僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第13話『悪魔の目覚め』

 一方、病院の七階にある子ども用の入院施設にて、武達と共に戦闘を繰り広げていたレンカは、戦場から避難していく子ども達を守りながら戦っていた。

 

 狭い空間で邪魔になる薙刀を捨て、格闘戦に持ち込んでいた彼女は、アクロバティックな動きで敵を翻弄しながら脚部のブレードで敵の首を狩る。

 

「どれだけいるのよ……!」

 

 そう毒づきながら息を荒げるレンカは腰を抜かし、失禁している子どもに気付くと、補助武器の拳銃(Px4)を引き抜きながらそちらに向けて走り出す。

 

「レンカちゃん!」

 

 彼女に気付いた浩太郎が、ククリナイフで敵の首を切り裂いて、Mk23で援護射撃を撃ち込むと、バスタードソードで壁ごと敵を切断したカナを援護に向かわせる。

 

 敵の数が減っていく中、泣きじゃくる子どもを回収した二人は、慰めながら脱出地点を確保していた武達の方へ移動しようと脇を抱えて走る。

 

 が、突如として横から現れた軽軍神が、咄嗟にレンカを庇ったカナ諸共、ボディチャージで吹き飛ばした。

 

「け、軽軍神……」

 

 入口の壁が砕かれた病室で、子どもを庇いながら呟いたレンカは、目の前でセンサーを瞬かせる軽軍神『ファルカ』が、大型のライフル銃を構えて歩み寄ってくるのに怯えを浮かばせて後退る。

 

 自動車事故よりもすさまじい衝撃を受けたカナは気絶し、彼女に追撃を入れようとしたファルカは、組みついてきた武からの連射を頭に受ける。

 

 バリアフィールドが弾を弾く為に大したダメージにはなっておらず、銃身を焼いてマシンガンを撃ち続ける武を引き剥がしたファルカは、彼をその場に叩き付けた。

 

「ぐはっ!」

 

 吐血し、苦しむ彼は、その手から軽機関銃を取り落とし、歩み寄ってきたファルカを睨みつける。

 

 ファルカに踏み砕かれた軽機関銃が金属片となって散り、血を吐きながらリボルバーと自動拳銃を引き抜いた武は、わき腹に追撃の蹴りを食らい、病室の壁を砕いて気絶した。

 

「武君!」

 

 叫び、歯を噛んだ浩太郎は、腰から引き抜いたトマホークを振り被り、飛びかかる。

 

 ナイフすら引き抜かず、腕の装甲で受けたファルカに驚愕した浩太郎は、片手で構えられたライフルを斬り結んだ腕に組みつく事で回避し、叩き付けられる前に腕から離れて距離を取る。

 

(今この場にサイレントフレームさえあれば……!)

 

 そう思い、無い物ねだりをした自分を内心で叱咤した浩太郎は、腰からMk23を引き抜いて発砲する。

 

 連続で放たれた拳銃弾をバリアが弾き、彼方へ飛んでいく。

 

「効かんなぁ。そんな豆鉄砲が何になる。俺を撃ち抜くならこれぐらいの口径じゃないとなぁ!」

 

 そう言って大型ライフルを構えたファルカに、目を見開いた浩太郎は射線上に入っているカナと武に気付いて、その場から離れた。

 

 その彼を追って銃口が動き、そして、12.7㎜のフルオート射撃が彼を襲った。

 

 間一髪の所でバラバラにされずに済んだ浩太郎は、物陰で息を荒げながら拳銃にマガジンを込める。

 

「さぁて、お楽しみと行こうかねぇ」

 

 残った面々に聞こえる様、外部スピーカーでそう言ったファルカのパイロットは、恐怖に脳内を支配されていたレンカにライフルの銃口を向けると、赤熱化している銃口を彼女の頬に当てる。

 

 頬に走った痛みに絶叫したレンカにニヤッと笑ったパイロットは、そのままなぞる様に銃口を動かす。

 

「ほーら、どうだぁ? 怖いかぁ? 抵抗すりゃコイツから弾が飛び出るぜェ、ヒッヒッヒ」

 

 悪辣な笑みを浮かべるパイロットを見上げるレンカは、震える体に子どもを寄せる。

 

「こんのクソ野郎ォオオオオオオ!」

 

 気合一閃、高周波ブレードに加工した太刀型の術式武装『威綱』を振るった楓は、刃を滑らせたバリアに歯を噛むと刀を横薙ぎに構え、起動させた火炎術式を刃に込めた。

 

「受けてみろ、不知火の一閃を!」

 

 横一線を放った楓は、突破できないバリアに大きく目を開いて驚き、直後、左肩に裏拳を食らって壁に叩き付けられた。

 

 壁にひびを生みながら崩れ落ちた楓が立ち上がろうとするのに、追撃の蹴りを顔面に入れたファルカは、鼻血を垂らして気を失った楓を鼻で笑った。

 

「止めて……」

 

 涙を流しながら、レンカはポツリと呟く。

 

 頬の火傷を撫でた彼女は、無力さを広げるじんじんとした痛みに大粒の涙を流し、子どもを抱き締めて庇う事しかできない自分の臆病さを呪った。

 

 通信機から、別働隊らしいもう二機のファルカに苦戦する浩太郎達の怒号が鳴り響き、もう助けが来ない事を悟ったレンカは、顔を上げた先でスローモーションで動くライフルを捉えた。

 

(そっか……。隼人が見た地獄って、こう言う事なんだ)

 

 見ているだけで、何もできない悔しさ。自分に向けられた銃口の恐怖。

 

 それでも彼の絶望や、恐怖には足りない。

 

 それでもレンカは目の前の絶望を見つめ、小さく言葉を放つ。

 

「……助、けて」

 

 もう叶わない願いと思いながら、レンカはそう言葉にする。

 

「助けて……」

 

 涙を流し、銃口を中心に捉えた彼女は心に浮かんだ人物に願いを放つ。

 

「助けて、隼人ぉ!」

 

 彼女の口から願いが放たれた瞬間、彼女の頭上にあった壁が外部から内側に爆裂する。

 

 何事かと周囲が動きを止めた中、白煙を裂いて現れたのは、灰色の双眸を光らせた赤と黒の鎧騎士。

 

 地下一階で隼人が身に纏ったそれは、地獄と現世を隔てる壁を破壊し、現界する悪魔の騎士(ペイルライダー)の様だった。

 

 白煙を纏って鎧に包まれた隼人が、腕のパイルバンカーをファルカに叩き付け、フルオートの杭打ちでバリアを破る。

 

 そして、全力の右ストレートで剥き出しになったパイロットの間抜け面を、叩き割って着地した。

 

 崩れ落ちたファルカを見下ろした隼人は、赤と黒のアーマチュラ・ラテラの頭部をレンカの方に動かし、泣いている彼女へ歩み寄ると、装甲に包まれた体をしゃがませた。

 

「大丈夫か、レンカ」

 

 そう言って子どもごとレンカを抱き締めた隼人は、泣き出した二人に笑った。

 

「ゴメンな、遅くなっちまって」

 

 そう言ってレンカ達から離れた隼人は、突き破った窓からスラスターと浮遊術式を併用して飛行してきた咲耶に視線を動かす。

 

「全く、スラスタージャンプで地下から七階まで飛び上がってその上、真横に軌道変えて壁ぶち破るとか、なんて無茶するのよ」

 

 空色と白でカラーリングされた鎧姿の彼女が纏うのは、アーマチュラシリーズ一号機、『アーマチュラ・チェーロ』。

 

 汎用性に優れた性能を持っているアーマーで、隼人のそれと違い、射撃戦に対応する為に、肩へ追加のシールドコンテナとターレットが追加されていた。

 

「無茶は俺の専売特許だ。それよりも咲耶、二人と負傷した奴らの救護を任せた。俺は浩太郎達の救出に行く」

 

「はいはい、了解よ。じゃあ、これ。持っていきなさいな、改修済みのサイレントフレームを。浩太郎君に渡してあげて」

 

「分かった。頼んだぞ」

 

 肩にボストンバッグを担いだ隼人は、咲耶にこの場を任せると、病室を出て三人の反応がある方へ移動した。

 

 重そうな見た目とは裏腹に、高出力のアシストシステムがある為、意外と軽快な動きが出来るアーマチュラ・ラテラの特徴を、存分に生かす隼人は、視界の端に映ったファルカに駆け寄る。

 

 駆動音に気付いたファルカの射撃を、壁を足場にした跳躍で回避した隼人は、踵落としでライフルを叩き落とすと、抜き撃ち(クイックドロウ)で放たれたSMGの射撃を、装甲を解放しての噴射制御で回避する。

 

「装甲の魔力残量を表示しろ」

 

『ふふふっ、了解よぉ。それにしてもこのおもちゃ、全身から効率よく血液がもらえるなんてねぇ……』

 

 神経接続のコンソール上にて笑うスレイを睨んだ隼人は、枯渇寸前の魔力を確認して舌打ちし、その隣に表示されたリチャージ突入までの時間を確認する。

 

「残り三十秒か……」

 

 そう呟いた隼人は、バク転の連続で弾丸を回避すると、壁を足場に跳躍し、ファルカのバリアに飛び蹴りを打ち込む。

 

 案の定阻まれた蹴りに、バリアの内側で嘲笑したパイロットは、至近で爆裂した足に驚き、バリアを突き破った爆炎がパイロットの頬を軽く焼く。

 

「ばッ、バリアが!?」

 

 降下してきた隼人が、膝を叩き付ける直前に回避したパイロットは、至近でSMGを撃発させる。

 

 回避が間に合わず装甲で受けた隼人は、含み笑いを放ったスレイの声に魔力残量を確認した隼人は、枯渇寸前の魔力に舌打ちした。

 

「よそ見をするとは!」

 

 こういって大型のナイフを振り上げたパイロットに、アーマーを補助電力で動かした隼人は、逆手持ちのグラビコンソード(重力剣)を腰目がけて振るった。

 

 切断個所の分子を失ったファルカが、大量の血液を吹き出しながら崩れ落ち、返り血を浴びた隼人は、解放されたコンデンサ(増槽)装甲から露出したインテークを見回す。

 

「くそっ、再充填(リチャージ)が入ったか。体が重い」

 

 インテークから魔力を吸入しつつ、冷却に入ったラテラを歩かせた隼人は、笑っているスレイを睨み付けると、銃声が聞こえる方へ移動する。

 

『魔力が欲しいの?』

 

「……お前からの魔力供給は必要ない。術式が混入している魔力を動力にすれば俺の精神に負担がかかる」

 

『あっそう。でも、チャージに時間がかかるみたいねぇ。すぐに動けないわよぉ? あなたは、仲間を見殺しにしたいのぉ?』

 

 そう言って笑うスレイに重い装甲を支えながら歩く隼人は、リチャージにかかる時間を確認すると、安全と時間を天秤にかけた。

 

「チッ、仕方ない。お前の提案に乗る。背面部リザーバータンクに優先して魔力を供給しろ、それから装甲に回せ」

 

『はいはい、了解よ。供給開始』

 

 供給された魔力が電力に変換され、体が軽くなったのを感じた隼人は、その直後頭を埋め尽くす狂気と殺意に意識を埋め尽くされた。

 

 片膝を突き、頭を押さえた隼人は面白そうに見てくるスレイに強い殺意を向け、目を赤く染め上げながら、理性を狂わせかけるが寸での所で堪えた。

 

『あらあら、耐えたのねぇ。それもあれかしら、覚悟のお陰?』

 

「そう思うならそう思っていろ。行くぞ」

 

 微笑を浮かべたスレイにそう言って顔を上げた隼人は、魔力残量がフルに回復している事を確認すると、外部のカメラセンサーを赤く染め、反応がある辺りに向けて疾走する。

 

 まだ数人残っているらしいパワードスーツ未装着のテロリストが、隼人の存在に気付き、アサルトライフルを連射する。

 

会敵(コンタクト)!」

 

「な、何だこいつ!? ライフルが効かねえ!?」

 

「怯むな、撃て! 野郎の装甲だって無限に耐える訳じゃねえ!」

 

 フルオートのライフル弾を装甲に受けた隼人は、両腕の装甲でセンサーを守りつつテロリストに迫ると、捻りを加えながら軽く跳躍して飛び越す。

 

「野郎!」

 

 追撃の射撃を放つ兵士に舌打ちした隼人は、肩の鞄を庇いつつ、無視してリーヤ達と戦闘を行うファルカの方へ走っていく。

 

 ナツキが展開しているディフレクター(偏向障壁)に銃撃を加えるファルカが見えた瞬間、隼人は、肩にかけていたボストンバッグのスリングを下ろし、持ち手を掴む。

 

発砲(ファイア)!」

 

 そして、ふくらはぎのサイドスラスターと共に足のランチャーを撃発させ、地面を抉

りながら、加速して体格差1.5倍ほどもあるファルカにタックルをぶち込んだ。

 

 体勢を大きく崩し、天井に12.7mmのライフル弾を撃ち込んだファルカに蹴りを打ち込んで吹き飛ばした隼人は、ディフレクターに隠れていた浩太郎へバッグを滑らせ渡す。

 

「浩太郎、それを使え。改修済みの代物だ。ファルカは俺に任せろ」

 

 そう言ってファルカに向けて走り出した隼人に、背を向けて開いている病室にリーヤ達共々入った浩太郎は、ボストンバッグから取り出したフレームを装着した。

 

 背負い鞄の様に装着された背面ユニットが微細な振動を放ち、アイドリングが完了するまでの間にホルスターを装着した浩太郎は戦闘出力に移行したフレームを動かしてしゃがむ。

 

「クソ、あの鎧野郎どこ行きやがった?!」

 

 そう言いながら走るテロリストを壁際でリーヤ達と共にやり過ごした浩太郎は、彼らにハンドサインで回り込むように指示すると、拳銃を構えながらゆっくりと出て行く。

 

 角を曲がったテロリスト達の後を追った浩太郎は、手練れらしいファルカと泥仕合を繰り広げる隼人へ銃口を向けようとする彼らを見つけると、リーヤ達が射線に移るよりも早く飛び出した。

 

「コンタクト!」

 

 そう言って振り返ってきたテロリスト達が銃口を向けるその瞬間、急激にスローモーションとなった浩太郎の視界に、新たなウィンドウが現れる。

 

電磁防盾(ローレンツバリア)?! こうか!?)

 

 左腕を目の前にかざした浩太郎は、ワイヤーブレードのユニットから展開した整波装置に驚き、直後発生した電磁フィールドが弾丸を全て弾き飛ばす。

 

「弾いた?!」

 

 高速回転しているらしい電磁フィールドが火花を散らしながら、彼方へ弾いたのを見た男たちは、真横からの攻撃で絶命し、床に倒れ込む。

 

 そのタイミングで壁にファルカをめり込ませた隼人は、火薬の炸裂も加えてバリアを蹴破ると、息を荒げながら胸部装甲を引き剥がしてパイロットを引きずり出す。

 

「う、うわぁあ?! な、何だ貴様!? は、放せ!」

 

 そう言って暴れるパイロットの体を掴み上げた隼人は壁際に押し付ける。

 

「お前、ティル・ナ・ノーグのテロリストだな? 知っている事を全て話せ。さもなくばここから投げ落とす」

 

「ま、待て! よし、何だ?! 何が聞きたい!?」

 

「お前たちはどこから来た。答えろ! これだけの装備を持ってこれるのは短距離以外にありえない!」

 

 そう言ってパイロットに迫る隼人は、捕らえた彼を一度壁に叩き付けると、パイロットは狂った様に笑いだす。

 

「どこにいる? いつでも近くにいる。君の傍に、君の中に、いつでもいる」

 

「何……? 何を言っている!? 俺はお前らの居場所を!」

 

「い、いば、居場所、いばばばっばばば」

 

 狂ったラジオの様に同じ事を繰り返すパイロットは、目を赤く濁らせながら白目を剥き、泡を吹いた後にぐったりとした。

 

 慌てて動かないパイロットを揺さぶった隼人は、ピクリとも動かない彼を端に投げ捨て、動揺し彷徨わせた視線を背後の足音の方に向ける。

 

 合流してきた浩太郎達の驚いた表情を見た隼人は、コンソールを操作しながら三人に離れる様、手ぶりで指示すると全身のラジエーターを展開させた。

 

《規定温度超過:強制冷却モード起動》

 

 瞬間、全身のラジエーターが解放され、頭部の装甲も開かれて、赤熱化した回路と配線コードがむき出しになり、まるで燃え盛る骸骨の様なフェイスを露出する。

 

 赤熱したフレアが放出されて病院の床が、壁が、まるで高熱のバーナーに当てられた様に焼け焦げる。

 

 その熱に煽られた隼人は、緊張が解けた事でその場に崩れ落ちると、バイタルの異常に気付いたOSが全身の装甲を強制解除した。

 

 白い湯気として見える汗が彼の全身から立ちのぼり、立ち眩んだ彼はその場に倒れ込んだ。


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