僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第54話『道先案内』

 翌日、昼前に召集を受けた隼人達、ケリュケイオンとユニウスは机のパネルに表示されたエルフランドの地図を見た。

 

「ようし、全員揃ったな? そんじゃこれからミーティングを開始する。お姫様の居場所が分かったぞ」

 

「マジかよ兄貴!」

 

「と、言ってもはい救助、と言う訳にもいかねえんだなこれが。コイツを見ろ」

 

 そう言って画面の一角をダブルタップし、ズームさせたカズヒサは、覗き込む俊達を見回しながら話す。

 

「ジョルニエ要塞。元々エルフの連中が有していた要塞だが、開戦初期に地球軍が占拠。以降はオーク軍が監獄兼中衛拠点として使用していたようだな。

正規の出入り口は1か所。侵入口は正門に、ネズミ返しが付いた高い壁、肝心の要塞は岩の中だ。さて、お前さん方ならどうやって攻める?」

 

「侵入自体は易そうだな、城塞の崖下にサービスホールがある。ここから侵入し、牢獄の辺りでこれを使う」

 

「ん? 術符?」

 

「ああ、腐食術式を内包したナツキ製の術符。厚さ1mの岩壁まで対応できる。これで岩を腐敗させ、突き崩す。その間、俺達は上で暴れまわれば良い。

要塞奪還を計画している国連軍の手助けになるだろうし、注意も引けるだろう」

 

「上の対処に追われている隙に姫様たちはさようなら、と。良い作戦じゃねえか。んで? 決行は?」

 

「今日の21時。昨日から準備してれば、すぐに行ける」

 

 そう言って全員を見回した隼人は、彼らの目を見て頷くとカズヒサを見返す。

 

「よし、じゃあ準備しろ。決行時刻は遅らせない、良いな?」

 

 そう言って全員を見回したカズヒサは、解散した彼らに微笑みながら、その場を後にする。

 

 後を付いて行った隼人は、レンカと共に角に隠れる。

 

「それで? これで良いのか?」

 

「ああ、情報を流してくれてありがとう。カズヒサ・リベラ少佐」

 

「階級呼びは止めてくれんかね。ま、お前さんとはこれきりの付き合いだ。咎めても意味無いだろうけどな」

 

 カズヒサと相手の会話を聞いていた隼人は、聞き覚えのある相手の声に眉をひそめる。

 

「この声……」

 

 腰からナイフを引き抜いた隼人は、心配そうなレンカに待機を命じると、少しずつ近づいていく。

 

 見える位置まで動いた彼は、アクティブステルスでも使っているらしい相手が、ぼやけた輪郭だけで示されているのに、内心舌打ちする。

 

「にしても、一体何のつもりだ。お前さんが俺に情報を流すなんてな。味方を売る気か?」

 

「奴らは俺の味方ではない。信用のならない雇い主だ。それを裏切ろうがどうしようが、勝手だろう?」

 

「まあ良い、取り敢えず助かった。後は、二度と無い事を祈るかな」

 

「こちらも同感だ。それで、そこに隠している奴は誰だ?」

 

「あん?」

 

 首を傾げたカズヒサが振り向き、壁からわずかに顔を覗かせていた隼人と目が合う。

 

「ああ、お前のライバルだよ」

 

 そう言ったカズヒサは、驚いているらしい話し相手、賢人に苦笑する。

 

 その一言を受けた隼人は、口笛とハンドサインでレンカを呼ぶと、カズヒサの元へと動く。

 

「誰かに見られていたなら頃合いか」

 

「じゃあな、キーンエッジ。どこかでくたばりな」

 

「ふん、こちらのセリフだ」

 

 そう言って影は空へと消え、それを見上げた隼人は、レンカと共に武器を構えたまま歩み寄る。

 

「大隊長、何のつもりです。敵と取引など」

 

「おいおい、勘違いすんなよ。取引じゃねえ、向こうさんが勝手に押しかけて来たんだよ」

 

「桐嶋賢人が? 罠では?」

 

「それは俺も疑ったんだがな、奴さんそれも見越してきっちり航空写真やら証拠をきっちり用意してきやがった。

ありゃよっぽどだな」

 

「何のつもりだ、桐嶋賢人……」

 

 疑いの表情を浮かべ、空を見上げた隼人は、同様に頷くカズヒサが去るのを見送ると、自身も元来た道を引き返す。

 

「結局何だったのよ」

 

 トテトテと後ろをついてくるレンカが話しかけてくるのに、生返事した隼人は、ふくれっ面の彼女に小突かれる。

 

 ぺしぺし叩かれる隼人は、構って欲しそうなレンカに、ため息を吐いて頭を掴んだ。

 

「要塞の情報提供者が桐嶋賢人だったって事だ。まあ、罠では無さそうだからこのまま実行だ。変な事言うなよ?」

 

「分かってるわよ。そう言えば、最近ご無沙汰じゃない?」

 

「ご無沙汰も何も踏み越えてないだろうがボケナス。行きの道で投げ捨てるぞクソアマ」

 

「そうだとしてもキスすらやって無いじゃないのよ!」

 

「キスか……。お前ねちっこいからやりたくない」

 

「むぅ。じゃあ、何なら良いのよ!」

 

「何もするな」

 

 そう言ってそっぽを向く隼人は、よじ登ってきたレンカにため息を吐く。

 

 誘う様に胸を強く押し当てられつつ、歩く隼人は、不気味な笑いを漏らすレンカに辟易しつつ、武達と合流する。

 

「お帰り、どこ行ってたんだ?」

 

「ほら武ちゃん、男と女が野外でお散歩なんてアレしかないっしょぉ?」

 

「ああ、そう言う事か。何だよ水くせえな、俺達も誘えよ」

 

 そう言ってニタニタ笑う武と楓に、ため息を落とした隼人は、ノールックでナイフを投擲し、二人の間に割り込ませた。

 

 血の気を引かせる二人を睨んだ隼人は、地図を広げた机を囲み、苦笑するリーヤ達の方へ移動する。

 

「配置はどうなった?」

 

「チャーリーチームと和馬、美月が突入。後はかく乱だ。ミウには香美をつける。派手に砲撃してもらうさ」

 

「何だ? 花火大会でもやる気か?」

 

 そう言って笑う隼人に、苦笑したシュウは、狙撃ポイントを確認しているリーヤの方へ振り返る。

 

 二方を囲んでいる塀に、ポイントを設定している彼を見ていたシュウは、用意された狙撃銃を確認する。

 

「MSRか。中距離戦としては、微妙なチョイスだな」

 

「まあ、そんなに撃つ訳じゃないし、精度が欲しいからね」

 

 まじまじと見ているシュウに苦笑したリーヤは、マップデータのダウンロードを終える。

 

 端末をポケットに入れ、バックアップで用意していたショートバレルのACRを手に取って、稼働を確認する。

 

「よしよし、オッケー」

 

 そう言ってガンラックに立てかけたリーヤは、護身用のHK416Cを確認しているナツキに、目を向ける。

 

 問題ない、と笑顔交じりの視線で伝えてきた彼女に頷いたリーヤは、全員を集めつつある隼人に注意を向ける。

 

「全員、準備は良いか?」

 

 そう言った隼人はブリーフィングを開始した。


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