僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第55話『王女奪還戦』

 午後8時―――エルフランド領・ジョルニエ要塞監獄

 

 あれから何時間たったか、反響し続ける悲鳴を聞き続ける内にシルフィは考えるのを止めていた。

 

 憔悴しきった心は冷え固まり、希望を見出す事すら諦めていた。

 

「あらオルゴン、お疲れ様」

 

 ドアの向こうからヴァイスの声が聞こえたのに、シルフィは体を起こした。

 

「白蝙蝠か、何の用だ」

 

「ちょっと囚人と話したいのだけど、良いかしら?」

 

「将軍からの許可はもらっているのか?」

 

 そう言っているオーガにクスクスと笑いを漏らしているヴァイスが足音を鳴らす。

 

「ええ、もらっているわ」

 

「そうか、なら入れ」

 

「ああ、それとちょっと席を外してもらえる?」

 

「……良いだろう」

 

「ありがとう」

 

 鍵を開け、中に入ったヴァイスは、部屋の隅で怯えているシルフィを見てくすくすと笑った。

 

「何を怯えているの?」

 

「分からない……けど……」

 

「イライラするわねぇ。まあ良いわ、今夜あの少年達が助けに来るわよ。楽しみねぇ」

 

 そう言ってナイフで遊ぶヴァイスは、毛布で体を隠す彼女を流し見る。

 

「まあ、それまで連中の玩具になっていればいいけどねぇ」

 

 そう言ってニタニタ笑ったヴァイスは、シルフィへウィンクを飛ばすとその場を後に

した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 同時刻――――ジョルニエ要塞郊外

 

 予定通り、ジョルニエ要塞の下水に辿り着いた突入班は、ラテラV2を装着した俊を先頭に、はめ込まれた鉄格子を破壊して侵入。

 

 下水から作業通路を通り、エルフランド最大級の要塞地下を5分近く歩いていた。

 

「いやに広すぎねえか?」

 

「黙って歩きなさい和馬」

 

「いや、だってよ……」

 

 口ごもりながらも、周囲に拳銃を向ける和馬は、HK416A5を手に余裕のない表情を浮かべる美月の横顔を見て、ため息を落とした。

 

 不意に俊が隊列を止め、それに連なる様に、和馬達も足を止める。

 

「聞いたか、傭兵の連中が何か怪しい動きをしているらしい」

 

「人間共がか? はっ、まさか。人間風情が俺達オーガに策を講じる事が出来るとでも?」

 

「違いない。この話はダリウスから聞いた話でな。俺は杞憂だろうって言ったんだ」

 

 サボって話し込んでいるらしいオーガを見つけた俊は、シュウの方を振り返る。

 

 頷き、ハンドサインで美月を呼んだシュウは、サプレッサーをつけたHK416での同調射撃で頭を穿ち、始末すると、俊と和馬に死体を隠させた。

 

「ハナ、シグ、後ろをカバーしておいてくれ。俊、和馬、先行」

 

 そう言ってハンドサインを出したシュウは、アーマチュラのインターフェイスで、位置を確認する。

 

 中盤を過ぎ、人がいない筈の道を進む彼らは、地上から聞こえてきた激震に、身を竦めた。

 

「始まったか」

 

 時間としては予定通り、上での陽動が始まった。

 

 隼人達次第だが、ここにいる戦力の見極めが不十分である以上、陽動が長く続くかは分からない。

 

「急ごう」

 

 そう指示したシュウは、急ぎつつも丁寧なクリアリングで、目的地を目指す。

 

 数分進み、到着すると、屈んで通れるだけの範囲を指定させて、術符を張り付けた。

 

 張り付くと、同時に煙を立てて壁を腐食させていく術符が、溶けて失せる。

 

「ブリーチクリア」

 

 シュウの一言で、壁を突き崩した俊は、そのまま内部に突入、壁に背を当てて角を警戒する。

 

 探査用のバグドローンを出したハナは、まだ生きている反応二つ、うち一つに群がる様にしている4つを検知した。

 

「シュウ君!」

 

「了解だ、群がっている存在を敵と認定。ブリーチングクリアで排除、救助の後、もう一つを回収する」

 

「了解」

 

 足音を殺し、そちらへ急いだ六人は二人が外を警戒し、左右の部屋にブリーチングチャージをセットする。

 

 陽動用に威力を弱めたそれをセットし終え、正面に集まった6人は、中から聞こえる声でタイミングを計る。

 

「上がうるせえが、姫様を凌辱できるのは今だけなんでねぇ! 恨むなよぉ……!」

 

 完全に油断しきっているらしいオークに指示を出したシュウは、ハナに壁を爆破させると同時、和馬のスラッグガンでドアを破壊させ、俊とシグレを突入させた。

 

 槍に持ち替えてのスラッグガンの連射で重傷を負わせ、怯ませた俊は、ダンシングリーパー二つを持ったシグレと共に、オークを切り裂く。

 

「クリア」

 

「クリア」

 

「ルームクリア」

 

 止めを俊に任せ、部屋を見回したシグレは、服を破られ、裸になっているシルフィに気付いて、上着を被せた。

 

 動揺し、目が泳いでいる彼女を揺さぶったシグレは、縮こまる彼女を抱き締めた。

 

「……ここは任せる」

 

 その様子を見て、その場を離れたシュウは、ハナ達を引き連れてメイの救出に向かう。

 

 その途中で銃声に気付いたらしいオークが、間抜けにも階段を下りてくるのに先制したシュウはセミオートの連射で射殺すると、階段に陣取って和馬達を行かせる。

 

「クソ、侵入者だ!」

 

 騒ぎ始めた上の階に舌打ちしたシュウは、正面戦闘用に持って来ていた重機関銃に切り替え、シールドコンテナも使って銃撃戦を開始した。

 

 14.5mmの銃声が響く監獄の奥の部屋、人一人としていないそこにたどり着いた三人は、軽軍神の膂力で扉を破壊し、内部に突入した。

 

「メイドさん無事か!?」

 

 そう叫んだ和馬は、何かを踏んだことに気付き、足元を見下ろした。

 

 足を退けると、そこにあったのは二の腕を6割残した左腕だった。

 

「あー……無事じゃねえな」

 

 そう言って後ろを振り返った和馬は、美月達に止まる様にサインを出すと、他所を向いているように指示した。

 

 そして、同じ様に斬り落とされている手足を拾った和馬は、様子がおかしいと見てきた美月達に、それを見られた。

 

「和馬……それ……」

 

「あー、何も言うな何も言うな。それよりも、メイドさんの回収頼むわ。お前が持った方が良いだろ」

 

「……うん」

 

 ショックを受けているハナを置いて、俯いていた美月は、僅かな二の腕、太ももを残すのみのメイを前に、痛いくらいの鼓動を感じていた。

 

 現実離れした現実、目の前にいるのは紛れもない実物なんだ、と言い聞かせても、頭の理解が追い付かない。

 

「ミィちゃん……」

 

「ハナ、手伝ってもらえないかしら。一人じゃ、出来ない、から」

 

「……うん」

 

 ふくらはぎ側面のコンテナからフォールディングナイフを引き出した美月は、ハナと共に、拘束用のストラップを斬り外す。

 

 自由になったメイの体を抱え上げ、ナイフを収めた美月は、片手でHK416を構える。

 

「パッケージ確保。その……無事では、無いけど」

 

「よし、戻るぞ!」

 

「りょ、了解!」

 

 銃撃戦をしている事を思い出した美月は、慌てて部屋を出た。

 

 HK416を後ろのアタッチメントに引っかけると、追従するハナ達を後ろに置いて、銃撃戦を続けるシュウの方へ走る。

 

「俊、シグ! 動くぞ!」

 

 シュウの号令に被せる様に、ハナが417を二連射してカバーすると、スモークグレネードを投擲する。

 

 侵入口から離脱した6人は、後を追ってくるオーク達の足音を聞きながら、出口を目指す。

 

「和馬! 俊から姫様を引き継いで先に行け! 俊、シグ、ハナ! 相互カバーで足止めするぞ!」

 

 そう言って重機関銃を発砲したシュウは、頷く俊とシグレを先に行かせると、ハナと共に、射撃を続ける。

 

 先頭のオーク集団を排除したシュウは、サイドアームのDEを発砲しているハナの肩を叩き、先に行かせる。

 

「俊、ハナがそっちに行く」

 

『了解!』

 

「よし、俺も移動する」

 

 そう言って、後ろに下がるシュウは、FCSで残弾を確認する。

 

 離脱している間、ショットガンとG18で抑える二人にカバーを任せつつ、俊の隣へ回ったシュウは、後ろに回るハナをカバーする。

 

「リロード!」

 

 叫び、HK417のマガジンを交換した彼女は、屹立していたボルトストップを叩き、初弾を送り込んだ。

 

 銃を構えるシュウの脇を通す様に、HK417の銃身を向けるハナが、シュウの撃ち漏らしを始末する。

 

『シュウ、出口まで来たわよ!』

 

「了解! 俊、シグ! 下がるぞ!」

 

 そう言い、重機関銃を放つシュウは、頷く二人を下がらせると、それにハナも追従させる。

 

 スモークグレネードを投擲し、かく乱したシュウは、煙を突っ切ってくるオークに戦慄し、アームを使って重機関銃を収める。

 

 そして、シールドコンテナから単発装弾式の60mmグレネードランチャーを引き抜き、RPKを乱射しながら走るオークに向けて射出した。

 

「ブラスト」

 

 ランチャーの砲弾をFCSを介して空中起爆させたシュウは、破片でズタズタにされたオークが絶叫を発し、転倒する。

 

 ハナの援護射撃を受けながら次弾を装填したシュウは、角を曲がる寸前に射出。追撃の集団を爆撃する。

 

「行け!」

 

 おまけとばかりに破片手榴弾3つを投擲したシュウは、爆発に驚くハナ達を進ませる。

 

 血生臭い空間に吐きそうになっているハナとシグレは、装甲に阻まれてケロッとしているシュウと俊を睨んだ。

 

「良いから行け! 撃たれるぞ!」

 

「生命維持機能でそっちは平気かもしれませんけど、こっちは吐きそうなんだよ?!」

 

「そう言うなら抱えて行くぞ……?」

 

 戸惑うシュウを涙目で睨んだハナは、口元を抑え、無言で頷くシグレと視線を合わせる。

 

 そんなやり取りを呆れた様子で見ている俊は、後ろから迫るオークに気付き、3人を先行させると、ショットガンを連射した。

 

 散弾に打ちのめされ、怯むオークに、スラッグガンを撃ち込んで射殺する。

 

「どんだけ来るんだよ!」

 

 陽動の意味を成していない程に迫るオークに、舌打ちした俊は、ショットガンをリロードしながら走ると、後ろから撃たれて倒れた。

 

 ロールしながら立ち上がった俊は、カバーで引き返してきたシグレの援護を受けながら、ベネリを発砲。

 

「ブラストグラビティ!」

 

 業を煮やし、帯状の重力波を放射したシグレを下がらせた俊は、障壁を展開したバックラーで弾幕を防いで、2本目のスモークを焚く。

 

 一本道を抜け、広い下水道に出た2人は、先に行ってしまったらしいシュウ達に、内心不安になりつつ、先を急ぐ。

 

「後は俺達だけか?」

 

「みたい、ですね」

 

「じゃあ、急ぐか」

 

 そう言って走る二人は、天井を突き破って来たAASに気付き、足が止まる。

 

「クソッ!」

 

 シグレを抱え、脇道へ逃げた俊は、通信機を起動する。

 

「シュウ、道が塞がれた! 上と合流する!」

 

『了解した。こっちも上の援護をしている。なるべく早く来い』

 

「了解!」

 

 シグレを下ろし、彼女と並走した俊は、後ろを確認すると、上で暴れているであろう隼人達との合流を目指す。

 

 ドアの前で、G18を構えるシグレからのハンドサインに頷いた俊は、蝶番にスラッグガンを撃ち込み、蹴破った。

 

「クリア」

 

 ウェポンライトを照らし、薄暗い部屋を見回したシグレは、バックアップで待機している俊にカバーされながら出てくる。

 

 通って来た道はオークの体格でギリギリだからか、先ほどのAASが追ってくる様子は無かった。

 

「階段ってどこにあるんです……?」

 

 そう言って周囲を見回すシグレに、肩を竦めた俊は、不機嫌そうな顔を浮かべた彼女を他所に周囲をスキャンする。

 

 スキャンしながらリロードを並行する俊は、階段らしきワイヤーフレームを感知するとその方角をロック。

 

「シグ、見つけた。動くぞ」

 

 そう言ってボルトリリースを押した俊は、後ろにシグレをつけ、周囲を確認した後にそちらへ移動する。

 

 G18を構えるシグレと入れ替わり、後ろを見ていた俊は、装甲を叩いた彼女に頷いて階段を上がる。

 

「クリア。来ても良いぞ」

 

 そう言って一歩前へ出た俊は、ちょこちょこと階段を上がって来たシグレをちらと見る。

 

 前進のサインを出した彼は、頷いた彼女にカバーしてもらいつつ、上階を進む。

 

「待って」

 

 耳を動かすシグレの声に足を止めた俊は、角の向こうを指さし、敵が2人いる事を示した彼女に頷いた。

 

 腰からフラッシュバンを取り出し、ピンを引き抜いてシグレに見せた俊は、角の向こうへ投擲する。

 

「ん?」

 

 間抜けな声が聞こえた後、爆音が轟き、それに合わせて突入した2人は、サボっていたらしい兵士を射殺する。

 

 聞こえない筈の銃声に驚いたらしい兵士達の声に舌打ちした俊は、不安そうなシグレに平気だ、とサインを送ると、出てくる兵士を射殺する。

 

「行くぞシグ!」

 

 そう言いながら乱射する俊は、予備共々弾切れしたそれを投げつけると、スラッグガンで追い打ちする。

 

 腰につけていたシェルケースをパージし、落ちていたM4カービンを拾い上げた俊は、セミオートに切り替えたそれを連射する。

 

「行け!」

 

 ボーっとしていたシグレに叱咤した俊は、ボルトオープンしたそれを投げ捨て、同じく落ちていたMP7に持ち替える。

 

 走るシグレをカバーする様に弾幕を張った俊は、片手に掴んだ予備弾倉を叩きこみ、二人を牽制する。

 

「俊君!」

 

 角でG18を構えるシグレに頷いた俊は、撃ち切ったMP7を投棄すると、ガンラックから予備マグ込みでM4を拝借する。

 

 予備マグ2本を装備していたポーチに納めた俊は、取り付けられたホロサイトの電源をつけ、バーチカルグリップを掴む。

 

「ライフルは苦手だっつーのに……」

 

 そうぼやきながらも、シグレの先頭を行く俊は角から見えた銃口に反応し、シグレと共に、セミオートの連射で兵士を仕留めていく。

 

 時折後ろを警戒しているシグレは、軽機関銃を構えた兵士を、フルオートに切り替えたG18で仕留める。

 

「シグ、階段だ。上に上がれる」

 

 そう言って階段の真横に陣取った俊は、近接戦闘寄りのシグレに先陣を任せる。

 

 通信で連絡し、腰からニーヴェルングを取り出した彼女は、G18と合わせて構え、ゆっくり階段を上がっていく。

 

「ルーム、クリア」

 

 そう言って、部屋の出口へ移動したシグレは、後を追って階段を上るシュウの到着を待つ。

 

 その時だった。

 

「クソ野郎が!」

 

 オークが発する悪態が聞こえた後、ロケットモーターの爆音が下の階層から聞こえる。

 

 RPGだ、そう思い、引き返した彼女は、慌てて滑り込んだ彼が吹っ飛んだのを見た。

 

「俊君!」

 

 背中から落ちた俊が、呻きながらもM4を手に取ったのを見て安堵したシグレは、安全に登れない程に崩落した階段を見下ろし、荒く息を吐いた。

 

 咳込み、フェイスカバーを外した俊が吐血したのに、シグレは驚いた。

 

 脳震盪を起こしたらしい彼は、歩き出そうとしてバランスを崩す。

 

 それを見たシグレは、慌てて駆け寄ると、体調が戻るまで傍でカバーした。

 

「もう、地上か?」

 

「はい、多分。派手な爆発音が聞こえますから」

 

「そうか……。シグ、水、持ってるか?」

 

「持ってます」

 

「ちょっとくれ。脱水症状になりかけてるかもしれねえ」

 

 そう言ってシグレが持っていた水筒を傾けた俊は、荒く息を吐くと、M4を手に取った。

 

「行くか」

 

「はい」

 

 立ち上がり、入口の方まで移動した俊は、G18の確認を終えたシグレと共に、外へ出ていく。

 

 目に見える兵士も少ないそこを移動する二人は、伏兵を警戒しつつ、シュウ達と連絡を取る。

 

「地上に出た」

 

『了解。そのまま門まで来い。IFFは動いているよな?』

 

「二人ともグリーン。分かった。門を目指すよ」

 

 そう言って通信を切った俊は、角で待機しているシグレに前進を指示すると、M4を構えて彼女の援護に回る。

 

 主戦場らしい中庭に急いでいる兵士達の姿を見た2人は、こちらに気付いた兵士に撃たれる。

 

「チィッ!」

 

 セミオートで牽制した俊は、その間に接近するシグレに合わせて、距離を詰める。

 

 壁走りから首を刈ったシグレは、立て続けに迫る兵士にソバットを打ち込むと、G18で止めを刺す。

 

「クリア!」

 

 そう叫ぶシグレに頷き、角を確認した彼は、MP7の連射を浴びる。

 

 角から出てくると同時に、不意打ちで壁に叩きつけられた俊は、反撃の連射を放つと兵士を射殺する。

 

「シグ、待て」

 

 通信でそう言い、残る兵士を射殺した俊は、ハンドサインでシグレを前に出すと、彼女が待機していた壁の方まで移動する。

 

 角でM4を構えた俊は、ロックされたシグレが委縮するのを見て、射手を確認する。

 

「カバー!」

 

 そう叫び、射手に撃ち返した俊は狙いを外し、壁を穿って引っ込ませる。

 

 周囲を確認したシグレは、新手の兵士と目が合い、お互いに拳銃を撃ち合った。

 

 寝起きの格好だった兵士は、全身に拳銃弾を浴び、国際規格の防弾能力を有していた学生服に守られていたシグレは、数発防いだおかげで貫通は免れた。

 

「シグ!」

 

 だが、着弾の衝撃は到底無視できるものでは無く、音速で殴られた衝撃が彼女の体に走っていた。

 

 駆け寄る俊は、足音に気付いて出てきた射手にスライディングをして倒れると、セミオートの三連射を放って仕留める。

 

「動けるか?」

 

 咳込むシグレを見下ろした俊は、突然の爆発に驚き、彼女に覆い被さった。

 

 爆炎から火だるまになったオークやゴブリンがもがき苦しみながら逃げてくるのを射殺した俊は、爆炎を割いて駆け寄って来た隼人とレンカ、楓と武に安心してM4を放棄した。

 

「迎えに来たわよ」

 

 そう言って胸を張るレンカに苦笑した俊は、痛みが治まって来たらしいシグレを抱え起こす。

 

「遅かったですね、レンカ」

 

「うん、暴れてたからね。ところでシグレ、アンタ撃たれたの?」

 

「え、ええ。胸を数発。痛みはしますが何とか」

 

 そう言って撫でさするシグレは、ため息を吐くレンカにムッとなるが、それ以上の事は出来なかった。

 

「いたぞ!」

 

 量産機らしい統一された意匠のAAS数機と、兵士の混成部隊が、シグレ達目がけて殺到してきたからだ。

 

 慌てて動く6人は、武の軽機関銃を牽制に、強引に突破しようと突撃する。

 

「武そのまま撃ち続けろ!」

 

 そう言いながら弾幕の中を突っ走る隼人は、散開した混成部隊の内、AASの方へ突撃する。

 

 その後を追い、槍を構えて突撃した俊は、武にシグレ達のフォローを頼み、そのまま突っ込む。

 

「ぐッ!」

 

 ハヤトを囮に、一機、重機関銃を持っているAASに迫った俊は、彼我距離を高出力スラスターで詰め、穂先でナイフを弾いた。

 

 宙を舞うそれを追わず、手にした機関銃を構えたAASは、回転の動きで銃身を弾いた俊に受け流された。

 

「クソッ!」

 

 つんのめり、前へ出たAASは、腰に下げていた対物拳銃を向ける。

 

 爆発音に近い発砲音と共に重量弾が音速で射出される。

 

「ッ!」

 

 肩に受け、衝撃で体勢を崩された俊は、足を踏むと同時にP90を発砲、全身に叩き付けてバリアに火花を咲かせる。

 

 跳弾が四方に散り、オレンジ色の花弁が鬱陶しいほどに咲いてAASの視界を塞ぐ。

 

「障壁突貫!」

 

 槍の穂先から内蔵した龍翔の障壁術式を起動、円錐状のフィールドを穂先にして突撃する。

 

 激突の衝撃が増し、まともに食らったAASのバリアが破壊され、フィールドも砕け散る。

 

「もらった!」

 

 至近距離で重機関銃を構えたAASに、咄嗟にバックラーを向けた俊は、バックラーの障壁を砕きながらも直撃を免れた。

 

 その間に横薙ぎを繰り出し、パイロットの頭を吹き飛ばす。

 

 力を失い、擱座した機体を前に荒く息を吐いた俊は、残りを相手にしている隼人を見てそちらへ走っていった。

 

 一方、兵士を相手に、近接戦を繰り広げる女子三人は、銃口をかく乱して狙いを乱していた。

 

「遅い!」

 

 弾薬節約なのか、セミオートを繰り返す兵士の射撃を回避し、蹴り倒したレンカは、手にした薙刀で背後の兵士の足を折ると、そのまま顔面に刃を叩き付けた。

 

 鈍い切れ味のそれが頬を中心に深い切り傷をつけ、絶叫を発させる。

 

 その間に頭部を蹴り飛ばし、首の骨を折ったレンカは、着地と同時、SCAR-Lを構える兵士と目が合う。

 

「終わりだ、メス猫!」

 

 そう言って兵士がトリガーに指をかけた刹那、G18を構えたシグレが間に割り込む。

 

 ウェポンライトのスイッチを入れた彼女は、モード切替からストロボの光を浴びせる。

 

「うぉおお!?」

 

 光をまともに浴び、平衡感覚を失った兵士は、訓練の慣習からトリガーから離してしまい、その間にボディアーマーを穿たれた。

 

 衝撃で倒れ込んだ兵士は、顔面に3発喰らって絶命した。

 

「大丈夫ですか、レンカ」

 

「ええ。ありがと、シグレ」

 

「貸し1です」

 

「ホント、むかつくわねアンタ」

 

「お互い様です」

 

 そう言ってマガジンを換えたシグレは、むすっとしているレンカに背を向けて、別の標的へ向かう。

 

 そんな彼女を見送ったレンカは、ため息を吐きながら薙刀を背に預ける。

 

「色々しんどそうね、アンタも」

 

 そう言って薙刀を下ろしたレンカは、目の前を擦過したライフル弾に、その場を離れる。

 

 単発に切り替えているSCAR-Lを発砲する兵士は、照準し、素早い動きで逃げるレンカを追う。

 

「使ってみるか、ストリング・ケイル!」

 

 そう言ったレンカは、手の甲に取り付けられたヨーヨー型のユニットを射出、隼人と同じ武器であるそれを兵士へと猪突させる。

 

 アーク刃を展開して突っ込むそれは、あっさりと回避されてしまい、引き戻した彼女は、自分に向けられた照準に気付く。

 

「しまっ!」

 

 咄嗟に腕を上げたレンカは、自動で動いたユニットが、光属性の障壁を放つのに目を見開く。

 

 それは、隼人がスパイカーをバリアに使っていたのを見て編み出していた試作術式だった。

 

 ユニット側面から射出されたのと、自動作動したのを含めて、まさかここで使えるとは思ってもみなかった彼女は、展開を解除する。

 

「噂には聞いていたがそれが術式か……!」

 

 静かに驚く兵士は、立て続けに2連射すると、ロールして逃げた彼女の射撃を回避する。

 

 腰にPx4を収め、薙刀からレーザーを放出したレンカは、銃口を掠めたそれを牽制に、距離を詰める。

 

「ッ!」

 

 サイドアームであるM1911A1を引き抜いた兵士は、迫るレンカの防弾制服の胸部に2連射して、跳躍した彼女を叩き落とす。

 

 衝撃を受けて苦悶に歪んだ顔の彼女は、頭部に照準する兵士にバンカーを撃発させ、銃撃点をずらす。

 

「げほっ」

 

 胸部に喰らい、ろっ骨を損傷したレンカは、肺を圧迫されて一時的な呼吸困難に陥る。

 

 呻く彼女に銃口を向けた兵士は、不意に感じた殺気に身を引くと、目の前に太刀が突き出された。

 

「ごめんよお兄さん!」

 

 そう言って横薙ぎに払った楓は、切り裂いたボディアーマーに舌打ちすると、腰から引き抜いた『FNH・Five-seveN』5.7mm自動拳銃を連射する。

 

 刀身を支えにしつつも片手で放った射撃は、思う様に当たらず、単なる牽制となった。

 

「軍曹!」

 

 別方向からそう叫ぶもう一人の兵士に気付いた楓は、腕を巻きつける構えで拳銃を放つ。

 

 ボディアーマーを穿ったそれは、兵士の肺に潜り込み、倒れ込んだ彼に迫った楓は、息も絶え絶えの兵士の首を刈り取る。

 

「もらった」

 

 そう呟き、ずるりと落ちた首を振り返った楓は、放たれた拳銃弾を制服で防ぐと、拳銃を撃ち返す。

 

 乱射する楓は、弾幕から逃げる兵士を追うが、それを阻む様に現れたオークに舌打ちして斧を回避すると、手首を切り落とす。

 

「邪魔だ!」

 

 顔面に5.7mmを撃ち込んで射殺した楓は、柱から射撃する兵士に、弾丸を切り払って防ぐ。

 

 全弾撃ち切り、開いていたスライドを戻した『Five-seveN』をホルスターに納めた楓は、拳銃弾を弾き続けながら、物陰へと逃げる。

 

「ねー、誰か手が空いてる人いない?」

 

『個別で残敵掃討してんのにいないわよ!』

 

「ちぇー、連れないなぁ。男子はだんまりだしぃ」

 

 そう言いながらリロードした楓は、スライドを引くと、装填確認を行った。

 

 銃を出そうとした楓は、牽制する様に放たれた射撃に委縮し、一度陰に隠れる。

 

「けーっ、熟練してんねえ!」

 

 マイクの電源を点けたまま、悪態をついた楓は、角から銃だけ出してのブラインドファイアで牽制すると、そのまま走り出る。

 

 獣の速力を生かし、一気に接近した楓は、.45ACP弾を回避。サイドステップから勢いをつけて斬りかかる。

 

 ナイフに直撃し、共振音を鳴り響かせた村雨丸を引いた楓は、Five-seveNを牽制に兵士を斬殺し、拳銃で止めを刺した。

 

「クリア」

 

 血振りし、村雨丸を収めた楓は、拳銃の残弾を確認してホルスターに納めた。

 

 ホルスターから固定音を鳴らした楓は、律儀に合流しに来たシグレに気付き、彼女に抱擁した。

 

「ちょっ、なっ、何なんですか!」

 

「ちゃんと私のとこに来てくれるのはもうシグちゃんだけだよぅ」

 

「何気持ち悪い事言ってるんですか!」

 

「ああ、うっすい胸板が愛おしい」

 

「蹴倒しますよ!?」

 

 貧乳を指摘され、激怒するシグレを抱き締める楓は、ニヤニヤ笑いながら戻って来た武に気付いた。

 

「あ、お帰り」

 

「ただいま。あんまり人様の彼女に手を出すなよぉ? 人間関係由来のドンパチは勘弁だからなぁ」

 

「分かってるよん、上も下もノータッチだから」

 

「なら良し」

 

「えへへ~、偉いでしょ」

 

 尻尾を振りながら笑う彼女に笑い返す武は、スリングで吊っていたM249を背中に回すと、ボロボロになった対弾シールドを投げ捨てた。

 

 術式強化の鋼板で出来ているそれは、落下したと同時にがらん、と間抜けな音を上げ、地面を転がる。

 

『のんびりするな、エリミネーター!』

 

 そう叫ぶ隼人の言葉に、反応した武は、自分と楓達の間に割って入ったAASに驚き、ホルスターからPx4を引き抜いた。

 

 軽機関銃を出しながら拳銃弾で行動を牽制した武は、対AASライフルが向いてくるのに気付いて、慌てて後ろへ飛ぶ。

 

「ってぇ!」

 

 衝撃波で片足を引かれた武は、バランスを崩して倒れ、仰向けにAASを捉える。

 

 止めを刺そうと銃を向けるAASに、機関銃を乱射した武は、衝撃で怯んだ機体へ銃弾を浴びせ続ける。

 

「楓! シグレ!」

 

 そう叫んだ武は、弾切れになったと同時に身体強化を入れて、AASを蹴り飛ばす。

 

 吹っ飛ぶ機体がよろけながら着地したと同時、楓が斬りかかり、背面の衝撃で前に吹き飛んだ。

 

「やっぱ固いね!」

 

 そう言って返す刀でバリアを撫で切った楓は、銃を向けようとするAASの銃身を蹴り飛ばすと、遅れて撃発した対物弾が宙を突っ走る。

 

 高周波機構を起動し、太いバレルごとライフルを切断した楓は、サイドアームの対物拳銃を引き抜こうとした機体に、二刀目を引き抜いて横に払う。

 

「ッ!」

 

 ウィーピングで回避したAASを蹴り飛ばす楓は、バランスを崩させようとしたが、カウンタースラストで復帰され、逆襲のナイフを回避する。

 

 肉厚のナイフが掠り、蹴り飛ばして距離を取った楓は、空いた間合いに構えられた拳銃を見て、真横に飛ぶ動きを取る。

 

「カバー!」

 

 トリガーに指をかける直前、9㎜弾を浴びせたシグレが飛び込み、ニーヴェルングで拳銃を切り裂いた。

 

 スライド機構を破壊し、鋼鉄製ブーツの硬さも加えた蹴り上げで、グリップも砕いたシグレは、G18を収めながらダッキングでナイフを回避。

 

「ダンシングリーパー!」

 

 そう叫びながら戦扇を引き抜き、展開したシグレは術式を纏う外縁を突き出し、バリアを切り裂く。

 

 バリアを崩された事に動揺するパイロットは、視界に飛び込んできたシグレの蹴り足を回避する。

 

「ッ!」

 

 顎を掠めた亜音速の蹴りは、脳を揺さぶるには十分な威力で、パイロットは脳震盪を起こす。

 

 白目を剥きかけ、機体のカウンターショックで強制復帰させられたパイロットは、両刀を交差させて構える楓が目に入った。

 

「スラッシュ」

 

 ハサミの様に刀を動かし、首を撥ねた楓は、宙を舞ったそれから散った血に嫌そうな顔をすると、転がった生首を蹴り転がした。

 

「おいおい、敵とは言えそんな扱いはねえだろ」

 

 嫌そうな顔で生首を拾い上げ、AASを擱座させた死体の近くに置いた武に、楓は小さく舌を出す。

 

 それを見て若干引いているシグレは、ハヤト、レンカと共に戻って来た俊に気付き、小さく尾を動かしながら近づく。

 

「お疲れ様です」

 

「ああ、シグは大丈夫か?」

 

「はい。ご心配なく」

 

 そう言って小さく笑ったシグレは、ラテラを纏う俊の無機質な鉄仮面を見上げる。

 

「仲の良い所悪いがすぐに撤収だ。ウィッチ(ミウ)の砲撃が来る。跡形もなく吹き飛ぶぞ」

 

「了解」

 

 肩を叩き、そう促した隼人に、槍を収めた俊は、頷いて撤収する。

 

 楓、武、シグレ、レンカもそれに追従し、リーヤ達が制圧、維持していた門へと走っていく。

 

「ウィッチ、砲撃準備は?」

 

『諸元入力は終わってる~。後は術式をぶっぱするだけ。あ、後ねぇ、フィアンマが新装備の実験したいらしいよ~?』

 

「今か?」

 

『うん、戦術級の術式砲だって』

 

「何だって良い、こっちが退避してからやってくれ」

 

 そう言って門を潜った隼人は、タイマーが起動したのを確認すると、安全圏目指して走る。

 

 門の外では、シルフィ達を保護していたシュウ達が待機しており、門から出てくる敵を警戒していた。

 

「逃げるぞ!」

 

 そう叫んでシュウ達の前に出た隼人は、大通りに立つ一機のAASに気付いて、隊列を止めた。

 

 長刀とM4パトリオットを手に、空を見上げていたその機体を睨み据えた隼人は、戸惑う俊達の方を振り返る。

 

「お前だけに用がある、イチジョウ隼人。お前の隊の作戦妨害はしない」

 

「感謝はしてやる。だが、何のつもりだ、桐嶋賢人。依頼人を裏切るなど、傭兵として、組織諸共食いはぐれるつもりか?」

 

「食いはぐれる、か。考えてなかったな」

 

 そう言って長刀を回した賢人に、残ったレンカ以外を先に行かせた隼人は、彼女共々困惑する。

 

「雇い主が連中だと知って気が変わった。俺は……いや、俺達は、俺達なりのやり方をさせてもらうとな」

 

 そう言って長刀を向けてきた賢人に身構えた二人は、苦笑を浮かべる彼に眉をひそめる。

 

「お前らは少々無謀だな。戦力差があると思わないのか?」

 

 そう言ってパトリオットを向けた賢人は、スラスター点火と同時に突撃していた隼人へ、銃撃を浴びせる。

 

 レンカの盾になる様に走る隼人は、距離を詰めると同時に殴り掛かる。

 

「速度が乗りすぎたな」

 

 そう言って脇を浅く切った賢人は、レンカの飛び蹴りを回避して蹴り飛ばす。

 

 隼人の方に飛ばされたレンカは、うまく着地すると、そのまま逃走する。

 

「何?」

 

 身体強化を入れ、隼人に追従したレンカを見て、眉をひそめた賢人は、基地に着弾した爆炎術式に気付き、爆風から顔を庇った。

 

 燃え盛る基地を前にため息を吐いた賢人は、ふわりと現れたホワイトに視線を流す。

 

「よく燃えてるわね。それで? あの子達は?」

 

「逃げられたよ。砲撃を予定していたらしい」

 

「あら、そう。大方あなたの予想通りなのね、賢人」

 

「ここまで当たるとは、自分でも驚きだ。それよりも、舞衣達は」

 

「奈津美達が新ヨーロッパの親父さんの所に預けに行ったわ。それと、渡米の手続きもね」

 

 爆撃される基地を見ながら、大鎌を肩に預けるホワイトは、下らなさそうに笑う賢人を流し見る。

 

「そうか、じゃあ撤収しよう。あいつらとはまた会えば良い」

 

「ええ、そうね。嫌な感じもするし」

 

「そうだな」

 

 そう言った賢人とホワイトは、光学迷彩で姿を消した。


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