僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

104 / 113
第48話『キャメロット防衛戦1』

 一方その頃、銃が撃てない隼人と共に門の方で待機していた俊は、借用した『レミントン・M870』の装弾数を確認していた。

 

「思っていたより来るのが早い!」

 

 リムケースの固定を確かめている対岸で、センサーからの情報を確認している隼人は、戦闘管制に入ったナツキ、ハナ、香美の3人に情報提供を要請する。

 

 その間にも接近しているオーク達は城壁に向けてライフル弾を放ち、弾痕を穿っていく。

 

『くそ、攻撃が激しい!』

 

 通信機をがなり立てる着弾音を背景に、そう叫ぶシュウの声を聴いた俊は手にしたM870を持って移動しようとする。

 

「待て、俊。どこに行く気だ」

 

「どこって援護に」

 

「上に上がった所でライフルの距離じゃないだろうが。やるなら下でやれ」

 

「分かった」

 

「俺達は上陸された時の保険だ、そこの所を忘れるなよ」

 

 そう言った隼人に頷いた俊はガンポートからショットガンを放つ。

 

 射撃を続ける背中を見ていた隼人は、レンカにチャンネルを切り替え、通信する。

 

「ストライカーよりヴァンガード。ダンサーの様子はどうだ」

 

『こちらヴァンガード、ダンサーだけどまだ少し動揺してるみたい』

 

「分かった。避難所からは出すな。場合によっては王女殿下にも助けてもらえ」

 

 そう言って通信を切った隼人は、俊の近くにあった壁がRPGの直撃で吹き飛んだのを見た。

 

 崩落こそしなかった物の、人が屈んで通れるだけの穴が開き、そこからゴブリンが侵入しようとしていた。

 

「くそぉお!」

 

 質量圧縮の術式弾を装填したショットガンで吹き飛ばす俊は、支援に来たSASと共にゴブリンを排除する。

 

 カスタムM4を単発発砲し、正中線を的確に穿つ隊員は、堀の対岸で『M72 LAW』を構えるゴブリンに気付いた。

 

「RPG!」

 

 叫んだ直後、着弾し、民家の壁を吹き飛ばしたそれの余波を受けた隊員は、咳き込みながら射殺する。

 

 対岸から走る発砲炎と、弾丸に足止めを受けたSASと俊は、その間に再装填を行う。

 

「クソッ、何だってんだこんな真夜中に」

 

「真夜中だからだ、ジャック。ぼやかないで持ち場を守れ!」

 

「了解!」

 

 単発連射で、仕留めていく隊員は俊と場所を入れ代わる。

 

 ポンプアクションをしながら背中を守り、門の方を見た俊は、隼人の姿が無い事に気付いた。

 

「すいません、ここ頼みます!」

 

「え? お、おい! 坊主!」

 

 隊員の一人が慌てて止めるのも聞かず、隼人がいた方へ走った俊は、民家の壁を突き破った彼に気付き、慌ててカバーに入る。

 

 民家の向こうに立ち込めた白煙から翼の生えた人影が見えた瞬間、銃口を上げた。

 

「撃て!」

 

 隼人の号令に応じて射撃した俊は、バリアの表面に着弾して火花を散らしたそれに目を見開いた。

 

 直接効果無しと判断した俊は、術式弾を連射し、足止めしながら隼人を起こす。

 

「退け、ランサー! それ以上相手にするな!」

 

「へっ!?」

 

 隼人の方を振り返った俊は、バリアで防いでいたらしいヴァイスの強襲で殴り飛ばされ、木箱を薙ぎ倒す。

 

 衝撃でM870を取り落とし、P90とスラッグガンを発砲した俊は、目の前から消えたヴァイスに驚愕した。

 

「どこ行った!?」

 

「離脱しろ、ここは俺がやる!」

 

「お前ボロボロじゃねえか! 置いて行けるか!」

 

 そう言って槍を引き抜いた直後、俊は吹き飛ばされ、それを見てニヤリと笑ったヴァイスは、ボロボロの装甲を身に着けたまま立ち上がった隼人と目が合う。

 

 バンカーとブラストランチャー以外、武装を失っている隼人に、鎌を向ける。

 

「ボロボロねぇ。まともに動けてるのが奇跡って感じ?」

 

 そう言って笑ったヴァイスに、拳を構えた隼人は、警告を発するウィンドウを見ると殆ど危険な状態の機体を見た。

 

 内部の機構は殆ど破損しており、スラスターのレスポンス、出力は5割未満、パワーアシストの出力も3割しか発揮できない状況だった。

 

「舐められたものねぇ」

 

 スラスターでもある羽根が起き、直後、加速したヴァイスの一撃を展開したバンカーで受け止める。

 

 数秒も持たずに圧倒され、そのまま引きずられた隼人は、膝のバヨネットを展開して膝蹴りを繰り出すが、回避され、反撃の踵落としが繰り出される。

 

「ッ!」

 

 慌てて引いた隼人は、バチバチとスパーク音を上げる関節に舌打ちする。

 

 過負荷で漏電し始めている間接モーターから警告が鳴り響き、動きが若干鈍った。

 

「大人しく死んだらどうかしら?」

 

「クソッ」

 

 薙鎌にした大鎌を振り上げたヴァイスに、歯を噛んだ隼人は、横から割り込んできた俊に目を見開いた。

 

 槍の一撃をバックラーで受け止めたヴァイスは、肩で息をしている俊にくすくす笑う。

 

「震えてるわねぇ。素人かしら?」

 

「ストライカーが動けねえんだ、俺がやらなきゃな!」

 

「蛮勇って言うのよ、そう言うの!」

 

 そう言って斬りかかったヴァイスに、槍を突き出した俊は、一撃を牽制して横薙ぎを放った。

 

 柄同士が激突し、一瞬迫り合いを繰り広げた二人は、お互いの援軍によって押し返し、距離を取った。

 

「暇だから加勢に来たぜ、ランサー」

 

 そう言って刀を構えた和馬に、頷いた俊は、後ろで隼人を庇う美月に気付いた。

 

「援護と隼人は任せて。暴れて来なさいな」

 

 突撃する俊にそう言ってACOGスコープを乗せたヘヴィライフルを構えた美月は、空中浮遊している賢人達に向けて単発射撃を繰り出す。

 

 銃撃に反応して散開した賢人達は、ヴァイスに挑みかかる俊達へ射撃を開始する。

 

「エイル、射撃してくる奴を頼む。ゲイルドリヴル、お前はサングリズルの援護だ。攻撃を分断しろ」

 

 そう言いながら美月にパトリオットを放つ賢人は、ビームマシンガンをバリアに浴びせる奈津美に射撃を任せる。

 

 どこからともなく取り出した『ダネル・MGL140』からフラッシュ、テーザー、スモークの三種のグレネードを放つ。

 

「これでしばらく動けないだろう」

 

「大分、えげつないね」

 

「死なないだけましだ」

 

 そう言いながら弾種を変更している賢人は、ブラックの相手をしている俊に向けて発砲する。

 

 爆発で姿勢を崩された俊は、賢人と奈津美にも発砲すると降下してきた彼と斬り結ぶ。

 

「お前、新横須賀の……!」

 

 そう叫んだ俊は、賢人を圧倒すると、槍の切っ先を突き出す。

 

 スラスターの勢いも加えた槍をのけ反って回避した賢人は、MGL140を手放し、パトリオットを引き抜くと俊の左足目がけて連射した。

 

「ぐっ!?」

 

 足を正確に穿たれて膝を突いた俊は、空中から降下してきた奈津美に蹴り飛ばされる。

 

 5tの質量が顔面に激突し、一瞬気を失いかけた俊はカウンターショックで復帰するも、地面を滑った。

 

「クソッ、ソーサラー!」

 

 叫び、センサー情報を送った俊は視界が塞がっている筈の美月に煙の中から射撃をさせる。

 

 賢人を庇い、斜めに傾けたシールドで防いだ奈津美は、バリアに向けてビームマシンガンを放射する。

 

「止めろ!」

 

 飛びかかる俊は、横薙ぎを奈津美に直撃させるが、重量級の体を吹き飛ばすには至らず、スラッグガンで追撃を加えた。

 

 バックステップし、シールドからマチェットを引き抜いた奈津美は、トリガーを引いて高周波機構を起動する。

 

「何が目的だアンタら!」

 

 そう言って突きを繰り出した俊は、シールドで受け止められたそれを引き戻して賢人の一閃を受け流す。

 

 牽制で5.7mmをばら撒いた俊は、同時に斬りかかってきた二人を受け止める。

 

「王女殿下の暗殺。と言いたいが、今はまだ殺しはしない」

 

「じゃあ、どうして!」

 

「護衛の様子見と、野暮用だ!」

 

 そう言って圧倒した二人に、吹き飛ばされた俊は、スラスターで堪えるとそのままサイドステップでその場を逃れる。

 

 シールドを構えて突っ込んできた奈津美に側転で回避した俊は、賢人の跳び蹴りを食らう。

 

「がっ……」

 

 足裏に挟み込まれ、壁に叩きつけられた俊は、槍を手放し、バックラーからマチェットを引き抜いて斬り上げる。

 

 サマーソルトで回避した賢人は、素人じみた軌道を見て取ると、横から割り込んだ奈津美に弾かせる。

 

「しまった!」

 

 サイドアームを弾かれた俊は、奈津美の振り下ろしを受け止めるが側面から脇を蹴って来た賢人に再び壁に叩きつけられる。

 

 力が緩むと奈津美の振り下ろしを肩に受けて崩れ落ち、叩きつけの後に、掴み取った槍で反撃する。

 

「無駄な事を!」

 

 シールドで防がれ、殴られた俊は避難所の方まで吹き飛ばされる。

 

 並べられた物資コンテナを薙ぎ倒し、槍を手放していた俊は、弾切れになるまでP90とスラッグガンを放つ。

 

「クソがァああ!」

 

 『EMPUTY』の表示を見た俊はリロードするよりも前に殴りかかり、敢え無く受け流される。

 

 地面を転がった俊は、入れ替わる様に跳躍してきた美月が二人を相手に戦うのを見た。

 

「槍を取りに行きなさい、俊!」

 

「お前援護じゃないのかよ!」

 

「これも援護よ!」

 

 シールドへ一撃入れた美月に笑いながら槍を取った俊は、彼女と連携して賢人達に挑む。

 

 が、彼らにとっては取るに足らないらしく、攻撃は殆ど受け流され、有効打を与えられずにいた。

 

「シュンさん!」

 

 通信で苦戦を聞いていたらしいシルフィがHK416Cを手に飛び出してくる。

 

「駄目だ! 王女陛下!」

 

 吹き飛ばされた先で叫んだ俊は、引き抜いたパトリオットを向けた賢人に槍を投擲する。

 

 敢え無く弾かれたそれだったがその間に復旧した隼人が回収し、賢人へ殴りかかる。

 

「クソッ」

 

 関節部の不調から動作が鈍り、一撃は外してしまう。

 

 隙を晒す隼人へ、銃口を向けた賢人に違和感を覚えていた美月は、腰からXM92を引き抜いて発砲する。

 

「ふっ、目的は果たした。セルブレイド、撤収だ。ミサだけ置いていく」

 

 スモークグレネードをばら撒き、撤収した賢人達に舌打ちした隼人は、シルフィの方へ駆け寄っていく俊達を振り返る。

 

「早く避難所へ戻って、早く! オークやゴブはあなたを狙ってます」

 

「なおさらここへはいられ―――」

 

「見せしめに民間人を殺されるのをお望みですか!?」

 

 シルフィを押し戻す美月をカバーしていた俊と和馬は、RPGの直撃で粉砕された北門に気付いた。

 

「お、おいおい。やばくねえか門ぶち抜かれたぞ!?」

 

「間違いなく、ここに来るわね。死守するわよ!」

 

「おう!」

 

 そう答えた和馬は、前線へ走っていく。

 

 それを見送った美月は、ヘヴィライフルを取り出すと、唇を噛んでいるシルフィの方を振り返る。

 

「恐らく、ここを守るには人手が足りません。王女殿下、手伝っていただけませんか」

 

「それは……!」

 

「ただし、あなただけで戦わないで下さい。レンカでも、シグでも、誰でも構いません。一人で戦わない様に」

 

「分かりました。ミヅキさん」

 

「では、お願いします」

 

 そう言って和馬の後を追っていった美月は、シルフィに背を向け、俊の肩を叩きながら走っていく。

 

 シルフィの方へ走って行った俊は、侍女と合流する彼女の手を掴んだ。

 

「殿下、無理をしない様に」

 

 そう言って、走って行った俊は、装甲を外し、別方向へ走る隼人に気付いた。

 

「お、おい。ストライカー!?」

 

 そう言う俊は、北門で始まった戦闘に意識を戻し、走って行った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。