「うふふ、焦ってるわねぇ。もう手遅れだけどさ」

 

 そう言ってダインスレイヴを手に取ったアーマードに、味方への被害を無視してフルオートで射撃した浩太郎は、走った衝撃波に吹き飛ばされ、受け身を取って立ち上がる。

 

 武、リーヤと協力してアーマードへ射撃した浩太郎は、ヴェクターのマガジンをロングへ切り替え、返す手にXM92を引き抜き、二丁拳銃で射撃する。

 

「うふっ、うふふっ」

 

 その中心で笑う少女は、迫る弾丸全てを放出した剣の魔力で弾き逸らすと、目を見開く三人に、不気味な笑みを見せる。

 

「さあ、どう食ってあげようかしら」

 

 そう言って舌なめずりをしたアーマードに、嫌な予感を感じた浩太郎は、レンカとカナの悲鳴に振り返る。

 

 跳ね除けられたレンカ達の傍を見れば、糸で吊り上げられた様な有り得ない起き上がりを見せる隼人が、機械鎧の目を赤く明滅させていた。

 

《警告:アーマチュラ・ラテラ:術式のシステム干渉を検知》

 

 隼人の姿を捉えた機体のコンピューターが、何らかの術式を感知し、チャット型のウィンドウで浩太郎に警告してきた。

 

(システム干渉、と言う事はダインスレイヴ……? 共鳴してるのか?)

 

 二丁を構え、警戒しながらそう予想を立てていた浩太郎は、赤く双眼を染めて、いきなり飛び出した隼人に驚き、咆哮を上げた彼が、アーマード目がけて拳を突き出すのを呆然として見ていた。

 

「あはは、やっぱり暴走したんだ。本体からの共鳴現象ではコピーからの制御も効かないのね」

 

 そう言って剣で拳を受け止めたアーマードは、ニヤリと笑って肩で息をする隼人を見つめる。

 

 そして、彼の拳を大きく弾いて、踵からの回し蹴りを放った。

 

 回避できず、蹴り飛ばされた隼人に、違和感を覚えた浩太郎は、今の彼が完全に暴走しており、今までの技術や勘を生かせないほどに理性を失っているのだ、と判断して、援護射撃を躊躇した。

 

(迂闊に発砲すれば、隼人君の攻撃対象がこちらに向く可能性がある。さて、どうしようか……)

 

 そう思いながら隠れられる場所まで移動し、周囲を見回した浩太郎は、棒立ちになっているレンカ達を回収しに動く。

 

 それと同時、隼人の拳とダインスレイヴが激突。

 

 それにより発生した衝撃波がタイル張りの地面を抉り、レンカ達を小脇に抱えたままそれを回避した浩太郎は、転倒しかけた体に受け身を取ってダメージを防ぐ。

 

 撤退していく浩太郎達を他所にダインスレイヴと攻撃の応酬を繰り返した隼人は、理性を失っているが故に、自身の視界に割り込んで表示されているレッドゾーンの機体温度と魔力残量に意識を向けられずにいた。

 

《警告:機体温度危険域:魔力残量30パーセント:予想稼働時間:一分》

 

 OSとは別のシステムを経由して警報を発するラテラと、UIとして機体コンディションを測っていたスレイの警告も無視した隼人は、高熱化した機内温度に荒く息を吐く。

 

 その視線の先、ニヤニヤと嫌味ったらしく笑うアーマードが、左腕を軽く上げて挑発。

 

 直後、一瞬消えた様に錯覚するほどの速度で接近した隼人の拳を、剣の腹で受け止めた。

 

「あはは、獣みたいに暴れるわねぇ。でもそれで保つのかしら?」

 

 そう言った瞬間、指向性スピーカーで電子音が鳴り響き、我に返った隼人の目の前に、一瞬だけウィンドウが開かれる。

 

《警告:魔力残量ゼロ:機体温度正常可動域を超過、機体保護の為強制停止します》

 

 瞬間暗転した機体から力が抜け、鎧の重量に抑えつけられた隼人は、装甲を貫通してきた刃に左胸を刺し貫かれた。

 

 同時、自動操作でパージされた鎧が地面に落下し、空虚な金属音を鳴らしながらその中にあった隼人の姿が露わになる。

 

 白煙を上げる装甲群の中心で、汗だくになった彼の体から白いもやが浮かび上がる。

 

「もうおしまいね」

 

 そう言って薄く笑ったアーマードをぼやけた視界に入れていた隼人は、それよりも鮮明な神経接続のインターフェイスで、フレームのリチャージ突入を理解する。

 

 が、その割にはゲージの伸びは悪く、リチャージャーの不良か何かしらのシステムが起動しているのか、朦朧と仕掛けていた思考の中でそう考えた隼人は、苦しむスレイの声に気付いた。

 

「どうした、スレイ……」

 

『私の、意識が……薄れ、て』

 

「な、に……?」

 

 どう言う事だ、とスレイのコミュウィンドウを睨んだ隼人は、自身に刺さっている剣の表面が僅かに脈打っているのに気付き、目を見開くと、反応が薄れてきたスレイのウィンドウを閉じて魔力の残量を確認した。

 

 肩の出血量も鑑みた隼人は、チャージされた魔力の流路を右腕のみに絞りながら左手に軽く力をこめたが僅かな反応しか返って来ず、思い切り力を込めてようやく動いた。

 

(手は動くが、強く握る事は無理か……。だが、時間は稼げる!)

 

 内心で呟いて左腕を上げた隼人は、弱い力で刃を握りしめると、その表情を醜く豹変させたアーマードを見据える。

 

「あっは、なぁに? 今まで苦しめてきた元凶を抜いて上げてるのよ? 何で邪魔しようとするのかなぁ?」

 

「は……。そいつはありがたい。じゃあ、お礼をしないとな。受け取れ」

 

「ん?」

 

 瞬間、アシストと身体強化のリミッターを解除した右拳を、音速で振るった隼人は、突き刺さった剣を引き抜く為に、左脇腹を抉る様に殴りつけ、内部機器共々アーマードの外殻を破壊して吹き飛ばした。

 

 遅れて発生した衝撃波が壁の様に伝播し、宙を舞って叩き付けられたアーマードは、カーボンナノチューブ製の内部骨格を損傷。

 

 へし折れた骨格の一端に、疑似神経回路と、エネルギー供給路の一部を突き破られた。

 

 その瞬間、意識や思考を行うコンピューターとは別の命令系統が作動し、アーマードの脇腹から、血液にも似た自己修復用のナノマシンペーストが、傷口を塞ぐように溢れ出す。

 

「こ、この……」

 

 それでも体のバランスが取れないらしく、ダインスレイヴを支えに起き上がろうとしたアーマードは、背中に刺さったワイヤードブレードに目を見開き、そのまま背後に引っ張られ、仰向けに倒れ込んだ。

 

 隙を晒したアーマードは、空に光ったライフルスコープの反射光と、アンダーバレルのグリップを掴み、Mk48を構えている武に気付き、即座にバリアを展開した。

 

「撃て!」

 

 ワイヤーを絞った浩太郎の叫びと同時、天井とマシンガンから発砲炎と音速のライフル弾が放たれる。

 

 口径や発砲速度は違えど、飛ぶ方向は過たずアーマードの方へ飛んでいく。

 

 が、ライフル弾は全てバリアに弾かれてあらぬ方向へ飛んでいき、その中心でニヤついたアーマードは、その隙に接近してきた隼人に気付き、ワイヤーを切断する。

 

 そして、弾幕を張る武に向けて魔力による斬撃波を飛ばし、隼人に向けて剣を突き出す。

 

「退け、二人共!」

 

 そう叫び、左腕で減速し、左肩で剣を受けた隼人は、侵食してくる魔力の痛みに耐えながら、アーマードに不敵な笑みを向ける。

 

 じくじくと隼人を侵食する魔力に反応して、スレイの意識が戻ってくる。

 

 左目をワインレッドに染めて、狂気に満ちた笑みを浮かべた隼人は、制御を取り戻したスレイの手で、適切な出力に変化したフレームを駆動させ、アーマードを殴り飛ばす。

 

 それと同時、首筋にアンプルを四本連続で打って意識を薬物中毒寸前にし、ダインスレイヴの魔力から制御を取り戻そうとした隼人は、あまりの気持ち悪さに胃の中の物を吐き出し、それに混ざる様に落ちた血液が気味の悪い色に変わる。

 

「げほっ、スレイ……。フレームのリミッターを解除しろ。フル出力で使用する」

 

『あはは、りょうかぁい』

 

 膝を突いたまま、リミッター解除の警告を見た隼人は、解除コードや警告などを全て消してくれたらしいスレイのコミュウィンドウを消すと、圧倒的なトルクを体に感じながら立ち上がる。

 

「まだやる気なのぉ? もうボロボロで、あなたには勝ち目が無い様に見えるけどぉ」

 

「勝てるかどうかだと? 今の俺に、今までがあるならば、どんな事にだって負けはしない。だから!」

 

「はん、そんな御託を並べた所でッ!」

 

 そう言いながら振り上げられたアーマードの拳を背後へ受け流した隼人は、彼女の懐へと距離を詰める。

 

「な、何!?」

 

「お前は御託と切り捨てたがな。俺の今までは、俺の強さだ!」

 

 驚愕を浮かべるアーマードの胸部目がけ、拳を突き出した隼人は、驚いたままの彼女を胸部装甲ごと吹き飛ばすと、露出した動力源たる魔力炉を視認した。

 

 破裂したパイプや電子回路の配線が露わになり、バランサー液が漏れた為に、うまく立てずに倒れ込んだアーマードを見下ろした隼人は、左肩の剣を感知している警告を消した。

 

「終わりだ、ダインスレイヴ」

 

「いいえ、終わらないわ。あなたと、その剣がある限り。永遠に終わる事は無いのよ!」

 

 無言の隼人に笑いながらそう言ったアーマードは、彼の左肩に突き刺さった魔剣を見上げると、徐々に彼を侵食している魔力の流れを見ていた。

 

「ッ……!」

 

 ダインスレイヴの侵食に耐えられず膝を突いた隼人に、炉から魔力を漏らすアーマードは笑った。

 

「分かるでしょ? 私の本体は剣。このアーマードも剣から出る魔力で操っていたのに過ぎない」

 

 そう言って嘲笑うアーマード。

 

 最早虫の息と言うべき彼女を見ながら左肩を押さえた隼人は、左半身に広がる侵食で、左の視界が徐々に暗転していくのを悟った。

 

「無論、ティル・ナ・ノーグの連中もね。彼らは力を欲していたわ、愚かなほどにね。だから操るのも簡単だった。彼らの持つ殺意を、一点に向ければよかったんだから」

 

 そう言って笑うアーマードを前に、拳を握りしめた隼人は、天を仰ぐ彼女に足を引きずりながら歩み寄る。

 

「どうして、人の殺意をお前は弄ぶ。どうして人を殺そうとする。答えろ、お前が望むのは何だ。俺を、俺をどうして見初めた」

 

「最後の問いだけに答えましょうか……。私が望むのは終焉。この世界の終わり。私はこの世界が憎いのよ。聖剣で、乙女だった私を魔剣に変えたこの世界が終わる事を、私は願っているの。あなたと同じくね」

 

「生憎だな、俺はそんな願いを叶えようとは思わない。レンカ達がいる限り、俺は世界を守る。あいつらが生きようとしている世界を、俺は守って見せる」

 

 満身創痍の隼人は、アーマードを見下ろしながらそう言い、警戒しながら歩み寄るレンカ達の方を振り返った。

 

 そんな彼を、目を閉じたアーマードは嘲笑う。

 

 何故だ、と振り返った隼人は、機能停止している彼女に気付き、附に落ちない表情で荒く息を吐いた。

 

「止まった、のか」

 

 後味の悪い終わり方であっても、終わった事に安堵していた隼人は、突然痛み出した左腕に叫び声を上げて腕を押さえつける。

 

 その様子に慌てて駆け寄ったレンカ達は、ワインレッドのオーラを立ち上らせる隼人の真っ黒な左腕に気付くと、彼の腕から分離した裸体の少女に気付き全員が身構えた。

 

「君は……!」

 

 そう言って対物拳銃を構えた浩太郎は、魔力で構成した赤いロリータ衣装を纏った少女に一瞬構えを解いてしまう。

 

『うふふ、また会ったわね。ケリュケイオンの皆さん、私の本体を止めたのは偉いわ。褒めてあげる』

 

「ダインスレイヴ……! その様子だと、君は隼人君に取り付いている方か」

 

『そう。本体を制御していた人格が止まったからデータもろもろ引き継いで再登場って訳。ふふっ』

 

 そう言って笑う少女、スレイに得物を向け続ける浩太郎達は、武器を前にしてもなお余裕の彼女に揃って眉を顰めつつ、徐々に距離を詰める。

 

 スレイの背後、倒れている隼人は、分離の痛みで気絶しているらしく、ピクリとも動かず、魔力侵食を受けたらしい左半身が不気味に脈打つのみだった。

 

「隼人君に何をした」

 

『何にも? 彼は魔力侵食の過負荷で気絶したのよ? まぁ、最も? 私が出てきた時が負荷のピークだったんだけどねぇ。あっははは』

 

「じゃあ何で君は実体化をしているんだ? 君が出なければ隼人君だって気をやらずに済んだはずだ」

 

『私が出てきたのは、そうね、ちょっと警告しようと思ってね』

 

「警告?」

 

 距離を詰めた浩太郎は、不意打ちの様に放たれた一言に、一瞬スレイへの警戒心が解ける。

 

 明らかな隙にも関わらず、笑みを絶やさないスレイは、踊る様な動きで歩き、そして背後に誰もいない、射線が開く位置まで移動して話を続ける。

 

『そ、警告。あなた達はこれで戦いが終わったと思ってるようだけど、それは違う。これは始まりなの。終焉のね』

 

「どういう事かな」

 

『ふふっ。それはね、地球人が、この魔力次元の聖遺物を奪おうとしているって事。彼らが魔力次元支配の戦力にする為にね。そしてその情報を本体は国家の諜報機関へと流している。

今頃水面下で小競り合いが始まってるはずよ。地球と、魔力次元とのね』

 

 そう言って笑う彼女の表情を忌々しげに見た浩太郎は、首を傾げるレンカ達を見回して自分が理解した事を説明する。

 

「争いの火種は蒔かれた。後は、大きくなっていくだけ」

 

『そう言う事。お互い譲れないし、譲る事も出来ない。だからもう、滅ぼし合うしかないのよ、人間は。どちらかが生き残るまで』

 

 銃口を下ろした浩太郎にそう言ったスレイは、からかう様なジェスチャーをしてくるりと身を回し、隼人の傍へ戻ってくる。

 

『だから、終わったと思わない事ね。その先に戦争がある限り』

 

 そう言い残してスレイは隼人の左腕に消え、それと同時に浩太郎達は警戒を解き、彼に駆け寄ると、丁度良く上空からヘリのローター音が聞こえた。

 

 それと同時、タクティカルライトの光が九つ、入り口から現れ、そちらへ警戒を向けた浩太郎達は、PSCイチジョウ所属の部隊だと声を張る彼らに警戒を解き、自分たちの所属を返答した。

 

 味方であると認識されたケリュケイオンの面々は、気絶した隼人共々、救出に来た味方に護衛されて、ヘリコプターで基地へと戻っていった。


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