僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第51話『カタコンペ調査』

 出発から数分、タクティカルライト装備のベネリM4を構え、先頭を進む俊は、フレームと連動した携帯端末からドローンが取得した地形データを一瞥する。

 

 3階目に達するそこを歩く彼は、後ろでタクティカルライト装着のG18Cを構えるシグレとの距離を見る。

 

「ダンサー、レイダー達との距離、離れてないか?」

 

「離れてますね、待ちましょう」

 

「ああ」

 

 その場で立ち止まり、姿勢を落とした二人は、後ろから近づいてくるライトの明かりに前進のハンドサインを見せる。

 

 周囲を見回し、何も無い、と安心している二人は不意に響いた叫び声に銃口を上げる。

 

「今のは?!」

 

 立ち上がり、ベネリM4の銃口を上げた俊は、合流したシュウに自分が前進するサイン

を出すと、シグレと共に前を進む。

 

 角で立ち止まり、シグレとアイコンタクトした俊は、ライトに映った人影に銃口を向ける。

 

「Uuuuua!」

 

 唸り声をあげ、突っ込んできた陰に発砲した俊は、あたりに充満する紫色の煙に気付き、それに中てられて次々に起き上がる死体に銃口を向け、発砲する。

 

 銃声に気付いて顔を覗かせたシグレは、初めて見るアンデットに引き攣った声を上げる。

 

「ランサー、何やってる! って、こいつらは……」

 

「あ、アンデットですね。エルフランドのカタコンペにはよくいますよ」

 

「そんな風におっしゃられましても」

 

 そう言って、俊の援護に回ったシュウは、揃って震えているシグレとハナを見つける。

 

 こう言うのに弱いよな、と呆れた彼は、前進しようとしている彼に気付き、二人の元へと駆け寄る。

 

「ほら、行くぞ」

 

「え、あの中に突っ込むんですか!?」

 

「行かなきゃ持って帰れないだろうが」

 

「嫌です!」

 

「じゃあ、ここに置いていくぞ」

 

 そう言って立ち去ろうとしたシュウは、必死の形相で駆け寄ってきた二人に掴まれる。

 

「待って! 行かないで!」

 

「じゃあついて来い」

 

「やだ! やだ! ここにいる!」

 

「小学生かお前らは! ああ、もう俊行ってるぞ!」

 

「やだぁあああ」

 

 泣き出すハナに困り果てたシュウは、引き返してきた俊が泣きじゃくるレンカを抱え上げて突っ込んでいくのを追う。

 

 それを見て、あやすのが馬鹿らしくなってきたシュウは、ハナを抱え上げて走っていく。

 

「ランサー、襲ってくる奴は何割だ」

 

『2割。前世が悪人の奴が、って感じだな』

 

「なるほどな」

 

 そう言いながら走るシュウは、先行していた俊達と合流して階層を進んでいく。

 

 めちゃくちゃ泣いている二人の鳴き声が反響し、アンデットが出るエリアを抜けようと最小限の射撃で迎撃して走るシュウ達は、アンデットの姿の無いエリアに二人を下ろして迎撃射撃をする。

 

 走り難そうなシルフィ達二人を庇いながらエリアに引き込んだ俊は、肩で息をしている二人に休憩を告げ、アンデット達の動向を確認していた。

 

「ここまでで半分くらいか。案外早く回収できそうですね」

 

「はい……ですが、この先はかなり危険なエリアの筈です」

 

「危険、とは?」

 

「墓ですからスカヴェンジャーがいるはずです」

 

「こんな奥深くに?」

 

「前に確認されたのが奥でしたから」

 

「アバウトですね」

 

 そう言いながら残弾確認を終えたシュウは、泣きゲロを吐いているハナの背をさする。

 

 哀愁漂うやり取りを他所に、膝を笑わせているシグレの強がりに付き合わされている俊は、ため息を吐きながらショットシェルを込める。

 

「はいはい、怖がってない怖がってない」

 

「ほ、本気にしてませんね!? あ、アンデットとか、怖がってないんですから!」

 

「分かった分かった」

 

 そう言いながらショットシェルを装填し、レバーを半分引いてチャンバー内部を見た俊は、装填を確認して閉じた。

 

 角から様子を窺った俊は、センサー代わりに装着していたコンバットバイザーの情報を更新する。

 

「そろそろ動くか」

 

 そう言うシュウに頷いた俊は、センサーとサイトを再同期させつつ前に出る。

 

 角まで移動した彼は、後ろにハンドサインを出して前進する。

 

チェックコーナー(角に注意)

 

 T字路でクリアリングしつつ前進する俊達は、唸り声が聞こえると同時に壁に隠れる。

 

 小さく悲鳴を上げたシグレとハナは、睨む暇もなく前を見ている彼らに息を呑む。

 

「スカヴェンジャーですか?」

 

「はい、この鳴き声は。力が強いのでなるべく交戦は避けた方が」

 

「一旦、曲がり角まで下がりましょう」

 

 そう言って王女達女子陣を先に下がらせたシュウは、殿を俊に任せつつ彼のカバーをする。

 

 交戦する事無く下がった彼らは、道幅の狭いそこを通りながら聖槍の間を目指す。

 

「データリンク強度低下。上との通信が安定しなくなってくるよ」

 

「了解。あまり通信しないが、それでもと言う事はあるからな」

 

「中継ドローン、出しておく?」

 

「いや、叩き落とされる心配がある。無暗に飛ばす必要はないだろう」

 

 そう言って周囲を見回したシュウは、震えが収まってきたハナに安心するとまた陣形を整えて歩き出す。

 

 それから十数分、複雑な迷路の様なカタコンペを歩いた六人は、運良くスカヴェンジャーに遭わずに目的地へとたどり着いた。

 

「到着です。ここが、ロンゴミアントが保管されている部屋です」

 

「うわぁ、並々ならぬ瘴気を感じます……」

 

「ええ、呪われてますから」

 

「えぇ……」

 

「大丈夫ですよ。即死の類ではありませんから」

 

 そう言って前に進むシルフィに恐る恐る付いて行ったシグレは、歩みが極端に遅くなったシュウと俊に気付いた。

 

「二人共、大丈夫ですか?」

 

 そう言って歩み寄るシグレは、変な汗を掻きだした二人をハナと共に先導する。

 

 時折、膝から崩れ落ちそうになる二人を支えようとした彼女らは、触れた瞬間に痛がった彼らに驚いた。

 

「ど、どうしたの?」

 

「いや、大丈夫。あ、悪い、あんまり触らないでくれるか?」

 

「え、あ……うん」

 

 そう言って一歩離れたハナは、真っ先に魔力汚染を思い出し、メディックバッグから二人分の中和アンプルを取り出した。

 

「二人共動かないで。中和用のアンプル打つよ」

 

 そう言って首筋にアンプルを刺したハナは、顔をしかめた二人から苦悶が抜けていくのを見てほっと一息ついた。

 

 マシな程度に中和された魔力に、深い息を吐きながら起き上がった二人は、手持ちのタクティカルライトで周囲を照らす。

 

「随分と埃っぽい所だな」

 

「数世紀ほど放置されてるそうですので……」

 

「手入れが成されてないせいで装飾の柱もボロボロだな」

 

 そう言って、崩落している柱を見たシュウは、奥にある台座へ向かうシルフィの後を追う。

 

「目的の物はこちらです」

 

「これが……聖槍。にしてはもの凄く―――」

 

「風化してしまってますね」

 

 台座に押されている一本の槍は、豪奢さや尊厳も感じられないほどに風化しており、表面に錆を浮かせていた。

 

「長期放置の弊害か。まあ、どうなってるかは回収してから確かめよう。俊、コンテナを」

 

「了解」

 

 シュウの指示で背面ユニットに引っかけていた折り畳み式のコンテナを下ろした俊は、恭しく手に取ったシルフィから槍を受け取る。

 

 その瞬間、体に電流が走った様な錯覚を覚えた。

 

「ッ!?」

 

 焼けつく様な痛みに手放してしまった俊は、空虚な音を立てて落下した槍を見下ろす。

 

 グローブ越しに痛みを感じた俊は、慌てて回収しているシグレを他所にオープンフィンガータイプのそれを外す。

 

「痛ッ」

 

 布地に張り付いた酷い火傷の跡が露出し、その場にいた全員が目を見開く。

 

「しゅ、俊君どうしたのその火傷!?」

 

「分からない、けど多分……その槍を持った時に、付いたと思う」

 

「槍……? これを持った時に、ですか?」

 

 そう言って両手に持った槍を見せたシグレは、槍に呼応する様に、俊の右目がうっすらと金色に染まっているのを見た。

 

「シグ?」

 

 見つめられている事に耐えられずそう呼びかけた俊は、慌ててしまう彼女に苦笑する。

 

 自動閉鎖式のコンテナが槍を包み込むと同時、カタコンペが軽く揺れた。

 

「地震?!」

 

 慌てるハナに冷静な俊は首を横に振る。

 

「だったらこんな小さくねえよ」

 

「だとすれば……」

 

「爆発、だな。急ごう」

 

 そう言ってコンテナを背負った俊は、背中から走った刺激に思わず足が止まった。

 

「俊君?」

 

 G18Cを手に振り返ったシグレは、固まっている俊に呼びかける。

 

「えっ? あ、いや。何でもない」

 

 ベネリを手に、首を振った俊は、彼女を追って保管庫を後にした。


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