「あうぅ……おおぉ……」
ギルドマネージャーとの会話を終え、ご主人とアカムを倒したことの打ち上げをすることに。ただ、ちょいとばかしご主人の調子がよろしくない。せっかく注文したビールも飲まずに机に突っ伏しちゃってます。
まぁ、いきなり大事を任されてしまったのだし、それも仕方の無いことなんだろう。
「ホントに私なんかがこんな大役を任されちゃって良いのかなぁ……」
「ギルドマネージャーも言っていたように、ご主人なら大丈夫ニャ。胸張っていれば良いニャ」
だって、貴方にはそれだけの実力と器があるのだから。
この世界はゲームと違うところもあるけれど、間違いなく貴方は主人公だった。そして、きっと今だって……
俺はそう思います。
「ギルドマネージャーからあんなお願い事をされ、嫌だったかニャ?」
「そ、そんなことはないし、むしろ嬉しかったりするけどさ……」
もごもごと言葉を濁し、少し恥ずかし気な様子でご主人は言葉を落とした。
ご主人はあの相棒と同じように、自分の実力をよく理解してなく、また自分に自信を持てていない。比べたって仕様がないけれど、そんなところはよく似ている。
ただ、このご主人があの相棒と違うのは――
「むぅ……よっし! そうだよね。せっかく私に頼んでくれたんだし、精一杯頑張ります!」
「うニャ。ご主人はそれで良いと思うニャ」
不安を抱えながらも、例え自分に自信を持てなくとも前へ進むことができること。
俺にはゲームで得た知識があるからオストガロアと戦うことには別段、不安だとかそういうものはない。でも、もし俺がご主人の立場だったら、やっぱり止まってしまうと思う。目の前へ急に現れた壁に対してきっと上を見ることしかできない。
そうだというのに、このご主人は前へ進む。本当にカッコイイ人だと思うし、そんな人が俺のご主人であることが誇らしかった。
「えっと、でもまだ時間があるんだよね? その間、どうしよっか」
そうなんだよねぇ。ゲームとは違いフラグを回収したら直ぐにイベントが起こるわけじゃない。
けれども、今回はそんなことが本当に有り難い。
「オストガロアと戦う前に、ご主人とボクの装備を強化するのが良いと思うニャ」
それが一番だと思う。
此処で長い時間休みにしてしまうのはもったいないし、身体だって動きを忘れてしまうかもしれないから。
「了解です! んと、じゃあライゼクスを倒すのが良いのかな?」
ご主人が今担いでいる武器は、エムロードビート4。その強化に必要な素材は確か獰猛ライゼクス素材。
色々と考えてみました。どんな武器を使ってもらうのが良いのかなって。普通に考えたらこのままエムロードビートを強化していくのが良いってのも分かっている。
……ただ、せっかくご主人がハンマーっていう武器を使ってくれているなら、って考えてしまうのですよ。
だから、これは俺の我が儘みたいなもの。
「獰猛化ナルガクルガのクエストに行きたいって思っているニャ」
「あら? ナルガクルガ? え、えと、どうして……なのかな?」
俺の武器を強化することもできるから。とか、アカムを倒したことで大竜結晶が手に入ったから強化しやすい。とか、期待値ならライゼハンマーより高いからとか、理由をつけようと思えば色々な理由をつけることができる。
でも、俺がご主人にナルガハンマーを使ってもらいたいって思うのは――
「……俺が元の世界で一番使っていた武器だから、かな」
それだけの理由です。
ハンマーを担いでくれている貴方に、自分の好きだった武器を使ってもらいたいって思っているだけ。そんな我が儘。
「そっか……はい、わっかりました! それじゃあナルガクルガのクエストに行こっか!」
そして、俺の言葉を聞いたご主人は本当に良い笑顔でそんな言葉を落としてくれた。
断られることはないだろうと思っていたけれど、すんなり受け入れてくれたようでほっとしました。
「そっかぁ、そうかぁ。ネコさんが使っていた武器かぁ……ふふっ、私なんかに使いこなせるかな?」
「心配しないでもご主人なら大丈夫ニャ」
相手は何度か戦ったことのあるナルガクルガ。例え獰猛化だろうが失敗するようなことはないはず。
ご主人もハンマーを使うのが本当に上手くなったと思う。こうしてハンマー使いのハンターが増えてくれたことは俺としても嬉しい限りです。
ありがとう。
ハンマーという武器を使ってくれて。
「よーし、それじゃあ、サクっと倒してこよっか!」
「うニャ!」
場所は古代林。いつも通りのご主人と俺の声が響いた。
古代林。それは、俺とご主人のふたりが最初に行ったクエストのマップであり……多分、このふたりで行く最後のマップ。そう考えると、終わりってことにするには丁度良いのかもしれない。
それにしても……このクエストがあって本当に良かったです。
これで獰猛化ナルガのクエストはありません、とか言われたらちょっとどうして良いのか分からないし。受付嬢にこのクエストがあるかどうか聞いた時、俺の心臓は暴れっぱなしでした。
そして、現在のご主人のスタイルはギルド。どうやらオストガロアのクエストもギルドスタイルで行くみたい。
ご主人にどうして、ギルドスタイルを選んだのか聞いてみたら――
だって、私がこの武器を使いたいって思ったハンターさんが使っていたスタイルだから。
と、恥ずかしそうにしながら答えてくれた。
そんな言葉を聞いている俺の方が恥ずかしかったです。ただそれ以上に、嬉しく思ってしまいます。
エリアル、ブシドー、ストライカーと、MHXになってから戦い方の幅は増えた。でも、その武器を楽しみたいのなら、やっぱりギルドスタイルが一番なのかなって俺は思ってしまう。それも新しい時代の流れについていけてないってことなのかねぇ。
「ねぇねぇ、ネコさん。私、獰猛化モンスターって初めて戦うけど、何か気をつけた方が良いことってある?」
ナルガの待つエリア4を目指しながら、ご主人がそんな言葉を落とした。
「んー……特にないニャ。ちょっと体力が多い相手って思うくらいで良いと思うニャ」
攻撃のタイミングは通常種とは変わるし、攻撃力や怯み値だって高くなる。あと、疲労状態にならないってのもあるけれど、変に教えてしまうよりいつも通り戦った方が良いだろう。
てか、獰猛化モンスターってそもそもなんなんだろうね。ゲーム中で詳しい説明はなかったと思うけど。
MH4の狂竜化モンスターとかはしっかりとした説明があったんだけどなぁ。
「あっ、そうなんだ。それじゃあ今回もなんとかなりそうだね。ふふっ、よろしくね、ネコさん」
「うニャ。一緒に頑張るニャ」
ご主人なら大丈夫だと思うけれど、油断はしないでね。即乙はないと思うけど、獰猛化状態のビターンとかきっとめちゃくちゃ痛いから。
なんてことを話しながら、エリア4へ。
薄暗い景色の中、その景色に溶け込みながら動く相手が今回のターゲット。
きっとこれが俺とご主人のふたりだけで行く最後のクエスト。そうだというのなら、この小さな身体にできる限りを出し、頑張ってみるとしましょうか。
「よーっし、討伐完了! お疲れ様、ネコさん!」
「うニャ。お疲れ様ニャ」
ご主人からアカムと戦った時ほどのすごさは感じなかったものの、ご主人の動きは本当に良かった。尻尾振りや回転攻撃のフレーム回避は見事で、スタンも3回。
……いつもは自分で使っていたせいで良く分からなかったけれど、ハンマーってカッコイイ武器なんだね。
使っていて面白いし、見ていてカッコイイ。後は火力さえあれば本当に良い武器なんだけどなぁ。
ま、それでも俺にとっての一番はハンマーっていうのは変わらないんだけどさ。
クエストを終え、ベルナ村へ戻って直ぐ、俺とご主人の武器の強化を依頼してからまた打ち上げ。クエストが終わったあとのお酒はやっぱり美味しいのですよ。
それからオストガロアのクエストが始まるまで、他のクエストへ行くことはなかった。
その間、ご主人とは色々な会話をしました。
ご主人が我らの団にいた時の話や、俺の話。一緒にお酒を飲みながら、やわらかな風を感じながら、星空を見上げながら……本当に色々な会話をした。今まではできなかった会話を、今までで空いてしまった時間を埋めるように。
この世界へ来るのは今回が3度目。ネコの姿っていう今までとはちょっと違う状況で、最初は戸惑いだらけだった。
やっぱり俺はハンマーが好きだし、せっかくモンハンの世界へ来たのだからハンマーを振り回したかった。
……けれども、今となってはこの姿で良かったのかなって思えてしまうくらいだ。
それは、俺のご主人がこの人だったからってのが一番の理由なんだろう。
察しの悪い俺のことだ。もしかしたら違うのかもしれない。でも、多分、きっと……俺は今直ぐにでも人間の姿に戻ることができると思う。どうしてなのかは俺も分からないけれど、そんな考えはアカムトルムとのクエストへ行った辺りからずっとある。
けれども、アカムのクエストも今回のクエストも俺はこの小さな身体を選んだ。そして、オストガロアのクエストもこのネコの身体で行こうと思っている。
それは、この小さな手で……この小さなネコの手で狩りたいってのと、ご主人のオトモでまだいたいからっていう理由。
小さな小さな手でできる、小さな小さな恩返し。そんな思いがあるのですよ。
ご主人とゲームの中の主人公は違う人物だ。けれども、きっと重なることだってあるはず。画面を通して俺はずっとずっと貴方のことを見てきて――貴方に憧れた。自分よりも数倍も大きいモンスターへ勇敢に立ち向かう貴方の姿に。
そんな貴方へ、きっと俺は恩返しをしたかったんだ。
きっときっとそういうこと。
いつだってそうだ、俺の周りにいてくれるのは素敵な人ばかり。それは本当に有り難いことです。
獰猛ナルガを倒してから二日後。
依頼していた俺の猛ナルガネコ手裏剣と、ご主人の夜行槌【常闇】が完成。
完成したナルガハンマーを嬉しそうに確認するご主人の姿を見て、俺も嬉しくなった。MHXでは俺が一番お世話になった武器です。どうか大切に使ってください。
そんなこんなで、此方の準備は完了。もう後は進むだけだ。
そして、ようやっとその時が来ました。
「おっひさしー、槌ちゃんにネコちゃん!」
「……久しぶり、ご主人さん」
いつも通り元気な様子の相棒と、白ネコ――つまり、笛の彼女が此処、龍歴院へ到着。
どうやら、大老殿から派遣されたふたりのハンターってのは、この相棒と笛の彼女だったらしい。どんなハンターが来るのかちょっとドキドキしていたけれど、このふたりなら安心だ。
それにこのふたり以上のハンターはきっといないだろう。
「や、久しぶり。君が大長老へ頼んでくれたの?」
あの彼女へそんな言葉を落としてみる。
ご主人と俺を選んだのが大長老自身の考えとは思えない。だから、きっと誰かがそんな提案をしてくれたはず。
そしてその提案をしてくれたのは、やっぱりこの彼女なんだろう。
「久しぶり。そう、私がお願いした。がんばった」
「そっか。お疲れ様」
「うん。ありがとう」
武器は完成したし、相棒と彼女が来てくれたことで準備は完了。
積もる話もありますが、のんびりお喋りする前にちょいとやらなきゃいけないことがある。
これで、最後だなんて思いたくはないし、そんなことにさせたくない。
俺にとってこれはただの通過点でしかないけれど……まぁ、いつもよりちょいと多くの気合を入れるくらいはしても良いだろう。
それじゃ、ひと狩りいくとしましょうか。