僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第47話『ホントのコト』

 深夜、ボロボロのアーマチュラを纏い、チーム交代で見回りに出ていた隼人は、大戦斧を背負ったカナが歩み寄ってくるのに気付いた。

 

「どうした、カナ。持ち場はここじゃないだろ」

 

「知ってる。ちょっとだけKSKの人に頼んだ」

 

「頼んでまで来るなら、浩太郎の所に行けよ」

 

 そう言って、振り返った隼人は涙目のカナに気付いた。

 

「あー……。悪い」

 

「別に、良い」

 

「良いって顔してねえよ。それで、何だよ」

 

「浩太郎の、事」

 

「ああ、言ってたな」

 

 手すりにもたれ掛る隼人は、拳を握って立つカナに深く息を吐いて目を逸らす。

 

「どうして知ってて黙って―――」

 

「お前が知った所で何になる。そんな事知ったって何も出来ないのに、教える訳が無いだろ」

 

「じゃあ、何か出来るなら教えてくれたの?!」

 

 意固地になり、涙目になって叫んだカナに足元に置いていたサイダーを煽って隼人は頷く。

 

「ああ。だがお前には無理だ」

 

「無理かどうかなんて」

 

「やって見なくても分かるんだよ。お前に、あいつの問題を解決する力は無い」

 

「どうして、そんな簡単に言えるの?」

 

「お前が、家族に愛されているからだ」

 

 そう言ってクーラーボックスからコーラを取り出した隼人は、ショックを受けているカナに手渡す。

 

「あいつに取って、家族は何時か斬り捨てるかもしれなかった物だ。母親だろうと、妹だろうと」

 

「家族を……」

 

「だからお前や、お前の家族に退け目が合った。愛し愛される輪の中に、自分がいて良いのか、と、そう思いながらな」

 

 軽く肩を叩いた隼人は、怯えるカナに缶を指さし、落ち着く様に促す。

 

 飲み干し、握り締めた缶を潰したカナは、自然とこぼれてくる涙を拭っていた。

 

「私は、騙されていたの? 許嫁だからって、自分の気持ちを押し隠してまで、私は」

 

「だったら、負い目なんて感じる訳無いだろうが」

 

「じゃあどうして私の事を!」

 

 そう叫び、泣き出すカナに、手をかざして制止した隼人は、唐突にその場を後にする。

 

「後は、お前らで話せ」

 

 そう言っていつの間にか来ていた浩太郎に隼人は後を託した。

 

「やあ……カナちゃん」

 

「浩太郎……」

 

「困るよね、隼人君もさ。不器用なのに、変に気を使わせて」

 

「あの、ね……隼人から、聞いた」

 

「……そう、なんだ」

 

 ボロボロの装甲を纏い、苦笑しながら背を向けて立った浩太郎は泣いているカナの声を背に浴び、沈黙する。

 

「浩太郎にとって、私は邪魔なのかな」

 

「そ、そんな事は無いよ。俺はカナちゃんの事を」

 

「知ってるんだよ。私や、私の家族といて辛いって……。だから、本当の事を言って」

 

 そう言って手を掴んだカナに俯いた浩太郎は、どくん、と跳ね上がった心臓を抑えた。

 

 

『大好きだよ、コウちゃん』

 

 俺は、愛してくれた人を殺した。

 

『だから、殺せなかった』

 

 大好きだから、見逃してくれた。

 

『だから殺されるんだって』

 

 だけど俺は、見逃さなかった。

 

『早く殺して?』

 

 迷わず、トリガーを引いた。

 

 

「カナちゃん……。俺は……」

 

 声が震える。

 

「俺は……」

 

 胸に当てていた手が震える。

 

「俺は……」

 

 

―――好きでいてくれた人を、殺した。

 

 

 恐怖心を抑え、小さく、そう呟いた浩太郎は驚きで力が入ったカナの手に歯を噛み、俯いた。

 

「だから、辛いんだ。カナちゃんや、カナちゃんの家族と一緒にいると。自分の傍にあった光景が、無くなっていたんだって、そう思って。

死んだ母さんや、加賀美や、殺した美南の事を、思い出すんだ」

 

「浩太郎……」

 

「だから……だからこそ俺は、カナちゃんや、家族の事を辛いって、邪魔だって思った事は無いよ」

 

 そう言って握り返した浩太郎は、静止しているカナに気付き、彼女の方へ振り返った。

 

「カナちゃん?」

 

 そう言って歩み寄ろうとした浩太郎は、ひっ迫した表情で引き寄せたカナに倒れ込む。

 

 その直後、彼の頭があった辺りを剣線が過ぎ、襲撃だと悟った浩太郎は揺らいだ陰に腰から拳銃を引き抜いて発砲する。

 

「コンタクト!」

 

 生体マイク式の通信機にそう叫んだ浩太郎は、光学迷彩を解いた美沙里を見て目を見開いた。

 

「ミサ……!」

 

「殺しに来たよ、お兄ちゃん」

 

「まさか、一人で……」

 

「そんな訳無いじゃん。キーンエッジ達も、オーク達《あいつら》もいるよ」

 

「な……」

 

 絶句する浩太郎は、庇っているカナに連絡をさせると腰からトマホークを引き抜きながら立ち上がった。

 

 直後、城壁と森林地帯で撃ち合いが始まり、アサルトライフルと軽機関銃を中心とした火閃が夜空を照らす。

 

「キーンエッジが程々に遊べって言ってたけど、遊ぶ気は無いから」

 

 そう言ってククリナイフを引き抜いた美沙里は、スナップを効かせて振り回すと激しい格闘戦を展開し始めた。


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