僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第45話『キャメロット占拠拠点壊滅戦・第2』

 俊達から開戦した戦いは、隼人達の方へも波及しており、徐々に中央部へと詰めていた彼らだったが元々の装備から不利を強いられていた。

 

 特に、格闘戦装備しかない隼人は、燃費の悪いラテラの経戦性能維持の為にパワーリミットを低めに設定しており、オークと互角のパワーしか発揮できなかった。

 

「ックソ!」

 

 飛び出してきたオークにRPKで壁に押さえ付けられた隼人は、膝から射出したバヨネットでオークの肝臓を何度も突き刺すとフックで側頭部にに一撃打ち込んだ。

 

 内臓を損傷し、脳を揺らされたオークは、力を緩ませて崩れ落ちるとそのまま隼人のストレートを食らった。

 

 スラスターで加速させた一撃は頭部を破裂させ、脳漿が一面にぶちまけられた。

 

「クソッ……」

 

 血だらけの拳を見下ろし、潰れたカエルの様に痙攣するオークの死体を見た隼人は、装甲に吸収される血液に反応するダインスレイヴの術式に頭痛がし始めていた。

 

 アーマーそのものを刃と解釈した術式が、隼人の体内にある魔力を活性化させ、蝕む。

 

(一々素手でやってるとキリが無いし、このままじゃ不味い……使うか、アレを……!)

 

 膝を突いて神経接続のウィンドウを開いた隼人は、射出武装項目にある対城兵器である『バンカーランス』を選択し、詳細を見た。

 

 見た目は大型ランスのそれは地殻貫通爆弾(バンカーバスター)を射出する為の巨大な砲。

 

 貫通爆弾そのものの強度の高さ、そして信管作動条件の低さに目をつけ、槍に転用した武装であり、無茶苦茶な兵器であった。

 

 だが。

 

(これだけの質量とがあれば、オークやオーガでもまとめて叩き潰せる)

 

 質量兵器としてはこの上ない大質量と、そのリーチ。

 

 穂先に最大級のモーメントが乗る事も加味すればその威力は絶大なものとなる。

 

フィアンマ(咲耶)、装備換装を要請する。認証コード『XARA-01-BBS』だ」

 

『了解。現座標に射出させるわ』

 

「頼む」

 

 そう短く答えた隼人は、腰のブレードトンファーを取り外し、剣の様に構えると周囲の様子を探ろうと角から顔を出す。

 

 その瞬間、ライフル弾が弾痕を生み、頭部装甲前面を擦過したそれが火花を散らす。

 

「いたぞ! あそこだ!」

 

 そう叫ぶオークが闇雲に乱射するのに舌打ちした隼人は、レンカ達の位置をレーダーで感知する。

 

 開戦と同時に突っ込み過ぎたせいで、森から徐々に進軍する予定のレンカ達とはかなり離れてしまっており、援軍も望める状態では無かった。

 

 あるとすれば、リーヤのスナイピングだが、被弾回避を優先して開けた場所を避けた為にそれも受けられない状態だった。

 

(クソッ、面倒だ……)

 

 自分のまいた種とは言え、ここまで囲まれるとも思ってなかった隼人は民家の窓を突き破って来たゴブリン2体にトンファーを構える。

 

 飛び掛かりつつ、躊躇なく手にした棍棒を振り下ろしてきた二体に、L字のハンドルを掴み直した隼人はそのまま鋭い突きを繰り出してゴブリンの心臓を穿つ。

 

 深く刺さり過ぎたそれに、舌打ちした隼人は、地面に死体を叩き付け、足を踏んで軽くトンファーを捻る。

 

 ブチブチと肉が千切れる音を立てながらゆっくり、油と血を刃に張りつかせてトンファーは引き抜かれる。

 

 瞬間、隼人の背後に銃撃が叩きつけられ、手放しつつ前転した隼人は、腰後ろからグラビティセイバーをダガーモードで一本引き抜き、投擲。

 

 胸部に直撃したそれは、柄が肉に引っかかり、そのまま自由落下で死体の分子をめちゃくちゃにし、内臓や体液がボタボタと落ちる。

 

《警告:熱量》

 

「スレイ、脚部カバー展開。魔力も冷媒に使って冷却しろ」

 

『ふふっ、了解』

 

 警告文から瞬時にそう判断した隼人は、スレイを介してふくらはぎのフィンスラスターのカバーを開放させ、全身の熱を吸収した高熱の魔力を放出した。

 

 その凄まじい熱量に吹き付けられた地面がガラス化し、40度に達しようかと言う機内温度が28度まで下がった。

 

ストライカー(隼人)、あと5秒で物資が来るわ』

 

「了解。そちらはどうだ」

 

『あなたの所に行くまで、まだかかりそうね。リーヤ君達も手伝ってくれてるんだけど』

 

「そうか……。そちらは引き続き、援護を頼む。ここは俺が維持しておく」

 

 隼人がそう言った直後、背後に衝撃が走り、抉れた地面が砂煙を上げる。

 

 弾道軌道で打ち上がっていたのか、白煙も上がっているそれは隼人の接近を検知すると、中に納めていたコンテナを重そうに排出する。

 

 地面に落ちると、重厚な音を上げ、強化ポリマーと鋼材の複合製コンテナが軋みを上げる。

 

《認証コード受信:型式番号『JA-015A』:承認:コンテナ開放》

 

 コンテナが開錠され、中身を空けた隼人は2発ずつ大型のクリップで斜め付けに括られた予備の弾薬4発とすでに一発装填されている本体を確認する。

 

 本体のグリップを掴むと同時、機体に装備用プログラムが送信され、両腰部のトンファー懸架ユニットが強制パージされる。

 

(手動でクリップを腰につけろ、か。弾の重さを考えれば俺がやるのは当然だな)

 

 片側で約4tもの重量があるそれを装着し、固定感覚とアシスト出力を調整した隼人は、一歩を踏み、地面にひびを入れると横たわらせていた本体を手に取った。

 

 七割で持ち上がらないそれに最大出力を開放させた隼人は、パワーバンドが過負荷域に近いモーターに軋んだ駆動音を上げさせながら勢いよく持ち上げた。

 

 2、3度振り回してようやく手繰れたそれを構え、無理せずゆっくり歩きながら索敵をする隼人はグラビティセイバーの柄を回収する。

 

「ぬぉおおお!」

 

 その隙を狙ったオーガが大剣を振り下ろしてくるのを穂先を起点に回避するとそのまま蹴り上げた。

 

 オーガには当たらなかったが、それを持ち直して構えた隼人は大剣を回避し、地面を削りながら穂先で回し打ちした。

 

「――――ッ!?」

 

 声にならない叫びをあげ、足を砕かれたオーガはモーメントを抑え込みつつ横殴りを繰り出してきた隼人に吹き飛ばされた。

 

 ラジエーターを開放し、熱を放出した隼人は、残心の動きで呼吸を整え、次の敵であるオークとゴブリンの攻撃を脚で裁いた。

 

 引き戻しの動きで穂先を叩き付け、ゴブリンをすり潰した隼人は、柄尻を脚で抑え、再び持ち上げると穂先をオークに突き出す。

 

点火(ファイア)!」

 

 突き出しと同時の短距離加速で、亜音速まで速度を出した隼人は一種の弾丸となってオークのどてっ腹をぶち抜いた。

 

 超大口径に貫かれ、真っ二つになったオークを無表情で流した隼人は、まだ息のあるオーガをボールを蹴る様に蹴り殺した。

 

「グゲゲ! 人間!」

 

 ゴブリンの下品な声に振り返った隼人は、振り回しを直撃させると、続く一匹の顎をつま先のヒートナイフで突き刺す。

 

 ショック死したゴブリンを振り外し、壁に叩きつけると、そのまま穂先を地面に突き刺して体を待ちあげる。

 

「ぬ!?」

 

 オークの振り下ろしを回避し、ブレイクダンスをする様に柄の周囲をくるくると回る隼人はモーメントを集中させた蹴りを打ち込む。

 

 鼻が折れ、大量の血が流れる中、手にした大剣を振り上げるオークは、着地の勢いで横薙ぎに払われたランスを食らい、脊椎を折られながら吹き飛んだ。

 

「あそこなら撃てるか」

 

 ランスのモーメントを抑えながら一角を見てそう呟いた隼人は、鍔に当たる部分にあるセイフティレバーを起こした。

 

 そのまま押し込み、発砲可能位置に動かしてレバーを倒した。

 

《ランチャーモード》

 

 UIへ邪魔にならない程度の大きさで表示されたモードチェンジと同時に発砲用の保持グリップが屹立。

 

 ランチャー下部から照準用センサーが露出し、そして、FCSが起動し、センサーが捉えている範囲を表示する。

 

「ターゲット、マニュアルロック。射線上に味方反応無し。加害半径、把握。バンカーバスターランチャー、発射(ファイア)!」

 

 叫び、長方形のトリガーユニットを引き絞った隼人は強烈な反動と共にバンカーバスターを放つと背面側のスラスターが最大出力で反動を相殺する。

 

 衝撃とスラスター放熱の過負荷からシステムが一瞬シャットダウンし、その間に片膝を突き、背面から放熱した隼人は、再起動と同時に顔を上げ、攻撃成果を評価した。

 

「予想に対し、七割くらいか……まあ、まずまずだな」

 

 そう呟いた隼人は、セイフティレバーを戻すとその状態で再装填を開始。

 

 保持レバーを操作して跳ね上げたイジェクトロッドを操作、ボルトアクションの動きで空薬莢を排出。

 

 クリップから取り外した予備弾薬を爪にはめ込み、ロッドを引き戻して再装填を終えた。

 

 ロッドを折り畳み、保持グリップを持って構えた隼人は発砲で生じた強烈な電磁波から復旧しつつあるレーダーを確認する。

 

「こっちに来てるのは……浩太郎だけか。まあ、当然だな」

 

 発砲時の電磁波からの影響で感覚器が敏感な獣人系はあまり来たがらないだろう、とそう思った隼人は突然入った咲耶からの通信に応答した。

 

「どうした?」

 

『そっちに―――ユニゴロスの反応が―――』

 

「何?」

 

 疑問を浮かべ、通信動作を解除した隼人は、空を轟音と共に走った青白い燐光に空を見上げる。

 

 音速のそれは衝撃波を伴って空中狙撃をしていた咲耶に直撃し、隼人の至近へ墜落させた。。

 

「咲耶!」

 

 ランスを置いて抱え起こし、バイタルを確かめた隼人は、墜落の衝撃で気絶しているだけの彼女に安堵すると空を見回した。

 

 射線から今の一撃が空からの物であると見た隼人は、彼女を無人の民家に隠すとランスを持って索敵を始める。

 

『ストライカー』

 

 そう呼びかけられ、識別表示のシルエットがある方を向いた隼人は、悟られない様に前を向いて話を続ける。

 

「ファントムか。案外早かったな」

 

『オークに手間取ってね。案外分厚かった』

 

「向こうはどうなった」

 

『元気に突っ込んでいったよ。取り敢えずランサー達と合流する様に言っておいた』

 

「そうか……。分かった」

 

 村の外まで歩き、そう言った隼人は背後にいるであろう浩太郎に意識を向けた。

 

 その瞬間、森の中から青白い光が迸り、隼人に直撃した。

 

『ストライカー!?』

 

 引き摺られる様に吹っ飛ぶ隼人に驚愕した浩太郎は、民家に隠れつつ持って来ていたVSSを周囲に巡らせる。

 

 カウンターショックで復帰した隼人は、気だるげに体を起こすと、迸った発砲光に向けて手を向けた。

 

「『セイクリッドスパイカー』」

 

 そう唱え、電磁加速弾を若干引き摺られつつ光学レーザーで受け止めた隼人は、跳ね起きるとランスを掴んでその場を離れる。

 

 立て続けに着弾したレールガンが大地を抉り、民家に飛び込んで狙いを外した隼人は、宙に浮いた円盤状の子機に気付くと同時、民家を貫通してきた一撃に吹き飛ばされた。

 

「索敵された……!」

 

『カバーに』

 

「来るな……。お前は砲撃手を潰せ!」

 

 そう叫んだ直後、着弾し吹き飛ばされた隼人は執拗な砲撃に一軒家を貫通して路地を転がった。

 

「クソ……三連射はキツイな……」

 

 ランスを掴み、ふらつきながら立ち上がった隼人は、センサーからの警告に空を見上げる。

 

 変に揺らぐ空の景色から弾丸の雨が降り注ぎ、咄嗟に回避した隼人は降下してくる機影からの大鎌をバンカーで受け止める。

 

 その見覚えのあるシルエットに、隼人は動揺した。

 

(こいつ、クーデター襲撃(あの時)の!)

 

 腕の膂力で軽量な機体を弾き飛ばした隼人は、怒りの感情に反応し始めたダインスレイヴの術式に片膝を突く。

 

「ふぅん、まさかとは思ってたけど。あなたとはねぇ」

 

 そう言って鎌を振り下ろした白いコウモリ翼のAAS、ヴァイスに術式の反応を収めつつ立ち上がった隼人は、ランスを構える。

 

「まさか、だと? どうやって俺達の存在を」

 

「前に、襲われてた村を奪還してたじゃない? あの様子、見てたのよねぇ。そして、うちの優秀な隊長が突き止めたのよ」

 

「桐嶋賢人か……」

 

 ランスを握る手を少し震わせた隼人は、バイザーをつけたままのAASを見据える。

 

「ちょうど良い。奴に用がある」

 

「あら、偶然ね。あいつも用があるって言ってたわ。話してみたらどうかしら。倒された後でね」

 

「ッ!?」

 

 冷たい殺気を感じ、咄嗟に身を屈めた隼人は、真上を擦過する剣線に冷や汗を掻きつつその場を離れた。

 

「バラシをするな、サングリズル」

 

「あっはは。ごめんなさいねぇ。私、獲物を取られるのは嫌いなの」

 

「そうか。なら、今は矜持を捨てろ」

 

「ええ、分かってるわ。殺されるのはもっと嫌いだもの」

 

「なら良い。行くぞ」

 

 光学迷彩を解除し、刀を構えた賢人に追従したヴァイスは、ランスを振り回し、牽制してきた隼人にクスリと笑い、視認速度を超える速さで飛び上がった。

 

 賢人を追い散らした隼人は、別方向からの攻撃に対応しきれず頭部装甲を浅く切り裂かれる。

 

「くっ!」

 

 左拳で反撃の一撃を放った隼人は、あっさり躱されてしまい、横から割り込んできた賢人の突きで大きく弾かれる。

 

 その勢いを使ってランスを振り回した隼人は、大回転を回避されてからの射撃によろけ、体勢を崩す。

 

「クソッ!」

 

 悪態をつき、反撃のレーザーを賢人に放つが、バリアで弾かれる。

 

 チャージから『セイクリッドスピア』を放とうとした隼人は、降下してくるヴァイスに咄嗟に反応し、スピアで迎撃した。

 

 光の槍を切り裂き、白煙を上げて減速した刃を掴み取った隼人は、即座に刃をパージしたヴァイスに舌打ちして投げ捨てた。

 

「やるわね!」

 

 そう言いながら、バックラーに仕込んだ軽機関銃を連射するヴァイスは、大鎌に予備のブレードを装填した。

 

 スラスター制御で無理矢理立て直しながら接近した隼人は、ランスの突きを繰り出す。

 

「あら、危ない」

 

 ひらり、と宙を舞ったヴァイスの笑みを見上げた隼人は、真横から蹴飛ばしてきた賢人によろける。

 

 舌打ちし、横薙ぎでランスを振ろうとした隼人は、宙を舞うインパクトグレネードに気付いた。

 

「ぐはっ……」

 

 空中炸裂の衝撃をもろに受け、倒れた隼人は、危険域に突入した魔力の残量を見て内心舌打ちする。

 

 内部温度はすでに40度近くなり、アドレナリンの相乗効果もあって息が荒くなっていた。

 

「あっははは! どうしたの? やらないの?」

 

 そう言って軽機関銃の銃口を向けてくるヴァイスを見上げ、ランスを掴んだ隼人は、視線の武装選択からナイフを選び、立ち上がった。

 

 背中のインテークを開いた隼人は、屹立したナイフを掴み、ヴァイス目がけて投擲するが、当たる直前、降り注いだ粒子ビームがナイフを射抜く。

 

(な……!? 撃ち落とされた?!)

 

 嗤うヴァイスの反撃を受けながら、賢人の方を振り向いた隼人は、そのままセイフティを解除すると、賢人目がけてバンカーバスターを放った。

 

 一応射線上に味方がいない事を確認して放った隼人は、上空から照射された粒子ビームに切り裂かれたそれに、手動起爆を指示する。

 

(浅い!)

 

 そう思いつつ、ヴァイスの一撃を右のナイフで受け止めた隼人は、鎌を弾き、牽制の蹴りを空ぶらせて賢人の方を向く。

 

「助かった、エイル」

 

「どういたしまして」

 

 賢人と奈津美の声がすると共に爆炎が晴れ、重厚な機体が大型シールドをスライドさせていた。

 

 効果無し。その一節が頭をよぎると同時、浩太郎からの通信回線が開く。

 

『ごめん、逃げられた。そっちに行ってる!』

 

 必死な浩太郎に思わず動揺の声が漏れたその瞬間、強い衝撃が隼人を襲う。

 

『ストライカー! くっ!』

 

 通信が切れ、うめいた隼人は、宙を舞っている黒い鳥翼のAAS、ブラックに気付いた。

 

 4対1。新関東高校襲撃事件の再来だ、と内心笑った隼人は、あの時とは違う重い体を起こす。

 

「最期に聞かせろ、桐嶋賢人。お前、あの剣は持っているのか?」

 

「ああ、持っている」

 

「そうか。なら良い」

 

 そう言ってナイフを収めた隼人は、スラスター併用でその場から逃走する。

 

 それを見て即射撃した賢人達は、逃げながらリロードしている彼に数発着弾させる。

 

「クソッ!」

 

 バランスを崩し、倒れ込んだ隼人は、腰のクリップから弾薬を外して装填。

 

 レバーを動かしてはめ込んだ彼は、そのまま飛び込もうとしたが宙を舞うブラックからの『M61』20㎜多銃身式機関砲(ガトリングガン)の掃射を受けて足が止まった。

 

「はぁっ!」

 

 その間に飛び込んできたヴァイスの振り薙ぎをナイフで捌く。

 

 ヒートナイフを展開し、蹴り上げた隼人は、滑り込む様な軌道で軸足を刈った彼女に転倒させられる。

 

「終わりね!」

 

 そう叫んだヴァイスに、光を放射した隼人は目くらましと同時、彼女へ着弾した狙撃に驚愕し、動揺しつつも跳ね起きた。

 

「狙撃!?」

 

(そうか、リーヤか!)

 

 驚くヴァイスにつま先からヒートナイフを、脛にアークエッジを展開した蹴りを放った隼人は、身軽な動きで回避したヴァイスにチャージした砲口を向ける。

 

 光槍を放つ直前、全身を穿つ銃弾の飽和射撃に晒され、拡散気味の砲撃に切り替えた隼人は、光波シールドの如く広がったそれで弾丸を逸らした。

 

「シューター! 前方三機、牽制射!」

 

『了解!』

 

 弾丸を浴びながら、そう叫んだ隼人は姿勢を崩す様に放たれた12.7㎜の対物ライフル弾を見上げる。

 

 ダメージは無くとも動揺する賢人達に隙を見た隼人だったが、飛び込む直前に割り込んだヴァイスに斬り結ばされる。

 

「あなたはこっちを見てればいいのよ!」

 

「くっ!」

 

「最初の威勢はどうしたの? そんな事じゃ、斬り刻むわよ?」

 

 ランスを弾き、軽機関銃を連射するヴァイスに舌打ちした隼人はランスを手放すと背中からナイフを投擲した。

 

 続けて、ヴァイスが弾き飛ばすより早く、ふくらはぎのトマホークを、リーヤに狙いを絞りつつある賢人達に投じる。

 

「無駄な事を!」

 

 計3つ、投擲した全てが弾かれ、空虚な共振音を響かせたそれが宙を舞う中、再びターゲットが隼人に変わる。

 

 その間、リーヤ達は狙撃のポイントを変更しており、支援は打ち切りとなった。

 

(万事休すか……)

 

 そう思い、苦笑した隼人はその直後、宙を走ったライフル弾の火線に何度浮かべたか分からない笑みを作った。

 

 セミオートの断続的な射撃。

 

 正確だが、リーヤとは違った精密性の無い闇雲にも感じられる射撃は宙に浮いていた賢人達を牽制し、ヴァイスを動揺させた。

 

 その間に距離を取った隼人は、ようやく追いつけた射手、浩太郎が姿を晒した元へ移動する。

 

「遅かったな」

 

「いや、待ってたのさ。VSSを撃てる時をね」

 

「今がその時、か。じゃあ、援護任せるぞ」

 

「ああ」

 

 振り返り、アイコンタクトを送る隼人に、肩を竦めて見せた浩太郎は、突撃する彼を援護しようとVSSを構えた。

 

 その瞬間だった。

 

「ッ!?」

 

 撃発寸前のVSSが、マズルアダプターの付け根から切り裂かれ、慌てて手放した浩太郎は、虚空から突然走った銀閃を見て、咄嗟に回避した。

 

「別働隊か。用意が良いね、向こうの部隊長も」

 

 軽口を飛ばしつつ、背中に手を回した浩太郎は、木の上から鳴った物音に反応し、抜刀一閃で装甲を切り付けた。

 

 弾き飛ばされる透明な影は、装甲に受けた衝撃で膜状になっていた光学迷彩を剥離させ、その姿を露わにした。

 

 俊がいれば、ダークブラウンを基調とした装甲に身を包むその姿を、ネフティスと呼ばれていた少女だ、と答えただろうが、生憎と彼は今いなかった。

 

「攻撃の感じからして、君は暗殺者かな」

 

 小馬鹿にする様な口調でそう言った浩太郎に、少女は何も返さなかった。


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