僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第49話『キャメロット防衛戦2』

 あの後、市街地に落下していた二人は、美沙里と格闘戦を繰り広げながらテントの方へ逃げようとしていた。

 

「止めろ、ミサ! カナちゃんも!」

 

「今更止めれる訳無いでしょ!? 家族を奪っておいて、自分だけ幸せになってるくせに!」

 

「ミサ!」

 

「うるさい!」

 

「くっ!」

 

 回し蹴りで吹き飛ばされた浩太郎は、ブーストで迫る美沙里と迫り合いを繰り広げ、パワー負けしていた。

 

 そんな彼から彼女を離そうとククリナイフを投げつけたカナは、弾丸の如き威力で、吹き飛ばしたそれを牽制に迫った。

 

「邪魔しないでよ! 関係の無い奴は!」

 

「私は浩太郎の許嫁だ! 私が彼を守る!」

 

「ッ! 忌々しいッ!」

 

 長剣で斧を弾いた美沙里は、カナの首を取ろうとするがそれよりも早く放たれた電撃で弾かれた。

 

「触れるな!」

 

 今まで以上に殺意の強いカナに、驚いている浩太郎は、斬りかかってくるミサを蹴り飛ばす。

 

 壁に叩きつけられた美沙里は、追撃の横薙ぎを回避すると、足の腱を狙ってスリーブブレードを繰り出す。

 

 が、数発の弾丸が直撃し、ブレードの軌道が逸れる。

 

「くっ!」

 

「君を傷つけたくはないけど……でも、俺は!」

 

「だったら死ね!」

 

 そう叫び、対物ダーツを投擲した美沙里だったが、『Mk23』自動拳銃と電撃に迎撃され、空中で爆散する。

 

 あまりの精度に驚愕した美沙里は、バチバチとスパークを散らす空間に気付き、真横を振り返った。

 

グローム・ストリェラー(雷の矢)

 

 合わさった斧の背からスパークが散り、直後、雷の矢がミサに直撃する。

 

 バリアで防がれたそれに吹き飛ばされた美沙里は、雷を散らし、歩み寄ってくるカナに心拍数を上げる。

 

「あなたは殺さない。けど、殺せない様にはする」

 

 そう言って歩み寄るカナに、長剣を握り締めた美沙里は、止めに入った浩太郎に張りつめていた緊張の糸が切れた。

 

「アンタだけはぁああああ!」

 

 錯乱し、斬りかかった美沙里は、カナを庇おうと背を向ける浩太郎に笑みをこぼす。

 

 その体勢であれば、殺せる。

 

「死ねよお兄ちゃぁあああんッ!」

 

 長剣を振り下ろし、浩太郎の体を袈裟に切り裂く。

 

 その筈だった。

 

「……えっ?」

 

 剣が切り裂いたのは、カナの背中。抉るだけの傷を負わせたそれは、自失した美沙里に呼応して高周波を停止する。

 

 傷口から散った鮮血が彼女が倒れた石畳の道路に散り、どくどくと池を広げる。

 

「どう、して……。何で、庇うの……?」

 

「だって、私の……家族、だから」

 

「かぞ、く……」

 

 剣を取り落とし、膝を突いた美沙里に力無く笑ったカナは、尻もちをつき、目の前の事実を受け入れられずにいる浩太郎に手を伸ばす。

 

 その手を見て、ようやく事実を認めた浩太郎は、彼女の手を掴む。

 

「カナちゃん!」

 

「えへ……浩太郎、生きてる?」

 

「あ、ああ。大丈夫」

 

「良かった……」

 

「カナちゃん、カナちゃん! 起きてくれ、死なないでくれ!」

 

 泣き叫び、体を抱え上げた浩太郎は、足を震わせながら立ち上がった美沙里に気付く。

 

「ミサ、どうしてだ。どうしてカナちゃんを!」

 

「あ、アンタが悪いのよ……。アンタがその人を巻き込んだから! 私は悪くない! アンタが悪いのよ! 人並みの幸せなんか、得ようとするから!」

 

 そう言って拳銃を引き抜く美沙里を睨む浩太郎は、震える手で拳銃を掴む。

 

「アンタだけ死ねば良かったのよ、アンタだけが戦場にいれば良かったのよ! 私は無関係な人間を巻き込む気は無かったのに!」

 

 激高し、射撃しようとしたミサは、拳銃に正確な飛び蹴りを打ち込んだ隼人に退きつつ、ナイフを引き抜いた。

 

「ファントム、リーパーを連れて退け! ヴァンガード、ダンサーはプリンセスに任せてこっちでカバーを頼む」

 

『え、何? カナどうかしたの!?』

 

「背中を切られて重傷だ! 良いから来い!」

 

 怒号を発しながらナイフをフレームで弾いた隼人は、亜音速のジャブで牽制する。

 

 バリアに直撃したそれが過負荷を与え、美沙里に警告を与える。

 

「構わないでよ! 私は、お兄ちゃんにだけ用があるから!」

 

「お前は浩太郎を殺すんだろう!? 尚更、放ってはおけん!」

 

 そう言ってストレートで吹き飛ばした隼人は、地面を削りながら下がった美沙里に構えを直す。

 

「皆、どうして、あんな奴を庇うの!?」

 

「昔がどうであれ、今のアイツは俺の仲間だ。見捨てる道理が無い」

 

 挑みかかる美沙里に、息を吐きながら無手を構えた隼人は、突き出されたナイフを受け流し、脇を打撃した。

 

 バリアで防がれたそれだったが、許容量を超えた衝撃が貫通し、肝臓打ちをされた美沙里は意識を失いかける。

 

「お前が引くなら、追撃はしない。お前の始末は、あいつが付けるべきだからな。だが、退かないならば、殺す」

 

 そう言って睨んだ隼人に、気圧された美沙里は一歩後退る。

 

 悩むその間にレンカが合流する。

 

「ストライカー!」

 

「ヴァンガード、リーパーの容体は?」

 

「分からない。送りはしたけど。今手当受けてる」

 

「そうか、分かった」

 

「それで、その子がリーパーをやった訳?」

 

 そう言って薙刀の切っ先を向けるレンカを制止した隼人は、即射位置に構えたままの彼女を待機させる。

 

「さあ、どうする」

 

「くっ……」

 

 隼人が一歩を踏んだ瞬間、上空からレーザーが降り注ぎ、レンカを抱えて退いた彼は、煙を裂いた黒い機影からの砲撃を回避する。

 

 喰らった覚えのある攻撃に、顔を上げた隼人とレンカは美沙里を庇う賢人と目が合う。

 

「その子の部隊長はアンタだったか、桐嶋賢人」

 

「ああ、成り行きでな。それよりも俺達に構っていて良いのか? 避難所の前にオークが来ているぞ」

 

「な……?!」

 

「ここは見逃してやる。俺達の撤退を見逃せばの話だが」

 

「分かった。退くぞ、ヴァンガード」

 

 そう言って引き返した隼人に、ニヤリと笑った賢人は暴れる美沙里に銃口を向ける。

 

「頭を冷やせ、ミサ。今日は引く」

 

 そう言った賢人は、興奮している美沙里を撫でると抱え上げて撤退した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 あまりの猛攻に防衛ラインを突破されていた俊達は、避難所の入り口ギリギリで持ち応えていた。

 

「クソが、何なんだよこの数は!」

 

 ゴブリンとオークをまとめて切り裂いた和馬が叫ぶ。

 

「シュウ達ゃこっち来れねえのかよ!」

 

「向こうも足止めされてるのよ!? 来れる訳無いでしょうが!」

 

「こんな時に限って、畜生!」

 

 そう言ってP90をばら撒く和馬は、迫りくるゴブリンやオークの群れの中で大柄なオーガがいる事に気付いた。

 

 石畳にひびを入れながら歩み寄ってくるそれに、頬を引きつらせた和馬は、味方を踏みつぶしながら迫るそれに雷撃を放つ。

 

《警告:魔力残量:低下》

 

 魔力槽の容量を減らした雷切からの警告文を見た和馬は、眼前に迫ったオーガの一撃をパーリングした。

 

 そのまま距離を取り、武器を構えた和馬は、リチャージングから雷切へ魔力を供給する。

 

「人間どもがエルフの盾か。こいつは滑稽だ」

 

「笑いたきゃ笑ってろ。種族を理由に、無抵抗の連中が虐殺されんのはこちとら後免なんでね」

 

「ふん、このワシを前にしてもなお怖気づかんか。肝の座った戦士共だ。殺し甲斐がある」

 

 豪快に笑うオーガに、切っ先を向けた和馬は美月と俊と共に挑みかかった。

 

「ワシの名はヘジン! 高潔なるオーガ族の老戦士よ! 貴様も名を名乗れ、剣士」

 

「コールサイン、ナイト。そうとだけ名乗っておくぜ、爺さん」

 

「ほう、騎士か。偽名にしても、ひねりが無いな」

 

 そう言って笑うオーガ、ヘジンが一歩を踏み、和馬との距離を詰める。

 

「高潔ついでに聞いておくぜ爺さん。エルフを狙わないって事は出来ねえのか?」

 

「エルフ狩りは我が種族の伝統。止める事など出来ぬわ!」

 

「そうかい。じゃあ、仕方ねえ。狩られても文句言うなよ!」

 

 そう言って斬りかかった和馬は、ヘジンの大剣と打ち合い、鍔迫り合いを繰り広げる。

 

 激しい体格差故に圧倒された和馬は、まるで片手剣の様に振り回される大剣に吹き飛ばされ、コンテナに突っ込む。

 

「ナイト!」

 

 ヘヴィライフルでオークを始末しつつ、駆け寄った美月は、重厚な足音を上げて迫るヘジンに腰の刀を抜刀する。

 

 居合いで振り下ろしにカウンターを入れた美月は、避難所に殺到するオークに気付き、落としたヘヴィライフルを拾い上げた。

 

「よそ見をするか女剣士!」

 

 そう言って大剣を振り下ろそうとするヘジンに、ロールで潜り抜けた美月はセミオートで排除できるだけのオークを射殺する。

 

 側面からの射撃にオークも反撃を試みたが、俊の乱入と内部からの思わぬ反撃で瓦解させられていた。

 

「無事な者はなるべく奥へ! 女子どもを庇う様に!」

 

 HK416Cを手にそう指示したシルフィは、無断借用したM4を手繰る侍女と共にオークを迎撃していた。

 

 オークの目を撃ち抜き、脳漿を吹き飛ばした彼女は、入り口で詰まっている彼らを次々に射撃していく。

 

「直ちに退きなさいオーク達! これ以上犠牲を出したくはないでしょう!?」

 

「うるせえ! お前を獲れば俺達は平和なんだよぉ!」

 

 腰から鉈を引き抜き、シルフィに挑みかかるオークに歯を噛んだ彼女は咄嗟に銃口を上げる。

 

 だが、トリガーを引いて間に合う距離ではなく、無駄だと分かっていても引きの動きを取っていた。

 

 振り下ろされるよりも早く、オークの喉笛に刃が突き立てられ、獣の様な唸り声を上げたシグレが手にしたニーヴェルングを血で染める。

 

「大丈夫ですか、王女様……」

 

「シグレさん……大丈夫なのですか?」

 

「はい……。まだちょっと、怖いですけど、何とか」

 

 足を震わせるシグレを見て眉をひそめたシルフィは、シグレを押し倒し、オークへ発砲。

 

 まだ恐怖心が残っているシグレが身を竦ませるのも構わず、排除を優先したシルフィは手足を震わせる彼女の手を引いて、背中へ隠した。

 

「無理はなさらず」

 

 そう言ってオークに向けてセミオートの射撃を撃ち込んだシルフィは、PMAGを排除し、リロードすると侵攻が止まった事に安堵してその場にへたり込んだ。

 

 鈍い汗をかき、避難所に立ち込める死臭に吐き気を催した彼女は、壁を突き破ってきた俊に目を見開く。

 

「シュンさん!」

 

 もたつきながらシグレと共に駆け寄ったシルフィは、P90を発砲する彼に投げつけられた斧に足が止まった。

 

 弾かれ、ベットをなぎ倒したそれを流し見たシルフィは、薄暗い外に走る火花に気付いた。

 

「俺の事は良いから! 早く中へ!」

 

 そう言ってシルフィを押した俊は、背中に叩きつけられたライフル弾に倒れ込んだ。

 

「見つけたぞ、エルフの王女!」

 

 叫び、ストックを折り畳んだAKS-74U(クリンコフ)を照準したヘジンからシルフィを庇った俊は、あちこちに跳弾する弾丸に冷や汗を掻いていた。

 

 マガジンいっぱいまで撃ち尽くしたヘジンは、立ち上がった俊に挑みかかる。

 

「そこを退け、槍兵!」

 

 外殻をつけた龍翔と斬り結んだ大剣を押し込み、ヘジンは避難所に到達する。

 

 侍女とシグレに庇われ、後退るシルフィを見つけたヘジンが破顔し、俊を圧倒して弾き飛ばす。

 

「がっ……」

 

 ベットを薙ぎ倒し、沈黙した俊を振り返った三人は見る者を圧倒する老オーガを前に、気圧されていた。

 

 もう助けてくれる人はいない、そう理解した瞬間、味わった事のない絶望がシルフィを襲った。

 

「こちらに来るがいい、王女よ」

 

 そう言って巌のごとき手を広げたヘジンに、一歩を踏もうとした彼女は老オーガの体ががくんと揺れたのに気付いた。

 

 遅れて咆哮が轟き、激痛を訴えるその声に顔を上げたシルフィは、ヘジンの両胸を貫く二本の刃に気付いた。

 

「いい加減に!」

 

「くたばりやがれ!」

 

 得物を突き刺していた美月と和馬は、お互い持てるだけの武装を叩きこみ、大量の傷口を生み出す。

 

 振り落とそうと暴れるヘジンは、遅れて合流してきた隼人とレンカの蹴りを顎に喰らい、脳震盪を起こす。

 

 その間にサイドアームの短刀を引き抜いていた美月は、ヘジンの脳天へ刃を突き立てると全体重をかけて押し込んだ。

 

 白目を剥き、体液を垂れ流したヘジンが倒れ、ダラダラと流れたそれが床を濡らし、ようやく死んだと実感を沸かせた。

 

「クソッタレ、てこずらされたぜ……」

 

「ええ。ソーサラーも、もう限界よ……。そうだ、俊は!?」

 

「あ、忘れてた。生きてっかー?」

 

 そう言って俊がいた場所まで歩いていく和馬と美月は、モーターの軋みを上げながら起き上がる俊に揃って安堵した。

 

「無事だったのね」

 

「ラテラのお陰でな……」

 

「でももうボロボロね」

 

「何十発に喰らえばそりゃぶっ壊れもするさ。良く持ったよ」

 

「ええ。外も落ち着いたみたいね」

 

 そう言って死体を引きずり、外へ出た美月は警告を発するソーサラーに眉をひそめつつ、降りてきたシュウ達と合流した。

 

 無数の弾痕が刻まれたチェーロV2の装甲に、気付いた美月は、頭部装甲を脱ぎ捨てたシュウの肩を叩いて労った。

 

「お疲れ様」

 

「全くだ。早く寝たいものだ」

 

 苦笑する美月を他所に、ふらふらと歩いていくシュウはコンテナ群の所まで移動すると装甲を解除する。

 

 夜が明けつつあり、大きくあくびをしたシュウは、眠い目をこすりながら歩いてきたハナに気付く。

 

「スト……ハヤト君がしばらくしたら出るから寝て良いって」

 

「人使いの荒い奴だ……。まあ良い、そこら辺で寝るか」

 

 そう言って階段に座り、教会の壁にもたれかかったシュウは、体の間に潜り込んできたハナに半目を向ける。

 

「寝かせてくれ……」

 

「一緒に寝よ?」

 

「好きにしてくれ……」

 

 目を閉じるシュウは、首元に来た頭を抱き締めると数分も立たないうちに眠った。


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