ネコの手も狩りたい【完結】   作:puc119

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第86話~はじめの一歩~

 

 

 あのアカムトルムを倒したのだし、いつもならパーっと打ち上げをするところだけど、今回ばかりはクエストから戻って直ぐにギルドマネージャーの元へ向かった。

 

 俺たちの実力を確かめたい。

 俺たちがアカムのクエストを受けたのはそんな理由。そして、実力を確かめてどうしたいのかってのを考えると……まぁ、その先に待っているのはあのラスボスなんだろうなって思う。

 

「……戻ったかい。待っていたよ」

 

 ギルドマネージャーの元へ行くと直ぐにそんな言葉をかけられた。

 いつもなら緊急クエストクリアの報告とかはご主人だけに任せていたけれど、今回ばかりは俺も一緒です。だって、これでオストガロアと戦うのはご主人だけとか言われるのはマズいわけですし。もしそんなことを言われてしまったら、何としてでも説得する必要がある。

 

「アンタたちならまず大丈夫だろうと思っていたけれど、まさかこんなにもあっさりとあのアカムトルムを倒すとはねぇ……流石といったところさ」

 

 あー、あっさりじゃなくかなり苦戦したわけですが……正直、俺の心は折れかけていました。まぁ、倒せたのは事実なのだし別に良いか。いらないことは言わないようにしよう。

 

「……アンタたちも聞いてるとは思うけれど、此処最近、飛行船とモンスターの消失が立て続けに報告されている」

 

 ギルドマネージャーさん大変です。俺はそんなこと初めて聞きました。

 ご主人はそのことを聞いていたのだろうか。まぁ、ゲームと同じ状況なわけですし、今更驚くことでもありませんが。

 

 ……正直なところ、俺はこの世界における古龍の脅威ってものを理解していない。ダラの時もゴグマの時も、ゲームと同じだなぁ、くらいにしか思っていなかった。

 けれども、きっとオストガロアも含め、俺たちが倒してきた相手ってのは、この世界にとってまさしく脅威なんだろう。やっぱりそんな実感なんて湧かないんだけどさ。

 

「つまりね、オストガロアが活動を再開したってことさ」

 

 うーん……多分、生唾を飲み込み、『つ、ついに来たのかッ!』みたいな感じで驚かなければいけない場面なのだろうけれど、今までギルドマネージャーと全く話をしていなかったことと、ゲーム通りってことがあり、どう反応して良いのかが分からない。いや、これが大事件だってことはちゃんと伝わってきますよ? ただほら、やっぱり俺にはオストガロアの恐ろしさってのが分からないんだ。

 うむ、こういう時も黙って聞いているのが一番か。

 

「今はまだ竜ノ墓場へ向かった調査団の報告待ちさ。しかし、だ。もうゆっくりしているような時間はあまりないだろうね。……そこで、我々はオストガロアを討伐することに決めたんだよ」

 

 ん~……これはどうなんだ? 今直ぐに出発しなければいけない感じなのか? できればご主人と俺の武器を強化する時間をもらえると嬉しいのですが。

 今の俺とご主人の状態でもオストガロアを討伐することはできると思う。ただ、もしかしたらこれがネコの姿で受ける最後のクエストとなるかもしれない。その先に何があるのか……それは分からない。そんなわけで色々と準備をしたいんだ。俺にはまだやり残していることが多すぎる。だから、もう少しだけ時間がほしい。

 

「そして、オストガロアの討伐はG級ハンターが集まる大老殿に依頼したよ。ギルドからの命令ってのもあってね」

 

 ……うん? あれ? 何それ。ちょっと待ってね。えっ? 俺たちがオストガロアのクエストに行けるんじゃなかったんですか?

 いや、そりゃあ、俺たちなんかより大老殿のハンターに任せた方が良いとは思うけど、流石にそれは……

 だいたい、じゃあなんでアカムのクエストへ俺たちを行かせたんだってなる。

 

「ただねぇ、これはアタシたち龍歴院の管轄するエリアで起きたこと。アタシとしてもできれば龍歴院のハンターにオストガロアの討伐を行ってもらいたかった。けれども、それを任せられるようなハンターはウチにはいないし、ギルドの命令を無視するわけにもいかないのさ」

 

 ああ、なるほど。そういう展開、か。

 随分と回りくどい言い方をしてくれたものだ。バルバレのギルドマスターもそうだったけれど、ギルドを管理している人ってのはそういうクセでもあるのだろうか。

 

「そんな時、大老殿の大長老から知らせが届いた。オストガロアの討伐に大老殿からはふたりのハンターを派遣するってことと……龍歴院にいるハンマーを使う女性のハンターとそのオトモアイルーを一緒に連れて行ってほしい、とね」

 

 

 今までは静かだった心臓がそんなギルドマネージャーの言葉を聞いたところで大きく跳ねた。

 

 ブツブツに切れていた断片が繋がっていくこの感覚は嫌いじゃない。

 

「ふ、アタシが何を言いたいか、もう分かるだろう? 相手はあのオストガロアだ、いくら大長老からの願いとはいえ流石に実力のないハンターを送り出すことなんてできない。そして、アンタたちの実力はしかと見せてもらった。だから……頼んだよ、お若いの。いや――我ら龍歴員のハンター」

 

 あの大長老が今の俺とご主人のことを知っているとは思えない。そうだというのに態々、俺たちを指名したってのはきっと……

 別れてからまだひと月も経っていないっていうのに、随分と仕事の早いことで。それでも、あの彼女には感謝するばかりだ。

 

 ようやっと今の自分の状況を理解することができたから、ご主人の様子を確認してみることに。そんなご主人だけど……ポカンと口を開け固まっていた。

 ……ああ、うん。そうだよね。そりゃあそうなるよね。話についていけないよね。

 

「あの、えと……え? 私がオストガロアの討伐クエストへ行くってこと、ですか?」

「そうだよ、お若いの」

 

 そして、ギルドマネージャーへ対してそんな質問をし、その答えを聞いたところでまた固まった。

 ご主人がどれくらいオストガロアのことを知っていたのかは分からない。でも、オストガロアが危険なモンスターだってことくらいは分かるはず。超頑張れご主人、超々頑張れご主人。

 

「はぁ……アンタはもっと自分に自信を持ちな」

 

 そして、固まってしまっているそんなご主人を見て、ギルドマネージャーはため息をひとつ。

 ご主人に自信を持ってほしいっては俺も同意見です。ご主人はそれほどにすごい人なのだから。本人にはその自覚がないようだけど……

 

「確かに、あのパーティーと比べたらアンタは小さい存在かもしれないよ。けれども、だ。古龍――クシャルダオラからドンドルマを守り、あの極限化個体に対抗できる抗竜石の開発の中心にいたのは間違いなくアンタだ。胸を張って良い。アンタは立派なハンターだよ。そんなアンタだからアタシもこのクエストを頼むことができるのさ。どうか、自信を持ってこのクエストを受けておくれ」

 

 うむ、ギルドマネージャーも良いこと言うじゃあないか。

 このご主人はMH4、4Gの主人公だったんだ。確かにダラやゴグマみたいに世界を巻き込む天災を防いだわけじゃない。

 けれども、このご主人があの主人公だとしたら、それに負けないくらいの活躍をしてきたはずなんだ。それも俺とは違いひとりで。そんなご主人が立派なハンターじゃないわけないだろう。

 

「は、はいっ! 精一杯頑張ります!」

「ああ、頼んだよ」

 

 うむうむ、なんだか良い感じだ。

 ゲームをやっていた時、このギルドマネージャーはなんだか冷たく怖いイメージがあったけれど、こうして生で見るとその印象は全く違う。カッコイイ人じゃないか。

 

「さて、オストガロアの討伐だけどね、大老殿からハンターが来るのはもう少しかかるそうだ。どの道、竜ノ墓場を調査中の調査団が帰ってくるまで待つ必要もある。ただ、遅くとも7日以内にはアンタたちにはオストガロアの討伐へ向かってもらうことになるだろうさ」

 

 おっ、思ったより時間があるじゃないか。それだけあるのなら、何かのクエストへ行き、武器を強化するくらいはできそうだ。

 まぁ、ゲームみたいに話を聞いたら直ぐ出発ってのもおかしな話か。

 

 さてさて、ギルドマネージャーの話も聞けたし、ご主人と今後の予定を決めないとだ。多分、大老殿から派遣されるハンターは……あれ? ふたりってことは、あのパーティーのうち誰かひとりは来ないってことなのか。いや、相棒の妹さんや見たこともないハンターが来る可能性だってあるし……ま、まぁ、それも直ぐに分かるか。今は自分たちのことに集中しよう。

 

 

 そんじゃま、アカムを倒した打ち上げをまだやっていないのだし、それをしながら今後の予定でも決めるとしようか。なんて思いながらギルドマネージャーの元から離れようとした時だった。

 

「ちょいと待ちな、そこのアイルー」

 

 ギルドマネージャーに呼び止められてしまいました。しかも、ご主人ではなく何故か俺の方が。

 すっごく嫌な予感がする。

 

「ど、どうかしたのかニャ?」

 

 流石にネコとかないから、お前は行っちゃダメ、なんて言われたらどうしよう。例え此処で人間の姿に戻ったとしても行けそうにないし……あれ? もしかして結構マズい状況?

 

「今は状況が状況だけど、時間さえあればアンタのことも調べたいものだよ。アンタに何があったのかはアタシにも分からない。ただ、きっとアンタはそういう()()なんだろうさ」

「……何を、言いたいのかニャ?」

「アンタがクエスト中どんなことをしてきたのかくらい、アタシたちは把握してるってことさ」

 

 あー……つまり、それってしっかり見られていたってことですよね?

 

 俺が、元の姿――人間に戻った時のことを。あの時、観測船は飛んでいなかったと思うんだけどなぁ。

 

「えっとぉ……俺が誰だかまで分かってる感じだったり?」

「もちろん分かっているさ、龍歴院を馬鹿にしないでもらいたいね。……運命、なんて言葉はあまり使いたくないが、きっとアンタはそういう運命にあるんだろう。世界規模の天災と立ち向かわなければいけない運命に」

 

 ……これも運命、なんですかねぇ。

 ただまぁ、そうだよなぁ。例えこの世界に来ることができたとしても、ゲーム通りに進むって決まっているわけじゃないのだから。俺の知らないところで名前も知らないハンターがダラやゴグマを倒すことだって十分考えられる。

 けれども、これまでも今回も、俺はあのゲームと同じような道を歩んできている。そう考えると、運命って言葉はしっくりくるかもしれない。

 

「2回も世界を救ったんだ。3回も4回もアンタにとっちゃ変わらないだろう。だから……もう一度この世界のことをよろしく頼むよ」

「うニャ!」

 

 正直なところ、世界を救うだとかそういうことはあまり考えていなかった。オストガロアを倒した先にある未来。俺が考えていたのはそのことばかりだ。

 ただ、ギルドマネージャーの言葉を聞き……頑張らなきゃなって思えた。

 

 あまりにも規模が大きすぎるせいで、想像なんてできない。けれども、この世界を歩んで行くと決めたのだし……まぁ、この世界のため頑張ってみるのも悪いことじゃあないはず。

 

 未来がどうなるのかなんて分からない。

 今だって不安でいっぱいだ。

 

 それでも明るい未来のため、最初の一歩ってことで……もう一度、この世界を救ってみるとしよう。

 

 

 


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