僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第15話『イグナイテッド・デイ』

 その夜、寝床として借りた隼人とレンカの部屋にタオルで髪を拭きつつ入った咲耶は、疲労困憊だったのか既に寝てる隼人に笑う。

 

 そして、勝手知ったるやと言った様子で、冷蔵庫から炭酸飲料の缶を二つ取り出す。

 

 小さいいびきを掻く彼の隣で深夜アニメを見ているレンカに気付き、炭酸飲料を飲みながら部屋に置かれたこたつ机の傍に腰かけた咲耶は、黙々と見ている彼女の方を振り返る。

 

「眠れない?」

 

 そう問いかけた咲耶は、頷くレンカに苦笑すると、飲料の缶を置いて彼女を抱き締めた。

 

「じゃあ、寝れるまでお話ししましょう?」

 

「えっと……アニメ見終わってからでいい?」

 

「え、ええ。良いわよ」

 

 少しばかり寂しくなった咲耶は、アニメを見るレンカを抱き締め、自分も同じアニメを鑑賞していた。

 

 彼女らが見ているのは、少女コミック原作のアニメでラブコメジャンルのアニメだった。

 

 生まれ育ちの関係からあまりこう言った文化に馴染みの無い咲耶だったが、良い機会だと思って見続け、暫くしてアニメを見終わる。

 

 そして、寝る準備に入ろうと、テレビを消したレンカが咲耶に凭れかかった。

 

「それで、お話しするって言っても何話すの?」

 

「そうねぇ。隣でいびきを掻いてる彼との馴れ初めかしら。ベターだけどね」

 

「ああ、その話? なら、えーっとね」

 

 そう言って唸りながら考えたレンカを見下ろした咲耶は、無垢な彼女を浅く抱いて言葉を待つ。

 

「アイツと会ったのは八年前にお父さんが発注した警護依頼が元かな。ほら私、一応社長令嬢だから。秘匿の意味合いでも同い年の隼人が都合良かったんだって」

 

「八年前? と言う事は隼人君は八歳の時からPSCの仕事をしていたの?」

 

「さあ? 分かんない。あいつそう言う話、してくれないもの。それでね、私が隼人に興味を持ったのはあいつがツンデレで、素直じゃなかったから。どんな奴なのか気になってそれで」

 

「好きになったんだ?」

 

 微笑を浮かべる咲耶の問いに嬉しそうに頷いたレンカは、うなされている隼人を寂しげな表情で見下ろす。

 

「でも、私は隼人の過去なんて気にした事が無かった。隼人は自分の過去にずっと一人で苦しんで、本当は誰かに助けてもらいたかった筈。なのに、私は……無神経に跳ね除けてただけだった。

のうのうと、都合の良い所だけを見て好きになってただけだった。だけど、そんなのはもう、止める。私は、隼人の過去を受け止める。ちゃんと、向き合えるって約束してからコイツを好きになる」

 

「じゃあ、明日、彼が生きてるうちにそれを言ってあげてね。私には、命の保証は出来ないから」

 

「うん、分かった」

 

 頷くレンカを見下ろし、咲耶は浅く彼女を抱く。

 

「あなたも、生き残るのよ」

 

「……そう言われると死にそうなんだけど」

 

「気のせいよ」

 

 そう言ってそっぽを向いた咲耶は、半目になるレンカを傍らに投げ倒すと、彼女を抱き締めながら眠った。

 

 翌日の午前四時、目を覚ました隼人は、何故か抱き合って寝ている二人に首を傾げ、朝食を作りに一階に降りると、洗面台で顔を洗った。

 

「ッ……」

 

 顔を上げ、鏡を見ると自分の背後にスレイがいた。

 

 顔を濡らしたまま振り返ろうとした隼人は、誰もいないそこに動揺し、鏡に視線を戻した彼は、ニヤニヤ笑う彼女を睨む。

 

『おはよう、五十嵐隼人君。人殺しにはいい朝ねぇ』

 

 そう言って笑うスレイに苛立ちを浮かべた隼人は、小さく舌打ちする。

 

「何のつもりだ。実体化できるのにしないとは、俺に殴られるのが嫌か?」

 

『わざわざする必要が無いからよ。それに、私は対等に話をする気はないの。聞く気が無いなら、こうする事も出来るしね』

 

 身構える隼人に、悪魔の様な笑みを浮かべたスレイが指を鳴らすと、隼人の全身に掻き毟られる様な痛みが走って堪らず膝を突く。

 

「お前、魔力を……! がはっ」

 

 口端から苦悶を吐き出し、首筋にアンプルを打ち込んで焼けつく様な痛みに耐えながら、目の前に映り始めるスレイを睨みつける。

 

『どう? 私はいつでもあなたに魔力を流せる。人間にとって魔力は毒でしょ? うふふ、どう? 活性化した私の魔力。掻き毟られる痛みは格別でしょ?』

 

「お前、何のつもりで!」

 

『私から、あなたは逃げられない。逃げようとすればどうなるか、今見せたから。私の意向に逆らわない限り、あなたは自由。でも、逆らえば死ぬって事を理解しておいてねぇ?』

 

 そう言ってスレイは消滅し、魔力侵食による苦しみから解放された隼人は、洗面台の端を掴んで立ち上がると、台所に移動して朝食のおにぎりと炙ったウィンナーを作り、重箱五つへ無造作に詰めていた。

 

 重箱三つめを作り終えたタイミングで咲耶が下りてきて、彼に見える様、大きく伸びをする。

 

「おはよう、隼人君」

 

「ああ、おはよう」

 

 微笑む咲耶にそっけなく答えて残りを作り終えた隼人は、カウンターの携帯端末から着信音が鳴ったのに気付き、手に取って持ち主の彼女へ放った。

 

 白と青が目立つ端末をキャッチした咲耶は、着信履歴からメールを開くと、一気に表情を強張らせ、そして隼人を一瞬見る。

 

「どうした?」

 

「ちょっと問題がね。犯行声明文がこっちに直接送られてきた。簡略に言うと隼人君、あなたと直接戦いたいそうよ」

 

「俺と? 誰がだ」

 

「ピエロマスクの男、だそうよ」

 

「な……?!」

 

 盛り付け用の菜箸を落とし、動揺した隼人に、苦しげな表情を浮かべた咲耶は、無理もないと思いながら端末の画面を見せる。

 

 画面の下にはピエロマスクの男と記されており、それを見た隼人は、昨日の戦闘を思い出す。

 

「そいつは、殺したんだぞ?! 俺が、この手で直接……! なのに、何で……」

 

「落ち着きなさい。あなたが殺したのは私も確認してるしマスクの下の身元も割り出してある。だから、罠の可能性の方が大きいって事を認知してる。計画変更はせずこのまま彼の元へ突入するわ」

 

「分かった。取り敢えず、準備はしておく。あ、これ弁当な。向こうで飯食うから」

 

 そう言って机の上に包みを置いた隼人は、全員を起こしに二階へ上がる。

 

 それを目で追った咲耶はため息を吐きながら、リビングの端に投げていた二つのバッグを手に取って、ソファーに置いた。

 

 一つは青と白のカラーリングが目を引く、フレーム用のバッグ。

 

 もう一つは、戦闘着が入れられたバッグで、その中から彼女は、黒のインナーとズボン、ボディアーマー、術式加工がなされた繊維製の黒いコートアーマーに分かれた戦闘用の服を取り出した。

 

 手慣れた動きでインナーとズボンを身に着けた彼女は、防御性能よりも、機動性を重視した軽量設計のチェストリグ付ボディアーマー、太ももまでをカバーするコートアーマーを、ソファーに掛ける。

 

「さて、後は向こうで装備を受け取るだけね」

 

 そう言ってボディラインが出やすい服装を見下ろした咲耶は、粗方起こしに行ったらしい隼人の疲れた顔を見て苦笑した。

 

 男子が先に起きて三十分後、眠気眼の女子達が、部屋に保管されていた戦闘着に着替えるのを待って、PSCイチジョウの本社基地へ徒歩で移動する。

 

 任務の特性上、専用のオフィスに移動した彼らは、そこで朝食を摂り始める中、一人立ち上がった咲耶は、机の天板を指で叩いて全員の注意を引いた。

 

「さて、お食事中だけどここでブリーフィングをしたいと思います。何でかって言うと、今朝、向こうのリーダーから隼人君へ名指しの決闘申し込みが入ったから。内容についてはこれを見てちょうだいな」

 

 そう言って天板に仕込まれたパネルを起動させた咲耶は、接触式の読み取り機能で端末のメールを机に表示した。

 

「ま、メールを見てもらえれば分かるけど罠の可能性が高いわ。で、本題はここから。敵は、隼人君を呼び出すのに場所を指定してきた。私にも分かる様にね。もし本当に決闘を望んでいるのならここにいる可能性は高い」

 

「つまり、作戦目標はここ、簡易空港になる、と?」

 

 咲耶の顔を見た浩太郎が何も言わない隼人に変わってそう質問する。

 

「ええ。そうね。でも、ここで一つ問題が発生するの。これは、うちで保管していた第三アクアフロントの設計計画図。で、簡易空港があるのが、敵が多くいると予想できる建造途中のオフィスビル群の近く。

つまり目的地に行くにはここを通らないといけないの」

 

 質問に頷き、戦術マップを開きながら必要要件を話す咲耶が、オフィスビル建設現場を丸で囲んでズームアップさせる。

 

 すると、立体図も加わった拡大された地図が表示される。

 

 高さの差はあれど、計画的な建設から大通りである侵攻ルートは、複数ある建造物に囲まれており、それを見たリーヤが、自身の経験と、感覚から、狙撃位置を割り込みで表示させる。

 

「だけどここは高所、低所から袋叩き。ヘリも相手には対空手段があるだろうし、最悪小銃でもダメージが与えられる。それを考えれば最悪の地形です」

 

「でも、突破は出来る。その要は、浩太郎君、リーヤ君。あなた達よ。攻撃対象は高所を優先し、浩太郎君が隠れながら攻撃して撹乱。撹乱した連中をリーヤ君が狙撃で排除し、袋叩きを回避する。もちろん、それまでに私達がやられたらアウト。

浩太郎君やヘリがやられてもアウト。負担は二人の方が大きいけれど、他の皆も頑張らなければならないわ」

 

「無茶だ……。無茶ですよそんなの! そんな行軍、こっちが全滅するのが早いに決まって……!」

 

 自身の意見に、作戦とすら呼べない様なプランを返した咲耶へ、食って掛かろうとしたリーヤの目前を、隼人の腕が遮った。

 

「だとしても方法が無い。俺はこのプランに賛同する。無論これは部隊長ではなく俺個人の意見だ。俺は、仲間を信じて侵攻する。無論何の根拠もないし確実性も無い。根性論だ。馬鹿にしたいなら笑ってくれてもいい。

だがな、俺はそれでもこの戦いをお前らと共に勝ち残りたいと思っている。最初に言っただろう? これは、俺達にしかできない仕事だと」

 

「でも、こんな大切な事……、僕には……」

 

「お前だけなら無理だろうな。観測手も機銃手も無く狙撃手単独では、うまく撃てないだろう。だが俺は知っている。お前が百発百中のスナイパーだと言う事を」

 

 そう言う隼人から目を逸らしたリーヤは、翼を小さく震わせ、唇を噛み締める。

 

「買いかぶり過ぎだよ。だって、僕は今までに何度も土壇場で狙撃を外して、人質を、皆を、殺しかけた。また、外せば僕は……今度こそ皆を死なせてしまうかもしれない。それは嫌だ……!」

 

「いや、良いんだよ。お前はスポーツシューター、軍のスナイパーじゃないんだ。それは俺も分かってる。だけど俺達の中で狙撃が出来るのは、リーヤ、お前だけなんだ。外したって良い。敵に与えるのが致命傷じゃなくてもいい。

お前の狙撃が必要なんだ。だから頼む、リーヤ。お前の力を貸してくれ」

 

 プレッシャーに潰されそうなリーヤに、真剣な表情をした隼人はそう言い、戸惑う彼を見つめる。

 

「本当に、保証は出来ないけど良いのかい?」

 

「ああ。お前に自信が無くても、俺はお前がいれば大丈夫だと確信している。ここにいる奴らも、そう思ってる」

 

「じゃあ、頑張ってみるよ。君の支えになる為に、僕の全てを使って」

 

 そう言って微笑み、胸に手を当てたリーヤへ頷いた隼人は、苦笑交じりにその様子を見ていた咲耶の方へ振り返る。

 

「仲良いわね、あなた達は。さて、要の説得も出来た事だし、そろそろ作戦準備に入りましょう。みんな、準備してちょうだい」

 

 そう言って手を叩いた咲耶の合図で、リーヤ達は、それぞれロッカーに入れている装備を取り出し、隼人と浩太郎は、それぞれの方法でバッグからフレームを取り出し、装着する。

 

 その中で、ただ一人、呆けている人物がいた。

 

 病院での戦闘で得物であるマシンガンを破壊された武だ。

 

 唯一残された武器である盾だけを持って、彼は不機嫌な表情を浮かべて椅子に座っていた。

 

「あら、武君。ふて腐れてどうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもねえよ姉御。俺の武器、ぶっ壊されちまったんだよ。病院で」

 

「ああ、あの軽機関銃? 破損したって話は聞いてるから代わりの物はアーマチュラコンテナの発注ついでに用意してあるわよ。ちょっとしたおまけ付きでね。おまけについてはリーヤ君にも用意してあるわよ」

 

 そう言って装着したフレームのアシストを用い、オフィスの端に置かれていた小型コンテナを運んだ咲耶は、武の眼前、会議用の机の上に一丁の軽機関銃を置いた。

 

「FNハースタル製『Mk48』軽機関銃。破壊されたM60と同じ7.62㎜ライフル用NATO弾を使用する機関銃。今回は武君用に、取り回しを重視してレッドドットサイトにショートバレルを装着させてるの。それと、これはうちの開発部からのプレゼントよ」

 

 そう言って、機関銃の隣に先端がオレンジ色で塗装されたライフル弾を収めたボックスマガジンを置いた咲耶は、興味津々の武とつられて見に来た面々を見回すと、苦笑しながら説明する。

 

「立花グループ兵器開発機構が試作した爆砕術式内包の7.62mmライフル弾。要は試作型の術式弾。執行機関用に開発していたものなんだけど正式発表前のテスト兼、装甲兵器用のデータが欲しいって押し付けられちゃってね。

何ならと思って供給する事にしたの」

 

 机の上に置かれたライフル弾に付け加える様な表示の仕方で、机のパネルが映し出され、発動条件なる項目が咲耶が説明しなかった部分を表示する。

 

「この弾丸の発動条件は、弾丸の完全な形でのターゲット命中。掠らせたり逸れたら発動しないから気を付けてね」

 

 そう言って武に視線を向けた咲耶は、続けて、とコンテナから50口径の弾丸を取り出して、机の上に置く。

 

「これはリーヤ君用の術式弾。音速徹甲弾(ソニックピアース)凍結榴弾(アイスブラスト)。発動条件はそれぞれ魔力供給しながらの発砲、認識ターゲットへの命中。音速徹甲弾は装甲兵器に有効で、凍結榴弾は敵の武装を無効化する弾丸。人体には効かないから気を付けてね」

 

 そう言ってマガジンを手に取ったリーヤにウィンクした咲耶は、武装ロッカーから彼が持ってきていた、アキュラシー・インターナショナル社製の50口径対物狙撃銃『AW50』を見る。

 

 流通している中でも珍しいブラックカラーが目を引くその銃は、前々からリーヤが対物狙撃の任務で愛用しているボルトアクション式で、彼の手でさまざまな改良が施されているカスタムモデルだ。

 

 だが、その中でも際立った特徴として、先の50口径の術式弾を高精度で使用できる様、銃身に術式使用に伴った魔力侵食で精度が低下するのを防ぐための、術式処置が施されており、それを示す様に銃身の先端にあるマズルブレーキが灰色に染められていた。

 

 咲耶が見守る中、マガジンから抜き取った一発の術式弾を装填したリーヤは、愛銃を通して術式弾に魔力を注ぎ込み、銃と弾丸の相性を確かめる。

 

「相性は大丈夫そうです。これなら高い精度を維持できそうです」

 

 そう言ってボルト操作で弾丸を抜き取ったリーヤは、薬室から抜いた弾丸をマガジンに装填すると、弾丸携行用のバッグにそれを収めて肩から掛けた。

 

「さてさて、これで準備は粗方終了ね。それじゃあ倉庫の方へ移動しましょうか。アーマチュラもそちらにあるしね」

 

 そう言って咲耶は、フレームの入ったバッグを抱え、他の面々と共に倉庫の方へ移動すると、あらかじめ搬入されていたコンテナとドローンを端末を用いて確認する。

 

 内部にアーマチュラが収められたコンテナは、病院の時と同じく、それそれのフレームと同様のカラーリングで染められており、一目でどのアーマチュラなのかを判別する事が出来ていた。

 

「じゃ、隼人君、浩太郎君。私達は装着しましょうか。その間、皆はもう一度装備の確認をお願いね。特に消耗品関係は重点的に」

 

 そう言った咲耶は、フレームを装着し、解放されたコンテナに体を入れてその全身にアーマーを装備すると、アーマーの肩に備えられた大型のマウントレールが解放され、そこにコンテナ兼用のシールドとショットキャノン(散弾砲)を備えたユニットが装備される。

 

 生身が残っている頭部に、ヒロイックなデザインの装甲が取り付けられ、周囲の目を充分に引くバイザー状のガードの奥にあるツインアイタイプのセンサーが瞬き、それに合わせて彼女はコンテナから出た。

 

 そしてほぼ同時に装着を終えた二人も、頭部のセンサーを瞬かせながら出て来るとレンカ達に加わる。

 

 それを見送りながら、軽軍神用の武装コンテナから『XM90』対軽軍神用14.5㎜ヘヴィバトルライフルを装備した。

 

《メーカー:モチューレット・オーグメンタ:型式番号:XM90:種別:ヘヴィバトルライフル》

 

《センサー、同調設定で接続:FCS・各種システム及びHMD:同期:OS・システム処理:正常:装備銃器、照準用センサー同調完了》

 

 ウィンドウ表示でバトルライフルへのシステム処理終了を確認した咲耶は、カスタマイズが施されたそれを手に取ると、フォアグリップと一体化しているセンサーを起動させる。

 

 起動と同時、頭部装甲内部からの網膜投影ディスプレイに表示され、機体側のFCSを通して表示されたターゲットサイトが、銃の動きに合わせて空間を彷徨う。

 

 数秒間動かし、機体とセンサーの連動を確認した咲耶は、側面のスイッチを切ってグリップから手を離すと、いつの間にか震えていた手に気付いた。

 

「……訓練通りにやればできるとは言ってもね」

 

「そこはもう慣れるしかありませんよ、咲耶さん」

 

 突然声を掛けられ、驚きながら銃を向けた咲耶は、XM92を調整しながら覗き込んでいる浩太郎に気付き、ため息を吐きながら銃口を下ろすと、予備のマガジンを手に取って装甲外部のマガジンホルダーに装填していく。

 

 太ももに集中しているホルダーにマガジンを収めながら咲耶は、アーマチュラのカメラを浩太郎に向ける。

 

「他人の何もかもを見破ってるのね、あなたは」

 

「ええ、そうでなければ生きてこれませんでしたから」

 

「そう」

 

 背面にライフルを取り付け、ホルスターごとサイドアームのXM92を腰につけた咲耶は、目を伏せつつ、浩太郎から視線を逸らすと、腰に大型のコンバットナイフを装備し、倉庫に駐車しているYZR-1を持ってくる。

 

 青と白のカラーリングが栄えるYZR-1のイグニッションを捻った咲耶は、タキシングを始めたヘリドローンを見ると、操作用のプログラムが入ったタブレット端末を操作するナツキに歩み寄る。

 

「ドローンの調子はどう? 操作できそう?」

 

「型式とかスペックを見ると、出力が高くて機体も軽いんですけど会社にあったものとほぼ同じ命令方法なので何とか動かせるかな、と」

 

「そう。じゃあそろそろ出撃するわよ、みんな準備して」

 

 そう言ってドローンから離れる咲耶は、ナツキにサムズアップを送ると、必要な物を詰めたリュックを背負って慌てて乗り込むリーヤと武とすれ違い、彼らと軽くハイタッチしてバイクに戻る。

 

 既にエンジンをかけて跨っている隼人達に視線を向け、YZR-1の隣で待っていた楓の肩を軽く叩いてアイドリングしていた愛車に跨ると、通信モードをオープンにする。

 

コマンダー(咲耶)よりケリュケイオンオールユニット、作戦開始よ」

 

 そう言ってスロットルを捻った咲耶は、咆哮を上げる愛車をウィリーさせながら走り出すと、基地の敷地から高速で飛び出していき、隼人達もそれに続いていった。


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